第二十二話 試験、面倒。
タケミカヅチ様からの追求から逃れるため、魔法使いに名前をつけました。クリームヒルトに深い意味はありません、パッと思い浮んだ名前をつけただけです。
これでクリームヒルトは僕に心理的に逆らいにくくなりました。気休め程度ですが、大人しくなったところをみるとそれなりに効果はあったようです。
これで面倒ごとは終わり。そういきたかったのですが、タケミカヅチ様の提案でクリームヒルトは士官学校に行くことに。
ひとりにさせておくと何をしでかすか分かりません。というかウッカリ事故死でもされたら最悪です。
仕方なく僕も士官学校に行くことにしたのでした。いえ、実のところ本当は興味があったのです。
秘密兵器であることは僕の誇りですが、正式に軍属しておきたかったというのもあるのです。
「という訳でティンベーヌ。お前のご主人様とこっちのお嬢ちゃんは士官学校に行くことになった」
合流したティンにタケミカヅチ様が報告してくれた。
「わかった。それは別にいいの。そうなる気がしてたし。……それ、より、も! 貴女どこの馬の骨よ! 私のご主人様とどういう関係?」
「ああ、それはだな……」
「ご主人様は黙ってて!」
ティンの剣幕がすごい。
前に出て説明しようとする僕を、クリームヒルトがかばうように軽く腕を出して止める。
「チビ、お前こそ関係あるのか? アタシとコイツの間に入る資格がお前ごときにあるのか?」
「なにぉぉ! 私が誰か、知らないのか! 私は四天王の一人、盾のティンベーヌだぞぉ」
「ハンッだから何? 肩書きが自分を強くすると思ってるの?」
わかってやってるのか、クリームヒルトが挑発的に言う。
「むきィィィィィ」
足をバタバタさせてティンが暴れだす。
はーめんどくさっ。
なんとかなだめて家に帰ります。
クリームヒルトは出来れば目の届くところに置いておきたかったのですが、一緒だとティンが間違いなくうるさいです。
「わかっているとは思うが、余計なことは話すなよ」
クリームヒルトには念押しをして、学生寮にあずけました。
翌日。入学テストの日です。
校門を少し入ったところに一人の魔族が待っていました。
「来たか、貴様がトオフだな、角がないとはおちこぼれなのだろう。なぜタケミカヅチ様はこんな奴を――」
学長のタケミカヅチはテストに同席しないようです。試験は別の魔族、教官という者が担当するようです。
「――我が士官学校は、ひいては魔王軍はいつでも優秀な人材を求めている。しかしこんな時期に角なしが二匹とは。やれやれ」
無駄口が多い奴だ。いっそシメてやりましょうか。それにしても角なしが二匹?
「来たか、遅いぞ!」
「すいません、遅れました」
駆け足できたクリームヒルトには角がありません。帽子につけていた偽者の角がないのです。
クリームヒルトは僕の横に並んで整列します。
「おい角はどうした?」
「あるわよちゃんと」
かがんだクリームヒルトの頭には小さい小さい角がちょこんと生えています。
「お前これ……」
「オイ! 私語はつつしめ!」
「はい! 教官殿! ……説明はあとで、アタシだって驚いてるんだから」
クリームヒルトは教官の前でハキハキ返事をしながら、小声で僕と話しました。
説明はなくとも推測は出来ます。
名付けの副産物。魔族である僕の魔力がクリームヒルトの身体に作用したのでしょう。
「よし、ではついて来い」
前を歩く教官について行き、建物の地下へと降りていく。
「どこまで行くんですか?」
「もう少しだ。だまってついてこい。いや、今なら私語を許そう、今後一生話せない可能性もあるからな、ククク」
よほど危険なことをさせるつもりらしい、楽しみだ。
「なークリームヒルト、何するんだろうなー」
「気安く話しかけるな。アタシは強くなってアンタを殺す。昨日色々考えてそう決めたんだ」
「あっそう」
全くはずまない会話を楽しんで、長い階段が終わります。
「これより、魔王軍士官学校の入学テストを行う。お前達には我が校で捕らえてある魔獣と闘ってもらう」
「ふーん」
「あけろ」
地下にあったのは円形の闘技場、教官が小型の通信装置に話しかけると向かい側の檻が開いて魔獣が出てきた。
「高レベルモンスター、デスオーク。こいつを一人で相手してもらう、一分持てば合格だ」
勝ちほこったような顔で教官が言う。
多少の知性と、ありあまる狂暴性をもった人型のモンスター。人型と言ってもサイズは魔族や人よりもずっと大きい。
「どうした? 恐ろしくて声も出ないか? 無理もない、レベルは70だそうだからな、あの巨大な手に持った棍棒で殴られたら魔力で防いでもコナゴナだろう」
「質問があります」
「なんだ言ってみろ、リタイヤなら許可しよう」
「いや、そうじゃなくて。倒してしまってもいいんですかね?」
「ぶははは。やってみろ角なし。出来ることならな」
「んじゃ。僕が先にいくね」
うなずくクリームヒルト。
さてどうするか、これからの学生生活の為に教官からの印象は良くしておきたい。
実力を証明しつつ、かといって目立ちすぎるのも良くないだろう。平凡だが優等生より、そんな結果がベストだ。
まずは相手の間合いまで近寄る。デスオークが叩きつける棍棒が開始の号令となった。
「遅すぎる」
こんなのは当たるほうが難しい。一分持てば合格というのはギリギリの落第生付近のラインなのだろう。やはり人材不足は深刻か。
殺すのは簡単だ。しかし捕まえてくる職員さんの手間を考えると戦闘不能でとどめておくほうがいいのかな。
考えがまとまった僕に今度は横薙ぎに棍棒がせまる。
「キャッチ」
僕は棍棒を受け止めます。デスオークが棍棒を持ちあげようと頑張りますが微動だにしません。
「そして投げる!」
棍棒ごとデスオークを投げ飛ばします。闘技場の三階席に激突したデスオーク。
戦意喪失したのでしょう。起き上がったオークはこちらに来ません。僕の方を見て、ぶるぶると震えています。
「一分経過しましたし、合格でいいですか?」




