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第九話 ドワーフ視点①

 ワレは悪い悪夢でも見ているのだろうか、悪夢だから悪いに決まってるって? そりゃそうなのじゃろう。勇者殿ならそういってワレを笑ってくれる。


 勇者殿が死んだ。あっけなく死んだ。


 最初はいけすかないガキだと思った。でも強かった。どんな困難も強敵も勇者殿がいれば勝てると思っていた。事実打ち勝ってきた。


 エメラルドの竜。亡霊の大軍。貴族派の妨害。炎の魔神。聖域の門番の試練。


 どれもが苦しい相手だった。それとも勇者殿にとっては僧侶と魔法使いが勇者殿を取り合っていがみ合うのが最大の困難だったかな? 


 ガハハハッ。


 …………。


 ――勇者殿が死んだ。


 魔族領との境目につけた転移陣。勇者殿にしか見えず、勇者殿にしか扱えないモノ。


 魔王城攻略の足掛りとしてこの地を平定したとき、以前はあんな家はなかった。


 見るからに不審な平凡な家に住む。ごく普通っぽい少年。

 こんな地に住む少年が普通っぽいだと? そんなのありえんじゃろ。


 勇者殿によれば魔族らしい少年。魔族には角があるものだが、無い者もいるんじゃな、田舎モノのワレには判らん。判らんがどうでもいい。


 魔族は敵。汚らわしい者じゃ、これまで何度も倒してきた。


 魔族は強敵だが一人なら怖くない。まして四人そろったワレ等は最強。敗北なぞ絶対にない。

 その……はずじゃった……。


 勇者殿は死んだ。


 ワレは魔法使いと僧侶を担いで必死に逃げた。追撃を恐れたが、少年魔族は追ってはこなかった。


 魔法使いの(じょう)ちゃんは激昂し、僧侶のほうは何故一緒に死なせてくれなかったのかと泣いた。


 ワレは二人が好きじゃった。美しく可愛い娘、苦楽を共にした仲間じゃ。惚れるなというほうが無理がある、死なせたくはなかった。


 勇者殿が死んだとき、何よりもまず恐怖が勝った。それでも一人で逃げず、二人を助けることが出来たのは自分でも誇らしい。


 二人が惚れている勇者殿が死んだのだからこれで自分にもチャンスがある。そんな思考をしている自分に気づいたときは死にたくなったがの。


 ワレ等はひとまず国に帰ることにした。僧侶と魔法使いの故郷。魔王討伐の命を下した王国に。


 勇者殿の戦死。そして魔王討伐が叶わぬ夢となったことを報告する為に。


 テレポートは使えないから馬車だ。馬車の使えない山道では徒歩での移動になる。

 山歩きというのは戦闘とはまた違った辛さがある。一歩進むごとに旅の記憶がおもい出され、一歩進むごとに勇者殿の死が気持ちに影を落とす。


 足が鉛のように重い。ワレはドワーフ、山の民じゃぞ。この程度の山どうってことはないはず。


 道中高山病で魔法使いが倒れた。きっとこれまで無理をしていたのだろう、人一倍臆病な子じゃ、魔法の才能だけは王国でもピカイチじゃが闘いにはむいとらん。気持ちが優しすぎるからな。


 強大な攻撃魔法を発動させることは出来るのに、目標に当てることが出来ないハンパ者、魔法学院の特別講師としてワレが招かれるまで、おちこぼれじゃった。


「あの娘を一人前にすることが出来たら王国への永住権を与えてやる」


 報酬は屈辱的だが魅力的じゃった。ワレはワレの利益の為に心を鬼にして指導した。毎日ワレの見えないところで泣いていたのをワレは知っていた。


 それでもワレを失脚させないために娘は毎日指導を受けに来た。田舎者の魔術師、大魔術を操る異端のドワーフ。人から好まれないドワーフが、ドワーフからも好かれなくなったらどうなる? 

 答えはワレじゃ、ちょっと魔法が人より使えるだけで愚かで行き場のないドワーフ。


 娘はあっという間にワレを超える魔法使いになった。当然学院は主席で卒業、ワレも晴れて御役御免となるはずじゃった。


 勇者じゃ。

 女神によって召喚されるという伝説の勇者が現れ、あれよあれよと言う間に勇者パーティーの一員にされてしまった。


「ごめんなさい。もういいの。アタシのことは置いていって」

 小さな山小屋の中、魔法使いは言った。

 魔法使いは魔王に勝つために名前を売った。魔に勝つために魔導を極めた。


 ワレも僧侶も勇者もそれに習った。もう各人の本名を思い出すことも出来ない。勇者パーティーとしての使命だけがワレ等に残った。


「わかった。でも私は先に行かない」

 僧侶が言った。


 長旅では回復役が必ず必要になるからと王国が選抜した回復役(ヒーラー)


 ヒーラーのくせに短期で無鉄砲、誰よりも仲間おもいで、他人が傷つくところを見たくない。


 回復役ってのは仲間を回復させるために自分は傷つかないようにしなければならない。(おの)ずと仲間が傷つく姿を無傷なまま眺めることが多くなる。

 誰も文句は言わない、そういう役割なのだから。

 しかし、僧侶にはそれが耐えられなかった。だから前に出る。ぶっさいくな打撃戦をしながら自己回復と仲間の援護をこなす。


「邪魔だ。下がってろ、直接攻撃ってのはこうすんじゃ」

 ワレはドワーフじゃ。斧の心得だってある。

 ワレは杖を捨て、斧を取った。このパーティーには最高の魔法使いがいる。


 こうしてワレは戦士になった。


 僧侶は戻るという。山を降りてあの魔族ともう一度闘うという。


「大丈夫よ。私の即死呪文知ってるでしょ。勇者様からもらったアンリミテッドと即死呪文の組み合わせは最強なのよ。魔王だって私一人で勝てるんですから」

 僧侶らしい勇ましい言葉、目が潤んでいるように見えるのは何かの見間違いか、もしくは汗なのじゃろう。


「だから二人は先に行ってて、もちろん魔法使いが回復してからなのよ。私のヒールで治ったらいいんだけど、どうもへっぽこ僧侶でね、細かい病気に訊くような回復呪文は覚えなくって」


 ――――。


「それじゃ! また後で!」


 何も声をかけてやれなかった。一方的に言って勝手に出て行った。


「ずるいぞ僧侶」


 役目をすべて背負わせてしまった。

 魔法使いと相談して待つことにした。魔法使いが回復した後も待ち続けたが、僧侶が戻ってくることは無かった。

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