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青の魔人<3>

 そこから南東方向(なんとうほうこう)(すす)むこと二日(ふつか)


 目前(がんぜん)鬱蒼(うっそう)とした森林地帯(しんりんちたい)姿(すがた)(あらわ)(はじ)める。

 ()(たか)針葉樹(しんようじゅ)立並(たちなら)び、(やま)頂上(ちょうじょう)のまで(つづ)いているのだ。


 (ふか)(くら)(もり)沿()って(すす)むと、突然右手(とつぜんみぎて)(もり)(なか)()かう横道(よこみち)(あら)われる。

 入口(いりぐち)(くさ)(おお)われているため、注意(ちゅうし)していなければ見逃(みのが)してしまうだろう。


 ここまでの(みち)は、地図(ちず)()っている一般(いっぱん)(てき)街道(かいどう)であり、(はば)(ひろ)路面(ろめん)整備(せいび)されている。

 街道(かいどう)は、この(さき)さらに(ひがし)へと()び、(うみ)(のぞ)んだところで(みなみ)()れ、オルマン王国(おうこく)まで(つづ)いている。


 通常(つうじょう)(たび)なら、このまま街道(かいどう)()くのが最善(さいぜん)である。

 しかし、これから私達(わたしたち)(すす)むべきは、この(せま)(みち)なのだ。

 おそらく(きこり)狩人(かりゅうど)利用(りよう)する杣道(そまみち)であり、(もり)奥深(おくふか)(はい)りこみ、山頂(さんちょう)()かって()びているだろう。


 本来(ほんらい)なら()けるべきこの杣道(そまみち)こそ、マリフェトで滞在中(たいざいちゅう)にエシンが古老(ころう)から()いた『人喰(ひとく)(もり)』への(みち)だった。

 古老(ころう)(はなし)では、杣道(そまみち)数日歩(すうじつある)いた(さき)に、(ちい)さな(かく)(ざと)があるらしい。

 『人喰(ひとく)(もり)』の正確(せいかく)場所(ばしょ)は、そこで()くようにと()われたそうだ。


 貧弱(ひんじゃく)暗澹(あんたん)とした(みち)木々(きぎ)(あいだ)()うように(はし)っている。

 整備(せいび)などされているはずもなく、(ころ)がる(いわ)(いし)(うえ)(ある)いたり、(けわ)しい(がけ)(ふち)ギリギリを(とお)らねばならず、騎乗(きじょう)しながら(すす)むのは無理(むり)判断(はんだん)され、(うま)()りて徒歩(とほ)となった。


