第二十八話 ヘカティーニ=サンダルフォン
ヘカティーニさんは「うふふ」と笑いながら近づいてきた。
美人な人が笑っているから絵になるのだけれど、なんだかちょっと怖い。
「あら、逃げなくていいのよ。とって食ったりしないわ。それよりもここに来た君に興味があって」
ヘカティーニさんは僕の顔を覗き込むと、角の無い頭を触って鼻をつまんだり、ほっぺをひっぱったりした。
判定魔法が正常に作動していれば、今の行為でヘカティーニさんは失格になるはずだが、そうはならない。
「ここに来たということは隠蔽を見破ったのか、あるいはそう――君もハッキングしたのか、それも先生にもわたくしにも気づかれずに、ね」
ひとしきり触って満足したのか、離れたヘカティーニさんは椅子に座った。
「君すっごく強いんでしょ? この前シャネタンと暴れていた子もかなり強いと思ったけど君はそれ以上。ちょっと次元が違う領域にいるわね。君、何者?」
「別に、少しだけ探知能力に秀でているだけの子爵級ですよ。ヘカティーニさんが気にするほどの力は僕にはありませんよ」
やばい。この人はダメだ。
タケミカヅチさんもカンが良かったけど、この人はそれ以上。
魔法を使ったりしなくてもかなりの情報を相手から読み取れる人だ。
「ふーん。そういうことしときましょうか、今は、ね。その代わりお話しましょうよ。どうせこのまま時間を潰すつもりだったんでしょ?」
「元々そのつもりでしたのでOKしたいのですが、ちょっとヘカティーニさんと会話するのは僕にとって危険かもしれません」
ちょっと認識を改める必要があります。
「あらどうして?」
「僕は秘密の魔族なんです。どうもヘカティーニさんはカンが良すぎるみたいですので話をするだけで色々バレてしまう。それは避けたい」
苦しい言い訳。言い訳にもなっていないのかもしれません。
これでは先ほど誤魔化したことが真実だと言っているようなもの、しかしこれ以上僕のことがバレるのは避けたい。
「君は……頑張っている人なのね。偉いわね」
ヘカティーニさんは笑って言った。そしてちょっと考えて……。
「でも……でもそうね。君が誰かのために秘密を守っていても世界は君以上に秘密を抱えているわ。もし君が世界の抱えている秘密に触れてしまったとき、君が頑張れるか心配。だってきっと秘密を守るのが馬鹿馬鹿しくなってしまうから。秘密を守る為という原動力はきっと不安定なものだわ」
僕は急に不安になった。ヘカティーニさんが僕を動揺させようとしていないことぐらい僕にでもわかる。
本当のことを言っているだけ。
急に足元がなくなったような不安を感じた僕は、それでも。
「それでも僕は秘密を守らないといけないのです。絶対に」
秘密兵器としての役割。それが僕の存在理由、魔王様のためにも僕自身のためにも魔王軍や魔界全体のためにも僕は僕の役目を全うしなければなりません。
「それでは、失礼します」
教室を出た僕はほどなくして騎士級魔族に捕まった。
今回の試験、子爵級からは誰もクリアした生徒は出なかった。
職員室
「例の新入生、途中で消えたよ。直ぐに戻ってきたけど」
「消えた? この学校からか?」
「いや校内にはいたよ、突然観測出来なくなったんだ」
「まさか」
「まず間違いない、サンダルフォンと接触したはずだ」




