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彼氏彼女の自由<4>

「ヒュリア、大丈夫(だいじょうぶ)?」


 やっとヒュリアと(はなし)をすることができそうです。


「ツクモ……、(きみ)なのか……?」


 ヒュリアは()(まる)くして(にき)っている首飾(くびかざ)りを見下(みお)ろしてます。


「うん、(いま)この首飾(くびかざ)りの(なか)にいるんだ」


「じゃあ、この結界(けっかい)(きみ)のものなんだね?」


「そうだよ。――そんなことより、脇腹(わきばら)(かた)(きず)(ぼく)()てて」


 (うなず)いたヒュリアは、まず脇腹(わきばら)に、(つぎ)(かた)に『霊器(れいき)』を()てていきました。

 もちろん(きず)()てられる(たび)に、治癒(ちゆ)(じゅつ)発動(はつどう)させて、両方(りょうほう)とも、しっかり治療(ちりょう)させていただきました。


(ほか)にキツそうなところある?」


「いや、あとは(かす)傷程度(きずていど)だ。――ありがとう、ツクモ、(たす)かったよ」

 

 ほんの(すこ)しだけ微笑(ほほえ)んでくれたヒュリア。

 でもまだ(いき)(あら)いです。

 (きず)(なお)せても、体力(たいりょく)回復(かいふく)できないところが(くや)しいです。


結界(けっかい)治癒(ちゆ)……。断迪(だんじゃく)(けい)()けた貴女(あなた)がどうして魔導(まどう)使(つか)えるのだ……?」


 頬傷(ほおきず)(おとこ)(まゆ)をひそめてヒュリアをみつめています。


「トゥガイ。(いま)(わたし)は、(たし)かに以前(いぜん)(わたし)より(よわ)い。だが()わりに心強(こころづよ)味方(みかた)()たのだ」

 

 この頬傷(ほおきず)(おこと)は、トゥガイっていう名前(なまえ)みたいですね。

 ヒュリアのことを()ってるってことは、やっぱり帝国騎士(ていこくきし)なんでしょうか。


 ヒュリアは(ほこ)らしげに微笑(ほほえ)み、クズムスを(さや)(おさ)めると、(ぼく)(くび)()けながら立上(たちあ)がりました。

 ただ途中(とちゅう)、トゥガイに()こえないように(ささや)きます。


「ツクモ、(わたし)がクズムスに()をかけたら、結界(けっかい)解除(かいじょ)してくれ」


「わかった」


 トゥガイは忌々(いまいま)しそうに(つぶや)きます。

 

「まさか、その首飾(くびかざ)りの(ちから)か……?」


 あたかもその言葉(ことば)(うなが)されたかのように、ヒュリアは自然(しぜん)(かん)じで(あたま)()げ、(ぼく)()ます。

 しかし同時(どうじ)彼女(かのじょ)()がクズムスの(つか)にかかりました。

 解除(かいじょ)合図(あいず)です。


 結界(けっかい)()えた途端(とたん)、ヒュリアは超高速(ちょうこうそく)抜刀技(ばっとうわざ)(はな)ちました。


 トゥガイは咄嗟(とっさ)(うし)ろへ跳躍(ちょうやく)しましたが、クズムスの(やいば)(わず)かに(はや)(かれ)右太腿(みぎふともも)切裂(きりさ)きました。

 後方(こうほう)着地(ちゃくち)したトゥガイの太腿(ふともも)から、かなりの()(あふ)()しています。


 でも、()られたことなど全然気(ぜんぜんき)にしてないかの(よう)にトゥガイは、ヒュリアと(ぼく)()ながらニヤリと(わら)うのでした。


 (たか)みたいに(するど)碧眼(へきがん)

 面長(おもなが)輪郭(りんかく)

 (すじ)(とお)った(はな)

 (ひろ)めで(うす)(くちびる)


 (ほほ)(きず)さえなければ、欧州貴族(おうしゅうきぞく)肖像画(しょうぞうが)みたいに(ひん)()いお(かお)をしてらっしゃいます。


 こういう(ほり)(ふか)(かお)(うらや)ましいわぁ。

 (ぼく)もこんなんだったら、人生違(じんせいちが)ってたんだろうなぁ。

 

「ツクモ、この(おとこ)はトゥガイ・デスタン。『三冠(ビナル)』の雷魔導(らいまどう)使(つか)い、(わたし)出奔(しゅっぽん)した当時(とうじ)は『三席(さんせき)勇者(ゆうしゃ)』の称号(しょうごう)()っていた。帝国(ていこく)でも指折(ゆびお)りの騎士(きし)一人(ひとり)だ」


 ヒュリアは、クズムスを中段(ちゅうだん)(かま)えながら説明(せつめい)してくれました。


 やっぱ帝国騎士(ていこくきし)なのね。

 でも三席(さんせき)勇者(ゆうしゃ)って、どゆこと?