 太陽(たいよう)(ひかり)(えだ)にさえぎられ、ほとんど地面(じめん)(とど)かない。

 (よる)になれば足先(あしさき)(いた)いほど(つめ)たくなる。

 これで(ゆき)()られれば、凍傷(とうしょう)になるかもしれない。


 (まわ)りを見回(みまわ)しても()ばかりで景色(けしき)()わらず、自分達(じぶんたち)(いま)どこにいるのかわからなくなる。

 (まよ)わずに()んでいるのは、皮肉(ひにく)なことに、(ある)くのも困難(こんなん)なこの杣道(そまみち)のおかげだった。


 いくつもの(とうげ)(たに)()え、三日(みっか)()ぎ、四日目(よっかめ)昼頃(ひるごろ)のことだった。


 突然視界(とつぜんしかい)(ひら)け、粗末(そまつ)木造小屋(もくぞうごや)(なら)平地(へいち)(あらわ)れたのだ。

 おそらくここが、古老(ころう)()っていた(かく)(ざと)だろう。


 まずエシンとサリフが先行(せんこう)(さと)(なか)様子(ようす)(さぐ)る。

 しばらくして(もど)ってきたエシンが、(おどろ)くべき事実(じじつ)報告(ほうこく)した。


人気(ひとけ)はありません。ただ一面(いちめん)死体(したい)散乱(さんらん)しています。()なりからして帝国騎士(ていこくきし)(おも)われます」


 周囲(しゅうい)警戒(けいかい)しながら(さと)(はい)るとすぐに、(なか)枯草(かれくさ)()もれた死体(したい)発見(はっけん)した。

 かなり白骨化(はっこつか)(すす)んでいる。


 死体がつけていた(よろい)胸当(むねあて)には、エシンが指摘(してき)した(とお)帝国(ていこく)紋章(もんしょう)刻印(こくいん)されていた。

 帝国(ていこく)紋章(もんしょう)二羽(にわ)(たか)(つばさ)(ひろ)げ、(けん)(はさ)んで()かい()っているというもので、(ひがし)大陸(たいりく)()意匠(いしょう)使用(しよう)する(くに)(ほか)にない。


第四聖衛(だいよんせいえい)騎士団(きしだん)団員(だんいん)です。()んだのは二月(ふたつき)程前(ほどまえ)(おも)われます」


 エシンは(よろい)肩当(かたあて)刻印(こくいん)された文字(もじ)数字(すうじ)(しめ)した。


 帝国(ていこく)には対外的(たいがいてき)戦争(せんそう)(おこな)十二(じゅうに)聖戦騎士団(せいせんきしだん)と、(くに)防衛(ぼうえい)(おこな)(よっ)つの聖衛騎士団(せいえいきしだん)がある。

 第四聖衛騎士団だいよんせいえいきしだん(おも)役割(やくわり)諜報活動(ちょうほうかつどう)であり、他国(たこく)潜入(せんにゅう)して情報収集じょうほうしゅうしゅう破壊活動(はかいかつどう)(おこな)う。


 また、逃亡(とうぼう)した犯罪者(はんざいしゃ)捜索(そうさく)活動(かつどう)なども小規模(しょうきぼ)ながら長期的(ちょうきてき)(おこな)っており、大陸(たいりく)隅々(すみずみ)にまで出向(でむ)いていくのだ

 そのため団員(だんいん)(なか)には、何年(なんねん)(くに)(もど)らず、他国(たこく)で、その国民(こくみん)となり()らす(もの)もいる。


 (まわ)りを見回(みまわ)すと死体(したい)は1つだけでなく、10あまりが(さと)のあちこちに()らばらるようにあった。

 全員(ぜんいん)手元(てもと)には(けん)()ちているので、(なに)かと(たたか)っていた可能性(かのうせい)がある。


 しばらく死体(したい)調査(ちょうさ)していたのだが、(まった)住人(じゅうにん)姿(すがた)()えない。

 私達(わたしたち)(おそ)れ、(かく)れている可能性(かのうせい)もあるが、雰囲気(ふんいき)からして(だれ)もいないように(かん)じられた。


 私達(わたしたち)手分(てわ)けして(さと)にある(すべ)ての小屋(こや)調(しら)べることにした。

 団長(だんちょう)(わたし)は、すぐ(そば)にある比較的新(ひかくてきあたら)しい小屋(こや)(えら)んだ。


 玄関(げんかん)(はい)ってすぐ、白骨化(はっこつか)した死体(したい)(ふた)つ、(かさ)なり()うように(たお)れているのを発見(はっけん)した。

 服装(ふくそう)から男女(だんじょ)だとわかる。

 おそらくここの住人(じゅうにん)だろう。

 両者(りょうしゃ)手元(てもと)にも、(けん)()ちているので、やはり(なに)かと(たたか)っていたと推測(すいそく)される。


 小屋(こや)(おく)(すす)むと、そこには鍛冶(かじ)のための設備(せつび)があった。


(かく)(ざと)には、非常(ひじょう)(うで)()錬金術師(れんきんじゅつし)老夫婦(ろうふうふ)()んでいるというマリフェトの古老(ころう)(はなし)合致(がっち)しますね。といういことは、あの死体(したい)がその夫婦(ふうふ)なのでしょう」


