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龍とはらすかす姫<1>

「それで引越(ひっこ)しと食堂(しょくどう)だが、具体的(ぐたいてき)にどうするんだ、ツクモ」


 一口(ひとくち)(ちゃ)をすすったヒュリアが、あくまでも冷静(れいせい)口調(くちょう)()いてきました。


 引越(ひっこし)宣言(せんげん)から一夜明(いちやあ)けた翌日(よくじつ)昼食後(ちゅうしょくご)、これからの方針(ほうしん)()める会議(かいぎ)(ひら)くことにしたのでして。

 高級感(こうきゅうかん)のある重厚(じゅうこう)四人(よにん)がけのテーブルにはヒュリアとアティシュリが着席(ちゃくせき)していて、いつものように食後(しょくご)のお(ちゃ)をちょうど(いま)提供(ていきょう)したところです。


「まずは耶代(やしろ)をどこへ『転居(てんきょ)』させるかを()めなきゃいけないね。それと食堂(しょくどう)店長(てんちょう)従業員(じゅうぎょういん)必要(ひつよう)になると(おも)うんだ」


 『建替(たてかえ)』で『食堂(しょくどう)』になった『耶代(やしろ)』は、外見的(がいけんてき)には北海道(ほっかいどう)にある(あか)レンガ倉庫(そうこ)()てます。

 あそこまでカッコ()くは、ないですけど。


 一方(いっぽう)内部(ないぶ)構造(こうぞう)はどうかといえば、玄関(げんかん)から両開(りょうびら)きの(とびら)()けて(なか)(はい)ると、四人掛(よにんが)けテーブル(せき)が12とカウンター(せき)が10(しつら)えられたホールが(ひろ)がります。

 

 また西(にし)(かべ)には硝子(がらす)(はい)った(まど)があり、(そと)景色(けしき)(なが)めることができます。

 ヒュリアの(はなし)だと、こんなに(うす)透明(とうめい)硝子(がらす)(はじ)めて()たということでした。


 カウンターの(おく)にある東側(ひがしがわ)(かべ)(へだ)てた()こうはクローズドキッチンで、その北側(きたがわ)には東西(とうざい)(はし)廊下(ろうか)があり、廊下(ろうか)(はさ)んだ()かいには、(もと)丸太小屋(まるたごや)にあったダイニングがそのまま(のこ)されています。

 もちろんお風呂(ふろ)とトイレもそのままです。


 キッチンとダイニングの(あいだ)にある廊下(ろうか)は、ホールから屋敷(やしき)(おく)まで()びていて、最終的(さいしゅうてき)には裏口(うらぐち)二階(にかい)への階段(かいだん)行着(いきつ)くことになります。


 そして二階(にかい)()がると、中央(ちゅうおう)廊下(ろうか)があり、その両脇(りょうわき)各部屋(かくへや)(なら)んでるっていう間取(まど)りが(あら)われます。

 部屋(へや)全部(ぜんぶ)(いつ)つあり、その内訳(うちわけ)は、アティシュリ、ジョルジ、ヒュリアの個人部屋(こじんべや)とゲストルーム、錬成室(れんせいしつ)となっております。


 食堂(しょくどう)ホールの内装(ないそう)は、(ぼく)()きているとき、よく(かよ)っていた近所(きんじょ)洋食屋(ようしょくや)さんに、よく()ています。

 くすんだ(あか)い“バア”の(かべ)木製(もくせい)天井(てんじょう)(ゆか)、そこかしこに()るされたランプ、重厚(じゅうこう)なテーブルや椅子(いす)、それらが()(かん)じの雰囲気(ふんいき)(かも)しだしていて、グルメサイトだったら大人(おとな)(かく)家的(がてき)なレストラン、なんて紹介(しょうかい)してくれそうな仕上(しあ)がりなのです。


 そんな御洒落(おしゃれ)なホールで、人間(にんげん)とドラゴンと地縛霊(じばくれい)会議(かいぎ)をしているわけです。

 ()らん(ひと)()いたら、どういうシチュよ?ってツッコみたくなりますよね。


「タヴシャンのやつが転居(てんきょ)(さき)について、てめぇに(なに)()ってやがったよな」


 いつものようにアティシュリ(さま)は、お(ちゃ)()わりに本日分(ほんじつぶん)のキャラメルを一粒(ひとつぶ)ずつ()みしめ、堪能(たんのう)してらっしゃいます。


