第二十四話 淫魔族
サキュバスというのは淫魔族の女性をさす言葉です。
淫魔族はハーレムをつくる習性があります。習性というか生き方、闘い方と言ってもいいかもしれません。より強固なハーレム、強くて優秀なハーレムを作るほど、長である淫魔が強くなるのです。
強い淫魔というのは、魅了されたハーレムの奴隷達だけでも厄介なのに、サキュバス本人も非常に強いというのがウリで、魔界でも一際勢力の大きな一族です。
あと淫魔族に生まれた男子はインキュバスというのですが、若年の間にサキュバスのハーレムに取り込まれてしまうので日の目を見ません。
淫魔とは、ほぼ女系の一族なのです。
「そんな冷たいこというなよー。あぁン? もしかしてサキュバスの奴隷てェのが過酷なもンだと勘違いしてるクチかぁ? 大丈夫だよ。大昔と一緒にすンなよ。基本自由は保障されてる。オレに忠誠を誓うのと、たまにオレに体液を分けてくれればいい。な? 簡単だろ?」
授業態度は一切関与しない方針なのか、フォルカス先生は一向に注意してくれません。
「くそ。無視かよ。おいサルーノ。お前からも何か言ってやってくれェ」
シャネタンが前の席の男子に呼びかけると素早い動きで、呼びかけられた男子、サルーノというらしい。が僕の横に座ります。
左はシャネタン、右はサルーノに挟まれました。
フォルカス先生は助けてくれそうもありませんし、このまま無視するほうが逆に面倒ですね。これから苦楽を共にするクラスメートですし、少しは彼らの話も聞いてみましょう。
「ボクはサルーノ=ジュン。話は聞かせてもらったよ。シャネタン様の奴隷になるのが嫌なのかい?」
近い近い近い。
シャネタンもそうだが、コイツも密着してきやがる。人と話すときに目を合わせるのはいいが、鼻と鼻がくっつきそうな距離で話すのは止めてもらえないか?
「うるさい。近い。離れろ」
思わずそう言うとサルーノは離れてくれた。シャネタンは「冷てェー」と言って笑い。逆にボクの肩に腕を回してきた。
「トオフさん。ボクはインキュバス。囲っているハーレムはない。将来的には判らないけど今はシャネタン様の奴隷をしている。シャネタン様の奴隷になれば収入は安定するし、軍に配属されてからも一緒の部隊に入れてもらえる確率がかなり高い。シャネタン様は間違いなくこれから勢力を伸ばす淫魔だよ。奴隷になっておいて損はない」
淫魔族だけあってサルーノもかなり美形です。美しい相手に言い寄られて、なびいてしまう人の気持ちががわからないでもありません。
ですが。
「すいません。僕は魔王様以外誰の下にもつくつもりがないんです」
僕の言葉を聞いて、シャネタンがあからさまに嫌な顔をして離れます。
「うわー、トオフおめェ魔王信者かよ。現魔王のどこがいいんだよ」
「現魔王様は素晴らしい方ですよ」
「どこがだよ。先代と同じ平和主義。魔族は人間殺してナンボだろうが」
「魔族は自由が信条。殺戮だけが魔族の生き方ではありませんよ」
「そりゃ自由に殺せって意味だ。平和なんてくだらないものを大事にしてるから人間共に好き勝手されるんだ」
「させませんよ。そのために先代様は士官学校を作った、そうでしょう?」
「まどろっこしいってェンだ。好きに殺し、好きに犯す。それが魔族だ」
「それでは獣と同じです。魔族こそ誇り高くあらねば」
「あっそ、わかった。わかった。せっかく強そうなンが入ってきたと思ったのによ。もういいよ。もう二度と誘ってやらねェからなお前」
そう言って僕は解放されました。
シャネタンはズカズカと去っていき、サルーノは僕におじぎをしてシャネタンについて行きます。
今度はクリームヒルトを勧誘しに行くようです。
士官学校、それもDクラス。人数こそ少ないですが、かなりクセの強い人たちが集まっているようです。僕は角がないってだけでかなり目立ちますし、クリームヒルトは性格に問題ありです。なにごともない平穏な学生生活というのは難しそうですね。
「おい、角の小さいクリームちゃん。ちょっとツラかせや」
「見て判らない? アタシ真面目に授業を聞いてるの。頭の悪そうな三流魔族は教室のすみっこで大人しくしてなさい」
「ああン? ンだとコラ!」
「ああ違いましたわね、ひとつ訂正しておきます。頭の悪そうなではなく頭の悪いでしたね。知性も品性もない人ってアタシ嫌いですの」
「てめェーぶっ殺す!」
先生の目の前だってのに平気で罵りあいます。
「おほん、おほん。クリームヒルトとシャネタン。二人とも元気で大いに結構。私は授業中の私語を禁止していないが、授業の妨害は困る。二人とも廊下に立ってなさい」
「上等だてめェ。シメてやる。ついてきやがれ」
「この馬鹿を消し炭にしてすぐに戻ってきます」
廊下で立てと言われた二人は教室を出て行くと何処かへ歩いて行きます。
「先生。ボクもちょっと行ってきます。校庭には騎士級の子達がいるようですし、守ってあげないと」
「サルーノ君は相変わらず優しいですね。いいでしょう行ってきなさい。ですが時には主をいさめるのも奴隷の仕事ですよ。いいですね?」
「はいっ」
成り行きを察したサルーノが、二人の後を追って出て行きます。
「さて、次は己に合った魔力の見つけ方だが……」
再開された授業は誰も聞いていません。皆窓の外の様子に夢中です。
「やれー」「殺せー」
元気な声援が飛びます。
破壊音。爆発音。誰かの悲鳴。怒号。笑い声。拍手。指笛の音。
僕は一切の関心を示さず授業を続ける先生に感心しながらも、ぼーっといい案がないか思案するのでした。
平和に学生生活を送る方法がないものかと。