「だろうな。――(たし)かに錬金術(れんきんじゅつ)腕前(うでまえ)相当(そうとう)なものだったようだ」


 (かべ)にかけられていた長剣(ちょうけん)()()った団長(だんちょう)は、空気(くうき)切裂(きりさ)くように()った。


一見(いっけん)普通(ふつう)長剣(ちょうけん)()わりないが、(おも)さに(かたよ)りがなく、(つか)(ふと)さと(かたち)は、()になじむよう微細(びさい)工夫(くふう)(ほどこ)されている。地金(じがね)錬成(れんせい)と、成造(せいぞう)過程(かてい)における鍛造(たんぞう)をかなり緻密(ちみつ)(おこな)った結果(けっか)だろう。市場(しじょう)流通(りゅうつう)する長剣(ちょうけん)とは、まるで別物(べつもの)のだ。よほど()のある錬金術師(れんきんじゅつし)だったに(ちが)いない」


「しかし、一体(いったい)(なに)があったんでしょう。あれだけの(かず)騎士(きし)が、なぜこんな辺鄙(へんぴ)(さと)に……? その錬金術師(れんきんじゅつし)目当(めあ)てだったんでしょうか……?」


「いや、(ちが)うな。死体(したい)位置(いち)がおかしい。もし錬金術師(れんきんじゅつし)(おそ)って反撃(はんげき)され、全滅(ぜんめつ)したのなら、この小屋(こや)(なか)にも騎士(きし)死体(したい)があるべきだ。しかし死体(したい)小屋(こや)(そと)里全体(さとぜんたい)()らばっている。――おそらく(べつ)何者(なにもの)かを()っていたのだろう」 


「ジョルジの仕業(しわざ)でしょうか?」


「それもないだろう。二月前(ふたつきまえ)なら、ジョルジはまだスプシュマにいたはずだ。やつに(ころ)すことはできん」


「そうですね……」


 そのとき(あたま)に、ある(かんが)えが()かんだ。


団長(だんちょう)、もしかすると……」


副長(ふくちょう)(おな)(こた)えにたどりついたか?」


 意味(いみ)ありげに微笑(ほほえ)団長(だんちょう)


「――ヒュリア皇女(おうじょ)でしょうか?」


 だとすれば、こんな(ところ)(おお)くの騎士(きし)がいた理由(りゆう)もわかる。


 (うな)ずく団長(だんちょう)微笑(ほほえ)みは、いつしか、獲物(えもの)()つけた肉食獣(にくしょくじゅう)()みに()わっていた。


「ジョルジだけでなく、皇女(おうじょ)(ちか)くにいる可能性(かのうせい)があるわけですね」


(うらな)()()っていた隠者(いんじゃ)()にかかる。もしかすると皇女(おうじょ)隠者(いんじゃ)()いにいったのかもしれん。――早急(そうきゅう)に『人喰(ひとく)(もり)』を()つける必要(ひつよう)があるな」


「はい。ただ住人(じゅうにん)がいないとなれば、人喰(ひとく)(もり)への経路(けいろ)()手段(しゅだん)が……」


 そのとき突然(とつぜん)入口(いりぐち)から、イスメトが(おと)もなく(はい)ってきた。


 八番隊(はちばんたい)隊長(たいちょう)イスメトは、団員中(だんいんちゅう)最強(さいきょう)という呼声(よびごえ)(たか)い。

 両刃(もろは)短剣(たんけん)両手(りょうて)()って(たたか)い、洗練(せんれん)された(うご)きで的確(てきかく)相手(あいて)急所(きゅうしょ)(ねら)近接戦(きんせつせん)(むね)としている。


 イスメトは、剃髪(ていはつ)していて一切(いっさい)(かみ)()()く、なぜか眉毛(まゆげ)まで()()としてるので、一見(いっけん)魔人(まじん)かと(うたが)いたくなるほど不気味(ぶきみ)である。

 また感情(かんじょう)(おもて)()さず、寡黙(かもく)で、普段(ふだん)(まった)目立(めだ)たず、(わたし)でさえ存在(そんざい)(わす)れてしまうほどだ。

 

