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龍とはらすかす姫<2>

「ふむ……、(きみ)がツクモだな……。なるほど……」


 チェフチリクの値踏(ねぶ)みするような視線(しせん)(ぼく)(そそ)がれます。


「――(たし)かにジネプとは、かなり(ちが)気配(けはい)(かん)じるな。その(くろ)姿(すがた)焼死(しょうし)したと()いたが?」


「ええ、()てる(あいだ)焼死(やけし)んだみたいで。(くる)しみは、しなかったんですけど」


「そうか。(とし)は、いくつだった?」


二十(はたち)になったばかりでした」


 チェフチリクは、(おお)きく溜息(ためいき)()きます。


(みじか)いな……。人間(にんげん)寿命(じゅみょう)自分(じぶん)らから()て、とても(みじか)いが、それに()をかけたようだ。――(つら)かっただろう?」


「まあ(たし)かに、やり(のこ)したことは、いっぱいあるんですけど。こうして『耶宰(やさい)』になってみると、()ぬのも、それほど(わる)くないのかなって。()んだら(なに)もかも()わりで、()(かえ)るって(おも)ってましたから……」


 (やさ)しく微笑(ほほえ)むチェフチリク。


(わか)いのに(たい)したものだな、ツクモ。――よろしく(たの)む」


「あっ、こちらこそ、よろしくどうぞ」


 (あたま)()げる壌土龍(じょうどりゅう)(さま)

 (あわ)てて御辞儀(おじぎ)(かえ)します。

 アティシュリに(くら)べると、なんて(こし)(ひく)いドラゴンなんでしょう。


 チェフチリクは最後(さいご)に、ヒュリアの(うし)ろに(かく)れてるジョルジに(こえ)をかけました。


「そして(きみ)が、ジョルジだな。シュリから事情(じじょう)()いている。よろしく(たの)む」


 壌土(じょうど)(りゅう)はジョルジにも会釈(えしゃく)します。


「は、八大霊龍(はちだいれいりゅう)(さま)が、オラみてぇなもんにまで、これほど御丁寧(ごていねえ)にぃしっくださるとはぁ。なんとも勿体(もったい)ねぇこって。――ジョルジ・エシャルメンですぅ。どうぞ、お見知(みし)りおきを」


 ジョルジは何度(なんど)も、ぺこぺこ(あたま)を下げました。


「――フェルハトと(おな)復体鎧(チフトベンゼル)保持者(ほじしゃ)。そしてフェルハトと(おな)じアトルカリンジャの皇女(おうじょ)。さらにビルルルが生出(うみだ)した『耶代(やしろ)』の儀方(ぎほう)(にな)う『耶宰(やさい)』か……。お(まえ)()(とお)り、因果律(いんがりつ)(つよ)干渉(かんしょう)(かん)じるな……」


 アティシュリを見下(みお)ろしながら、(まわ)りに()こえるか()こえないかの声量(せいりょう)(ささや)くチェフチリク。

 アティシュリの()(たか)さはチェフチリクの胸元(むなもと)ぐらいまでしかないのです。

 

 因果律(いんがりつ)

 そのウィスパー、()かれたらマズい(はなし)なのか?


「だろ。『再臨(さいりん)(とき)』が、(ちけ)ぇと(かんが)えてもおかしくねぇ」


 普段(ふだん)(ちが)ってアティシュリも(こえ)(ちい)さい。

 やっぱ()かれたくないんだろうね。


「ああ、警戒(けいかい)しておくべきだな」


 霊龍同士(れいりゅうどうし)会話(かいわ)意味不明(いみふめい)です。

 でもきっと、()いても(おし)えてくれないでしょうね。

 

 ともあれ、(そと)立話(たちばなし)もなんなんで、食堂(しょくどう)へと御案内(ごあんない)しました。


 テーブル(せき)(ひと)つを開放(かいほう)し、霊龍(れいりゅう)様達(さまたち)着席(ちゃくせき)していただきます。

 ヒュリアとジョルジはその対面(たいめん)(こし)をおろしました。

 

 霊龍(れいりゅう)様達(さまたち)はいいんですが、人間側(にんげんがわ)緊張感(きんちょうかん)がヤバいんで、まずはお(ちゃ)でも()んでリラックスしてもらいましょうか。