「ええ。食堂(しょくどう)をやるんなら、それなりに(おお)きくて、最近(さいきん)できたような(まち)()いんじゃないかってことでしたよ。(ちい)いのや、(ふる)くからあるのは人間関係(にんげんかんけい)(みつ)なんで、新参者(しんざんもの)目立(めだ)ちますからね。(おお)きいか、(あたら)しいなら人間関係(にんげんかんけい)希薄(きはく)なんで、それほど(あや)しまれることはないってわけです」


 ホールの(すみ)にある客用(きゃくよう)のトイレからジョルジのエズく(こえ)(ひび)いてきます。

 お(ひる)()した牛肉(ぎゅうにく)香味野菜(こうみやさい)春巻(はるま)きを、なんとか完食(かんしょく)したのは()いんですが、やっぱり気持(きも)(わる)くなったみたいでして……。


 でも、エズくだけでゲロってはいけないのです。

 アティシュリから、吐出(はきだ)すなって厳命(げんめい)()けてますからね。


 でもあれ、絶対吐(ぜったは)いてるよね。

 しかし、いくらリバース寸前(すんぜん)だったからって、客用(きゃくよう)のトイレはダメだろ。

 あとで説教(せっきょう)だな。


 昨日(きのう)盟友(めいゆう)(らん)のアティシュリの(した)名前(なまえ)(つら)ねることになったジョルジは、引越(ひっこし)宣言(せんげん)(あと)(きゅう)にフラフラし(はじ)め、その()座込(すわりこ)んでしましいます。

 そしてすぐに、(あそ)(つか)れた子供(こども)みたいに(ねむ)ってしまいました。

 

 予想通(よそうどお)り、耶代(やしろ)(ちから)()ってかれたようです。

 結果(けっか)、ドラゴン(ねえ)さんが(かた)(かつ)いで二階(にかい)(はこ)び、ジョルジの名札(なふだ)がついた部屋(へや)のベッドに()かされたのでした。


 会議(かいぎ)開催(かいさい)今日(きょう)持越(もちこ)されたのは、(ひとえ)にジョルジが寝込(ねこ)んだせいなのです。

 一応(いちおう)、ジョルジも『耶代(やしろ)』の住人(じゅうにん)になったんですから、無視(むし)して引越(ひっこし)(すす)めるわけにはいきませんからね。


 ちゃんと(かれ)thought(ソート)()かないと。

 さっきからずっと嘔吐(おうと)してますけどね。


 (いま)はこんなですけど起抜(おきぬ)けジョルジは、『耶代(やしろ)』の機能(きのう)である『休養(きゅうよう)』で完璧(かんぺき)体力(たいりょく)回復(かいふく)し、血色(けっしょく)()溌剌(はつらつ)としてたんです。

 追出(おいだ)される心配(しんぱい)()くなったんで、気持(きも)ちが安定(あんてい)したんでしょう。

 まあそれも、お昼御飯(ひるごはん)までだったですけど。

 

 それと今朝(けさ)のことなんですけど、ヒュリアに『霊器(れいき)錬成(れんせい)手解(てほど)きをしてくれたタヴシャン先生(せんせい)が、お(かえ)りの(はこ)びとなったのです。

 いつまでも自分(じぶん)(みせ)()めてるわけにはいかないというわけです。


 彼女(かのじょ)(わか)れの挨拶(あいさつ)をしているときに()きてきたジョルジは、その(なが)れで御見送(おみおく)りをすることになったのですが、そこで(つい)に、この世界(せかい)秘密(ひみつ)一端(いったん)()れることになります。


 タヴシャンを()()せるため、アティシュリが赤芒(せきぼう)(はな)つドラゴンの姿(すがた)(もど)ったからです。

 もちろんジョルジは、(こし)()かしてヘタりこみ、アワアワと()いながら小刻(こきざ)みに(ふる)えるという典型的(てんけいてき)なリアクションを披露(ひろう)してくれました。


