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ヘタレの勇者に成りたがり<1>

「がぁっ!」


 トゥガイの(さけ)(ごえ)()こえたかと(おも)うと、(なに)かが地面(じめん)()ちたような(おと)がして、同時(どうじ)視界(しかい)がパッと(あか)るくなりました。

 ()んづけていた(あし)が、どかされたようです。

 一瞬(いっしゅん)、ヒュリアが(ころ)されたのかと(おも)いましたが、(むね)上下(じょうげ)(うご)いているので、まだ(いき)があるのが確認(かくにん)できました。


 だとすると(なに)()こったんでしょう?


 (まわ)りを見回(みまわ)すと、ヒュリアのすぐ(よこ)にトゥガイがいるのが()かります。

 なぜか(かれ)は、地面(じめん)座込(すわりこ)んで、左脚(ひだりあし)膝辺(ひざあた)りを両手(りょうて)()さえています。

 よく()ると、トゥガイの左膝(ひだりひざ)から(した)綺麗(きれい)()くなっているのでした。


 両手(りょうて)(ゆび)隙間(すきま)からは、(たき)のように()(なが)()ちています。

 ヒュリアの(あたま)(よこ)には、()られたトゥガイの(あし)()ちていました。


 一体(いったい)、これはどういうことなんでしょうか?

 (まった)意味(いみ)がわかりません。

 でもとりあえずヒュリアが(たす)かったんで()かったです。


団長(だんちょう)っ!」


 (よろい)(ひと)?と(たたか)っていた赤毛(あかげ)(おんな)が、トゥガイの(もと)駆寄(かけよ)ります。


 すでに根暗(ねくら)(おとこ)(よろい)(ひと)?に(なぐ)られて(うご)かなくなっていました。

 なので(いま)はスキンヘッドの(おとこ)一人(ひとり)相手(あいて)をしています。

 両者(りょうしゃ)とも大分(だいぶ)(つか)れてるみたいで、ふらふらですけど、戦闘(せんとう)をやめるつもりはないようです。


 赤毛(あかげ)(おんな)はトゥガイの(そば)にしゃがみこむと、(あし)治癒術(ちゆじゅつ)をかけて()()め、(つぎ)左肩(ひだりかた)(きず)(なお)しました。

 でも、切離(きりはな)された左脚(ひだりあし)(もと)(もど)すことは出来(でき)ないみたいですね。


副長(ふくちょう)皇女(おうじょ)にとどめをさせっ!」


 治癒術(ちゆじゅつ)出血(しゅっけつ)()まったトゥガイは、(おに)形相(ぎょうそう)(めい)じました。

 赤毛(あかげ)(おんな)立上(たちあ)がり、()っていた(じゅう)をヒュリアに()けます。


 (ぼく)はヒュリアを(まも)るために恃気(エスラル)集中(しゅうちゅう)させ、(おんな)炎弾(えんだん)()とうとしました。

 ところが、(おんな)撃鉄(げきてつ)()こしたとき、ふいに背後(はいご)から(あらわ)れた親指(おやゆび)人差(ひとさ)(ゆび)撃鉄(げきてつ)をつまんで、(うご)かなくしてしまったのです。


「――もう、やめとけ」


 (おんな)耳元(みみもと)(やさ)()(ささや)くアティシュリ。

 霊龍(れいりゅう)(さま)は、いつのまにか、すぐ(うし)ろに()ていたのでした。


「ひっ!」


 赤毛(あかげ)(おんな)(おどろ)きと恐怖(きょうふ)(かお)をひきつらせ、その()にヘタりこみました。 

 (じゅう)はアティシュリの(ゆび)(あいだ)取残(とりのこ)され、ぶらぶら()れています。


「こいつを(ころ)されると寝覚(ねざ)めが(わる)くなりそうでよ」


 アティシュリは、(こま)った(ふう)(あたま)()きます。

 なんか言訳(いいわけ)してるみたいです。


 (たす)けないとか()ったんで、()ずかしいんですよ、きっと。


今撤退(いまてったい)すんなら、無事(ぶじ)()がしてやる。だがな、まだ(たたか)うってんなら、今度(こんど)(おれ)相手(あいて)をすることになるぜ」


 そう()いながらアティシュリは、その()にいる(もの)(すべ)てを圧倒(あっとう)する、あの猛烈(もうれつ)殺気(さっき)(はな)ちました。


 赤毛(あかげ)(おんな)は、(すわ)りこんだまま(ふる)えだします。

 (はな)れたところで(たたか)っていたスキンヘッドの(おとこ)(よろい)(ひと)?は、身体(からだ)をビクッとさせて(うご)きを()めました。

 トゥガイは、(おお)きく()見開(みひら)き、(おどろ)いたような、賞賛(しょうさん)するような視線(しせん)をアティシュリに()けます。 

 そして溜息(ためいき)()いた(あと)苦笑(にがわら)いを()かべ、(あきら)めたように()いました。

 