 この(ひと)勇者(ゆうしゃ)なわけ?


 だとしたらあの(つよ)さも納得(なっとく)だぁ。

 凶悪(きょうあく)魔王(まおう)(たお)すために()まれる人間族(にんげんぞく)最終兵器(さいしゅうへいき)勇者(ゆうしゃ)

 バシャルにも、そんな正義(せいぎ)味方(みかた)がいるってこと?。


 しかも雷魔導(らいまどう)使(つか)うんでしょ。

 アルティメットスキルとかあんのかなぁ?

 (てき)だけど、かっけぇ……。

 炎摩導(えんまどう)もいいけど、雷魔導(らいまどう)()てがたいよねぇ。


 でも、このトゥガイを勇者(ゆうしゃ)って(みと)めると、ヒュリアはヴィランってことになっちゃうわけで……。

 それは(みと)めたくないというかぁ、納得(なっとく)できないというかぁ。


(やつ)はこれまで、(わたし)忖度(そんたく)し、雷魔導(らいまどう)使(つか)ってこなかったが、この(さき)使(つか)ってくるに(ちが)いない」


 ヒュリアに()わせて雷魔導(らいまどう)封印(ふういん)してたんだ。

 男気(おとこぎ)あるねぇ。

 顔怖(かおこわ)いけど、()()いヤツなのかも。

 

「『三冠(ビナル)』の魔導師(まどうし)かぁ。――あっ! じゃあ、クズムスだと対応(たいおう)できないんじゃないの?」


「ああ、魔導(まどう)効果(こうか)多少弱(たしょうよわ)める程度(ていど)のことしかできないな」


「だったら(いま)のうちに、こっちも戦力(せんりょく)()げとこうよ。――(じつ)は、『沾漸(せんぜん)』ていう儀方(ぎほう)使(つか)えるようになったんだ。だから、クズムスに(ほのお)(ちから)をつけられるよ」


 トゥガイに()こえないように(ささ)やきます。


残念(ざんねん)ながら、クズムスに『四冠(ケセド)』の『沾漸(せんぜん)』は使(つか)えないんだ。この(けん)は、『沾漸(せんぜん)』で付与(ふよ)される自分自身(じぶんじしん)への効果(こうか)()してしまうんだよ」


 なるほど、自分(じぶん)有利(ゆうり)魔導(まどう)()()てちゃうんですね。


「――魔導(まどう)使(つか)えるというなら、もう遠慮(えんりょ)する必要(ひつよう)はありませんな」


 トゥガイはそう()うと、(ぼく)らに(たい)して右手(みぎて)(けん)()けました。


「やはりこれからは物理攻撃(ぶつりこうげき)だけでなく、魔導攻撃(まどうこうげき)仕掛(しか)けてくるつもりだ」


 眉間(みけん)(しわ)()せるヒュリア。


雷弾(らいだん)()ってくるってこと?」


雷弾(らいだん)は、それほど(おそ)れる必要(ひつよう)はない。厄介(やっかい)なのは『靂罨(れきえん)』という(わざ)だ」


 トゥガイの(けん)刃先(はさき)恃気(エスラル)(あお)(ひかり)(あつ)まり(はじ)めます。


「『靂罨(れきえん)』? どんな(わざ)なの?」


効果範囲(こうかはんい)攻撃(こうげき)(りょく)術者(じゅつしゃ)によるが、術者(じゅつしゃ)恃気(エスラル)把握(はあく)できる空間全(くうかんすべ)てに雷撃(らいげき)(はな)つというものだ。効果範囲内(こうかはんいない)にいる(てき)何百(なんびゃく)もの雷撃(らいげき)にさらされ、()けた肉片(にくへん)となって()ぬことになる。ただし、至近距離(しきんきょり)にいる(てき)には使(つか)えないという難点(なんてん)もあるがな」


 それ範囲攻撃(はんいこうげき)ってやつじゃないですか?