 四人分(よにんぶん)のティーカップを『倉庫(そうこ)』から取出(とりだ)してハーブティーを具現化(ぐげんか)し、テーブルに(なら)べます。


「ふむ、『耶代(やしろ)』の機能(きのう)(ひと)つ、『調理(ちょうり)』だな。給仕(きゅうじ)円滑(えんかつ)さは、ジネプのときと遜色(そんしょく)()い。相変(あいか)わらず見事(みごと)なものだ」


 (ぼく)(うご)きをレビューしてくれるチェフチリク。

 そして自分(じぶん)のカップを()()ると()()じ、御茶(おちゃ)(かお)りをかぎ、ほんの(すこ)(くち)だけ(ふく)んで(あじ)わい、それから飲込(のみこ)みます。


「ふむ、美味(うま)(ちゃ)だ。複数(ふくすう)香草(こうそう)(たが)いに引立(ひきた)つように()ぜてあるのだな。――(みず)清潔(せいけつ)だし、温度(おんど)適温(てきおん)だ。()感性(かんせい)をしているな、ツクモ」


「いやあ、自分(じぶん)(この)みってだけの(はなし)なんすけどねぇ」


「つまり、(きみ)(あじ)(たい)する感覚(かんかく)(たし)かということだ」


 お(ちゃ)()めてくれたのは、チェフチリクさんが(はじ)めてです。

 しかも()ってることが、グルメ評論家(ひょうろんか)みたい。

 このドラゴンも、かなり()わってますねぇ。


「――これが(いま)耶代(やしろ)(なか)か……。洗練(せんれん)されていて調和(ちょうわ)がとれている。食堂(しょくどう)としても、(もう)(ぶん)ないな」


 感心(かんしん)したようにホールを見渡(みわた)すチェフチリク。


「――えーと、それで、アティシュリさん。チェフチリクさんをお()れくださった理由(りゆう)というのは……?」


 まあ、だいたい予想(よそう)はついてますけどね。


「もちろん、『耶代(やしろ)』の店長(てんちょう)にするためだろうが。こいつは霊龍(れいりゅう)のくせに人間(にんげん)(まじ)わるのが()きでな。自分(じぶん)酒場(さかば)経営(けいえい)してたんだよ。――食堂(しょくどう)店長(てんちょう)に、もってこいだろうぜ」


 チェフチリクをアゴでしゃくるドラゴン(ねえ)さん。


酒場(さかば)経営(けいえい)ですか?!」


 チェフチリクは、ちょっと()ずかしそうに(うなず)きました。

 人間側(にんげんがわ)は、全員(ぜんいん)びっくりですよ。

 まあ一人(ひとり)地縛霊(じばくれい)ですけど。


「――自分(じぶん)人間(にんげん)(たの)しんで(わら)っている姿(すがた)()るのが()きなのだ。なので、どうすれば恒常的(こうじょうてき)にそれを()ることができるだろうかと(かんが)えていた。長年(ながねん)見分(けんぶん)結果(けっか)人間(にんげん)飲食(いんしょく)をするときが(もっと)(たの)しげだという結論(けつろん)(たっ)した。そこで自分(じぶん)料理(りょうり)(うで)をみがき、(みせ)()つことにしたのだ。700(ねん)ほど(まえ)最初(さいしょ)(みせ)(ひら)いて以来(いらい)(いま)酒場(さかば)は23代目(だいめ)になる……」


 チェフチリクはアゴを()でながら(たの)()酒場経営(さかばけいえい)動機(どうき)(かた)ってくれました。

 なんかとっても、ほっこりするお(はなし)です。

 人間(にんげん)のことが()きなのが、よくわかりました。


 アティシュリを()てると、ドラゴンて(うえ)から目線(めせん)傍若無人(ぼうじゃくぶじん)タイプばかりって()がしてたんですけど、チェフチリクは(ちが)いますね。


 どうやら、()(ひと)、いやいや、()(りゅう)()てくれたみたいです。

 (たし)かに、ドラゴンなら(ぼく)らの正体(しょうたい)()っても密告(みっこく)なんかしないでしょうしね。


 しかも、この貫禄(かんろく)とあの(あつ)

