第三話 魔王城への侵入者
「あとの問題は、剣か」
――装備品を売ることは勇者をうっかり殺してしまってから、すぐに決めました。
死体の処理が終わったあと、家の中で勇者の鎧とドワーフの斧、そして勇者の剣を調べることにしました。
魔王軍に配布される勇者図鑑によると、勇者の鎧は――
「えっと……貴重な金属で作られた品。(ドワーフ作)ふむふむなるほど」
ドワーフの斧。以下同文。
「オーケーこれなら売っても大丈夫」
あとは剣です。
勇者の剣。
――女神の上位存在、神によって創られた剣で、この世に一つしかない。
「あかんやん」
僕は図鑑を本棚にしまうと、ため息をつきました。
鎧と斧はまぁいいでしょう。貴重な金属で作ったとはいえ、普通の一品ものでしたら各地の鍛冶師やドワーフが作ってはいます。しかし神が創った剣となると模造品すら難しい、正しくこの世に一振りしかない剣です。
「この剣は……市場に出せないですね」
ひとまず僕は本棚の空きスペースに勇者の剣を置いて、それを隠すように本をみっちり入れました。
「本棚が奥行きのあるタイプでよかったです」
万全とはいえませんが、この家に寄り付く人も魔族もいませんのでまぁいいでしょう。
こうして、剣の問題は棚上げになったのでした。本棚だけにね。なんつって。
「おー寒い」
誰か、突っ込んでくれる友人がほしいものです。
「ダメダメ。僕は秘密兵器なんだから、孤独は友達」
唯一僕の話し相手は魔王様だけです。ですが魔王様はお忙しい身ですし、この問題は魔王様にも話せません。
「でも差し入れをするぐらいいいよね」
町から帰ってきた僕は、家の掃除をしたのち紅茶を魔王様に渡すため、家を出るのでした。
……。
「着きました」
今日も魔王城の姿は実に強そうです。中には数多くのモンスターや魔族の他、四天王様や、魔王様もいるのですから、王国軍やギルド、勇者が攻めて来ても絶対に大丈夫でしょう。
まー勇者は死んだのですけど。
正面から入ると長いダンジョンが待っていますから、僕は裏口からひっそりと、おや?
「誰かが入って行きますね」
どうやら人間のようです。それも一人。
ええ良いのです。無謀にも一人で来るとは、魔王城で死ぬがよい。
ですが……。
「見覚えがある。あいつは……」
僕はこっそり後ろをついていくことにしました。
フードをかぶった人物は小柄で、どうやら女性のようです。
僕は気づきました。あの人は魔王様に会わせてはいけない人です。
「あ、まずいな」
彼女は僕に気づく様子もなく、どんどん魔王城を進みます。途中ミミックという宝箱に擬態したモンスターに苦戦しますが、バリアを張ったあと、バリアの中から即死呪文を唱え倒していました。
「トラップやモンスターで体力が減っても回復魔法で回復しているし、結構進むかもな」
僕の予想があたり、彼女は多くの魔法を駆使して、四天王の部屋まで来ました。僕は大きな柱の影に隠れてました。四天王様ならばきっと倒してくれるでしょう。そうすればなんの問題もありません。
「よく来たな! 我は四天王が一人、盾のティンベーヌ!」
クリクリとした瞳にあどけない顔、いい意味で幼さの残るティンベーヌ様が自慢の盾を構えます。僕よりも小さいティンベーヌ様が盾を構えるとすっぽりと隠れてしまい、どうやっても攻撃が通りそうにありません。
「大いなる神よ! 私の無力を許すな。死を願う私の罪を許すな。ジ・エンド!」
侵入者の女が暗い目をして呪文を唱えます。
バタン。
地面に倒れるティンベーヌ様、女は先を急ぐように歩きだします。ですが、ここからが本番。
「まだまだぁ!」
シュバッと跳ねるようにしてティンベーヌ様が起き上がります。
「今度はこちらの番だ!」