副長(ふくちょう)撤退(てったい)する……」


 ()のせいかもしれませんけど、トゥガイの表情(ひょうじょう)は、どことなく(たの)しそうなんです。

 さっきまでの(おに)形相(ぎょうそう)(うそ)のようです。


「そんなっ! 団長(だんちょう)! ここまできてっ!」


 赤毛(あかげ)(おんな)反論(はんろん)しますが、トゥガイは(くび)()りました。


「これ以上(いじょう)無駄死(むだじ)になる。――(うえ)には(うえ)がいるということだ」


 アティシュリは愉快(ゆかい)そうにトゥガイと()()わせました。


「ふん、分別(ふんべつ)はあるみてぇだな。それでいい。()きてりゃ、また(うん)(めぐ)るってもんよ」


 アティシュリが赤毛(あかげ)(おんな)に、ポイっと(じゅう)()(わた)しました。

 (じゅう)取戻(とりもど)した(おんな)は、呆然(ぼうぜん)としてアティシュリとトゥガイを交互(こうご)(なが)めています。

 

 上手(うま)具合(ぐあい)休戦(きゅうせん)になったんで、すぐさまタヴシャンに()てもらいました。    

 首飾(くびかざ)りをヒュリアの傷口(きずぐち)()ててくれるように御願(おねが)いするためです。


 (はら)(きず)からは、かなりの出血(しゅっけつ)がありましたが、なんとか()()めることはできました。

 タヴシャンの見立(みた)てでは、相当(そうとう)深手(ふかで)で、もう(すこ)時間(じかん)(おそ)ければ(いのち)()かったかもしれないとのことです。

 治癒術(ちゆじゅつ)危機的状況(ききてきじょうきょう)(だっ)しましたが、まだ内臓(ないぞう)へのダメージが(のこ)っているので、ヒュリアの様子(ようす)をみながら、もう()三度(さんど)治癒術(ちゆじゅつ)をかけることになりそうです。


 『四冠(ケセド)以上(いじょう)治癒術(ちゆじゅつ)(たし)かに外傷(がいしょう)迅速(じんそく)治療(ちりょう)することができます。

 しかし治癒術(ちゆじゅつ)自己治癒(じこちゆ)にではなく、負傷者(ふしょうしゃ)治療(ちりょう)行使(こうし)する場合(ばあい)自分(じぶん)相手(あいて)英気(マナ)との兼合(かねあ)いも考慮(こうりょ)にいれなければなりません。


 (おも)外傷(がいしょう)一気(いっき)(なお)そうとすると身体(からだ)への負担(ふたん)(おお)きく、(ぎゃく)衰弱(すいじゃく)させてしまうことも多々(たた)あるからだそうです。

 なので重傷者(じゅうしょうしゃ)への治癒術(ちゆじゅつ)行使(こうし)は、何度(なんど)かに()けて(おこな)うのが理想(りそう)だってタヴシャンが(おし)えてくれました。


 一方(いっぽう)(ひだり)太腿(ふともも)はといえば、()()げたズボンの(あな)から、(えぐ)れたような(きず)(あか)いミミズばれの火傷(やけど)(ひろ)がっているのが確認(かくにん)できました。

 でも、クズムスで()ったおかげで、地面(じめん)()いてる(あな)(くら)べると、威力(いりょく)()ちてると(おも)います。

 応急的(おうきゅうてき)処置(しょち)はできましたが、こっちもやっぱり重傷(じゅうしょう)なので、治癒術(ちゆじゅつ)一度(いちど)(おこな)わず何度(なんど)かに()けて(ほどこ)すことになるでしょう。


 とりあえずの処置(しょち)()わりました。

 だけど、ヒュリアの意識(いしき)(もど)りません。

 (きず)(いた)みが(はげ)しかったせいかもしれないです。


 治療中(ちりょうちゅう)に、赤毛(あかげ)(おんな)がやってきて、ヒュリアを(にら)みつけながら、斬落(きりお)とされたトゥガイの左脚(ひだりあし)(ひろ)()げます。