 かなりまずい()がする……。


()る!」 


 ヒュリアが唐突(とうとつ)走出(はしりだ)します。

 それと同時(どうじ)にトゥガイの(けん)から紺色(こんいろ)(ひか)雷弾(らいだん)(はな)たれ、さっきまでヒュリアがいた場所(ばしょ)直撃(ちょくげき)しました。

 雷弾(らいだん)爆発(ばくはつ)し、地面(じめん)にサッカーボールぐらいの(あな)()けます。


 速度(そくど)方向(ほうこう)瞬間的(しゅんかんてき)何度(なんど)()えながら(はし)るヒュリア。


 トゥガイは、ヒュリアを(ねら)って連続(れんぞく)雷弾(らいだん)発射(はっしゃ)しますが、彼女(かのじょ)素早(すばや)変化(へんか)をとらえきれていません。

 (はず)れた雷弾(らいだん)は、地面(じめん)やヤルタクチュの(みき)にあたって爆発(ばくはつ)します。

 ヤルタクチュも、いい迷惑(めいわく)でしょう。


「どう(たたか)うつもり? (なん)作戦(さくせん)あんの?」


「『靂罨(れきえん)』を使(つか)うには(おお)くの恃気(エスラル)必要(ひつよう)だ。なので充典(ドルヨル)()かせない。そこが(ねら)()だ。充典(ドルヨル)(ちゅう)(うご)きがにぶり、()魔導(まどう)使(つか)えなくなるんだ。『靂罨(れきえん)』のための充典(ドルヨル)危険信号(きけんしんごう)でもあり、ヤツを(たお)好機(こうき)でもあるというわけだ」


「なるほど」


 雷弾(らいだん)()けながら、説明(せつめい)するヒュリア。

 ホント、器用(きよう)です。


「だから『靂罨(れきえん)』の発動中(はつどうちゅう)結界(けっかい)()り、ヤツが充典(ドルヨル)をしているときは結界(けっかい)解除(かいじょ)するという操作(そうさ)をお(ねが)いできるかな。結界(けっかい)があると、こちらからも攻撃(こうげき)ができないからね」


「でも(ぼく)には、『靂罨(れきえん)』が何時発動(いつはつどう)するかがわからないんだけど」


「ならばその指示(しじ)(わたし)()そう。ツクモは指示(しじ)()えわせて結界(けっかい)発動(はつどう)解除(かいじょ)素早(すばや)切替(きりか)えてくれ」


「それってヒュリアと(ぼく)呼吸(こきゅう)()わせるってことだね?」


「そうだ」


 ぐふふふふっ。

 つまり、これこそ恋愛(れんあい)ラノベの定番(ていばん)、『二人(ふたり)(はじ)めての共同作業(きょうどうさぎょう)』シチュってわけです。

 まあ、ケーキ入刀(にゅうとう)じゃなくて、クズムス抜刀(ばっとう)ですけどね……。

 

 おっと、ふざけてる場合(ばあい)じゃない。

 ヒュリアに()っとくことがあるんだった。


「ヒュリア、肝心(かんじん)なことを()(わす)れてた。『耶代(やしろ)』の結界(けっかい)には限界(げんかい)があるんだよ。もし限界(げんかい)()えて、攻撃(こうげき)されたら消滅(しょうめつ)しちゃうんだけど」


「ああ、わかってる。結界(けっかい)とはそういうものだ。だからそうなる(まえ)に、トゥガイを(たお)さなければならない。――『耶代(やしろ)』の結界(けっかい)は、どの程度(ていど)消滅(しょうめつ)するか()かるかな?」


「うーん、(むずか)しいなぁ。アティシュリさんに(なぐ)られたときは、3(ぱつ)終了(しゅうりょう)するところだったんだよねぇ。まあ霊龍(れいりゅう)(さま)本気(ほんき)じゃなかっただろうけどさ」