 タヴシャンを()せて飛立(とびた)(まえ)、アワアワしてるジョルジに()かい、(ほのお)のドラゴンは(あた)一面(いちめん)鳴響(なりひび)(こえ)(けい)宣告(せんこく)しました。


「いいかっ、ジョルジっ! 『耶代(やしろ)』の(まわ)り50(しゅう)腕立(うでた)て100(かい)腹筋(ふっきん)100(かい)(おれ)(かえ)ってくるまでにやっとけ! 出来(でき)てなかったら(そら)から()()とすかんなっ!」


「はいぃぃぃっ!」


 (あせ)って立上(たちあが)ったジョルジは、(くび)(たて)にブンブン()って(こた)えます。

 もちろん拒否権(きょひけん)はないのです。


 ジョルジの返答(へんとう)納得(なっとく)した様子(ようす)霊龍(れいりゅう)(さま)は、巨大(きょだい)(つばさ)数回(すうかい)はためかせると、(つぎ)瞬間(しゅんかん)、まるで(そら)吸込(すいこ)まれるように舞上(まいあ)がります。

 見上(みあ)げると、あの巨体(きょたい)はすでに500円玉(えんだま)ほどの(おお)きさになっていました。


「まぁたねぇぇぇ!」


 (かぜ)()ったタヴシャンの(こえ)(かす)かに()こえたかと(おも)うと、ドラゴンは飛行機雲(ひこうきぐも)()いて(はる)(とお)くの(そら)へと()えていったのでした。


 さて、トレーニングメニューを(いただ)いたジョルジは、()()とされたくない一心(いっしん)必死(ひっし)課題(かだい)をこなし、なんとかクリアに成功(せいこう)します。

 でも(かれ)災難(さいなん)は、それで()わりじゃありません。


 昼前(ひるまえ)(もど)って()霊龍(れいりゅう)(さま)監視(かんし)(もと)今度(こんど)は“(にく)()う”というトレーニング以上(いじょう)(きび)しい試練(しれん)乗越(のりこ)えなければならかったのです。

 そして、その結果(けっか)がトイレへの直行(ちょっこう)と、“エズき”の(はじ)まりなのでした。


「――従業員(じゅうぎょういん)必要(ひつよう)なのはわかるが、店長(てんちょう)はツクモがやればいいんじゃないのか?」


 可愛(かわい)らしく(くび)(かし)げるヒュリア。


「いやあ、そういうわけにもいかないよ。(みせ)をやるんなら、対外的(たいがいてき)(いろ)んな(ひと)交渉(こうしょう)したり、接客(せっきゃく)したりしなきゃならないでしょ。だとすると真黒(まっくろ)地縛霊(じばくれい)問題外(もんだいがい)なわけ。(きみ)だって手配書(てはいしょ)(まわ)ってるから、人前(ひとまえ)には()るのはなるだけ()けたほうがいいでしょ。まして『耶代(やしろ)』の移転先(いてんさき)土地(とち)()うなんてことになれば、その契約(けいやく)なんかも()わりにやってもらわなきゃならいしねぇ」


「なるほど、(たし)かにその(とお)りだな。――ならば、アティシュリ(さま)店長(てんちょう)引受(ひきう)けて(いただ)くことは出来(でき)ないでしょうか?」


(おれ)がやるわけねぇだろう。面倒(めんど)くせぇ」


「そうですか……、ならば、ひょろジは……?」


 トイレの(ほう)()るヒュリア。


 ひょろジ……。

 素晴(すば)らしい(ふた)()頂戴(ちょうだい)しましたぞ、ジョルジ(くん)

 

 しかし、皇女殿下(こうじょでんか)から()頂戴(ちょうだい)した(とう)本人(ほんにん)は、トイレから、ふらふらとこちらに(もど)ってくる途中(とちゅう)でして……。

 その(かお)()(さお)で、げっそりとやつれております。


「――無理(むり)だな」


 一人(ひとり)納得(なっとく)し、(うなず)くヒュリア。


「そういうことだから、(みせ)(かお)になってくれる(ひと)()しいのよ」


 やっとのことで(せき)についたジョルジは(なん)のことかわからず(みんな)(かお)見回(みまわ)してます。


具体的(ぐたいてき)には、どんな人物(じんぶつ)希望(きぼう)するんだ?」


「そうだね、どっしりと落着(おちつ)いていて、見栄(みば)えも(あたま)()くて、いかにも信用(しんよう)がありそうで、(ぼく)やヒュリアのことを()っても密告(みっこく)したり、バラしたりしない(くち)(かた)(ひと)()いよね」


