ヘタレの勇者に成りたがり<4>
もう少し外にいるからって言うヒュリアを残し、小屋へ戻ります。
騎士団への対処をどうするか悩みながら歩いてると、玄関の横に開いた穴から、ジョルジが情けなさそうな顔でこちらを窺っているのが見えました。
「――いろいろ、ご迷惑おかけしてぇ、すみません」
小屋に入ってすぐ、ジョルジが寄ってきて平謝りです。
あの『復体鎧』とかいう青い鎧は、もう消えていて、元のひょろ男に戻ってました。
「あの鎧、しまえたんだ」
「はいぃ。アティシュリ様の御指導もありまして、なんとか自分の意志で、収めっこっができました」
「いまんとこ統一化はまだ不完全だがよ。それでも鎧の出し入れを操れるようになったてことは、『ジョビジ』の奴が『ジョバシ』と協調しようとしてる証拠だわな。とにかく肉を食うことに抵抗がなくなれば、ちゃんと統一化できるだろうよ。――しかし、食い物のことで世界を滅ぼしかねねぇとはよぉ……。ときどき人間って奴が、空恐ろしくなるぜ……」
アティシュリは呆れた風に首をふります。
まあ、人間の性状なんて霊龍様には理解しがたいでしょう。
世界を滅ぼすなんて大袈裟なことは抜きにしても、昔から、食い物の恨みは恐ろしいなんて言葉もあるぐらいだから、怨念がこもりやすいってことかもしれません。
食事には人間にとって重要なレゾンデートルがあるんでしょうね。
「じゃあ、これからは自分の意志で鎧を出すこともできるってことなの?」
「はい、すこしばかり、時間はかがりますがぁ」
なんだか、訛りも減ってきてるかな?
「しゃべり方、変わったね?」
「はいぃ、英雄さなるつもりならぁ、なるだけ標準語で話せってぇ、タヴシャンさんに言われましてぇ」
「そうよぉ、訛ってるだけで見下してくる嫌な奴もいるからさぁ。英雄目指すんなら、今のうちに直しといた方が得よ」
さすがはタヴシャンさん、人間社会の中で長く生活してるからこそのアドバイスですね。
アティシュリさんとは一味違います。
「あのぉ、そんでツクモさん……。ヒュリアさんはぁ……、やっぱり、オラに出て行けとぉ……?」
おずおずと尋ねてくるジョルジ。
すぐに大丈夫だよって言いたいとこですが、ここはひとつ、彼の意気込みを知っとかないといけません。
「アティシュリさんは、ここに置いてやってくれって言ってたけど、本当のところ君はどうしたいんだい? どうしても、ここに残りたいって思ってるのかな?」
「――オ、オラ、できっごどなら、あん力ば自分のものさしてぇです。そしたらきっと、こんなオラでも世ん為、人ん為さ、役に立でって思うのです。だども今んとご自分一人じゃ一歩も進めねぇちゅう情けねぇありありさまで……。ほだからアティシュリさんの御指導さ、どうしても仰がねばなんねぇのです。なので……、できればぁ……、ここさ置いてやってもらえねぇでしょうか……」
「でもさ、もしヒュリアが絶対ダメって言ったらどうすんの? 出て行くの?」
ちょっと意地悪してみます。
ジョルジは顔を真赤にして俯きます。
そして、一言一言嚙みしめるように言いました。
「土下座でも何でもして……、ヒュリアさんにお願えすっしかありません……」
うむ、その意気や良し。
「そっか、気持ちはわかったよ。――大丈夫、ヒュリアは君をここに置いてもいいってさ」
勢いよく顔を上げるジョルジ。
目に溜まった涙がキラキラしてます。
「あ、ありがど、ご、ごぜぇます……。ツクモさんが説得してくだすったんですねぇ」
「いや、別に何もしてないけど」
ジョルジは僕の手を取り、また何度も頭を下げました。
するとチャイムが鳴って『羅針眼』が立上がります。
『ジョルジ・エシャルメンを盟友登録してください。ただし、登録には登録者による口頭の承諾が必要です』
おっと、そう来たか、『耶代』さん。
ジョルジも盟友にする必要があるわけね。
たぶん『増築』すれば、ジョルジの部屋も出来あがるだろうから、プライベートスペースの確保にも、うってつけです。
まさに一石二鳥。
タヴシャンさんは、ずっと錬成室で寝てましたから。
「ジョルジ君、ここにいるにあったって君に一つお願いがあるんだけど」
アティシュリのときと違って説得は難しくないでしょう。
「は、はいぃ、オラにできることなら、何でもさしてもれぇます」
「ヒュリアの盟友として君を登録させて欲しいんだけど、いいかな?」
「ヒュリアさんの盟友? オラみでぇなもんで、いいんですか……?」
「もちろん、むしろ君じゃなきゃダメなのよねぇ」
「んでがすか。オラで良ければ、いくらでも登録してやってけさい」
「よしっ、じゃあ決まりね」
「おい、ツクモ、ジョルジを盟友登録するってのか?!」
警戒気味のドラゴン姉さんが、ジョルジの側にやってきます。
「そんなことしたら、俺みたいに力を奪われんじゃねぇのか?」
「まあ、そうかもしれませんけど、一日寝れば全快しますからね。それに、ジョルジ君の部屋も増築されるだろうから、ここにいるには都合がいいんじゃないですか」
