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第五話 盾のティンベーヌ 

 ティンベーヌはなかなか強情で、どうしてもついて来るという。


 家がバレてしまうのは避けたかったのだけど、どのみち口止めをしておかなければいけないのだから、目の届く範囲に置いておくのもいいでしょう。


「師匠、人間みたいな家に住んでますね。ハッ! ほんとは人間だったり? 人間は同族同士で殺しあうこともあると聞きますし」


 家に着くなりティンが失礼なことを言います。僕は魔王軍の秘密兵器であり、断じて人間ではありません。


「ひとまず入ってください」


 家の中に入ったティンは物珍しそうに周囲を観察します。僕の家が、人間の家と同じ造りなのは人間のフリをするためですが、そういった理由はティンには説明しなくていいでしょう。


 ただこのおバカさんには判らせてやる必要があります。

 秘密を守ってもらう為にも、僕の言うことを聞くべきだと。


「僕が魔族だという証拠をみせます」

 シャツを脱いで背中の魔術紋様を見せました。

 魔術紋様、これ以上ない魔族の証です。ちなみにティンの魔術紋様はおしりに有りました。


「うわー立派な紋様。まるで先代様みたい」


「先代様に会ったことが?」


「エヘッ。これでも古株なのです」


「ふーん、ところで先程から僕のことを師匠と呼んでいますが、どういったつもりか説明してもらえますか?」


 なんとなく予想はつきますが、聞いておくことにしました。


「師匠めっちゃ強かったです。僧侶を消した呪文も凄かったですが、私の目はフシ穴じゃありません、抑えていてもわかります。全身にみなぎる魔力が四天王クラス? いいえ魔王様にも引けをとらないッス! いったい師匠は何者なんですか?」


「それには答えられませんね」


「なら聞きません!」


 僕の正体を探るつもりはないか。聞き分けのいいこかもしれません。


「その代わり弟子にしてください! 私はもっと強くなりたいんです。稽古(けいこ)をつけてください!」


「稽古ですか?」


「ハイッス! 無慈悲で徹底的な稽古を希望します」


「いいでしょう、たまにならですけど。その代わり家のことを任せます。それと当然ですが、僕のことは秘密ですよ。四天王の仕事も怪しまれないようこれまで通りに。――いいな?」


 ティンにですます口調は必要ない。だって弟子だし。


「はい喜んで。なんでもやります。好きに使ってください」

 満面の笑顔でティンが言います。そんなに嬉しかったのか。


 今日してもらうことと言ったら、飯の準備ぐらいのもんですが、まだ早いですね。少しだけ考えて早速稽古をつけてやることにしました。



 家の外、何もないので運動にはもってこいです。


「ど、どこからでもどうぞ」

 大きい甲羅(こうら)のような盾をティンが構える。小柄なティンがかがめば正面からの攻撃はまず通らない。相手としては側面や背後に回ろうとするが、ティンの振り向き速度のほうが早く、やはり攻撃は通りづらい。そしてティンには盾を構えたままの突撃がある。

 僧侶には遅れととっていたが、ティンの戦法はシンプルに強い。

 しかし、その闘い方は僕には通用しません。


「いくぞ」

 真正面、ティンの突撃を誘うように真っ直ぐに僕はいく。

 僕の狙いは盾の破壊。

 優れた戦法であっても、その土台となる盾を破壊してしまえばお終いです。

 しかし予想外、ティンが正面に構えた盾を投げ捨てたではありませんか。


「さぁ!」

 ティンの何かに期待するような満面の笑み。

 背筋を走る恐怖。いいえこれは違います、なにかはわからないですが僕は危険を察知したのです。


 目を見開いたティンの顔面寸前で拳を止めると、背後に回ってティンの細い腰を抱きしめました。そのままブリッチの要領で持ち上げ、頭から地面おもいっきりに突き刺してやりました。


「ふぅー」


 めくれあがったスカートからパンツが見える。


 足をつかんで引っこ抜き、天高く投げる。

 一瞬ですがまだ笑っているのが見えました。

「なんだその余裕は?」


 認める訳にはいきません、実力を隠していたとでもいうのか?


「はぁぁっ」

 手の平に凝縮させた魔力。純粋なエネルギーの塊。

 

「喰らえッ!」

 天を切り裂きく魔力砲がティンを直撃。黒コゲになって落ちてきました。


「これでどうだ?」


 少し待ち、起き上がってきたティンベーヌが言った。


「師匠! 強い、強すぎます。もうご主人様と呼ばせてください! そしてもっといたぶって、なぶってください!」 


 満面の笑み。

 怖いよ。助けて魔王様。


魔王軍の秘密兵器(以下略)を読んでくださり誠にありがとう御座います。


読んでくださる貴方様のおかげで僕は小説が書けています。次話も是非読んで下さいネ。


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