 そして、ふて(くさ)気味(ぎみ)(こえ)張上(はりあ)げて仲間(なかま)()びました。


 すぐにスキンヘッドが、(よろい)(ひと)?との(たたか)いを放棄(ほうき)してやってきました。

 (よろい)(ひと)?は、(てき)突然(とつぜん)自分(じぶん)()()けて(はな)れていったので、呆気(あっけ)にとられた(かん)じでファイティングポーズを()きました。


 さらに(もり)(なか)からは、(くち)ひげをはやした商人風(しょうにんふう)(おとこ)(あらわ)れ、合流(ごうりゅう)します。

 戦闘中(せんとうちゅう)、ずっと(もり)(かく)れていたってことでしょうかね。

 (くち)ひげは、スキンヘッドと協力(きょうりょく)して両側(りょうがわ)からトゥガイに(かた)()し、立上(たちあ)がらせました。


 赤毛(あかげ)(おんな)斬落(きりお)とされた左脚(ひだりあし)大事(だいじ)そうに(かかえ)えトゥガイの(まえ)()ちます。

 そして(だま)ったまま(くや)しそうに(かれ)見上(みあ)げました。


「すまんな、不甲斐(ふがい)ない団長(だんちょう)で……」


 自嘲(じちょう)気味(ぎみ)(わら)うトゥガイ。

 赤毛(あかげ)(おんな)(ひとみ)から大粒(おおつぶ)(なみだ)(こぼ)れます。


不甲斐(ふがい)なくなんてありませんっ!」


 そう(さけ)んだ赤毛(あかげ)(おんな)は、トゥガイの(むね)飛込(とびこ)み、(かお)(うず)めます。

 トゥガイは自分(じぶん)(むね)()(おんな)(あたま)()をのせ、なだめていました。


 その()四人(よにん)身体(からだ)をひきずるように(もり)()かって(ある)()します。


 ヒュリアの(そば)(とお)るとき、(わず)かな(あいだ)でしたが、トゥガイは(あし)()め、(よこ)たわる彼女(かのじょ)()つめていました。


 そのとき(かれ)口元(くちもと)には何故(なぜ)か、かすかな微笑(ほほえ)みが()かんでいました。

 まるで、(なつ)かしい友人(ゆうじん)再会(さいかい)したときのような(やさ)しげな笑顔(えがお)でした。


 トゥガイ(たち)(もり)()えて(しばら)くすると、ヒュリアが()っすらと()(ひら)きました。

 

(たたか)いは……、どうなりましたか……? トゥガイ(たち)は……?」


(やつ)らは撤退(てったい)したぜ」


 アティシュリが(こた)えます。


撤退(てったい)……? アティシュリ(さま)の……、御加勢(ごかせい)が……、あったのでしょうか……?」


「いいや、(おれ)(やつ)らに(おど)しをかけただけだ。あいつの(あし)()って追払(おっぱら)ったのは、ツクモだ」


「ツクモが……?」


「いやいや、(ぼく)じゃないですって……」


 そのときふいに、(なに)かが(たお)れる(おと)がしました。

 ()てみると(よろい)(ひと)?が、仰向(あおむ)けで地面(じめん)(よこ)たわっています。

 限界(げんかい)()たんでしょうかね。


「おいっ、しっかりしろ!」


 アティシュリが駆寄(かけよ)り、(こえ)をかけました。

 タブシャンもついていったので、自動的(じどうてき)(ぼく)()れてかれるわけです。


 (そば)にいくと、()()るうちに(あお)(よろい)消失(しょうしつ)し、(なか)(ひと)姿(すがた)(あらわ)れました。 


 ()()じて気絶(きぜつ)してますけど、とても綺麗(きれい)(かお)つきをしているのがわかります。

 (おとこ)(おんな)かの判断(はんだん)がつきにくいですが、人間(にんげん)なのは(たし)かなようです。


 それと、右胸(みぎむね)(あた)りに(きず)があり、そこから大量(たいりょう)出血(しゅっけつ)していました。

 こんな状態(じょうたい)で、ずっと(たたか)ってたんですね。

 