 これらの事柄(ことがら)近寄(ちかよ)りがたい雰囲気(ふんいき)(つく)りだしてしまい、同僚(どうりょう)部下(ぶか)も、あまりイスメトに(ちか)づこうとはしない。

 本人(ほんにん)が、(ひと)()()うのが()きでないのも関係(かんけい)しているだろう。


 しかし戦闘(せんとう)となれば(だれ)よりも勇猛(ゆうもう)苛烈(かれつ)(たたか)い、真先(まっさき)敵中(てきちゅう)飛込(とび)こんでいく。

 なので、(した)しみは(いだ)かないが、ほとんど団員(だんいん)がイスメトを畏怖(いふ)尊敬(そんけい)していた。


「――(だれ)かいる」


 イスメトは(みじか)く、要点(ようてん)だけを()げた。

 私達(わたしたち)はイスメトと一緒(いっしょ)(そと)()て、(かれ)指示(さししめ)(ほう)()()らした。


 一番奥(いちばんおく)にある小屋(こや)(まえ)(くさ)むらが()れていた。

 (くさ)(たけ)(たか)密集(みっしゅう)しているので、はっきりとはわからないが、時折手足(ときおりてあし)()え、()つん()いなっているのがわかった。


 しばらく観察(かんさつ)していると、こちらの様子(ようす)(さぐ)ろうとしたのか、ふいに草陰(くさかげ)から(かお)(あら)われた。

 (なが)栗色(くりいろ)(かみ)女性(じょせい)とも(おも)える目鼻立(めはなだ)ち、筋肉(きんにく)(すく)ない()せぎすな身体(からだ)つき。

 それは、討伐資料(とうばつしりょう)にある似顔絵(にがおえ)特徴(とくちょう)一致(いっち)していた。


「ジョルジ・エシャルメン!」


 (わたし)誰何(すいか)した途端(とたん)、ジョルジは(いそ)いで立上(たちあ)がり、(もり)(なか)へと()げていった。

 (こえ)()いた団員達(だんいんたち)小屋(こや)(なか)から飛出(とびだ)してくる。


「ジョルジを発見(はっけん)した! (やつ)は、そちらの(もり)(なか)だ! ()がすな!」


 団長(だんちょう)命令(めいれい)()けた団員達(だんいんたち)は、すぐさまジョルジを()っていく。

 フェトヒとガムジが、(うま)()いて()けつける。

 フェトヒは回復薬(かいふくやく)治癒薬(ちゆやく)などが(はい)った(ふくろ)(うま)から()ろし、(かた)にかけた。


荷物(にもつ)(うま)(まか)せた。そして全員(ぜんいん)がやられたときは、参謀府(さんぼうふ)への報告(ほうこく)(たの)む」


 団長(だんちょう)はガムジに後事(こうじ)(たく)された。


承知(しょうち)しました。――皆様(みなさま)、お()をつけて」


 ガムジが神妙(しんみょう)(かお)敬礼(けいれい)(かえ)した。


「では、()くぞ」


 団長(だんちょう)先頭(せんとう)に、イスメト、(わたし)、フェトヒの(じゅん)(はし)り、(もり)(はい)る。

 すると(おく)(ほう)から(さけ)(ごえ)()こえた。


「オラに、かまわねぇで!」


 なまりが(つよ)い。

 おそらくジョルジだろう。


「おねげぇでがす。どんぞ、もう、ほっどいてぇ!」


 そのすぐ(あと)、ウウルの怒鳴(どな)(ごえ)(つづ)く。


大人(おとな)しくしやがれっ! ――よしっ、ジョルジをつかまえたぞっ!」


 私達(わたしたち)も、ウウルの(こえ)がした(ほう)()かおうとした。

 そのとき突然(とつぜん)狂猛(きょうもうな)(けもの)咆哮(ほうこう)森中(もりじゅう)(ひび)(わた)る。

 (つづ)いて(なに)かが(つぶ)れるような(にぶ)(おと)()こえた。


「ウウルとエシンがやられたっ! (やつ)()げたぞ!」


 今度(こんど)はオメルの(こえ)がした。

 いくつかの足音(あしおと)が、さらに(もり)(おく)へと(はし)るのが()こえる。

 足音(あしおと)()っていくと、途中(とちゅう)(ふと)()(まえ)(すわ)りこむウウルを発見(はっけん)した。

 