 お(みせ)経営(けいえい)してたんなら、対外的(たいがいてき)交渉(こうしょう)なんかも御手(おて)のものだろうし。

 店長(てんちょう)にピッタリじゃないですか。


「でも、御自分(ごじぶん)のお(みせ)(ほう)はよろしいのですか?」


 ヒュリアに(たず)ねられると、チェフチリクの表情(ひょうじょう)一気(いっき)(くら)くなりました。

 そしてそのまま(だま)りこんでしまいます。


 アティシュリは、しょうがねぇなって(かん)じで(はな)()らし、()わりに説明(せつめい)(はじ)めました。


(いま)酒場(さかば)ってのは、こいつ一人(ひとり)でやってたわけじゃなくてよ、ずっと人間(にんげん)老夫婦(ろうふうふ)手伝(てつだ)っててな。そいつらが(とし)のせいで(はたら)くのがキツくなったもんで引退(いんたい)することになったそうだ。で、その夫婦(ふうふ)酒場(さかば)をくれてやり、また(あたら)しい(みせ)を、どっかでやるつもりだって、こいつが(まえ)(はな)してのを(おも)()してよ。だったら店長(てんちょう)(まか)せられるんじゃねぇかと(おも)ったんだ……」


 アティシュリは、チェフチリクの様子(ようす)横目(よこめ)でチラチラ()ながら(つづ)けます。


「――(さき)に、こいつの在所(ざいしょ)()ってみたんだ。そしたら不在(ふざい)だったんで、酒場(さかば)(ほう)()ってみたのよ。すると(みせ)(よこ)(こしら)えた墓石(はかいし)(まえ)(ほう)けてる、こいつを()つけちまってな」


 チェフチリクの表情(ひょうじょう)一層暗(いっそうくら)くなっていくので、アティシュリは(かお)をしかめました。


二日(ふつか)(まえ)(みせ)盗賊(とうぞく)襲撃(しゅうげき)されて老夫婦(ろうふうふ)(ころ)されちまったらしい。(はか)はその夫婦(ふうふ)のもんだった。だがな、よくよく()いてみりゃ、(ほう)けていた理由(りゆう)は、それだけじゃなくてよ。(たの)まれて(あず)かっていた娘二人(むすめふたり)(ぞく)に、さらわれたってことらしい」 


「さらわれた……? それは由々(ゆゆ)しき事態(じたい)ですね。犯人(はんにん)見当(けんとう)はついているのでしょうか?」


 ヒュリアに()かれて、チェフチリクは(おもむろ)(くち)(ひら)きます。


自分(じぶん)酒場(さかば)(もど)ったとき、アブジの警備隊(けいびたい)事件(じけん)捜査(そうさ)をしている最中(さいちゅう)だった。(かれ)らの(はなし)では、夫婦(ふうふ)死体(したい)以外(いがい)犯人(はんにん)らしき(おとこ)死体(したい)(ひと)つあり、その(ひたい)(ほほ)には、(みどり)(いろ)刺青(いれずみ)がほどこされていたらしい。おそらくキュペクバルの残党(ざんとう)だろうということだった……」


「キュペクバル!」


 ヒュリアが(こえ)()げました。


二年(にねん)ほど(まえ)帝国(ていこく)(ほろ)ぼされたキュペクバルの残党達(ざんとうたち)は、(ひがし)大陸中(たいりくじゅう)四散(しさん)した。今奴(いまやつ)らは、あちこちの(くに)犯罪(はんざい)()こし、各政府(かくせいふ)から危険分子(きけんぶんし)として認定(にんてい)されている。帝国(ていこく)などでは即時掃討(そくじそうとう)対応(たいおう)(みと)められるとも()いている。――ヒュリア、(きみ)は、キュペクバルと(たたか)っていたのだろう? やはり、奴等(やつら)噂通(うわさどお)りの無法者(むほうもの)なのか? あの娘達(こたち)大丈夫(だいじょうぶ)だろうか?」


 チェフチリクは(すが)るようヒュリアを()つめます。


「キュペクバルは殺人(さつじん)強盗(ごうとう)誘拐(ゆうかい)放火(ほうか)(など)ありとあらゆる悪行(あくぎょう)百年余(ひゃくねんあま)りの(あいだ)帝国(ていこく)(たみ)(くる)しめてきました。ゆえに帝国(ていこく)(なが)らく、その殲滅(せんめつ)尽力(じんりょく)してきたのです。そしてその悲願(ひがん)()たされたのが二年前(にねんまえ)(だい)15()グルツラク戦役(せんえき)でした。キュペクバルの大戦士(だいせんし)ムラナ・アナ・キュペクバルヌンを首席勇者(しゅせきゆうしゃ)イドリス・ジェサレットが討取(うちと)ったことで、一気(いっき)形勢(けいせい)帝国(ていこく)(かたむ)きました。これにより王都(おうと)キュペクバルクラルは(ほど)なく陥落(かんらく)し、キュペクバルは滅亡(めつぼう)したのです」