「こいつには()きてぇことがある。治癒(ちゆ)(じゅつ)をかけて、『耶代(やしろ)』で養生(ようじょう)させてやってくれ、ツクモ」


随分(ずいぶん)、こいつに肩入(かたい)れしますよね」


 ヒュリアのことは見捨(みす)てようとしたくせに。


「ちっ、小煩(こうるせ)ぇことをほざくんじゃねぇ! さっさとやれっ!」


「へぇへぇ」


 今一(いまひと)納得(なっとく)できてませんが、とりあえず(よろい)(ひと)(むね)治癒(ちゆ)させます。

 出血(しゅっけつ)()まりましたが、こちらの(きず)大分深(だいぶふか)そうです。

 Dr.(ドクター)タヴシャンの見立(みた)てでは、(きず)(はい)まで(たっ)しているらしく、完治(かんち)するまでに時間(じかん)がかかるということでした。


 手当(てあて)てが()むと、アティシュリは気絶(きぜつ)したままの(よろい)(ひと)(かた)(かつ)ぎ、ヒュリアはタヴシャンに(ささ)えられ、(ぼく)はまたヒュリアの胸元(むなもと)(おさ)まります。


 こうしてドラゴンとダークエルフ、それに人間二人(にんげんふたり)地縛霊(じばくれい)(たち)は、どうにかこうにか安息(あんそく)()である『耶代(やしろ)』への帰還(きかん)()たしたのでした。


 そして(なが)(きび)しい一日(いちにち)は、()わりを()げ、(あたら)しい一日(いちにち)がやってくるわけです。


「――おはようございます。昨日(さくじつ)はご迷惑(めいわく)をおかけし、申訳(もうしわけ)ありません」

 

 自室(じしつ)から()てきたヒュリアは、(さき)にテーブルについていたアティシュリとタヴシャンに(あたま)()げました。

 

「よかったぁ、ヒュリアちゃん、()きられたのね」


「まあ、その程度(ていど)()んで(なに)よりだ」


「ご心配(しんぱい)をおかけしました」


 二人(ふたり)への挨拶(あいさつ)()えたヒュリアは、(ぼく)向直(むきなお)ります。


「ツクモ……、今日(きょう)こうして()きていられるのは(すべ)(きみ)のおかげだ……。本当(ほんとう)に、本当(ほんとう)に、感謝(かんしゃ)している……」


 ヒュリアは(ぼく)()をとって、そう()ってくれたんです。


 ()れちゃうけど、(うれ)しかったな……。


「いや、大袈裟(おおげさ)だって。(ぼく)は『耶宰(やさい)』なんだよ。『耶卿(やきょう)』を(たす)けるのは当然(とうぜん)のことじゃないか」


「そう謙遜(けんそん)するな、ツクモ。(わたし)(いま)(こころ)からこう(おも)ってるんだ。あのとき『耶卿(やきょう)』になって、本当(ほんとう)()かったと……」


 微笑(ほほえ)むヒュリア。

 (うつ)しく、(とおと)笑顔(えがお)


 ホント、()きてて()かった……。

 いやいや、()んでて()かった……。

 で、()いのか……?

 まあ、結果(けっか)オーライってやつで。

 

「――朝食(ちょしょく)()べられそう?」


「ああ、(いただ)くよ」


 『休養(きゅうよう)』で体力(たいりょく)回復(かいふく)したヒュリアは、まだ左脚(ひだりあし)()きずってますけど、(ある)くには支障(ししょう)はないようです。

 ただ、お(なか)(きず)(ほう)は、ちょい心配(しんぱい)です。

 まあ食欲(しょくよく)は、あるみたいだから大丈夫(だいじょうぶ)だとは(おも)いますけど。


 とりあえず『羅針眼(らしんがん)』で『耶卿(やきょう)』の状態(じょうたい)確認(かくにん)してみることにしました。

 するとパラメーターの(あたい)が68/100になってます。

 通常(つうじょう)よりは(ひく)いですけど、あれだけ(きず)()けてこの(あたい)なら、()しとすべきでしょうかね。


 朝食(ちょしょく)()え、お(ちゃ)()しながら、昨日(きのう)から()になってたことヒュリアに()いてみることにしました。 


「ヒュリア、昨日(きのう)、トゥガイのことを『三席(さんせき)勇者(ゆうしゃ)』って()ってたでしょ。あれってどういうことなの?」


「ああ、そのことか……」


 ヒュリアは帝国(ていこく)認定(にんてい)されてる『勇者(ゆうしゃ)』について説明(せつめい)してくれました。


 バシャルの勇者(ゆうしゃ)は、ゲームやラノベとかの物凄(ものすげ)(つえ)ぇあの勇者(ゆうしゃ)じゃなくて、一年(いちねん)一度(いちど)(ひら)かれる『勇者号(ゆうしゃごう)闘儀(とうぎ)』っていう大会(たいかい)騎士達(きしたち)(きそ)()い、優勝者(ゆうしょうしゃ)から第六位(だいろくい)までに(あた)えられる帝国独自(ていこくどくじ)称号(しょうごう)のことを()うんだそうです。