本気(ほんき)でなかったとしても、アティシュリ(さま)攻撃(こうげき)に3(かい)()えるなら、トゥガイの『靂罨(れきえん)』には(すく)なくとも、その(ばい)()えられるかもしれん。(おおよ)その耐久性(たいきゅうせい)試算(しさん)できるなら、結界(けっかい)(たよ)りに(やつ)恃気(エスラル)()れるまで逃回(にげまわ)るという()もある。しかし確信(かくしん)()てない現状(げんじょう)では、ツクモの結界(けっかい)(さき)限界(げんかい)(むか)えるという可能性(かのうせい)否定(ひてい)できない。そうなった場合(ばあい)、こちらは窮地(きゅうち)()つことになる。だとすればやはり、多少無理(たしょうむり)をしても、結界(けっかい)使(つか)えるうちにトゥガイを(たお)(ほう)最善(さいぜん)(おも)えるが、ツクモはどう()る?」


(ぼく)(たお)しにいった(ほう)()()がするな」


「そうか、ならば方針(ほうしん)()まった。だがかなり(きび)しい(たたか)いになるだろう。覚悟(かくご)してくれ」


「ラジャー」


「ラジャー? (なん)だそれは?」


「ニホンノトウキョウで、了解(りょうかい)って意味(いみ)だよ」


 (いま)だって、この(さき)だって、いつでも(きみ)(まも)って(たたか)うさ。

 そう()いたかったんたけど、()れちゃって、ラジャーでごまかしちゃう(ぼく)……。

 ほんとヘタレだよなぁ……。


 いつのまにか雷弾(らいだん)での攻撃(こうげき)()んでいました。

 ()わりにトゥガイの全身(ぜんしん)(すこ)しずつ恃気(エスラル)(あお)(ひかり)(つつ)まれていきます。


 ヒュリアはそれを察知(さっち)すると、数秒間(すうびょうかん)()()じ、(うご)きを()めました。

 するとトゥガイの(あお)とは対照的(たいしょうてき)にクズムスが、わずかですが薄赤(うすあか)(ひか)(はじ)めます。


 (なん)(じゅつ)()きたかったんですけど、そんな(ひま)はありませんでした。

 ()(ひら)いたヒュリアから早速(さっそく)指示(しじ)()んできたからです。


「よし、解除(かいじょ)してくれっ!」


 すぐさま結界(けっかい)()きます。

 ヒュリアは、疾風(はやて)のように駈寄(かけよ)り、トゥガイの直前(ちょくぜん)でジャンプしてクズムスをその頭上(ずじょう)()りおろしました。


 トゥガイは(みぎ)(けん)でクズムスを()け、(ひだり)(けん)反撃(はんげき)してきました。

 ヒュリアは、()りおろした(いきお)いに()って、トゥガイの頭上(ずじょう)空中回転(くうちゅうかいてん)して(けん)(かわ)すと、その背後(はいご)着地(ちゃくち)します。

 そして、180度振返(どふりかえ)りながらトゥガイの背中(せなか)(ひだり)から(みぎ)へ、クズムスで()(はら)いにいったのです。


 気配(けはい)察知(さっち)したトゥガイは、ヒュリアに()わせて左回(ひだりまわ)りに振返(ふりかえ)り、(みぎ)(けん)でクズムスを受止(うけと)め、(みぎ)(まわ)()りをヒュリアの左肩口(ひだりかたぐち)(たた)きつけました。


 右横(みぎよこ)()()ばされるヒュリア。

 かなり(はな)れた場所(ばしょ)まで地面(じめん)(ころ)がされ、どうにかこうにか立上(たちあ)がることが出来(でき)ました。

 やっぱ格闘戦(かくとうせん)では、ガタイの()(ほう)()があります。


大丈夫(だいじょぶ)なの、ヒュリア?」


問題(もんだい)ない。()るぞっ! ――発動(はつどう)!」


 指示(しじ)()びます。

 (いそ)いで結界(けっかい)発動(はつどう)なのです。 


 その途端(とたん)視界全体(しかいぜんたい)紺色(こんいろ)稲妻(いなづま)(おお)いました。

 稲妻(いなづま)は、結界(けっかい)表面(ひょうめん)周囲(しゅうい)地面(じめん)()ち、爆発(ばくはつ)連続(れんぞく)して()こり、その影響(えいきょう)地面(じめん)(ふる)えます。


「これが『靂罨(れきえん)』だ……」


 ヒュリアは、身体(からだ)緊張(きんちょう)(ほぐ)すため、(おお)きく(いき)()きました。

 もう(すこ)(おく)れていたら、あの稲妻(いなづま)でズタボロになっていたかもしれません。


 ホント、なんちゅう攻撃(こうげき)だよ!

