オラつくあの娘は炎の龍なのです<2>
急いで『調理』の機能を使い、自分の右掌に、キャラメルを具現化しました。
「あのぉ、すいませぇん」
「ああん?!」
女の子は今にも結界をなぐりつけそうな勢いで、キッツい視線を向けてきます。
「甘いもの、お好きですかぁ?」
女の子の動きが、ピタッと止まりました。
「――あ、甘いもの……、だとぉ……」
目の前にキャラメルを差出します。
青いタレ目が、キャラメルに釘づけになりした。
「そ、そりゃ、なんだっ?!」
「キャラメルっていう、とぉっても甘くて美味しい、お菓子なんですよぉ」
「キ、キャラメル……?!」
「はい、ヒュリア、食べてみて」
ヒュリアにキャラメルを一粒渡します。
ヒュリアは首を傾げ、キャラメルを不思議そうに観察してましたが、仮面の下から口に入れました。
「――甘いっ?! 美味しいっ!! こんな菓子、初めて食べたぞ、ツクモ!」
キャラメルの美味しさに身震いするヒュリア。
女の子の口から、よだれが流れ落ちてます。
「どうですぅ? これでも食べながら、落着いてお話しませんかぁ?」
歯をむきだしにした女の子は、蛇みたいにシャーシャー言いながら、キャラメルと僕を交互に、にらみつけてきます。
「いかがですかぁ?」
ダメ押しにキャラメルをつまんで、顔の前で振ってやりました。
突然、野獣のように咆哮した女の子は、空を見上げ、大きく口を開けます。
すると口から猛烈な炎が噴上がり、遥か上空に消えていきました。
僕とヒュリアは何が起こったのかわからずに、炎が消えた後も、しばらく夜空を眺めることになりました。
「ちっ! やり口は気にいらねぇが、てめぇの策に乗ってやる。結界を解けっ」
女の子は、よだれを手でふきながら、命令してきました。
「――はい、はぁい」
とりあえず、ギリギリでピンチ回避できました。
このシチュに、あのヒント、正解だったようですな。
「こんな奴を入れて大丈夫なのか、ツクモ」
ヒュリアは心配そうです。
「たぶん、大丈夫だと思うよ」
オペ兄さんのヒントにあるからには、きっとこの女の子、かなり重要人物なんだと思います。
ならばとにかく、話を聞いてみないと。
結界が解かれると、女の子は警戒する様子も無く、すたすたと敷地の中に入ってきました。
僕は結界をすぐに再発動させ、後を追います。
するとヒュリアが女の子の前に立ちふさがり、剣の切先を突きつけました。
二人はしばらく、炎のエフェクトを背負いながら睨み合います。
でも、ヒュリアが剣を収め、道をあけることで、戦いは終わりを告げたのでした。
女の子の方も、フンと言っただけで、ヒュリアに対して何かすることはありませんでした。
ヒヤヒヤもんですぜ。
女の闘い、怖ぇよ……。
「さあ、どうぞ、どうぞ」
女の子の顔色を窺いながら案内します。
ログハウスに入ると、女の子は無遠慮に椅子に座り、ふんぞり返りました。
僕は、速攻で皿に載せたキャラメルとハーブ茶を出し、対面に座ります。
ヒュリアは、立ったまま不貞腐れた感じで壁に寄りかかってます。
女の子はキャラメルを一粒取上げ観察した後、ゆっくりと口にいれました。
「にゅぉーっ!!!」
変な叫び声をあげた女の子は、残りのキャラメル全部を一気に口に流し込みます。
「うま、うま、にゅふふ……」
今度は変な呟きをいれながら、キャラメルをかみしめ、酔払いみたいに、ふやけた笑みを浮かべてます。
そして食べ終わると、お茶を一口飲んでプハーと息を吐きました。
「うめぇなぁ、このぉ……、何だぁ……?」
「――キャラメルです」
「そう、それだっ! このキャラメルってもんは絶品だな! もうねぇのか?!」
「ありますけど、その前に、どちら様なのか教えていただきたいんですけど?」
「あん? ああ、俺か……」
そこで女の子は僕らを見回し、気まずそうに頭を掻きました。
「ふん、まあ、いいか……。俺の名は、アティシュリ。“アレヴェジダルハ”だ」
ヒュリアは突然、焦った感じで身体を起こします。
「“アレヴェジダルハ”……。『古代ウガリタ語』で、炎の霊龍という意味になる……? まさか、あなたは『八大霊龍』の御一人なのですか?!」
いつのまにかヒュリアの口調が敬語になってます。
「ちっ、よく勉強してるな、お前……」
アティシュリはまた気まずそうに頭をかきました。
そして、すぐに開き直った感じで腕を組み、ドヤポーズを決めます。
「わかっちまったなら仕方がねぇ! ――その通りよ! 『炎摩の座』を受けつぐ炎の龍とは、まさにこの俺様のことだ!」
ヒュリアは急いでアティシュリの側に跪きます。
そして深く頭を下げました。
「――最前までの非礼、ひらにご容赦ください」
えっ!
