第二十三話 子爵クラス
「いいだろう合格にしておいてやる」
教官が汗を拭きながら合格をつげます。
「時間がかかりすぎよ。アタシはもっと早く終わらせるわ」
教官が僕の合格をつげると、開始の合図も待たずにクリームヒルトが進んでいきます。
「GUEEE」
僕に代わってクリームヒルトが出てきたのを見たデスオークは、ブルブルと震えるのを止め、笑い声のようなものを上げました。
クリームヒルトが相手なら勝てると思ったのでしょう。相手との力量差が全くわからないとは哀れなことです。流石に判ったほうがいい。
クリームヒルトの右手、先日までは無かった魔術紋様が殺気だって淡く光っています。
「許す。破壊すること全てを――
許す。燃やすこと全てを――
許す。力の全て解放すことを――
許す。我等が前に立ちふさがる者を許さないことを許す――」
三階席から飛び降りたデスオークがよだれを撒き散らしながらクリームヒルトに駆けていく。
断定していいでしょう。クリームヒルトとなった彼女はもう、純粋な人間じゃありません。
半魔族。少なく見積もって半分は魔族です。
「万物灰燼となせ。クリムゾンブロウ!」
発生した小さな赤い結晶がふらふらとデスオークに飛んでいく。遅すぎてよけることは簡単でしょう。しかし侮ったデスオークは手にした棍棒で結晶に殴りかかった。――愚かですね。
「VUAAA」
燃え広がった炎は断末魔すら焼き尽くし、デスオークは骨すら残さず焼き尽くされた。
「どう? アタシの勝ちね」
ドヤ顔のクリームヒルト、腰を抜かした教官。
これぐらいで大げさなんですよ、まったく。
「教官、今日はこれで終了ですか? 帰っていいでしょうか?」
立ち上がった教官は足がすべりましたとでも言いたいのか、靴の裏を地面でこすってから、
「いえ、おめでとうございます。二人とも合格です。教室まで案内しましょう」
地下から出た僕とクリームヒルトは教室まで案内されます。
「……あとはよろしくお願いします」
教官は教室の前で僕とクリームヒルトを待たせ、教室の中にいた教員と何事かを話します。
「私は編入手続きをしますのでこれで失礼します。二人とも、くれぐれも粗相のないように」
「よし、お前達、中に入れ」
先ほどのまで試験を担当していた教官が去っていき、教室の中にいた教官からまねかれます。
メガネをかけた男の教官。魔眼を強化しているのでしょうか、探知系魔法妨害のために身体に張っている障壁をこっそり強化しておきます。
「よし、カス共喜べ新人だ。オスとメス一匹ずつだ。くれぐれもイジメなどの問題は起こすなよ」
教師の適当な紹介。
周囲の座席にまばらに座る学生達はどいつもギラギラとした眼つきです。
「自己紹介をしろ」
「トオフと申します。皆様よろしくお願いします」
メガネの教官にうながされ、簡単に自己紹介をする、すると。
「おいアイツ角なしだぜ? どうやって試験突破したんだ?」
「身体でも売ったんじゃないの?」 「ギャハハハハ」
と学生達から歓迎される。全く、かわいいものですね。
「あぁん? ナメてんのか!」
怒りに火のついたクリームヒルトが練った魔力を形にしようとする。詠唱もない速度重視の炎の魔法。僕の見立てではバカにした学生では防げないでしょう。火傷全治半年ってところですかね。
「やめろ」
メガネの教官が魔力の起こりを感知し、さらには魔力干渉でクリームヒルトの魔法の発生を防ぎました。
「チイィ」
クリームヒルトの殺気がメガネの教官に向きます。
「すいません、あとで叱っておきます」
クリームヒルトの頭をつかんで下げさせます。魔族になった影響なのか、元々の性格なのか、どうも怒りっぽくていけませんね。
「ほら、クリームヒルト。自己紹介をしろ」
「クリームヒルトです。よろしく」
頭をつかんだまま自己紹介をさせる。さきほどの生徒は何が起こったかわかっていないようです。もう少しで黒コゲになるところだったのに暢気なものですね。
「よし、それでは空いているところに座れ」
僕とクリームヒルトが席についたのを確認して、メガネの教官。先生が授業を始める。
「トオフとクリームヒルト、ようこそ子爵クラスへ。騎士も男爵も飛ばしていきなり子爵からとは優秀じゃないか。私はここの担任のフォルカス、私を呼ぶときはフォルカス先生。もしくは先生と呼ぶように……では、授業を再開する」
士官学校だけあって、爵位が与えられるらしい。爵位というのは魔族の階級であって、これがそのまま軍の階級になる。
上から四天王、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士、従騎士、野良。
面倒なら人間界風にABCDEFGHでいい。子爵級魔族になった僕は、いうなればD級魔族。このクラスはDクラスということだ。
D級は人間の等級で言えば普通の英雄クラス。勇者の仲間がC級に分類される訳だから低く見られたものである。
いや、もちろん都合はいいのでこれで良いのですけど。
「なーなートオフちゃン。お前、どのクラスまでいくつもりなン? オレか? オレは伯爵を目指すぜ? 子爵ってのも悪くないけど、オレンち親も子爵だからよ。やっぱ親の背中は超えてェつーか……」
僕は教室の奥の隅。誰もいないところに座ったのに、少し離れた席の女生徒が近づいてきて一方的に話しかけてきます。
クリームヒルトは前の席に座って真面目に授業を受ける体制です。
「でなーおい、聞いてるかトオフちゃん、オレな考えたンだよ。このクラス子爵だしよ。クラスの男子を全員落としたら伯爵ぐらい余裕かなってェよ。どうよ? トオフちゃんもこのオレ。シャネタン=デカラビア様の奴隷にならないか?」
この女生徒。変な口調だし、歯はギザギザしているし何の魔族かと思いましたが。
判ってみればなんてことありません。
露出度の高い服装にこの勧誘。
「サキュバスですか、他をあたってください」