盾を構えたまま、流星のように突撃するティンベーヌ様、当たればひとたまりもないでしょう。
しかし、ティンベーヌ様は全く見当違いの方向に飛んでいきます。そして壁に激突して、すっぽりと埋まってしまいました。
「なんで生きてるのよ!」
道具袋から小さなビンを取り出した女。ポーションの類でしょうか、紫色の液体が入っています。
「死ね!」
女の投げたビンが、壁に埋まったままのティンベーヌ様のおしりにぶつかって割れます。そういえば壁に激突した拍子で、ティンベーヌ様のスカートがめくれてパンツが丸見えです。
おやおや、ティンベーヌ様のパンツが溶けだしました。いいえ、違います。
あ、いやー違いません。確かにパンツも溶けて可愛いおしりが丸出しですが、パンツだけではありません。液体のかかった足などの皮膚が煙を出しながら溶けていきます。
「ミスリルの鎧すら溶かす猛毒ですの。魔王に使うつもりだったけど、こんなところで使ってしまうとはね」
フードを脱いだ女が、勝利宣言とも取れる言葉を言いました。あんな危ないものを魔王様に使うつもりだとは、とんでもない人です。魔王様のお肌が荒れちゃいます。
でもまだまだです。ティンベーヌ様を甘く見すぎです。
去りゆく女。あれ? まだかな、ティンベーヌ様。
おーい四天王様ー! 盾のティンベーヌ様!
女が部屋から出て行きそうです。仕方ありませんね。
「そこの僧侶、その先に進むな!」
なかなかティンベーヌ様が起きてこないので、柱の影から僕は出てきました。そしてピンク髪の僧侶に声をかけました。
「はー本当はダメなのに。秘密兵器失格」
「はっ お前は!」
振り向いた僧侶は驚いた顔をした後でニヤリと笑います。口が大きく歪んで気持ち悪いほどの笑顔です。
「見つけた。勇者様のカタキ。この前、家に居なかったから魔王城に来れば会えるかと思いましたが……正解だったようなのね」
なるほど、お目当ては僕だったようですね。
「家に居なかったから? もしかしてアナタ、僕の家を荒らしました?」
そうなのです。町から帰ってみると家の中が荒らされていました。
剣のある本棚は無事でしたが、窓ガラスは割られ、テーブルはひっくり返されていました。僕は掃除をしなくちゃならなかった為、魔王城に来るのが遅くなってしまったのです。
「死ね!」
僧侶がピンク色の髪の毛を振り乱しながら呪文を唱えます。僕の身体は特別製なので大丈夫かもしれませんが、念のため防御はしておくべきでしょう。
「くそー。凄く痛かったぞ」
後ろで声が聞こえます。ようやくティンベーヌ様が起きたようです。
「おまたがスースーするー」
「ジ・エンド!」
僧侶の即死呪文が飛んで来ました。あの呪文は盾すら貫通しますが、対象は一度に一人だけです。この場合の対処方法は……。
「ぐえっ」
「ティンベーヌシールド!」
素早くティンベーヌ様の近くに移動した僕は、彼女の首根っこをつかむと、迫り来る即死呪文目掛けてぶん投げました。
四天王が一人、盾のティンベーヌ。その盾とは彼女自身を意味します。魔界最高の耐久力と蘇生力を誇る彼女は正に、最高の盾。
「よくも僕の家を荒らしてくれたな! 魔王様からもらった大事な家を!」
僕は掃除が嫌いなので、日頃から散らかしたり物を必要以上に置かないように気をつけているというのに。
僕に掃除をさせた罪は重い。
「チートオフ」
僕は、僕だけの呪文を唱える。
魔王軍の秘密兵器(以下略)を読んでくださり誠にありがとう御座います。
読んでくださる貴方様のおかげで僕は小説が書けています。次話も是非読んで下さいネ。
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