「そんな(やつ)、そうそういるはずねぇだろうが」


 (あき)(がお)のドラゴン(ねえ)さん。


 ただ(じつ)は、この(けん)(かん)するヒント、もう()つけちゃってるんです。

 それがこちら。


従業員(じゅうぎょういん)俺娘(おれっこ)紹介(しょうかい)してもらう』


 昨日(きのう)までは(まった)意味不明(いみふめい)だったこのヒント。

 『耶代(やしろ)』が進化(しんか)したことで、やっと意味(いみ)がわかりました。

 “俺娘(おれっこ)”はもちろんアティシュリ(さま)()してますよね。

 なのできっと、従業員(じゅうぎょういん)については、ドラゴン(ねえ)さんに(まか)せればいいってことじゃないでしょうか。


「えーと(じつ)はですね、アティシュリさん。『耶代(やしろ)』が、あなたに()けば従業員(じゅうぎょういん)()つかるって()ってるんですけどぉ?」


 アティシュリは(くち)をぽかんと()けて、(ぼく)をガン()します。


「はぁっ?! 何をぅ?! またわけのわからねぇことを()いやがって! 霊龍(れいりゅう)である(おれ)に、そんな()てがあるわけねぇだろうが! だいたい(おれ)が、この姿(すがた)()いに()ける人間(にんげん)自体(じたい)、ほとんどいねぇんだぞ!」


(ぼく)にそんな(おこ)られても、ねぇ……?」


 ヒュリアに同意(どうい)(もと)めると、苦笑(にがわら)いを(かえ)されました。


「まあ、人間(にんげん)じゃねぇ従業員(じゅうぎょういん)でもいいなら、()いて()てるほど()てはあるけどよ……。だいたい人間(にんげん)従業員(じゅうぎょういん)()しいんなら、(おれ)じゃなく、商業組合(しょうぎょうくみあい)にでも(たの)めばいいだろうが……」


 ぶつぶつ()いながらキャラメルを(くち)()れようとしたアティシュリは突然(とつぜん)(なに)かに()づいたようにフリーズします。


「――ちょっまてよ、ひょっとして『耶代(やしろ)』は、あいつのことを()ってやがんのか……?」


「あいつって(だれ)です?」


 質問(しつもん)をスルーして、忌々(いまいま)しげに(あたま)()くドラゴン(ねえ)さん。


「ちっ、そんなことまで見透(みす)かしてやがんのか、この『耶代(やしろ)』はよぉ……。クソっ、仕方(しかた)ねぇ、(ひさ)しぶりに(かお)()して()るか」


 立上(たちあ)がったアティシュリは(のこ)りのキャラメルを一気(いっき)(くち)(なが)()むと、玄関(げんかん)(むか)って(ある)きだしました。


(おれ)はちょっと()かけてくるぜ。明日(あした)には(もど)るからよ。――それと、ヒュリア」


「はい?!」


「ジョルジに剣術(けんじゅつ)(おし)えてやってくれ」


(わたし)が……、ですか……」


 (あき)らかに(いや)そうな(かお)のヒュリア。


「お(まえ)剣術(けんじゅつ)超一流(ちょういちりゅう)だからな。――(たの)んだぜ」


「お()ちください! まだ(おし)えるとは()ってません!」


 ヒュリアは抗議(こうぎ)しますが、アティシュリはどこ()(かぜ)(そと)()いき、すぐさまドラゴンの姿(すがた)になって()んでいってしまいました。


 不満(ふまん)そうに溜息(ためいき)()き、(こぶし)でテーブルを(なぐ)りつけるヒュリア。

 ジョルジの身体(からだ)がビクっとなります。

  

