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第三十一話 クリームヒルト視点②

 覚えている。アタシはちゃんと覚えている。


「どうして、ハルト君?」


 彼は勇者。二人目の勇者のハルト君、彼はたしか四天王に負けた後、仲間集めとレベルアップをすると――? 


 え? つまり。


「どうしてもこうしてもないさ、早くレベルアップする為にはモンスターよりも魔族を狩るほうが効率的だしさ。見てよオレのパーティーメンバー、残念ながら女の子がいないんだけど、皆優秀でね。特に索敵が上手くて魔族を見つけてくれる――」


「まって、ちょっとまって。あの子供も殺したの?」


「子供? そういえばいたね。そうだよ殺したよ。そりゃあオレだって少しは良心が痛んだよ。魔族とはいえまだ子供の見た目だったし、でも魔族なら将来的には人類の敵じゃん? やっぱ勇者としては魔族は根絶やしにしないと。あ、そうそうちょっと待ってね。この魔族を今経験値に変えちゃうから」


「ダメ」


 アタシはハルト君の手首を掴んだ。彼の剣にはまだ新しい血がついていて、魔族の女の人は足が片方切れていて、尻餅をついている。


「魔法使いちゃんどうしたの? あれれ? 後ろに魔族が。それに魔法使いちゃんにも小さな角が生えてるじゃん。どうしたのこれ」


 どうしよう。アタシはどうしたらいいんだろう。

 決まっている。ハルト君に協力しなければ。

 今なら、彼の力を借りることが出来ればトオフを殺せる。


 そうだ絶好の機会だ。

 今こそ勇者様の復讐を成し遂げるとき。


「ハルト君お願いがあるの彼女は見逃してあげて、無抵抗の人を斬るなんて勇者のすることじゃないよ」


「魔法使いちゃん。これは人じゃなくて魔族だよ」


「そうねごめんなさい。ともかく許してあげて」


「はー別にいいよ」

 ハルト君は剣を鞘におさめた。

 そして言う。


「おい、シュンスケ。お前にゆずるわ」


「わかった」


 ハルト君が言うと木の上から降りてきた人が、鋭いナイフで女性の胸を突き刺した。


 即死だ。悲鳴をあげる間もなく女性は死んだ。 

 命がいともたやすく消えてなくなる。


 ナイフを引き抜いた男。シュンスケと呼ばれたその人は獲物を見るような目でアタシを見て後ろに下がる。ナイフは手にしたまま、鈍い光を薄暗い森の中に放っている。

 横にはもう一人、魔法使いだろうか僧侶だろうか、杖を持った男もいる。


「さて、オレからも聞きたい。魔法使いちゃんはオレ達の敵ってことでいいのかな? さっきから後ろでコソコソしてるのは魔族達だろ? 声も聞こえていたしもうバレてるから出て来いよ」


「君が勇者かい?」

 茂みの中からトオフが出てくる、トオフだけが。

 先生とサルーノ君。あとよくわからない先輩はいない。


「そうだとも! オレが勇者だ」


 二人とも笑ってはいるが、殺気だっているのがわかる。


「赤と白の髪。お前がそうか……なんで魔法使いちゃんと一緒にいる?」


 トオフは答えない、代わりに――。

「もう魔族狩りは十分だろ、見逃してやるから帰るんだな勇者」


 と言った。


「ハルト、気をつけろ、姿を消しているがまだ仲間がいるぞ」


 ナイフの男が言って、ハルト君の近くに。杖の男も一緒だ。


「姿を消したか、シュンスケ探せるか?」


「やってる。まだ近くにいるのは間違いないが」


 シュンスケと呼ばれたナイフの男は周囲をきょろきょろ見て目を尖らせている。

 

 多分この人は盗賊(シーフ)。いや暗殺者(アサシン)かな。


「おい、魔族ごときがオレに見逃してやるだと? 偉そうなことを言うな。お前はオレが殺す」


 ハルト君は剣を抜き放ち臨戦態勢。


「仕方ないですね」

 トオフは近くの木を蹴ってへし折り、抱えた。

 木は人の胴回りよりも太くあんなものが当たれば無事じゃすまない。

 やはりコイツの力は普通じゃない。魔族としてもかなり上位だ。


「ふん!」

 抱えた木、最早巨大な壁のようなソレを真っ直ぐに振り下ろす。

 アタシは姿勢を低くして腕で顔をかくし、衝撃にそなえる。


「かまいたち」

 杖の男の呪文。さらにハルト君の剣。

 巨木があっさりと空中分解される。


「オレのレベルは20。レベル20はレベル1の二十倍。……強い」


 ハルト君の振り下ろした剣を、両手で挟みこむようにしてトオフが止める。真剣白刃取りというやつだ。


 今なら私の魔法が当たる。


「ハルト君。アタシは味方よ。今それを証明する。フェニックスフレイム!!」


 魔族になって強化されたアタシの魔法。

 トオフが避けようと剣から手を離し、バックステップするが少しくらいならこの魔法は誘導する。

 直撃し、余波で森の木々が燃えた。


「クリームヒルト! 邪魔をするな!」


 トオフに名前を呼ばれ、アタシは動けなくなる。

 というか今のをくらってあいつなんで生きてるの?


「星の煌きたる宇宙の(ことわり)よ。万物万象をつかさどる原子よ。我が意、我が(めい)に従い、事象を転覆させよ! 原子分解!」


 杖の男が唱えた呪文。なんだかとんでもない魔法だというのは分かる。


 トオフの立つ周囲一帯の土や木々、飛んでる火の粉さえ消滅した。しかし、肝心のトオフは無傷のまま。


「なんなんだよオマエ!?」


「落ち着けマサヨシ。他の呪文を試すんだ。あいつだって無敵じゃない」


 ハルト君、杖の男マサヨシ、ナイフの男シュンスケ。

 三人ともトオフに注意を払っている。トオフの動きに注目している。


 マズイ、なんだかとってもマズイ。


「ふむ。三人ともそうか、チートオフ」

 

 トオフが何かを唱え、ハルト君へと無造作に歩いていく。

 高まる緊張感をアタシも感じている。三人も同じはず。


 全身が小刻みに震える。ああ、怖いと体が震えるのって本当なんだ。

 鼻の奥がツンとして、涙や鼻水が出そうになっているのが分かる。


 きっとハルト君は死ぬ。勇者様と同じ、死なないハズの勇者が死ぬ。

 ハルト君は比喩抜きに、死なないってことが能力みたいだけど多分無理。

 

 背後から音もなく飛んできた飛翔体。黒い矢のようなソレに気づけたのは偶然。

 

 姿を消している先生か先輩かサルーノ君のうち誰かが放ったのだろう。


 アタシは、とっさに――。

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