表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/36

第二十話 ギブ ア ネーム

「二人目の勇者だと?」


 魔法使いの女が言うには女神が二人目の勇者を召喚したとのこと。急にそんなことを言われても素直に信じることは出来ませんが、辻褄は合います。


「なるほどな、ずいぶん素直に話したな」


「勘違いしないでしよね。アンタのことは必ず殺すわ、アタシ達には女神様がついているの、今のはアンタが何者だろうと死ぬ運命は決まっているって教えてあげたのよ」


「ふーん」


「恐怖しなさい。アンタはむごたらしく死ぬのよ! アタシはそれを伝えに来たのよ」


 くだらない。そんなことの為にわざわざ魔族領まで来たのか。


「それで? 二人目の勇者に連れてきてもらったんだろ? どこにいる? 貴様と同じように変装してその辺にいるのか?」


「それは……」


 僕は魔法使いから少しでも情報を引き出す。そのために公園に結界を張っています。これで外部からは内部の状態がわからないはずです。だというのに――。


「ここか?」


 無造作に振り払われた剣。たったそれだけのことで僕の張った結界は切り裂かれ消えてしまいました。


「え? 貴方は?」


「俺様か? 俺様はタケミカヅチだ。お前だな? 俺様と話したいという魔族は? ティンベーヌから聞いた以上に厄介そうな奴だ」


 実物を見るのは初めてですが間違いないでしょう。静かで穏やかな魔力は弱さではなく力を研ぎ澄ました証。手にした剣からもただならぬ雰囲気を感じます。


「どうやってここに? 結界があることも気づけないようにしていたのに」


(かん)だ」


「は? カン?」


「勘を馬鹿にしちゃいけないぜ? 剣を極めていくとな、魔眼や魔法に頼らなくても色々なことが分かるようになるのさ」


 この人は面倒くさそうです。魔法使いから最低限聞くべきことは聞きましたし、この場から離れましょう。


「いくぞ」

 僕は魔法使いの手を取って歩き出します。


 魔法使いもただならぬ雰囲気を感じたのでしょう、大人しくついてきます。


「待ちな。トオフって言ったっけか? その女とどういう関係だ?」


「どうって、タケミカヅチ様には関係ないでしょう」


「確かに。しかしティンベーヌが気にするのでな、それにこの騒ぎの元凶だ。この区域の責任者である俺様としては色々聞いておきたいのさ」


 タケミカヅチ様は剣を抜いたままだ。


「断る。と言ったら?」


「断れると思っているのか?」


 タカミカヅチ様と視線がぶつかる。

 僕は自分の実力がどの程度なのか把握しはじめていました。チートを無効化できる特異性だけで、実は弱いのではと思う時期もありましたが、勇者を倒し、ティンとも十分に闘える僕はかなり強い。


 強い。それは間違いないのですが、目の前のこの人と戦って無事かどうかは自信がありません。視線を合わせただけでは力の差をはかることができません。


「ふふふ、そんな顔をするな。見逃してやる。やれやれティンベーヌもとんだ浮気野郎に惚れたもんだ。ただし、その女の名前を教えろ。簡単だろ?」


「名前――」


 そりゃ名前があれば教えてやりたいのは山々ですが、魔法使いには名前がありません、素直に名前がないことを説明するにはあまりに危険な相手です。

 仕方がありません、非常手段を取るとしましょう。


「クリームヒルト。それが彼女の名前です」







 ――瞬間。世界から色が消えた。


 ――世界との距離が無限大になる。


 ――人の時間は終わり、神の時間が流れる。


 

 人や魔族が名前を持つのは個人として存在を世界に刻むためです。名前を捨てた魔法使いが力を上げたのは、個人を捨て、魔法使いという役割に特化した存在として世界の認識を書き換えたからにほかなりません。

 まして名前の受け取り先が神であれば名前は絶対に帰ってこない。

 

 暗すぎて右も左もわからない世界で彼女の、クリームヒルトの声が聞こえます。


「アンタ自分が何をしたか分かっているの?」


「これでクリームヒルトは僕に逆らえなくなった」

 ちょっと強がって言ってみます。


「それ以上にアンタ、アタシを殺したら死ぬわよ」


 時間の止まった世界でクリームヒルトが話しかけてくる。神に観察されている嫌な感覚。


 神はこの世界にルールを作りました。

 名前を与えた者には罰を。

 名前を与えられた者が味わった痛みや苦しみを、与えた者が背負うという罰です。


 最悪の場合、クリームヒルトが死んだら僕はクリームヒルトの死を肩代わりする可能性があります。

 そこまでいかなくとも半身不随程度には、死を僕も受けるかもしれません。


 このルール、世界にかけられた呪いのようなものですがメリットもあります。名前を与えられた者は、与えた者の命令やお願いを多少強制的に効かせられるということです。


 よって子より先に死ぬ親、特に愛情の深い親などは進んで子供に名前をつけます。いまはどうでもいいことですが。


 ようするに、クリームヒルトは僕に逆らえない。僕はクリームヒルトを殺せない。僕とクリームヒルトはそういう関係になったということです。


 あと呪いを避ける為の最も簡単な方法も紹介しましょう。自分で自分の名前をつけるということ。自分の苦労は自分で背負うということですね。



「一時的な処置だ。クリームヒルトだって人間だということがバレたら困るでしょう?」


 ――世界との距離が戻ってくる。色が帰ってくる。どうやら内緒話はここまでのようだ。





 目の前のタケミカヅチ様が剣を鞘に戻す。


「いいだろう、見逃してやる。ああそれと勇者は死んでない。死んでも生き返ると言ったほうが正しいか? 肉体を消滅させても生き返るタイプの奴だ」


「何故それを?」


「サービスだ。俺様が戦った奴について聞きたかったんだろう?」


 ニヤリとタケミカヅチ様が笑います。


 僕は嫌な汗が流れるのを感じながら改めてその場を去ろうとします。クリームヒルト、ぼさっとするな、お前も来るんだよ。

 そう口に出そうとしたら。


「クリームヒルト、お前は残れ」


「え?」

 そう来たか、タカミカヅチ様の言葉にクリームヒルトが驚きの声をあげます。


「見逃すと言ったのはトオフだけだ。クリームヒルトは別だ」


「ふんっ」


 息をはくとクリームヒルトは僕とつないでいた手を振り払いました。


「アタシをどうしようっての? 騒ぎおこしたし処刑でもするっての?」


 それは困る。名前をつけた相手が死ぬと名付け親にはペナルティがある。


「いいや、人間じゃないんだそんな野蛮(やばん)なことはしない。とはいえお(とが)めなしという訳にはいかない。お前には士官学校に入ってもらう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