 (こえ)()けようとして(いき)()む。

 ウウルの(かお)上半分(うえはんぶん)(なぐ)られ、(つぶ)れていたのだ。

 おそらく即死(そくし)だろう。

 脳漿(のうしょう)()が、そこらじゅうに飛散(とびち)っている。

 (いや)なやつだったが、こんな無残(むざん)死様(しにざま)では、さすがに(あわ)れになる。


 エシンの姿(すがた)(さが)すと、ウウルから(すこ)(さき)に、エシンの部下(ぶか)のサリフが、うつ()せに(たお)れているのを()つけた。

 仰向(あおむ)けにすると、サリフの(かお)左半分(ひだりはんぶん)(なぐ)られて(つぶ)れ、(くび)奇妙(きみょう)(かたち)()()がっていた。

 こちらも即死(そくし)だろう。


 そしてすぐ(そば)にある(いわ)(まえ)に、()りかかって(すわ)りこむエシンの姿(すがた)があった。

 エシンは両脚(りょうあし)投出(なげだ)し、腹部(ふくぶ)両手(りょうて)()さえている。

 (くち)(まわ)りと(むね)(あた)りには、大量(たいりょう)()付着(ふちゃく)していた。


 (ちか)づいていくとエシンが()きこんだ。

 ()きていると()安心(あんしん)した直後(ちょくご)(くち)から大量(たいりょう)()吐出(はきだ)した。


「エシン!」


「ふ、不覚(ふかく)……。内臓(ないぞう)を……」


 苦痛(くつう)(かお)(ゆが)め、(あら)(いき)(した)から、(しぼ)()すように(こえ)()した。


「しゃべらないで」


 (わたし)はすぐに、エシンの腹部(ふくぶ)()をかざした。

 薄紫(うすむらさき)(いろ)(ひかり)()から(なが)()ち、腹部(ふくぶ)吸込(すいこ)まれていく。

 『四冠(ケセド)』の治癒術(ちゆじゅつ)である。


 ただ、エシンの(きず)(ふか)く、四冠(ケセド)治癒術(ちゆじゅつ)では簡単(かんたん)(なお)せそうになかった。

 もう(すこ)発見(はっけん)(おく)れていたら手遅(ておく)れと(おも)われるほどの重傷(じゅうしょう)である。

 完治(かんち)させるには数日(すうじつ)にわたって何度(なんど)治癒術(ちゆじゅつ)(ほどこ)さなければならない。


 ジョルジは(おんな)(おそ)わないはずではと(おも)ったが、(くら)(もり)(なか)()われていれば、男女(だんじょ)区別(くべつ)をつけるのは(むずか)しいだろう。

 私自身(わたしじしん)油断(ゆだん)禁物(きんもつ)ということだ。

 

副長(ふくちょう)治癒(ちゆ)(やく)を」


 フェトヒが(ふくろ)から治癒(ちゆ)(やく)取出(とりだ)した。

 治癒薬(ちゆやく)は『四冠(ケセド)』の治癒術(ちゆじゅつ)同等(どうとう)効果(こうか)期待(きたい)できるため併用(へいよう)すれば、(うち)(そと)から(きず)(はたら)きかけるので快癒(かいゆ)(はや)められる。