 そこで優勝(ゆうしょう)した騎士(きし)が『首席(しゅせき)勇者(ゆうしゃ)』になり、二位(にい)二席(にせき)三位(さんい)三席(せんせき)ってな具合(ぐあい)表彰(ひょうしょう)されて、最終的(さいしゅうてき)六位(ろくい)までが勇者(ゆうしゃ)名乗(なの)ることを(ゆる)されるのだとか。

 ちなみに帝国(ていこく)にいたときヒュリアは『二席勇者(にせきゆうしゃ)』で、あのトゥガイは『三席勇者(さんせきゆうしゃ)』だったというわけです。


「ヒュリアって勇者(ゆうしゃ)だったんだぁ。(すげ)ぇなぁ……」


(むかし)(はなし)だ、ツクモ。それ以上(いじょう)()わないでくれ」


 (みみ)(ふさ)いで(あか)くなってるヒュリア。

 かぁいい。


「じゃあ、首席(しゅせき)って(だれ)だったの?」


「イドリス・ジェサレットという(おとこ)だ。(わたし)より(みっ)年上(としうえ)で、平民上(へいみんあ)がりの騎士(きし)だった。16(さい)のとき(はじ)めて『勇者号(ゆうしゃごう)闘儀(とうぎ)』に出場(しゅつじょう)し、その破格(はかく)(つよ)さで当時(とうじ)首席(しゅせき)だったトゥガイを(やぶ)り、一躍(いちやく)首席勇者(しゅせきゆうしゃ)となった。(わたし)(やつ)三度(さんど)(たたか)ったが、一度(いちど)()つことはできていない……」


 ヒュリアでも、あのトゥガイでも()てなかった(おとこ)

 (うえ)には(うえ)がいるもんです。

 いやぁ、なんかちょっと()ってみたい()もしますねぇ。


(うわさ)では、(まえ)英雄(えいゆう)、シャファク・アクシュと(たたか)って勝利(しょうり)し、英雄(えいゆう)になったということだ」


 勇者(ゆうしゃ)になった騎士(きし)には英雄(えいゆう)(たたか)資格(しかく)(あた)えられるんだそうです。


 ちなみにバシャルでは勇者(ゆうしゃ)よりも英雄(えいゆう)(ほう)格上(かくうえ)みたいです。

 まあ辞書(じしょ)なんかで調(しら)べると英雄(えいゆう)(ほう)(えら)いように()かれてますから、当然(とうぜん)といえば当然(とうぜん)ですかね。


「そんなことよりもだ、あのトゥガイって(やつ)(あし)()ったのは、てめぇなんだよな、ツクモ?」


 アティシュリが、朝食分(ちょうしょくぶん)のキャラメルを()べながら()いてきました。


「いや、だから(ちが)いますって。(ぼく)は、あのときトゥガイに()んづけられてたんですから」


「じゃあ、ヒュリアがやったっのか?」


「それも無理(むり)でしょう。ヒュリアは(いた)みで朦朧(もうろう)としてたんだし……」


「じゃあ、(だれ)がやったってんだ?! ああん?!」


 ドラゴン(ねぇ)さんは自分(じぶん)理解(りかい)できないことがあると、すぐ不機嫌(ふきげん)になります。


(ぼく)は、てっきりアティシュリさんがやったと(おも)ってましたけど」


介入(かいにゅう)しねぇって()っただろが。(おれ)()づいたときには、あいつはもう()られちまってたんだよ」


「じゃあ、タヴシャンさん?」


「か(よわ)(わたし)に、そんなことできるわけないでしょう。(わたし)(あい)()にまとった華麗(かれい)なる錬金術師(れんきんじゅつし)なんだからぁ」


 キスで()をナメまわす加齢(かれい)なる錬金術師(れんきんじゅつし)でしょうに……。


 とにかく、あの()には(ぼく)らとトゥガイ達以外(たちいがい)には(だれ)もいなかったはずです。

 だったらトゥガイを()ったのは一体(いったい)(だれ)なんでしょう?