炎の龍?!
てことは、この娘、ドラゴンなの?!
確かに、口から火柱あげる人間なんているわけないですけど。
でも、見た目は、渋谷系ギャルなんですよねぇ。
人の姿にもなれるってわけですか。
さすが異世界、アガるわぁ。
けど、なんでこの姿をチョイスしたんでしょ?
ドラゴン界隈じゃ、渋谷系が流行ってる?
な、わけないか。
まあとにかく、すげぇワクワクするのは確かです。
ああ、ドラゴンの姿、見てぇよぉ……。
「おおよ、わかりゃいい。んで、てめぇは何者だ?」
「私は、聖騎士団帝国第一皇女、ヒュリア・ウル・エスクリムジと申します」
「エスクリムジだと?。じゃあ、チラックの小僧の血筋だな……。その顔、てっきり魔人の類かと思ったぜ」
「これは失礼しました」
ヒュリアが仮面をはずします。
アティシュリは彼女の素顔を興味深げに覗き込みました。
「その赤銅の瞳……、“アトルカリンジャ”だな」
ヒュリアが息を呑みます。
「アトルカリンジャ……? 初めて聞く言葉です……」
「ふん、そうか……。アトルカリンジャってぇのは『迂遠を往きて、寧ろ直し者』って意味で付けられた名前だぜ」
それを聞いたヒュリアは、右拳を口に当て、黙りこんでしまいました。
「――んで、耗霊、てめぇの名は?」
「ぼ、僕ですか? 僕はツクモって言います」
「ツクモ……? あまり聞かねぇ音の響きだな。――まぁいい。それで、てめぇ、マジで自分を『耶宰』だって言うのか?」
「はい、そうみたいです」
「そのくせ『耶代』の術者は知らねぇってか?」
「はい、そういう人がいるんなら山ほど聞きたいことがあるんすけどねぇ」
一緒に、山ほど文句も言ってやる。
「ちっ! よくわからねぇ……。確かに『耶代』の儀方は、新たに創られたもんだから、予想もしねぇ反動があってもおかしくはねぇが……」
アティシュリが頭をかきむしります。
「新たに創られたって、どうゆうことですか?」
アティシュリは答えずに、空になった皿を指差します。
「――おかわり」
「はいはぁい、ただいまぁ」
急いでおかわりのキャラメルを具現化しました。
「うま、うま、にゃはは……」
キャラメルを食べるアティシュリは、ご満悦です。
よっぽど気に入ったんでしょう。
「えーと、それで、新しく創られた、というのは……?」
「うん? ああ、そのことか。『耶代』の儀方は俺のダチが創ったんだよ」
「その御友達っていうのは、以前ここにあった屋敷の持主ってことですか?」
「ああ、そうよ。ビルルルってんだ」
「隠者ビルルル?!」
黙っていたヒュリアが声を上げます。
「かかっ、人間どもは、隠者とかいって崇めやがるが、あいつはただの変態女だぜっ」
アティシュリはイタズラ小僧のように笑います。
「隠者……、ビルルルさん……?」
お腹を下したような名前です。
首を傾げてる僕に、ヒュリアがビルルルのことを説明してくれました。
「隠者ビルルルは災厄の時に、三傑の後方支援をしていた“ビレイ”の女性なんだ。錬金術に秀でていて、武器や薬品などを造っていたらしい。ただ戦後は人前に出るのを嫌い、ひっそりと暮らしていたと聞いている」
「――つまりそれが、ここなんだよ」
アティシュリが人差し指でテーブルをこつこつと叩きます。
「そうでしたか……、ならばこの不思議な小屋のことも納得できます。私に錬金術の手ほどきをしてくれた師匠からも、そのような話を聞いたことがあります。命の無い物体を、魔導により擬似生命体とする術を隠者が完成させたと」