 ヒュリアは(おお)きく(いき)()き、()()じます。


不愉快(ふゆかい)なことを(もう)()げることになりますが、キュペクバルの(たち)(わる)さは噂以上(うわさいじょう)です。なのでお二方(ふたかた)無事(ぶじ)かどうかは、天運(てんうん)にかけるしかないでしょう。ただ、(いのち)をとらず(らち)したということは、すぐに(ころ)すつもりはないと(おも)われます」


「そうか……、あの娘達(こたち)(いま)自分(じぶん)にとって、とても大切(たいせつ)存在(そんざい)となっている……。だからなんとしても(たす)けだしたい。――イドリス・ジェサレットか……、(たし)英雄(えいゆう)となって帝国(ていこく)出奔(しゅっぽん)し、冒険者(ぼうけんしゃ)組織(そしき)(ひき)いてると()いた。イドリスに(たの)むことができれば、救出(きゅうしつ)容易(たやす)いのだろうか……?」


詳細(しょうさい)はわかりません。ただ、人探(ひとさが)しには定評(ていひょう)があると()きます……」


 ヒュリアが、()っていた木剣(ぼっけん)(つよ)握締(にぎりし)めるのが、()(はい)ります。

 そして今度(こんど)は、彼女(かのじょ)(だま)りこむ(ばん)なのでした。

 もちろん、こっちは(ぼく)(はなし)引継(ひきつ)ぐしかないのです。


「じゃあ、チェフチリク(さま)酒場(さかば)(ちか)くに、そのキュペクバルって(やつ)らが(ひそ)んでるってことなんでしょうかね?」


酒場(さかば)はアヴジ王国(おうこく)南部(なんぶ)位置(いち)するディルパス(むら)にあるのだが、その西側(にしがわ)にはスルスクラムの(もり)(ひろ)がっている。最近(さいきん)そこに大規模(だいきぼ)盗賊団(とうぞくだん)巣食(すく)ってしまったと警備隊(けいびたい)から()いた。おそらく、その(なか)にキュペクバルがいるのだろう」


 チェフチリクは人差(ひとさ)(ゆび)親指(おやゆび)両目(りょうめ)()さえます。


自分(じぶん)がもう(すこ)(はや)(もど)っていれば、こんなことにならなかったのだ……」 


「そのスルスクラムの(もり)って、どんなとこなんです? かなり(ふか)(かん)じですか?」


「スルスクラムの(もり)はよ、災厄(さいやく)荒野(こうや)東側(ひがしがわ)隣接(りんせつ)しててな、その三分(さんぶん)()は、どの(くに)にも(ぞく)してねぇ。そのうえ年中嫌(ねんじゅういや)(あめ)()ってて視界(しかい)(わる)く、(くま)(おおかみ)妖獣(ようじゅう)なんかもうろついていやがる。だから、こいつが娘達(むすめたち)救出(きゅうしゅつ)(うった)えても、アヴジの警備隊(けいびたい)(いや)がって(うご)かねぇんだとよ。イドリスだの冒険者(ぼうけんしゃ)だのを(やと)()もあるが、娘達(むすめたち)のことを人間(にんげん)()られるとマズいんで、そいつも(むずか)しいしな。まさに八方塞(はっぽうふさ)がりってやつだ」


 アティシュリは腹立(はらだ)たしげ(あたま)()きます。


()られるわけにはいかないって、その(むすめ)さん(たち)、どういう(ひと)なんですか?」


 霊龍(れいりゅう)(たち)(かお)見合(みあ)わせ、目配(めくば)せを()わします。

 それで()()りがついたのかチェフチリクが、彼女達(かのじょたち)正体(しょうたい)()かしました。


「――あの()らは、人間(にんげん)から『魔族(まぞく)』とよばれている存在(そんざい)なのだ」


 でた、魔族(まぞく)

 ヒュリアとジョルジも、びっくりしてます。


 やっぱりバシャルにもいたんだ魔族(まぞく)

 てことは魔王(まおう)もいるってことか?