どっかの誰かさんは三日も寝てましたけどね。
「ふん、結局はジョルジじゃなくて、てめぇとヒュリアに都合が良いってわけなんだろうがよ」
「もちろん、その通りです。否定は、しませんよ。宿泊費の代わりぐらいに思ってもらえると助かります」
「ちっ、食えねぇ野郎だぜっ! ――おいっ、ジョルジ! 盟友登録すりゃ、お前、一日寝込むことになるが、それでいいのか?!」
「寝込む? 一日だけ? そったらこっで済むなら、全然構わねぇですけんど?」
「ふん、そうかよ。お前がヤルってんなら、それで良い。なら、このアホの言うとおり、登録してやってくれ」
「わ、わかりましたぁ……」
ジョルジは僕とアティシュリのやりとりが、いまいち理解できてないみたいです。
まあ、『耶代』のことや、アティシュリさんの正体については、おいおい御知らせさせていただきますので。
でもきっと、アティシュリが霊龍様って知ったら腰抜かすんじゃないかな。
「では、ジョルジ・エシャルメン君。盟友登録、承諾してもらえますか?」
「はい、もつろん、承諾させでいただきます」
その途端、おなじみのチャイム音とともに『羅針眼』からの報告が表示されました。
『盟友登録が完了しました。これより屋敷の建替を行います。建替にあたり、屋敷内にいる全ての居住者を一時的に屋外へ退去させてください』
へっ?
『建替』?
『増築』じゃないの?
しかも退去って?
そして唐突に、低く唸るようなサイレンの音が|小屋の内外に鳴渡り始めたのです。
「なんだ?! どうした?! こりゃ何の音だ?! ツクモ?!」
アティシュリが怒鳴ります。
ジョルジとタヴシャンは、アワアワしてます。
「どうした、ツクモ!」
ヒュリアも慌てて戻って来ました。
「みなさん! 落着いてください!」
手をパンパン叩いて、アテンションプリーズします。
「今から『建替』しますんで、その間、外に出ててもらいまぁす」
「『建替』だと? 『増築』じゃねぇのか?!」
アティシュリが詰めてきます。
「はい、どうも違うみたいっすねぇ。でも僕にも、よくわかりませぇん」
両手を広げ、お手上げポーズを決めときます。
「ちっ、てめぇときたら、いつもそれだ! 何のための耶宰なんだ! このアホが! 後できっちり説明してもらうかんな!」
「――皆さん、とにかく外に出ましょう」
冷静な声で誘導してくれるヒュリア。
ホント、ちょっとしたサポートがありがたいのよ。
全員が外に出てると、不気味なサイレンは鳴り止みます。
すると最初に『修繕』したときのように、丸太小屋のある空間が、小屋ごと、ぼやけてユラユラと揺れ始めます。
ただ、以前とは違っている点もありました。
揺れている空間が、徐々に広がっていってることなんです。
特に上下の伸びが大きく見えますね。
それに体感ですけど、『修繕』のときよりも、時間が掛かってる気がします。
そして、しばらくして揺れが治まると、全員、唖然としてしまったのでした。
そこには以前のログハウスじゃなく、赤いレンガ造り風のお洒落な二階建ての建物のが出来あがっていたからです。
「おいっ、二階建てに変わってんじゃねぇか! しかも明らかに一回り以上大きくなってやがる!」
まあ『建替』ってそういうもんですけど。
驚くのも無理はないですな。
「す、スゴいですねぇ……、私も1000年以上生きてますけど、こんなの初めて見ましたわぁ……」
ドラゴン姉さん、ロシュ姉さん、揃って度肝を抜かれた御様子。
長くこの世にいる二人でも初めて見る光景ってことですかぁ。
「こりゃ、たまげたなやぁ……。 なじょすて、こだごとになっだっぺやぁ……」
ポカンとしているジョルジ。
訛りが、戻ってますね。
「あらためて体験させてもらったが、まさに驚くべき魔導だ……。無生物であるはずの屋敷が、生物のように成長する……。奇跡と言っても過言ではないだろう……」
感嘆してくれてるヒュリア。
ちょっとドヤ顔をしたくなっちゃいます。
もちろん、表情筋が固まってて、出来ないんですけどねっ。
チャイム音がして『羅針眼』から結果報告が入ります。
『食堂への建替が完了しました』
『ジョルジ・エシャルメンの部屋が増築されました』
『現状の耶代の欄に変更があります』
『拡張霊器1から倉庫の機能が使用可能となりました』
『新しい任務があります』
『転居が可能となりました。転居先の指定を行ってください。ただし指定は、耶宰が転居先に臨場して行う必要があります。また転居回数は一度に限定されています』
うわっ、たくさんありますぜ。
とにかく、一つずつ見てきましょうか。
まずは『建替』です。
赤いレンガ造りの外観で、“食堂”ねぇ……。
確かに雰囲気は、ちょい高級な街のレストランて感じですけど。
そういえば生きてるとき、よく通っていた近所の洋食屋さんに、どことなく似てる気がします。
でもなんで食堂?