「ご面倒(めんどう)ば、おかけしまして……、申訳(もうしわけ)ねぇこって……」


 ()きそうな(かおい)(あやま)るジョルジ。


「――ツクモ、木剣(ぼっけん)二本(にほん)(つく)ってくれないか」


 無感情(むかんじょう)なヒュリアの(こえ)

 でも、(ぎゃく)内心(ないしん)のイライラが(つた)わってきます。

 ジョルジの未来(みらい)暗雲(あんうん)立込(たちこ)(はじ)めているようです。


 とりあえず『工作(こうさく)』の機能(きのう)木剣(ぼっけん)(つく)り、テーブルの(うえ)具現化(ぐげんか)させました。


「すごいですねぇ、ツクモさん!」


 ()んだ(さかな)のようだったジョルジの()(かがや)いてます。

 皮肉(ひにく)なことに、(すこ)元気(げんき)になったみたいです。


 そうだよ、すごいだろ。

 だけど、この(けん)はね、地獄(じごく)への片道切符(かたみちきっぷ)なんだよぉ。 

 これを()にとったが最後(さいご)鬼教官(おにきょうかん)による責苦(せめく)(はじ)まるんだよぉ。


 (みじか)生涯(しょうがい)だったな、ジョルジ。

 ()んだら(ぼく)一緒(いっしょ)耗霊(もうりょう)漫才(まんざい)でもやって営業回(えいぎょうまわ)ろうぜ。


「――おい、ひょろジ!」


「ひょろジ? ――それ、オラのこっですか?」


「そうだ、今日(きょう)からお(まえ)は、ひょろジだ! いいなっ!」


 ヒュリアは宣言(せんげん)すると(けん)取上(とりあ)げ、片方(かたほう)をジョルジの(むね)押付(おしつ)けました。

 そして、音痴(おんち)理不尽(りふじん)なガキ大将(だいしょう)のたけし(くん)憑依(ひょうい)させたような表情(ひょうじょう)でジョルジを凝視(ぎょうし)します。


「な、(なん)でしょうか?」


 (にら)まれて困惑(こんわく)するジョルジ。


(いま)からお(まえ)に、(わたし)修得(しゅうとく)した剣術(けんじゅつ)(おし)えてやる。これはアティシュリ(さま)厳命(げんめい)だから、(いのち)がけで修練(しゅうれん)するように」


「オ、オラ、(けん)なんて(にぎ)ったこともねぇですが……」


「だぁ・かぁ・らぁ、(いま)からやるんだろぉ、(いま)からぁ……」


 こめかみをヒクヒクさせたヒュリアは、ジョルジに(かお)(ちか)づけ、(ひとみ)(のぞ)きこむようにして()います。


「は、はいぃっ!」


 ガタガタ(ふる)えながら返事(へんじ)をするジョルジ。


 よしっ! 

 さあ、()くのだ、ひょろジ!

 (かがや)かしい未来(みらい)のために!

 英雄(えいゆう)(ほし)となるために!


 (かろ)やかに()()り、二人(ふたり)(おく)()しました。


 その(あと)家事(かじ)をこなしたり、食堂(しょくどう)()すメニューを(かんが)えたりしていると、いつのまにか太陽(たいよう)(かたむ)頃合(ころあ)いとなっていたのです。


 でもヒュリアとジョルジは、まだ修練(しゅうれん)から(もど)ってきません。

 お(ひる)すぎから(はじ)めて夕方(ゆうがた)ですから、もうかなりの時間(じかん)()ってます。

 心配(しんぱい)になったんで(そと)()てみました。


「――どうした、それで()わりか、ひょろジ!」


「まだ、まだぁ……」


 (きず)だらけでボロボロになってるジョルジ。

 (いき)(みだ)すこともなく(たたず)むヒュリア。


 両手(りょうて)(にぎ)()めた(けん)振上(ふりあ)げ、突進(とっしん)するジョルジ。


 ()()ろされる(けん)易々(やすやす)(かわ)して、間合(まあ)いに(はい)ったヒュリアは、ジョルジの喉元(のどもと)剣先(けんさき)をつきつけます。

 ジョルジは、ただそれだけで(すべ)攻撃(こうげき)(ふう)じられ、(うご)けなくなってしまいます。


(すべ)ての(うご)きが(ざつ)だ。予備動作(よびどうさ)(つぎ)攻撃(こうげき)()めてしまう。だから……」


 喉元(のどもと)から(けん)()いたヒュリアは、(かげ)のようにジョルジの左側面(ひだりそくめん)へと(まわ)りこみ、左肩口(ひだりかたぐち)(けん)(たた)きつけました。