 地面(じめん)(あな)だらけになってんじゃん!


 稲妻尻尾(いなづましっぽ)黄色(きいろ)魔獣(まじゅう)(はな)つ10(まん)ボルトなんて()じゃないです。

 範囲攻撃(はんいこうげき)って自分(じぶん)使(つか)うときはスカっとするけど、相手(あいて)にやられるとマジ(へこ)むんだよねぇ……。


 おっと、つまらんことを(かんが)えている(ひま)はありません。

 トゥガイの身体(からだ)がまた(あお)(ひか)(はじ)めました。

 どうやら『靂罨(れきえん)』はトゥガイの全身(ぜんしん)から(はな)たれているみたいですね。 


「また充典(ドルヨル)(はい)った! ――解除(かいじょ)!」


 解除(かいじょ)同時(どうじ)にヒュリアがしかけます。

 しかしトゥガイは迎撃(げいげき)するだけで深追(ふかお)いせず、むしろヒュリアから距離(きょり)をとろうとします。

 ヒュリアは極力離(きょくりょくはな)れないようにしますが、相手(あいて)相手(あいて)だけに簡単(かんたん)にはいきません。


 トゥガイに上手(うま)立回(たちまわ)られ、間合(まあ)いが(ひら)きます。

 すると、紺色(こんいろ)稲妻(いなづま)(あらし)(おそ)いかかってくるわけです。


 でも、ヒュリアはなぜかトゥガイが『靂罨(れきえん)』を(はな)つタイミングを察知(さっち)できるみたいで、いつもギリギリセーフになるのでした。

 動体視力(どうたいしりょく)だけでなく、こういう察知力(さっちりょく)もヒュリアが高速(こうそく)攻撃(こうげき)についていける理由(りゆう)(ひと)つなんでしょう。


 そんなこんなで、いつのまにか五回(ごかい)もこの攻防(こうぼう)をくり(かえ)破目(はめ)になりました。

 両者(りょうしゃ)一歩(いっぽ)(ゆず)らずって(かん)じです。

 

 ヒュリアの(いき)がまた()がってきています。

 トゥガイの恃気(エスラル)がつきる(まえ)に、ヒュリアの(ほう)(たお)れないといいんですが。


 さらに(わる)いことは(つづ)きます。

 羅針眼(らしんがん)立上(たちあ)がり、報告(ほうこく)しました。


結界(けっかい)損耗率(そんもうりつ)が8(わり)()えました。損耗率(そんもうりつ)が9(わり)()えると、結界(けっかい)維持(いじ)できなくなります。外圧(がいあつ)により結界(けっかい)消滅(しょうめつ)すると再発動(さいはつどう)に、1時間以上(じかんいじょう)待機時間(たいきじかん)必要(ひつよう)となります』


 でたでた、この警告文(けいこくぶん)