疑似生命体……。
なるほどね、だから『耶代』に意志があるってわけですね。
他にも色々わからないことがあったので、質問を続けます。
「えーと、ビレイってのは……?」
「ちっ、てめぇは何も知らなぇんだな、ツクモ。ビレイってのは、『ウガリタ語』で“真の人”って意味だが、人間達からは妖精って呼ばれてる。つまり妖精族ってことだ……」
アティシュリの説明によると、妖精族は、耳が尖ってて、人間よりも美形でスタイルが良く、寿命が長くて、魔導が得意なんだそうです。
はい、もうおわかりですね。
そう、エルフです。
オペ兄さんもエルフがいるって言ってましたから。
地球ならエルフだけど、バシャルじゃビレイってわけですか。
ドラゴンにエルフ!
異世界らしくなってきましたよぉ!
さらに妖精族は、“サフ”と“ロシュ”という二系統に分かれているそうです。
両者の大まかな違いは三つ。
一つ目は、肌の色です。
サフは白色、ロシュは褐色です。
二つ目は、主な生活の場所で、サフは森、ロシュは地下です。
三つ目は得意な魔導で、サフは炎や氷などの元素を使役する元素魔導術で、ロシュは錬金術です。
てことは、サフはライトエルフ、ロシュはダークエルフもしくはドワーフってことになるんでしょうか。
まあドワーフはダークエルフが、訛った名前ともいわれてますからね。
バシャルの人間は、サフを白妖精、ロシュを黒妖精と呼んでるそうです。
ところで、ちょっとややこしいですが、『魔導』っていう言葉には、二つの意味があります。
広い意味では、元素魔導術とか錬金術とかを全部含めた魔導全体のことを表します。
狭い意味では、元素魔導術のことだけを表します。
魔導が元々、元素魔導術から始まって、そこから枝分かれして発展していったからだそうです。
バシャルの人達は、あんまりキチンと区別してないらしく、ケースバイケースでとらえるしかないってヒュリアが言ってました。
「ビルルルはサフの女、アイダンはロシュの女だった……。みんな逝っちまったがな……」
「アティシュリ様は三傑ともお知合いなのですね」
ヒュリアの目が、あこがれのアイドルに会ったようにキラキラしてます。
「たりめぇだろ。俺たち八大霊龍は、あいつらと一緒に『黒の災媼』と戦ったんだからな。でもよ、どいつもこいつも変わり者だったぜ。――ビルルルは変態女、フェルハトはお調子者、フゼイフェは堅物、エフラトンは放蕩者。まあ、アイダンだけが唯一まともだったかもしれねぇな」
確か、アイダンは賢者で、フェルハトは英雄、フゼイフェが聖師でしたよね。
それで隠者がビルルル……、じゃあ、エフラトンて?
「太祖帝フェルハト様の詳しい人となりもご存知なのでしょうか?」
「フェルハトか……。あいつはお調子者だが、開けっぴろげでよ、誰とでも分け隔てなくつき合う、温かい野郎だったな。――んで、お前と同じ赤銅の瞳を持つアトルカリンジャだったぜ」
「太祖帝様が……、私と同じ……」
ヒュリアが絶句します。
「『災厄の時』は、バシャルにとっちゃ最悪の戦だった。だがよ、あいつらと一緒にいられたことは、俺にとっちゃ楽しく懐かしい思い出でもあるのよ……」
アティシュリは後頭部で手を組み、記憶にひたるように目を閉じました。