 受取(うけとった)った薬瓶(くすりびん)(せん)()け、エシンに()ませてやった。


副長(ふくちょう)(わたし)(さき)()く。エシンのことは(まか)せた」


「はい、すぐに()いつきますので」


 団長(だんちょう)(うなず)くと、イスメトとともに(もり)(おく)へと()かっていった。


 治癒術(ちゆじゅつ)(つづ)けていると、エシンの表情(ひょうじょう)(やわ)らいでくるのが()かった。

 フェトヒの()()りて、仰向(あおむ)けに()かせてやる。


()かった。なんとか(いのち)取留(とりと)めたわ。でも戦闘(せんとう)無理(むり)だから」


「サ、サリフは……?」


 (くび)()って(こた)えた。


「そうですか……」


 エシンは()()じて、(くちびる)をかみしめる。


 サリフはエシンが隊長(たいちょう)になったときから、(おんな)だという偏見(へんけん)(さら)される彼女(かのじょ)をずっと(ささ)えてきた。

 彼女(かのじょ)にとって一番信頼(いちばんしんらい)できる部下(ぶか)といえるだろう。


「ジョルジを(つか)まえた(あと)(かなら)(とむら)いをしましょう」


 エシンの()(にぎ)ると、彼女(かのじょ)が、しっかりとした(ちから)(にぎ)(かえ)してくる。

 状態(じょうたい)安定(あんてい)したようだ。

 

「ここで(やす)んでいなさい。治癒薬(ちゆやく)回復(かいふく)(やく)()いていくから、(つら)くなったら()んで」


 こうしてその()にエシンを(のこ)し、(わたし)とフェトヒは団長(だんちょう)(あと)()った。


 しばらく(すす)むと(ふたた)(おそ)ろしい咆哮(ほうこう)(もり)(ひび)く。


 前方(ぜんぽう)何本(なんぽん)もの(ふと)()(おと)()て、次々(つぎつぎ)(たお)れていく。

 ()いついてみるとそこでは、(あお)(かがや)魔人(まじん)褐色(かっしょく)(ひか)大鎚(おおつち)()りまわすオメルが(たたか)っていた。


 ヘペル(きょう)証言通(しょうげんどお)り、ジョルジの姿(すがた)はまさに『(あお)(かがや)(よろい)()騎士(きし)』のようだ。

 身体(からだ)だけでなく、(あたま)(かぶと)面貌(めんぼう)(おお)われ、全身(ぜんしん)から(あお)(ひかり)(はな)っていた。

 ただ、オメルの攻撃(こうげき)(たい)して徒手(としゅ)応戦(おうせん)し、(あばれ)(まわ)姿(すがた)は、騎士(きし)ではなく魔人(まじん)という表現(ひょうげん)(ほう)が、やはり相応(ふさわ)しいだろう。


 団長(だんちょう)、イスメト、セルカン、ベラトはジョルジを取囲(とりかこ)み、後方支援(こうほうしえん)としてブラクが高台(たかだい)から(ゆみ)でジョルジを(ねら)っていた。


 オメルの大鎚(おおつち)(かがや)いているのは、(かれ)照応(しょうおう)する(つち)元素(げんそ)(ちから)(あた)えられ、攻撃力(こうげきりょく)上昇(じょうしょう)しているからだ。


 武器(ぶき)などに元素(げんそ)(ちから)付与(ふよ)することを『沾漸(せんぜん)』の儀方(ぎほう)()ぶ。

 『沾漸(せんぜん)』の儀方(ぎほう)は、通常(つうじょう)、『四冠(ケセド)以上(いじょう)魔導師(まどうし)にしか使(つか)えない。

 なので騎士(きし)が『四冠(ケセド)以上(いじょう)魔導(まどう)()につけると、上級騎士(じょうきゅうきし)身分(みぶん)(あた)えられ、隊長(たいちよう)などの士官(しかん)になることができた。


 セルカンの(けん)緑色(みどりいろ)(かがや)いているのは(かぜ)元素(げんそ)を、ブラクの(やじり)水色(みずいろ)(かがや)いているのは(みず)元素(げんそ)を、それぞれ沾漸(せんぜん)させているからである。