 なんか背筋(せすじ)が、ゾワっとなりますな。


「あいつが()られる寸前(すんぜん)一瞬(いっしゅん)だけだが異様(いよう)(ちから)周囲(しゅうい)()ちていたんだが……。ありゃ、(いま)までに(かん)じたことのないもんだった……」


 アティシュリは、(くび)をひねります。


「そうです、そうです。(わたし)(かん)じました。身体中(からだじゅう)総毛立(そうげだ)つっていうのかなぁ。かなり不気味(ぶきみ)なやつでしたよね」


 タヴシャンは、(まゆ)をひそめます。


「『耶代(やしろ)』がやったという可能性(かのうせい)は、ありませんか?」


 さすが(するど)いね、ヒュリア。


「――なるほど、ありえねぇ(はなし)じゃねぇ」


 (こま)かく何度(なんど)(うなず)くアティシュリ。


「この『耶代(やしろ)』は(なに)をしでかすかわからねぇからなぁ。(おれ)でさえ(おそ)ろしくなるときがある」


 アティシュリは(うたがわ)しげにダイニングを見回(みまわ)します。


「まあ、そうは()っても、全部(ぜんぶ)ヒュリアのためにやってることですし」


「そうよ、ヒュリアのためなら(おれ)から(ちから)(ぬす)むなんてことも平気(へいき)でやらかす。いつか(なに)もかも(うば)われるなんてことにならなきゃいいがな……」


「ハハハ、まさかぁ」


 でも……、ありえるかも……。


 ふいにアティシュリの部屋(へや)(とびら)(ひら)きました。

 全員(ぜんいん)視線(しせん)一斉(いっせい)(とびら)へと()かいます。

 (あら)われたのはもちろん(よろい)(ひと)で、(おび)えた表情(ひょうじょう)で、こっちを見返(みかえ)しています。


 少女(しょうじょ)のように綺麗(きれい)(かお)をしてますけど、男性(だんせい)だそうです。

 でも身体(からだ)(せん)(ほそ)くて全体的(ぜんたいてき)華奢(きゃしゃ)なんもんで、いわゆる“(おとこ)()”って()っても過言(かごん)ではないのです。

 (とし)十代後半(じゅうだいこうはん)から二十代前半(にじゅうだいぜんはん)てとこでしょうか。


「あ、あんのぉ……?」


「やあ、()きた? (きず)具合(ぐあい)はどうかな?」


「――ば、化物(ばけもの)ぉぉぉっ!」


 (ぼく)()づいた(おとこ)()は、(おどろ)いてヘタりこみました。


 おっ、(なつ)かしいな、このリアクション。

 ヒュリアと最初(さいしょ)出会(であ)ったときも、こうだったよねぇ。


「カカカカっ、ツクモ、せっかく(いのち)(すく)ってやったのに化物(ばけもの)だとよ」


 アティシュリの意地(いじ)(わる)笑顔(えがお)

 マジむかつく。


「いいですよ、(べつ)に。化物(ばけもの)自覚(じかく)ありますんで」


 (むね)()って、(ひら)(なお)っときます。


何威張(なにいば)ってんのよぉ」


 タヴシャンが(あき)れてます。 


大丈夫(だいじょぶ)かい?」


 (おとこ)()(そば)()き、()()そうとしました。


「おめ、(なに)もんだぁ、なして真黒(まっくろ)よぉ?!」


「まあまあ、とにかく(すわ)って。お(はな)しは、それからね」


 恐怖(きょうふ)嫌悪(けんお)入混(いりま)じったような表情(ひょうじょう)()かべる(おとこ)()

 もちろん差出(さしだ)した()()ることなく立上(たちあ)がり、()いていたアティシュリの(となり)(すわ)りました。


 ()(まえ)には加齢(かれい)なるキャバクラ(じょう)がいて、ウインクで御出迎(おでむか)えします。

 (おとこ)()は、ぎょっとした(あと)(かお)(あか)らめて(うつむ)いてしまいました。


「はい、どうぞぉ」


 (おとこ)()(まえ)にハーブティーを()しました。

 ティーカップと(ぼく)交互(こうご)(にら)みつける(おとこ)()


