第三十話 はぐれ魔族を探して
人間の数は多い。具体的な数はわかりませんが魔族領に隣接している共和国と神霊国は魔族領よりもずっと土地が広く、多くの人間が豊かな生活をしていると聞きます。
もし戦争にでもなったら魔族達も無事では済まないでしょう。
魔族にとって幸運だったことは魔族には国という概念がなく、人間達は単一の種族でありながら魔界に4つの国を作り、お互いを牽制し合っている。ということです。
「それで先生。どの国に向かうのですか?」
出発した僕たちは山道を歩いています。人間に見つかっていいように僕以外は頭を何かで隠しています。
クリームヒルトは帽子を、他のメンバーはフードをかぶっています。
「共和国だ。このまま山頂に出たところで国境を超える。山の中というのは何かと不便でな、はぐれ者とはいえ多少は人里近いところで暮している者が大半だ」
山の峰。共和国と神霊国の境目を進む僕は登ってきた道を振り返ります。
高い山です。雲が下にあります。
僕の前にフォルカス先生、僕の後ろに列になって他のメンバーが歩いています。
「先生。ところではぐれ者ですか、彼らは何故連絡が途絶えたのでしょう」
「理由はいくつか考えられる。おっとそこの岩に注意しろ、足がすべるぞ」
「はい」
「まず寿命。だがこれはない、複数の者が同時期だからな、次に反乱」
「反乱ですか?」
「軍が一番恐れているのはこれだろうな、今の魔王様は先代同様に穏健なお方だ。はぐれ者からしたら自分達の助けが一向にこないわけだから、それぞれが結託して、勢力をつくる。といった想定だ」
「ですがそれは」
「ああ分かってる、これも現実的じゃない。はぐれ者たちとのコンタクトは軍の技術があってやっと出来ることだ。生活が精一杯のはぐれ者たちに、お互い連絡を取り合って人間ないし、現魔王様に牙をむくとは考え難い」
「ではいったいどのような原因で」
「さあな。わからないから調べにいくのだ」
幸い、ひとつめのスポットまでは誰にも見つからずにこれました。
人間の国といっても人間は町や村といった暮しやすい地域に集まって生活していて、不便な山間などで人間に接触することは稀です。
山の中を切り開いたのでしょう。
丸太で出来た質素な小屋。川を引いてきた水路、とそれに隣接する畑。
しかし誰の姿も見当たりません。
「ごめんくださーい」
声をかけても誰も反応しません。
ここに住んでいたことは間違いなさそうです。ですが、あまりにも気配がない。生きている者が生活している気配が。
「フォルカス先生。来てくださいまし」
ヘカティーニさんが何かを見つけたのか、森の中から出てきました。
「こちらです」
フォルカス先生を呼びにきたヘカティーニさんに連れられて、結局全員が小屋の裏手、森の中を進みます。そしてほどなくして。
「キャッ」
クリームヒルトが小さく悲鳴をあげる。
「死んでるね、それも日がたっている。それにこの傷。他殺だね」
冷静にサルーノ君が見たままを述べます。
「魔族を殺す。只者じゃないな」
拭いたメガネをつけながら先生が歩きだします。
「次に行く。ついてこい、少し急ぐぞ」
駆け足になった先生に続いて僕。後ろにクリームヒルトが続きます。クリームヒルトの後ろはサルーノ君で、最後尾にヘカティーニさんが続きます。
険しい山の中を馬車の全速力程度の速さで走ります。
次のポイント、その次のポイント、さらにその次。
はぐれ者がいたとされるポイントには確かに魔族が暮していた痕跡はあっても肝心の魔族が暮していません。
居たとしても見つかるのは。
「毛布にくるまったままです。寝ているところを一突きにされたみたいですわね」
ヘカティーニさんが見つけた遺体。これで何人目だ?
「くそっこんな幼い子供まで」
珍しく、サルーノ君が怒りをあらわにしています。
「次だ」
冷静に先生が言います。
移動して、遺体を見つけ。移動して遺体を見つけます。
死因は大抵刃物によるもの。切り傷なんて生易しいものではなく、首や胴が分割されています。
他には魔法とおぼしき火傷があったり、現場の状況などから争そった形跡も多々ありました。
寝込みを襲われている場合も、家ごと燃やされていることも。
また足跡の数から相手は恐らく三人組であることも。
予定では休憩をはさんでいるはずですが、先生は何もいわず、次から次に移動を繰り返しています。
誰も文句を言わずについて行きます。ひたすら行軍。
食うのも寝るのもやめて走り続けます。
途中から現場検証などもやめました。
「遺体がまだ新しい」
それだけを言って先生は次に向かいます。皆なにも言わずについて行きますが、緊張感だけは高まって行きます。
正直、つかれましたね。
ですが、仲間が殺されているのではあれば止めねばなりません。
森の奥、もう国境沿いに国を半周以上回ったでしょう。
川の音に混じって女性の悲鳴が聞こえます。
「うおぉぉぉぉ!」
クリームヒルトが両腕から炎を出しならが突撃します。
子供の遺体を見たときからクリームヒルトは少し様子がおかしかった。
あれはハーフでしたね。魔族と人間の合いの子、魔族ならば見た目と年齢が釣り合わないことも多いのですが、あれは紛れも無くハーフの赤子でした。
「よせ、一人で先行するな!」
先生の制止を振り切ったクリームヒルト、川のほとりで今まさに女の魔族に剣を突きたてようとする男に襲いかかり――。
襲いかかろうとして、止まります。
止まって、立ち尽くしている。
「なんで?」
「そっちこそどうして魔族と一緒に? 魔法使いちゃん」




