第三十三話 謁見
魔王城で魔王様が待っています。
僕一人なら、秘密の通路を使うのですが、ティンがついて来るとなると表から行くしかありません、士官学生が四天王同伴で魔王様に謁見?
いやいやそれは色々とマズいです。
流石に注目を集めてしまいます。魔王様はどういうつもりなのでしょう。
僕の心配は、ティンの言葉であっさり打ち砕かれました。
いや、打ち砕かれたというか混乱が増したというか。
「ご主人様。秘密の通路があるのでしょう? 謁見は城の者達は知りませんからこっそり行きましょう。秘密はギリギリ守られたままです」
「なんでそれを?」
「魔王様から聞きました。さあ行きましょう」
魔王様は自ら秘密をバラしたらしい、一体どこまで?
ティンを連れて秘密の通路へ、誰にも会わずに魔王の間に入ります。
隠し扉を開けると待っていたのは魔王様、それにユリとタケミカヅチさんと、もうひとり知らない人がいます、メンバーを見るにこの人が最後の四天王様なのでしょう。
姿を見たことはありませんが、有名な方ですので聞いたことはあります。名前はたしかタイラント=フレイム。
僕に気づいた魔王様が、ズカズカと歩いてきます。
「待ってたよ、元気そうで何より。さぁ顔をよく見せてごらん」
魔王様が僕の頭をなで、ほっぺをゆるくつねったりしたます。
四天王様達が見ているのに恥ずかしいです。
「うんうん、良かった良かった。無茶をしたね」
「申し訳ございませんでした。僕は……あの……」
「よいよい。秘密を守ろうとあがいた結果、名前をつけ、学校に行き、任務を遂行したのだろう」
魔王様は玉座の前まで歩き、向き直って片手を前にかざします。
するとティンも含めてそれまで、立って談笑していた四天王達が横に整列して膝を付きました。僕は慌てて列の後ろで同じように膝を付きます。
「よい。面をあげ、楽にせよ」
玉座に座った魔王様が言います。
するとティンは床に座り、ユリは少しだけ浮いてあぐらをかき、タケミカヅチ様は姿勢はそのまま顔をあげ、もうひとりの四天王は、何処からか出してきた小さめの椅子にドカっと座っています。明らかに椅子と身体のサイズが合っていません。
僕は少しだけ迷って、床に座ります。
「坊や、こっちに」
呼ばれてしまったので魔王様の横に立ちます。
「さて、皆に紹介しておこう、この子が魔王軍の秘密兵器だ」
僕は魔王様によって四天王の皆さんに紹介されてしまった。魔王様は一体どういうつもりなのでしょう。
「あの、魔王様」
僕が口を挟もうとすると四天王最後の一人、タイラント様が立ち上がります。はずみで椅子が倒れました。
「魔王様ッ! 秘密兵器というのはは四天王よりも偉いのですか?」
一瞬の間ができましたが何事もなかったかのように、魔王様は説明を続けます。
「秘密兵器は秘密兵器だ。当然役職などはない、坊やは一般の魔族として士官学校に通っている。今階級は?」
「子爵です。魔王様」
魔王様に振られて僕は答えます。それを聞いて魔王様が続けます。
「だそうだ。学生としては上位だが当然四天王のほうが階級としては、遥かに上位だ。これで満足か? タイラント」
「はっ」
タイラント様は返事をして椅子に座りなおします。
「それで……本題に入るが、秘密を秘密のままにしておくのに色々と不都合が生じてな、いっそ公にしてしまおうかとも考えたが、それももったいないので、ここにいる者達だけに話すことにした。すでにティンベーヌには色々と世話をさせておる。お前達も坊やから依頼があれば何かと手助けしてやってほしい」
「はい! わかりました」
「承知しました」
ユリとタケミカズチ様の返事。タイラント様は返事こそしませんでしたがうなずいています。
「さて、私からの用件は終わりだ。お前達から質問はあるか? 答えられる範囲で答えよう」
「はいはーい」
手を上げたのはユリだ。
「トオフ君は魔王様の実子でありますか?」
「違う」
「では誰の子ですか?」
「秘密だ」
次に質問したのはタケミカズチ様。
「彼の実力はいかほどなのでしょうか、それなりの実力者であることは認めますが、秘密兵器というのは大仰なのでは?」
「秘密だ」
ティンベーヌも手をあげた。
「トオフの好きな食べ物はなんですか?」
「あいにく知らないね。……タイラント、お前はもう何も質問はないか?」
ティンのどうでもいい質問をかわし、タイラント様にうながします。
タイラント様は少し考えてから、こう聞きました。
「今士官学校に通っているとのことでしたが、秘密兵器というのであれば目立つ行動は避けるべきでしょう。退学させたほうが良いのでは?」
四天王とはいえ勝手なことを言う人だ。いや、言っていることは正しいのかもしれない。
僕は黙って成り行きを見守る。
「退学というのは返って目立つ。しかし成績優秀で階級が上がっていくのも目立つだろう。怪我もしたしこのまま休学ということにしようと思う。だからタイラント、余計なマネはするな」
「ふふふ、何もしやしませんよ魔王様」
こうして僕は休学になった。
ティンベーヌは魔王様から僕の世話を命じられ、ユリからは色々と質問された。
魔王様はお答えにならなかったし、僕も僕自身について詳しくは知らないので多くの質問は「秘密です」と答えておいた。
答えてあげたのは好みのタイプについてぐらいだ。
勿論答えは魔王様と答えておいた。
長く美しい髪。睫に彩られた目。大きな角。魔王様よりも美しい魔族はいないだろう。
「さて、坊や。聞かせてちょうだい、ことの顛末を。フォルカスといったかね、坊やの先生から一応聞きはしたし、考察もしたが坊やの口から聞いておきたくてね。それとフォルカス達には坊やの事をみだりに話さないよう、口止めはしておいたから安心していい」
「あの、魔王様、念のため確認させて下さい。皆無事なんですか?」
四天王達を退出させた後、僕と魔王様は話をした。
ティンベーヌから聞いていた通り、みんなは無事とのこと。
みんなの中にクリームヒルトは含まれていないが。
「クリームヒルトといったか、勇者の仲間だね」
「はい。そうです」
今の僕はヘビに睨まれたカエル。いや、ドラゴンに睨まれたスライムのようなものだ。
僕という魔王軍にとっての秘密が勝手をしたのだ。休学ということにしておいて秘密裏に処分されてもおかしくない。
「ずっるーーーい! 坊やったら! 私より先に勇者パーティーと戦って! しかもメンバーの一人を魔族にして一緒に学校に通っていたなんて! そういう楽しそうなことするなら私も混ぜてよ!!」
「え?」
いやいやいやいや。
「いやいや、魔王様、魔王様は魔王様ですよ。今更学校には通えないでしょうよ」
「そこはどうとでもします! 何せ私、魔王ですから、私が入学すると言えば誰も断れないはずよ」
この魔族無茶苦茶いいますね。
「とにかく、四天王達の前でも言ったように休学よ。これからは危ないことをしないように。いくら坊やでも正面から戦うには勇者は危険な相手なの。そーいうのは四天王と私に任せておきなさい。坊やは私が万が一ピンチになったら颯爽と駆けつけてくれればいいの! わかった?」
「え、あ、はい。分かりました魔王様」
こうして僕は処分もされず、名付けやクリームヒルトのことも半ばうやむやになった。