「――こうなる」


 ジョルジは(たた)かれた左肩(ひだりかた)()さえ、片膝(かたひざ)()いてしまいました。

 ()をくいしばって、(いた)みに()えてます。


 ()かねて(こえ)をかけました。


「そろそろ、()わりにしたら?」


「――どうする、ひょろジ、もうやめにするか?」


 挑発(ちょうはつ)するようなヒュリアの笑顔(えがお)。 


「いいえ、まだやれます……」


 まんまと()せられるジョルジ。


「そうか、ならば()て」


 ジョルジは立上(たちあ)がると、すぐに猛然(もうぜん)とヒュリアに()かって()りかかります。

 半身(はんみ)になったヒュリアは(けん)紙一重(かみひとえ)でかわしてジョルジのすぐ左斜(ひだりなな)(まえ)(はり)りこみ、左手(ひだりて)(にぎ)った(けん)でジョルジの(けん)()さえ、右手(みぎて)掌底(しょうてい)でジョルジの(した)アゴを()()げたのでした。

 (した)アゴに掌底(しょうてい)()けたジョルジは白目(しろめ)をむくと、ガクっと(くず)れて(たお)れこみ、そのまま(うご)かなくなりました。


「まさか、()んだ?」


 (おど)いてる(ぼく)()かって(さわ)やかに微笑(ほほえ)むヒュリア。

 なんかスッキリしてますな。


「いや、気絶(きぜつ)させただけだ。――ツクモ、すまんが、こいつを部屋(へや)まで(はこ)んでやってくれ。当分(とうぶん)()()まさないだろう」


「ラジャー」


 ジョルジを(かつ)いで(もど)りがてら()いてみました。


「ところでさ、ジョルジって、(けん)才能(さいのう)ありそう?」


「うむ、そうだな……、(けん)(さい)()()しは、まだわからん。ただこいつは(みょう)勘働(かんばたら)きが(するど)いときがあるな」


勘働(かんばたら)き?」


「ああ。相手(あいて)気配(けはい)攻撃(こうげき)()こりを察知(さっち)する能力(のうりょく)とでも()ったらいいだろうか。戦闘(せんとう)生業(なりわい)とするものにとっては、貴重(きちょう)資質(ししつ)(ひと)つなんだ」


「つまりジョルジは、戦士(せんし)としての才能(さいのう)は、ありってことでいいの?」


(すこ)しムカつくが、そういうことになるな」


 へぇ。

 ()うても『復体鎧(チフトベンゼル)』の保持者(ほじしゃ)

 やはり、ただ(もの)ではない。


 こうして気絶(きぜつ)しちゃったジョルジは、その()夕飯(ゆうはん)()きてこず、結局(けっきょく)そのまま(つぎ)()(むか)えることになったのです。 

 ずっと心配(しんぱい)してたんですけど、(あさ)、ヒュリアに朝食(ちょうしょく)()してるとき、二階(にかい)から()りてきたんで、ホッとしました。

 

 そんで朝食後(ちょうしょくご)、ヒュリアがまた剣術(けんじゅつ)(おし)える(なが)れになりまして。

 ジョルジは(あき)らかに(おび)えてましたが、背中(せなか)(けん)(つつ)かれて否応(いやおう)なく(そと)追立(おいたて)られます。

 (ぼく)も、とりあえずやることが()かったんで見学(けんがく)することにしました。


 木剣(ぼっけん)(かま)えたジョルジはヤケクソ気味(ぎみ)にヒュリアに()っこんでいきます。

 もちろん(けん)(かす)りもせず(くう)()り、(ぎゃく)手痛(ていた)反撃(はんげき)()らって地面(じめん)(ころ)がされる始末(しまつ)です。


 そんなことが何度(なんど)繰返(くりかえ)されると、だんだん()てるのが(つら)くなっきました。

 なので一旦(いったん)食堂(しょくどう)(もど)ろうとしたんです。


 すると突然(とつぜん)(はげ)しい突風(とっぷう)空地(あきち)吹荒(ふきあ)れました。

 そして(そら)(くら)くなったかと(おも)うと巨大(きょだい)(かげ)(ふた)つ、舞降(まいお)りて()たのです。


 (ひと)つは、おなじみの(あか)(ほのお)(りゅう)

 そしてもう(ひと)つは、褐色(かっしょく)表皮(ひょうひ)()(りゅう)です。


 ドラゴンが二体(にたい)

 すげぇ!