 こりゃマジヤバいぞ。 


「ヒュリア、とうとう限界(げんかい)きたよ。もう一度(いちど)靂罨(れきえん)』を()けたら、結界(けっかい)消滅(しょうめつ)しちゃうよ」


「そうか……、だが、もう(やつ)も……、『靂罨(れきえん)』は……、使(つか)えないだろう……」


 (いき)()がってるけど、ヒュリアは冷静(れいせい)にトゥガイを観察(かんさつ)していました。

 (たし)かに(いま)までとは(ちが)い、トゥガイの(かた)上下(じょうげ)()れ、しかも身体(からだ)(あお)(ひか)っていません。

 (てき)相当疲(そうとうつか)れているみたいです。


(いま)が、最大(さいだい)好機(こうき)だ! ()くぞ、ツクモ!」


「ラジャー!」


 ヒュリアは最後(さいご)(ちから)振絞(ふりしぼ)全力(ぜんりょく)でトゥガイに()っこんでいきます。

 でもその途中(とちゅう)彼女(かのじょ)予想(よそう)(はん)し、トゥガイの身体(からだ)が、また(あお)(かがや)きだしたのでした。


「また充典(ドルヨル)してないっ?!」


「これで()わらせるっ!」


 だよねっ。

 これで決着(けっちゃく)つけないと、また『靂罨(れきえん)』がくる。

 それで(おわ)りならいいけど、もし、さらにもう一度(いちど)、『靂罨(れきえん)』を使(つか)われたら……。


 ――それを(ふせ)方法(ほうほう)はありません。 


 ヒュリアは、トゥガイの左側(ひだりがわ)(まわ)()み、攻勢(こうせい)をかけます。

 トゥガイは、ヒュリアの攻撃(こうげき)受流(うけなが)そうとしますが、(うご)きにキレがありません。

 何度(なんど)(けん)()()わせているうちに、とうとうトゥガイの(ひだり)(かた)にクズムスが突刺(つきさ)さります。

 ヒュリアは、そのままクズムスを心臓(しんぞう)()けて斬下(きりお)ろそうとしました。


 トゥガイは、左手(ひだりて)(けん)()て、それ以上(いじょう)(すす)まないようにクズムスの(やいば)素手(すで)(つか)み、押上(おしあ)げてきました。

 クズムスを(にぎ)るトゥガイの左手(ひだり)から()がしたたり()ちます。


 斬下(きりお)ろす(ちから)押上(おしあ)げる(ちから)拮抗(きっこう)し、クズムスの(やいば)肩甲骨(けんこうこつ)(あた)りで完全(かんぜん)(うご)きを()めてしまいます。


 (らち)()かず、クズムスを引抜(ひきぬ)こうとするヒュリア。

 しかしトゥガイは一層強(いっそうつよ)くクズムスを(にぎ)りしめます。

 ()から(なが)れる()(りょう)が、どんどん()えていきます。


 おそらくこのときトゥガイは、ヒュリアの意識(いしき)大部分(だいぶぶん)がクズムスに集中(しゅうちゅう)するように誘導(ゆうどう)したんだと(おも)います。

 そしてその目論見(もくろみ)は、まんまと成功(せいこう)しました。


 クズムスに意識(いしき)をとられているヒュリアに(しょう)じた一瞬(いっしゅん)(すき)

 トゥガイはそれを見逃(みのが)さず、右手(みぎて)(けん)をヒュリアの腹部(ふくぶ)突入(つきい)れたのです。


「ぐふっ!」


 ヒュリアから(こえ)がもれます。

 (けん)引抜(ひきぬ)かれると、彼女(かのじょ)腹部(ふくぶ)から()噴出(ふきだ)しました。


「この野郎(やろう)ぉぉっ!」


 (ぼく)(いか)りにまかせ、(おも)わず炎弾(えんだん)発射(はっしゃ)していました。

 炎弾(えんだん)はトゥガイの(むね)()たり、その上半身(じょうはんし)(ほのお)(つつ)みます。

 しかし何故(なぜ)(ほのお)は、トゥガイの表面(ひょうめん)(かる)()めただけで、()えていってしまいました。


 やっぱり『四冠(ケセド)』よりも『三冠(ビナル)』の(ほう)格上(かくうえ)ってことでしょうかね。


 ただ、一時的(いちじてき)とはいえ(ほのお)(つつ)んだことで、トゥガイにクズムスを手放(てばな)させることに成功(せいこう)したのです。

 ヒュリアはこの()(のが)さず、トゥガイを()ってクズムスを引抜(ひきぬ)きます。

 しかし、その(いきお)いで(うし)ろに(たお)れ、地面(じめん)(ころ)がり、また二人(ふたり)(あいだ)距離(きょり)(ひら)いてしまったのでした。


 ヒュリアは(はら)()さえ、なんとか立上(たちあ)がろうとしますが(ちから)(はい)らないようです。

 腹部(ふくぶ)()()まらず、顔色(かおいろ)がどんどん青白(あおじろ)くなってます。

 そんな(くる)しい(いき)(なか)、ヒュリアは()げました。


「は、つ、(どう)だ……」


 ()われるまま(いそ)いで結界(けっかい)発動(はつどう)させました。

 その途端(とたん)、やはりこれまでと同様(どうよう)紺色(こんいろ)稲妻(いなづま)結界(けっかい)周囲(しゅうい)をかけめぐったのです。


 あれだけの手傷(てきず)()わせたんだから、もう『靂罨(れきえん)無理(むり)だろうと(おも)ってたんですけど。

 (あぶ)ないところでした。

 (おお)ケガを()っていても(おとろ)えないヒュリアの察知能力(さっちのうりょく)(すご)いです。

 