 また一気(いっき)にラノベっぽくなってきたぞ。


「だが魔族(まぞく)という呼称(こしょう)は、人間側(にんげんがわ)勝手(かって)につけたものに()ぎない。(つの)()つことを(のぞ)けば、(かれ)らは生物的(せいぶつてき)人間(にんげん)となんら()わりはない。――(かれ)自身(じしん)は、自分達(じぶんたち)(くに)をウラニア、自分達(じぶんたち)をパトリドスと()んでいる。ウラニアは(ひがし)大陸(たいりく)最北端(さいほくたん)にあるが、人間(にんげん)虐待(ぎゃくたい)され(つづ)けたため、(いま)国境(こっきょう)()ざしている」


 多数派(たすうは)()める人間(にんげん)権力(けんりょく)()つと、自分達(じぶんたち)(ちが)少数派(しょうすうは)差別(さべつ)して虐待(ぎゃくたい)したり、同化(どうか)させようとしてアイデンティティを(うば)おうとすることが多々(たた)あります。

 バシャルも地球(ちきゅう)も、その(てん)()わらないようです。


二人(ふたり)()はアレクシア・スカラ、そしてユニス・ヴァシレイオという。アレクシアはユニス()きの護衛官(ごえいかん)として(つと)める(もの)で、ユニスに護衛官(ごえいかん)がついている理由(りゆう)は、彼女(かのじょ)人間(にんげん)()うところの魔王(まおう)(むすめ)だったからだ」


魔王(まおう)(むすめ)! つまり御姫様(おひめさま)ですねっ!」


 やっぱきたね、魔王(まおう)

 それに魔族(まぞく)(ひめ)かぁ。

 可愛(かわい)くて、おしとやかなタイプだといいなぁ。


 うちの女性陣(じょせいじん)()()()いんだけど、(つよ)すぎますから……。

 おっと、悪口(わるぐち)じゃないすからねっ。  


「まあ、魔王(まおう)という称号(しょうごう)人間(にんげん)勝手(かって)(つく)りだしたものだ。実際(じっさい)議会(ぎかい)総代(そうだい)として(くに)代表(だいひょう)しているに()ぎない。しかも総代(そうだい)(おう)のような世襲制(せしゅうせい)ではなく、議会(ぎかい)多数決(たすうけつ)選出(せんしゅつ)される。だから現在(げんざい)総代(そうだい)はユニスとは(まった)くの他人(たにん)なのだ」


 もしかして議会制民主主義ぎかいせいみんしゅしゅぎってやつですか?

 人間(にんげん)(くに)より(すす)んでない?


「でもユニスさんは、なぜチェフチリクさんのところにいたんです?」


「ユニスは、パトリドスの秘宝(ひほう)(ねむ)る『禁足地(きんそくち)』の(かぎ)()っている。(いま)総代(そうだい)であるスタヴロス・ガタキは、秘宝(ひほう)()()れるため、禁足地(きんそくち)解放(かいほう)しようとしているが、それにはユニスの()(かぎ)がどうしても必要(ひつよう)になる。それで(やつ)一年前(いちねんまえ)、ユニスを(ねら)って襲撃(しゅうげき)をしかけたのだ……」


 魔族(まぞく)秘宝(ひほう)……。

 もしかしてヤバい代物(しろもの)なんでしょうか。

 だから封印(ふういん)してあるとか。


「ユニスの父親(ちちおや)であるカリトンは生前(せいぜん)(おれ)たちの同胞(はらから)である『ヤムルハヴァ』と付合(つきあ)いがあってな。(はは)のネリダはそのツテを(たよ)って(むすめ)をヤムルに(たく)し、事前(じぜん)()がしていたんでユニス(たち)無事(ぶじ)だったわけだ。けど、ヤムルは物臭(ものぐさ)自分(じぶん)じゃ世話(せわ)できねぇもんだから、チェフに()しつけたのよ」


 ヤムルハヴァ?

