第二話 魔王様との約束
「いい坊や? 坊やは魔法軍の秘密兵器。とっても強いけどいざという時のためにその役目は秘密。坊やは坊やの秘密を誰にも知られてはいけないわ。守れる?」
「はい、守ります!」
実は僕は生まれたばかりの魔族で、まだ正式な名前も与えられていません。
ですが使命のほうは最初からバッチリいただいています。
魔王軍の秘密兵器。それが僕の役割です。
今の魔王様は勇者との対決を楽しみになさっており、魔王城をそれは立派なダンジョンに造り変えました。
通路はすべて迷路のように複雑にして、各所にトラップやモンスターを配置しました。魔王様のいる玉座の間は、勇者パーティーが存分に戦えるように広く改造するなど、それは時間と予算、なにより情熱をかけて頑張りました。
ですが、万が一、強くお美しい魔王様に限ってないと思うのですが、万が一ということもあります。
ですから、魔王様はある“保険”をかけました。
それが僕です。
憎き女神が送り込んでくる勇者には特別なスキルが与えられます。
チートと呼ばれるそのスキルは正に規格外で、モンスターや魔族の命を奪うと強くなるという人間の特性も相まって、並みのモンスターや魔族では歯が立ちません。
そう聞いていました。
ですからそのチートさえなんとかすれば、魔王様がピンチになっても大丈夫だろうと僕が作られました。
僕の身体は先代魔王様や先々代魔王様の、ご遺体の一部を使った特別製だとうかがっております。
僕は魔王様の設計通りに完成し、性能も十分だそうです。
しかし問題もあります。
いくら魔王様とはいえ、先代様達の棺を開け、さらに遺体の一部を使うなどと、そんなことが知られたら大変です。
だから僕の存在は秘密なのです。
敵である人間達にバレてはいけません。
味方である魔族達にも極力接触することの無いよう、こうして魔族領のすみっこに領地をいただいたのでした。
「私の可愛い坊や、勇者が魔王城に訪れたらこっそり玉座の間まで来なさい。そして玉座の裏に隠れるのです。万が一私がピンチになったら坊やの特別な呪文で助けてね。約束よ」
これが魔王様が僕に言った。最初の約束です。
二つ目は僕の秘密兵器としての役割を隠すこと。
その他にも魔王様は僕といくつか約束をしました。
なにせ僕は魔王軍の秘密兵器なので、守らないといけない約束が多いのです。
ですが僕はやってしまいました。完全にやらかしました。
ごめんなさい魔王様。僕は悪い魔族です。魔王様との約束を破ってしまいました。
「いい? 坊や、抜け駆けはダメよ。異世界から来た勇者はすっごく強いらしいから私、楽しみにしているの。決して先走ったことはしないようにね」
魔王様の言葉が思いだされます。
今朝ポストに入っていた魔界新聞によると、魔王城に四天王の間を設置したそうです。すっごい笑顔でピースサインをする魔王様が写っています。
「これは、やっぱり秘密にするしかないよね」
昨日のうちに掃除は済ませました。
血は魔界の大地が吸ってくれましたし、胴体と拾ってきた頭部は、庭の池で飼っている魚に食べさせました。
たまに何か食べさせてやらないと池から飛び出して、僕にも襲い掛かるので困った奴です。
「次は装備だね」
僕は勇者の装備をリュックに詰めると、町に向かって歩きました。
徒歩で半日の距離に一番近い町があります。人間界の町です。
魔族と人間は仲が悪く、長い戦争中なのですが、僕の見た目は人間に良く似ているので問題ありません。
赤と白が混じった髪色はやや特徴的ですが、一般に魔族は角があるのに対して、角がない僕は少し変わった男子にしか見えないでしょう。
町が遠めに見えてきました。魔族領の方向から接近すると怪しまれるので、いつものように迂回してから入ります。
「さてと、どこで買い取ってもらいますかね」
勇者の持ち物を処分するのが目的ですから、どこでも良いと言えばどこでも良いのですが、出来ることなら魔族領から遠くに運んでもらえると気持ち的に助かります。
ここ以外の人間の町は知らないのですが、人間の町には実に様々なお店があります。武器屋、防具屋、薬屋、ギルド、宿屋、酒屋、夜のお店などなど。沢山の種類のお店があります。
基本装備を売るなら武器、防具屋ですが、ここで売ったものはお店で転売され、例え売れ残ったとしても長く在庫にあります。またここで装備買う人は、この町を拠点にしているでしょうから、魔王軍に遭遇する可能性も比較すれば高いでしょう。
そしてその時、ひょっとしたら勇者パーティーに出会ったことのある魔族がいて、勇者の装備を覚えているかもしれません。
そして報告が魔王様のお耳に入ったら……。
厄介なことです。
僕の心配のしすぎでしょうけど。少しくらい可能性を下げておきたいものです。
「さて、どうするか」
またも僕はつぶやきます。考え事をしているときの僕のクセです。
「よし、決めた」
僕は放置露天に向かいました。
道路わきに一列に並んだお店と商品。店主がいるお店もありますけど、ほとんどはお金を入れる金庫が設置してあって、店主はいません。
元は青いシートが土をかぶって汚れた場所。ここが僕のいつもの場所です。考えた末、結局このフリーマーケットを使うことにしました。
まず金庫を開け中身を確認します。
「ひーふーみー。うんうん入ってるね」
中からお金をとり出してポケットに入れます。魔界には人間がモンスターや魔族を倒しに訪れますが、勝つこともあれば負けることもあります。
敗北は死です。
僕は、家の近所でお亡くなりになった人を見つけると、身包みをはいでここで売っているのです。
相場がわからないので値段は適当です。毎回売れているので多分安いのでしょう。いくらで売ったかも覚えてませんから、盗まれたりもしているかもしれません。
「それでもお店で売るより楽チンだしね」
店で物を売るという行為にはリスクがあります。人間ならば問題ないのですが稀に身分証の提示を要求されることがあるのです。
身分証はギルドが発行していますが、勇者の『鑑定』のように様々な個人情報を調べられてしまいますので僕の身元がバレてしまいます。あと、当然ですが、この町のギルドは人間専用です。
僕が魔族であることは秘密なのです。バレるような行いは慎まなければなりません。
僕はシートの上に、勇者の鎧とドワーフの斧を置きました。丈夫な紙にそれぞれの値段を書き、紐でしっかりと固定します。
「これでよし!」
僕はその足で道具屋に向かいます。
「いらっしゃい」
なじみの店主は僕を見るとすぐに店の奥にひっこんで行きました。初めて来たときは、ここはガキの来るところじゃないと叱られたものです。
「紐と紙、あとは食器もほしいな」
ここでも小さく独り言です。
僕はお目当てのものを買うと、次のお店に行きました。
「たしか魔王様はこの銘柄が好きだったよね」
僕は魔王様の好きな紅茶を買って帰ります。自分の分と魔王様へのプレゼント用です。
実のところ、僕は紅茶の良さがわかりません。
飲めばおいしいとは思うのですが、どの種類でも美味しく感じますし、値段の違いもよくわかりません。というか他の飲み物も美味しいですし、なんでしたら、ただの水でも美味しいと思います。
なんとなく魔王様の真似がしたくて紅茶を飲んでいる僕なのです。
「さて、あとの問題は剣か」
魔王軍の秘密兵器(以下略)を読んでくださり誠にありがとう御座います。
読んでくださる貴方様のおかげで僕は小説が書けています。次話も是非読んで下さいネ。
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