 かっけぇ!


「――(もど)ったぜ」


 アティシュリの(こえ)がした途端(とたん)(そら)はまた(あか)るさを取戻(とりもど)し、霊龍(れいりゅう)(たち)(ひと)姿(すがた)になっていました。

  

 ドラゴン(ねえ)さんの(よこ)にいるのは、暗褐色(あんかっしょく)(かみ)(みじか)()()げた()(たか)男性(だんせい)です。

 スラリとした体形(たいけい)をしてますが、ジョルジのように弱々(よわよわ)しさがありません。


 こげ茶色(ちゃいろ)長袖(ながそで)上着(うわぎ)(くろ)いパンツを()わせた地味目(じみめ)服装(ふくそう)

 (とし)は20代後半(だいこうはん)ぐらいで、ドラゴン(ねえ)さんより年上(としうえ)って(かん)じがします。


 (かお)(ほう)はといえば、塩顔(しおがお)のイケメンなのです。

 濃緑色(のうりょくしょく)一重(ひとえ)(ひとみ)細面(ほそおもて)(うす)めの(くちびる)

 韓国(かんこく)人気(にんき)モデルっていったらわかりやすいかも。


 二人(ふたり)は、こっちに(ある)いて()るんですけど、(ちか)づくにつれ(あつ)がどんどん(つよ)くなっていきました。

 なんせドラゴン二体分(にたいぶん)ですからねぇ。


 (ぼく)(まえ)まで()ると、アティシュリは(となり)男性(だんせい)親指(おやゆび)指差(ゆびさ)しました。


紹介(しょうかい)すんぜ。こいつは(おれ)同胞(はらから)で『壌土(じょうど)()』を受継(うけつ)ぐ『レケジダルハ』だ」


「えーとぉ……、レケジダルハって()うのは……?」


「ウガリタ()で、レケジダルハは(つち)(りゅう)という意味(いみ)になる」


 (そば)にやってきたヒュリアが(おし)えてくれました。

 ジョルジはヒュリアの(うしろ)(かく)れるようにしています。


 なるほど、(ほのお)(つぎ)(つち)ですか。


「――お(はつ)にお()にかかります、壌土龍(じょうどりゅう)(さま)(わたし)は、チラック・ウル・エスクリムジの血統(けっとう)にして、聖騎士団帝国(せいきしだんていこく)第一皇女(だいいちおうじょ)、ヒュリア・ウル・エスクリムジと(もう)します」


 ヒュリアは厳粛(げんしゅく)態度(たいど)(ひざまず)き、(むね)()()御辞儀(おじぎ)をしました。

 それを()壌土龍(じょうどりゅう)は、予想(よそう)(はん)して(やわ)らかく微笑(ほほえ)みます。


「そんなに(かしこ)まらないでくれ。自分(じぶん)はチェフチリク、よろしく(たの)む」


 チェフチリクは(ひく)いトーンのイケボでそう()げると、ヒュリアの()()って立上(たちあ)がらせました。

 (おとこ)(ぼく)でも、ちょっとドキッとする()(こえ)してます。

 しかも、ちょい強面(こわもて)なのに、()なんか()しちゃって。


 アティシュリよりも全然優(ぜんぜんやさ)しいじゃん。

 こりゃ、モテる。

 絶対(ぜったい)モテるなぁ。


(きみ)がヒュリアか。――チラックの血筋(ちすじ)のわりには、かなり美人(びじん)だな」


「えっ?」


 ヒュリアは、(ほほ)()さえ、(かお)真赤まっかにしてます。


 なんか(おんな)()になっちゃってない?

 壌土龍(じょうどりゅう)、あなどりがたし。

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