(どく)なんか(はい)ってないから、安心(あんしん)して()んで」


 でも、(おとこ)()(かた)表情(ひょうじょう)のまま、(うつく)しい(はな)模様(もよう)絵付(えつ)けされた(しろ)いカップを(にら)(つづ)けるのでした。


 信用(しんよう)されてませんな。


「おい、お(まえ)


 (おとこ)()(なな)(まえ)(すわ)るヒュリアが、(おもむろ)(くち)(ひら)きました。


「――えっ? あの、オ、オラんことだべか?」


 (おとこ)()(おび)えと敵意(てきい)()じった視線(しせん)をヒュリアに()けます。

 ヒュリアはそんな視線(しせん)なんて、どこ()(かぜ)で、自分(じぶん)のカップから悠然(ゆうぜん)とお(ちゃ)をすすりました。


名前(なまえ)は?」


「オラはジョルジ・エシャルメンってもんです」


「ジョルジか……。おい、ジョルジっ!」


「は、はいっ」


 (きゅう)にヒュリアに怒鳴(どな)られてジョルジの背筋(せすじ)がピンとなります。


「お(まえ)(むね)(きず)(なお)し、(いのち)(たす)けたのは、お(まえ)化物(ばけもの)(ののし)ったこのツクモだ。(たし)かに()()真黒(まっくろ)(おそ)ろしく、かなり不気味(ぶきみ)で、(すこ)焦臭(こげくさい)いが、()(やさ)しい、ひょうきん(もの)だ……」


 ズーン……。

 真黒(まっくろ)で……、(おそ)ろしい……。


「もし、(ちゃ)(どく)でもいれて(ころ)すつもりなら、(きず)(なお)したうえ、清潔(せいけつ)寝台(しんだい)()かせたりするか?!」


「そ、それは……」


相手(あいて)姿(すがた)がどうであれ、(たす)けてくれた(もの)(たい)して感謝(かんしゃ)()べるのは、(ひと)としての道理(どうり)だとは(おも)わんのか?」


「――お、おっしゃるどおりです……。(もう)(わけ)ねぇこって……」


 ズーン……。

 不気味(ぶきみ)で……、焦臭(こげくさ)い……。


(わたし)(あやま)(まえ)に、まずツクモに謝意(しゃい)(しめ)すのが(さき)だろう」


「そ、そうでがんすな」


 ズーン……。

 不気味(ぶきみ)で……、真黒(まっくろ)で……。

 

「あ、あのっ、ツ、ツクモさん……」


 ズーン……。

 焦臭(こげくさ)い……。


「さきほどは、(いのち)恩人(おんじん)に、ご無礼(ぶれい)なこど()っちまって、ごめんすてけさい。そいとぉ、オラん(いのち)ば、お(すく)いくださり、ありがどがんした」


 起立(きりつ)したジョルジが深々(ふかぶか)(あたま)()げてます。

 ガックシの彼方(かなた)()ばされていた(ぼく)は、それに()づいて、なんとか現実世界(げんじつせかい)生還(せいかん)することができたのでした。


「へっ?! は、はあ、こりゃ、どういたしまして」


 (ぼく)とジョルジは、しばらくお見合(みあ)いしてしまい、()まずいバイブスがただよいます。


(あい)(たし)かめ()ってるとこ(わる)いんだがよ。ジョルジ、お(めぇ)のあの(ちから)について、(くわ)しく(はな)しちゃくれねぇか」


 いつも一言余計(ひとことよけい)なのよね、このドラゴン。

 ここに(あい)は、あるんかっ!?

 

「あ、あの(ちから)……。やっぱりオラ、また、やずもねえごどすてしまったべか」


 やずもねえごどって……。

 ビール(だい)ジョッキぐらい、なまってますねぇ。

 ジョルジは(つか)()った(かん)じで(こし)をおろし、うなだれます。


「オ、オラ、そんごとで、隠者(いんじゃ)(さま)(たす)けて()しぐてぇ……」


隠者様(いんじゃさま)だとぉ?!」


「んでがす……。こだどごまで()たんは、そんためでがんす。ここらに人喰(ひとく)(もり)っちゅう、おっかねぇ(もり)さあっで、そごには()屋敷(やけやしき)っちゅう、らずもねぇ(ちから)()った隠者様(いんじゃさま)のおすまいさ()るっちゅう(はなし)でぇ……」


 僕達(ぼくたち)(かお)見合(みあ)わせました。

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