 同胞(はらから)って()うからには、八大(はちだい)霊龍(れいりゅう)一柱(ひとはしら)なんでしょうね。


「チェフチリクさんとアティシュリさんが一緒(いっしょ)にやれば、簡単(かんたん)救出(きゅうしゅつ)できそうですけど」


(まえ)にも()ったろうが。(おれ)たちには(おきて)があんだよ。人間同士(にんげんどうし)(あらそ)いには介入(かいにゅう)しねぇってな」


(あらそ)いって()っても、一方(いっぽう)は、さらわれてるんですよ」


「ダメなものはダメだ」


「でもヒュリアのときは、結局(けっきょく)(たす)けてくれたじゃないすか」


「ありゃあ、ヒリュアがやられたら、あのトゥガイって(やつ)もジョルジの討伐(とうばつ)(くわ)わってくるだろうと(おも)ったからよ。あくまでもジョルジを(たす)けるためにやったことだ」


 ホント、素直(すなお)じゃないし頑固(がんこ)よね、このドラゴン(ねえ)さんは。

 (あま)いものですぐ、ふにゃふにゃになるくせに。


「ここまで(うかが)ってまいりましたが、もしやチェフチリク(さま)は、私達(わたしたち)魔族(まぞく)娘達(むすめたち)救出(きゅうしゅつ)しろとおっしゃりたいのでしょうか?」


 ずっと(だま)っていたヒュリアが(くち)(ひら)きました。


「ふむ、すまんな。本来(ほんらい)なら、こちらから()うべきところだが、魔族(まぞく)(かか)わっているとなれば(きみ)らが敬遠(けいえん)するかと(おも)い、()()しにくかったのだ。――推察(すいさつ)(とお)りだ。アヴジの警備隊(けいびたい)も、冒険者(ぼうけんしゃ)()てにできない以上(いじょう)君達(きみたち)(たの)むしかない。どうだろう、引受(ひきう)けてくれないか。もしあの()らを(たす)けられたなら、自分(じぶん)にできることなら(なん)でもすると約束(やくそう)しよう。店長(てんちょう)などとは()わん、皿洗(さらあら)いでも便所掃除(べんじょそうじ)でも(かま)わん。だから、どうかこの(ねが)いを受入(うけい)れてはもらえないだろうか」


 立上(たちあ)がって(あたま)()げるチェフチリク。


「おやめください。世界(せかい)守護者(しゅごしゃ)御一人(おひとり)である貴方(あなた)(ひと)(ねが)われるなどと。そんなことをされなくても、(めい)じて(いただ)くだけでよろしいのです」


 ヒュリアも立上(たちあ)がり、チェフチリクに一礼(いちれい)します


承知(しょうち)しました。この(けん)(よろこ)んで御引受(おひきう)けいたします」


 躊躇(ちゅうちょ)なく承諾(しょうだく)しちゃったよ……。 

 これまた、大変(たいへん)仕事(しごと)引受(ひきう)けちゃったんじゃないの。

 ヒュリアがまた危険(きけん)()()わないといいんだけど。


 心配(しんぱい)だよなぁ。

 つい先日(せんじつ)、トゥガイと(たたか)ったばかりだし。

 (あし)だってまだ(なお)ってないのに。

 

「――しかしチェフチリク(さま)は、何故(なぜ)そこまで彼女(かのじょ)らを大切(たいせつ)(おも)われているのですか。お(はなし)(うかが)ってみても、それほど(ふか)(つな)がりは、(かん)じられないのですが」


「そう(おも)うのも無理(むり)はない。――自分(じぶん)彼女(かのじょ)らを大切(たいせつ)(おもう)一番(いちばん)理由(りゆう)は、ユニスの笑顔(えがお)がみたいからだろうな」


 チェフチリクは、あごを()()でながら、(やわ)らかく微笑(ほほえ)みました。


(おさな)いときに父親(ちちおや)()くし、先日(せんじつ)襲撃(しゅうげき)母親(ははおや)(いのち)()とした。アレクシアの(はなし)では、もう(なが)(あいだ)、ユニスが子供(こども)らしく(わら)姿(すがた)()たことが()いそうだ。――あの()はまだ13(さい)だ。このままでは、笑顔(えがお)取戻(とりもど)せぬまま、この()()ることになりかねない。それは(おさな)彼女(かのじょ)にとって、あまりにも(かな)しく、(つら)いことだと(おも)えるのだ……」


 ほんわかした空気(くうき)(つつ)みこまれます。

 チェフチリクさんて、なんて()いドラゴンなんでしょう。

 ちょっと()きそうになりました。

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