 さらに団長(だんちょう)(ふく)全員(ぜんいん)が『亢躰(こうたい)(じゅつ)』を使(つか)っているはずだ。

 なので身体能力(しんたいのうりょく)(もと)数倍(すうばい)になっているだろう。

 この戦術(せんじゅつ)使(つか)えば通常(つうじょう)なら、(てき)瞬殺(しゅんさつ)できるはずだった。


 オメルは大鎚(おおつち)(かた)(かつ)いで()()がる。

 そして落下(らっか)(いきお)いに(まか)せて振下(ふりお)ろした。


 強烈(きょうれつ)一撃(いちげき)がジョルジの頭部(とうぶ)打砕(うちくだ)くかと(おも)われたが、(かみ)くずでも(つか)むようにジョルジの右手(みぎて)受止(うけと)める。


 亢躰(こうたい)(じゅつ)身体能力(しんたいのうりょく)()げた騎士(きし)(はな)つ、『沾漸(せんぜん)』を()けた武器(ぶき)での攻撃(こうげき)を、片手(かたて)受止(うけと)める?

 (つち)(ちから)沾漸(せんぜん)されたオメルの大鎚(おおつち)は、圧砕力(あっさいりょく)数倍(すうばい)跳上(はねあ)がり、(かた)巨大(きょだい)(いわ)一撃(いちげき)(くだ)くことができるはずなのに?

 

 通常(つうじょう)あり()ない事態(じたい)である。

 ジョルジという存在(そんざい)が、いかに危険(きけん)かという(あかし)だ。

 早急(そうきゅう)討伐(とうばつ)しないと、将来大変(しょうらいたいへん)なことになるかもしれない。


 ただオメルの攻撃(こうげき)は、まだ()わっていない。

 受止(うけと)められた大鎚(おおつち)打面(だめん)から褐色(かっしょく)(つち)元素(げんそ)があふれ()して、ジョルジの(あお)(うで)急速(きゅうそく)(おお)っていく。

 大鎚(おおつち)(かい)して土魔導(どまどう)効果(こうか)(てき)(およ)ぼすことができるのだ。


 これは土魔導術(どまどうじゅつ)における『瑾摎(きんきゅう)』という(わざ)である。

 (つち)元素(げんそ)(てき)身体(からだ)(おお)い、圧搾(あっさく)して(つぶ)すというものだ。


 (うで)(あと)(かお)上半身(じょうはんしん)まで(つち)(おお)われたジョルジだったが、まだ(うご)下半身(かはんしん)使(つか)って反撃(はんげき)する。

 オメルの腹部(ふくぶ)(みぎ)のつま(さき)()()げたのだ。


 つま(さき)(はら)突刺(つきさ)さったオメルは、白目(しろめ)をむき、(くち)から大量(たいりょう)()()いて(たお)れた。

 オメルが白目(しろめ)をむくのと同時(どうじ)に、魔導(まどう)効果(こうか)()え、ジョルジの上半身(じょうはんしん)(つち)がボロボロと、はがれ()ちていく。


 ジョルジの(かお)(おお)っている(つち)()がれ()ちる(まえ)に、ブラクが()(はな)った。

 水色(みずいろ)(ひか)水魔導(すいまどう)()が、ジョルジに()かって()ぶ。


 水魔導(すいまどう)の『沾漸(せんぜん)』の(わざ)は『漓澌(りし)』と()ばれる。

 対象(たいしょう)から水分(すいぶん)()いたり、(ぎゃく)注入(ちゅうにゅう)するもので、たとえば人間(にんげん)なら、血液(けつえき)(すべ)抜取(ぬきと)って(ころ)すことができる。


 まだ(つち)視界(しかい)(ふさ)がれているはずだが、ジョルジは攻撃(こうげき)察知(さっち)し、オメルを()()げた(あし)(もど)すことなく、(のこ)っていた左脚(ひだりあし)跳躍(ちょやく)し、空中(くうちゅう)後方回転(こうほうかいてん)して()をよける。

 そして回転(かいてん)しながら、(つか)んでいたオメルの大鎚(おおつち)をブラクに()かって()げつけた。


 大鎚(おおつち)(にぶ)(おと)()て、ブラクの顔面(がんめん)にめりこむ。

 (ひたい)から()噴出(ふきだ)し、ブラグは(うし)ろに(たお)れ、(うご)かなくなった。

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