第四話 僧侶のチート
僕は侵入者に見覚えがあった。
記憶力に自信があるほうじゃないけど、背恰好とフードから見え隠れするピンク色の髪の毛でわかった。
あの時の僧侶だ。
僕は僕の秘密を守る為に、この僧侶が魔王様のところまで行くのを止めないといけない。
道中で、他の魔族に僧侶が見つかった時、勇者パーティの人間だとバレそうならば、それも阻止しなければいけない。
焦りは禁物。
僕は注意深く僧侶を観察した。そして異常に気づいたのだ。
「――おい人間。お前のマナポイント、無尽蔵だろ?」
呪文を使うと減るものがある。それがマナポイントだ。
道中なんども僧侶は呪文を使った。ミミックや四天王にも通用する高位の即死呪文も使った。
通常マナポイントはゆっくりと休養するか、マナポーションを使用しなければ回復するとこはない。
僧侶はここまで一度もマナポイントを回復することなく進んできた。最初はマナポイントがやたら多いのかと思ったが違う。あまりにも度が過ぎている。
導き出された結論。こいつもチート持ちだ。
「そうよ! これが私と勇者様の絆! 勇者様からもらった私のチカラなのよ!」
僧侶が呪文を唱える。
しかし。
「あれ? 私の『アンリミテッド』が? 私のマナがないの!」
「その呪文、あんたのマナじゃ、チートがないと唱えられないようだな」
チートがないと何も出来ない。あの勇者と同じだ。
クズが、僕の家を荒らしやがって。
僧侶が再度呪文を唱えます。魔法は発動しません、マナが足りないのだから当然です。チートはもうないのですから。
「くそっ! どうして! どうしてなの!」
髪を振り乱し、つばを飛ばしながら何度も呪文を唱えようとする僧侶。
「うるさいです――ねッ!」
十分に手加減をしてお腹を蹴ります。
「うぐっ」
蹴り飛ばされた僧侶が地面を転がり、柱にぶつかって止まりました。
「ううぅぅ勇者様、勇者様ぁぁ」
うずくまったまま、僧侶が泣いています。
まだ体力があるのか大きな声で泣き出しました。
少しは落ち着いてほしいものです。殺す相手がこんなにもみっともないと魔王軍秘密兵器として、残念な気持ちです。
「はーやれやれ、勝手に人の家に土足で入って荒らしていくとは。しかも弱いしうるさいし、ティンベーヌ様のパンツを脱がすし、目障りだ。……バニッシュ!」
マナの消費が激しいので、使いたくないのですが、ここは魔王城ですし、証拠は消しておくほうがいいでしょう。
僕は消滅呪文で名も知らぬピンク髪の僧侶を消した。
やれやれこれで秘密は守られ……。
「す、すげぇ」
「嗚呼、そういえば目撃者がいましたね。忘れてました」
落ち着いて対処したつもりが、冷静さを欠いたようです。目撃者を消すだけのマナポントが今の僕にはありません。
「すげぇッス。なんですか今の呪文は! びゅわーって消えていきましたよ! びゅわわーって! 跡形もないじゃないですか」
ティンベーヌが騒ぎたてる。実に面倒だ。
そもそもコイツが倒してくれれば、僕が出しゃばる必要もなかったのに。
そうだ。全く使えない奴だ。
「アイツ勇者がどうのこうの言ってましたけど、なにかあったんですか? あッ! 申し遅れました。ティンは四天王の一人、ティンベーヌです。気軽にティンって呼んで下さい。あーでもでも二回連続で呼ぶのだけはダメダメですよ!」
「うへへへ」
ティンベーヌがぐるぐると僕周りを飛び跳ねながら騒ぐ。小動物が足元をちょろちょろするとこんな感じでしょうか。
「うるさいですね!」
コイツのせいで、僕の秘密がピンチです。
「はいスイマセン!」
涙目になったティンが謝ってきます。
「さて、困りましたね。ティンさん、死んでくれますか?」
「えぇ! 嫌ですよ! というか無理ッスよ! 自分不死身なんで」
「ですよね。さてどうするか」
僕は考えました。殺すことは出来なくとも何処かに隠すことは出来るかもしれません。
どうやって隠すかを考えます。実に面倒です。
大掛かりなことをして僕が見つかるわけにもいきませんし、四天王という有名人がいなくなるのですから大きな騒ぎになってしまうでしょう。
「やはり無理ですね」
考えるのも面倒になった僕は諦めました。
「ティンさん」
「ハイッ!」
薄い胸を張って、ティンが敬礼します。死んでくれとか言いましたから緊張しているのでしょう。
僕はティンの前に人差し指を立てて言いました。
「いいですか? ここで見たことは誰にも話してはいけません。僕のことはもちろん、ピンク髪の僧侶が来たことも秘密です。魔王城に進入者があったことは、モンスターや宝箱などからバレるでしょうがまぁいいです。ここには誰も来なかった。誰に聞かれてもそれで通して下さい。いいですね?」
「ハイッ!」
「いい返事ですね」
「ハイッ! ありがとうございます!」
確実ではないですがひとまずこれでいいです。気が変わったらマナポイントが回復し次第、消してしまえばよいのですから。
「では。僕はこれで」
「ハイ! 師匠!」
師匠? いやそんなことより。
歩いていく僕の後ろにティンがついてくる。
「ついて来なくていいんだけど」
「いえ、お供させてください」
どうやらまた面倒くさいことになったみたいです。
魔王軍の秘密兵器(以下略)を読んでくださり誠にありがとう御座います。
読んでくださる貴方様のおかげで僕は小説が書けています。次話も是非読んで下さいネ。
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