 まあとにかく、今回(こんかい)もギリギリセーフってことで、さっさとお(おなか)(きず)(なお)しちゃいましょう。

 ところが、ヒュリアにそう()おうとしたとき、とんでもない事態(じたい)()こります。

 なんと『靂罨(れきえん)』が発動(はつどう)してる最中(さなか)結界(けっかい)消失(しょうしつ)してしまったのです。

 あたふたしてると、チャイム(おん)とともに立上(たちあ)がった羅針眼(らしんがん)から残酷(ざんこく)報告(ほうこく)(はい)りました。


損耗率(そんもうりつ)が9(わり)()えたため、結界(けっかい)一時的(いちじてき)解除(かいじょ)されました。これより(やく)1時間(じかん)結界(けっかい)使用(しよう)ができません』


 いや、そりゃないでしょ、『耶代(やしろ)』さん!

 『靂罨(れきえん)』まだ()わってないじゃん! 

 ここは、もうちょいガンバルとこでしょうが!


 『靂罨(れきえん)』の効果(こうか)消失(しょうしつ)しかかっていましたが、まだ幾筋(いくすじ)かの雷撃(らいげき)(のこ)っていました。

 そいつらは(かず)(すく)ないけれど、まだ地面(じめん)破裂(はれつ)させ、(あな)()ける(ちから)保持(ほじ)しているのです。


 そして最後(さいご)(わる)あがきのように、一筋(ひとすじ)雷撃(らいげき)最悪(さいあく)事態(じたい)引起(ひきお)こします。

 無防備(むぼうび)のまま地面(じめん)(よこ)たわるヒュリアに、(おそ)いかかったのです。


 ヒュリアはこれに反応(はんのう)し、まさに神業(かみわざ)とも()うべき(うご)きで、雷撃(らいげき)(たた)()りました。


 『四冠(ケセド)』の魔導(まどう)ならばクズムスが無効化(むこうか)していたでしょう。

 しかし『三冠(ビナル)』の『靂罨(れきえん)』では、その(ちから)(わず)かに(よわ)めることしかできません。

 雷撃(らいげき)はそのまま、ヒュリアの左太腿(ひだりふともも)直撃(ちょくげき)し、そして破裂(はれつ)したのです。

 

 (よわ)まったとはいえ生身(なまみ)身体(からだ)雷撃(らいげき)()えられるわけがありません。

 ヒュリアの絶叫(ぜっきょう)とともに太腿(ふともも)肉片(にくへん)()周囲(しゅうい)飛散(とびち)りました。


「ヒュリアぁぁっ!!!」


 ヒュリアは太腿(ふともも)()さえ、()()いしばり、左右(さゆう)何度(なんど)(ころ)がっています。

 腹部(ふくぶ)(きず)(あい)まって、きっと(おそ)ろしいほどの激痛(げきつう)彼女(かのじょ)(おそ)っているだと(おも)います。


 そんな(なか)、トゥガイが、ゆっくりと(ちか)づいてきました。


「ヒュリア、(ぼく)(あし)()ててっ! (はや)くっ! トゥガイが()る!」


 ヒュリアは(ふる)える()で『霊器(れいき)』を(にぎ)り、(くび)から(はず)そうとしました。

 しかし(すで)にすぐ(そば)まで()ていたトゥガイは左脚(ひだりあし)()げると、ヒュリアの(むね)(うえ)で『霊器(れいき)』ごと彼女(かのじょ)()()みつけたのです。


 (ぼく)はトゥガイの(あし)(うら)視界(しかい)(うば)われ、(なに)()えなくなりました。


「もう『靂罨(れきえん)』は、必要(ひつよう)はありませんな。――ご安心(あんしん)を、皇女(おうじよ)。これ以上苦(いじょうくる)しまぬよう一撃(いちげき)()わらせます」


 ゾッとするほど(しず)かなトゥガイの(こえ)


 ――ヒュリアが(ころ)される。


 ()動転(どうてん)し、(あたま)真白(まっしろ)になりました。


 だから、(あと)から(おも)(かえ)しても、このときの記憶(きおく)曖昧(あいまい)なんです。

 ただ、ヒュリアを(たす)けなきゃっていう(おも)いが爆発(ばくはつ)して、(こころ)(なか)から(なに)かが噴出(ふきだ)したような()がしたことは(おぼ)えています。

 それと、(ぼく)(まわ)りで(なに)かが“ズレ”たことも……。

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