もしかして、異世界食堂をやれという指示なんでしょうか?
『調理』の機能を使えば、難しくはないとは思いますが……。
ちょっとチートっぽいけど……。
まあ、料理するの好きだし。
とりあえず、飲込んどくことにしましょ。
そして、ジョルジの部屋。
ちゃんとできてましたね。
安心しました。
次に『現状』の『耶代』の欄の変更について見てみます。
開いてみると、『木造平屋』だった表示が、『バア造二階建』に変わってました。
二階建てってとこは理解できるんですけど、“バア”造って?
説明を表示させると、あの城蟻君が自分の唾液から造った赤いセメントみたいなやつのことだとわかりました。
つまりこのレンガ造り風の外観は“バア”で仕上げられてるってことです。
なるほど、だから『耶代』は、“バア”を集めてたんだ……。
さらに『バア造二階建』のすぐ下に、こんな新しい表示も出来てました。
『種類:食堂』
私、食堂になりましたんで宜しくっていう『耶代』の自己主張っぽいです。
ときどき人間クサイんだよねぇ。
あんた、建物でしょうに……。
そして気になるのが『耶代格位』のパラメーターです。
数値が15/100になってるんです。
あきらかに上昇してます。
これ100になったらどうなるんでしょう……。
ちょい怖です。
それから『拡張霊器1』からの『倉庫』使用についてですけど。
これは、ナイスですねぇ。
僕も外に出られるようになったんで、まさにアイテムボックスみたいに使えるわけです。
さて、ここまでは、ほんの挨拶代わりみたいなもんなのでして。
本番は、こっからです。
まずは、新しい『任務』ですな。
任務の項目を見てみます。
『任務:1、古代の疫病の蔓延を防止し、終息させる』
『2、耶卿による尸童の成造を完遂させる』
任務が二つ、しれっとあります。
一つでも大変だったのに、二つもかよぉ……。
古代の疫病を終息させる……?。
なんか不吉な予感しかしないんですけど……。
マジ怖です。
そして、尸童の成造……?
またヒュリアに造らせようってことなんでしょうけど……。
『尸童』って何なん?
聞いたことないぞ。
こんなんラノベとかアニメとかに、あったか?
スマホがあれば、検索できんのにぃ。
どっちも情報不足で、保留するしかありません。
はぁぁ、気が重い……。
最後に、おそらく今回の本命、『転居』についてです。
とりあえず説明を表示させました。
『現在位置より耶宰が指定した位置へ瞬間的に耶代を空間転移させるもの』
瞬間的に空間転移させる?!
つまりテレポート、ワープのことですかいな!
すげぇぜ、『耶代』さん!
これが可能なら、ヒュリアが心配してたことの解決策になります。
つまり、1万の騎士なんかと戦わないで、耶代ごとどっか遠くへ逃げちゃえばいいってわけです。
こりゃ良い!
マジで良い!
サムアップ!
『耶代』は、ジョルジを盟友登録したことで、空間転移できることになったわけですよね。
それって『ジョルジビジター』が使った次元や空間なんかを超える力を貰っちゃったってことかも。
そう考えると納得がいきます。
「おい、ツクモ。また『耶代』が何か言ってきたんじゃねぇのか?」
「まあ、そうなんですけど……」
「なんだ、かなりマズいことか?」
世界の守護者がビビってます。
ところで、こん回のアプデは、僕に或るアイデアをインスパイアさせることになりました。
そのアイデアは、今まで漠然としていたヒュリアと僕が進むべき道をハッキリさせるものでした。
それは、異世界食堂を経営し、貯めたお金で、ヒュリアの私設軍を作ることです。
これからはそれを当面の目標として行動することになるでしょう。
軍隊があれば、どっか空いてる土地に国を建てて、そこを足掛かりに帝国へ攻込む、なんてことも可能になりますからね。
自分で言うのもなんですが、かなりナイスなアイデアだと思えます。
一通り理解できたので、情報公開とまいりましょうか。
「えーと、今回のこの『建替』にあたりまして、重要な発表が二つございまぁす」
全員、次は何が起こるのかって感じで顔が強張ってます。
「まず一つ目、僕はこれから食堂開店の準備にとりかかるつもりです」
「――はぁ?! 食堂だと?! 何を言ってんだてめぇは?! 全く意味不明だぞ?! どっからそんな話が出てきやがった?!」
目が点になってるドラゴン姉さん。
でも今は返答を保留して、話を進めることにします。
言うても、もう一つの方がメインですからね。
「そして、二つ目。こっちの方が重要なんですが……」
シーンっていう音が聞こえてくるくらい、静まり返ります。
「――僕達、“引越”します!」
「引越ぃぃぃぃっ?!!!!」
はいっ、みなさんで御唱和、ありがとうございましたっ。




