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第十九話 遭遇(そうぐう)

「ご主人様ごめんなさい。やっぱり無理だって、軍属なおかつ最低でもCランク以上でないと時間は()けないってさ。私の知り合いで凄く強いってことをアピールしたら士官(しかん)学校を薦められたよ」


「そうか、ご苦労さん」


 予想どおり断られた。

 変人(まじめ)で有名な魔族、タケミカヅチ様らしい返答だ。士官学校なんて面倒なところ、行ってられません。


 それと断られたからといって素直に言う事きくような奴は魔族じゃない。


「ちょっと出かけてくる」


「ちょっとご主人様直接乗り込むつもり? 粛清(しゅくせい)されちゃうよ。そりゃご主人様は強いからひょっとしたら勝っちゃうかもしれないけど、それはそれで問題になっちゃ――」


「大丈夫、タケミカヅチ様のところに行くわけじゃない」


「ほんとに?」


「本当だ」


「もしかして女の人のところ?」


「…………違うよ」


「嘘だ」


「嘘じゃないよ」


「じゃー私もついていく!」


「いやいやダメだから」


「どーしてですか?!」


 魔王様に会いに行くとは言えない。

 四天王にすら会うことが許されない野良魔族が、どうやって魔族の頂点、魔王様に気軽に会いに行くと言えるのか。

 そこには僕の秘密がある。


「わかった。ついてこい」


 かくなる上は道中で行方を、くらまして置き去りにするしかない。



 魔王城は山の上にあります。

 親切なことに(ふもと)から入り口まで長い階段があります。

 ありえないことですが仮に普通の人間が魔王城まで辿り着いたとしても、この長い階段を上るだけで力尽きてしまうでしょう。それほどまでに長い階段です。


 山の中は城下都市になっていて、魔王城の内部から地下に降りることによって入ることが出来ます。


 つまり城下都市に入るには、一度魔王城を経由しないといけません。


 というのは表向きの話。

 あまりにも広大な地下空間には、いくつか地上への抜け道もあるのですが、その話はまた別の機会に。


 僕とティンは魔王城入り口から正規のルートを通って城下都市に入りました。


「ご主人様ぁどこまで行くんですかぁ?」


「まだ遠いよ」


 僕が目指しているのは城下都市を離れて地下空間の西。

 僕の家の地下付近です。


 魔王様の居住空間や魔王の間には特殊な結界が張られていて、あらゆる移動魔法や傍受(ぼうじゅ)魔法、探知魔法などが効きません。

 

 もちろん例外があります。

 特殊な空間魔法で作られたトンネル。

 トンネルの先は魔王の間に繋がっています。

 秘密の出入り口が地下にあるのです。


 まだまだ先ですが、どこかでティンを振り切らないといけません。できれば城下都市から出てしまう前に。


 途中、立派な門を横切ります。(へい)には魔王軍士官学校の文字。


「ここが士官学校か」


「ご主人様学校に行くんですか?」


「行くわけないだろ」


「ですよねー」


「おや?」

 魔法用の杖を持ち、頭にかぶった魔法帽子から左右に角を生やした女の魔族が、学校の方をボーっと見ています。


 どこかで見たことある気がしますが、生憎魔法使いの知り合いなどいません。気のせいでしょう。


「こんにちは」

 素通りするのもアレでしたので、挨拶をして通り過ぎようとします。


 女が振り向き、僕の顔を見て驚きます。


「あ!! 見つけた! 見つけたぁぁ!」


 一瞬で凄い形相になった女は、杖を構え呪文を唱えます。火の呪文です。

 街中での破壊活動は魔王様よりかたく禁じられていますし、火の呪文で火事が起きたら大変です。

 ここには力の弱い魔族も暮しているのに。


「フェニックスフレイム!」


「ふんっ!」


 飛んできた炎を裏拳で迎撃します。派手な爆発とともに炎が消しとびました。

 あれ? 前にもこんなことがあったような。


「会いたかった。会いたかったわ」


 女は嬉しそうに笑います。可愛い顔立ちの女性から会いたかったと言われていますが、僕はちっとも嬉しくありません。


「んー。どこかでお会いしましたっけ?」


「まさか忘れたの? あれだけの! ことを! しておいてぇぇ!」


「ちょっとその女なによ!」


 僕の正面では魔法使いが、後ろではティンが怒っています。


「きっと何かの誤解――――あ!」


「ちょっとご主人様『あ』って何よぉぉぉ」


 ティンが後ろから腕を使って首を絞めてきます。馬鹿力で酸素が失われていく中で、僕は完全に思い出しました。


 きっとコイツ、勇者パーティーの生き残りです。


「ぐぎぎ、そうと分かればッ!」


 ティンを引き剥がして、遠くにぶん投げます。

 雑魚魔族なら死ぬかもしれませんがティンならきっと大丈夫です。


「あとは……」


 騒ぎを聞きつけたのか、近所から魔族が集まってきました。


「くそっ! お前来い!」


 魔法使いを担ぎ上げて走ります。急速に、なおかつ目立たぬようにこの場を離れなければなりません。


「ちょっと降ろしないよ!」

 

 降ろしません。僕は適当に走り続け、目に入った公園に入ります。


「いいですか? 今から降ろしますけど暴れないで下さい。貴方ではどうやっても僕には勝てませんよ」


「殺す! アンタだけは絶対に殺す!」


 僕は公園に簡易的(かんいてき)な結界をはって彼女を降ろします。


「再生の炎よ! ――」


「いいかげんにしろよ」


「ひっ」


 普段押さえ込んでいる魔力を少し解放してやります。


「どうだ小娘、これで少しは実力の違いが理解出来たか?」


「何が小娘よ! みたところ同じぐらいの年齢でしょ?!」


 このアホは魔族が見た目どおりの年齢ではないことを知らないのでしょうか。


「お前年はいくつだ?」


「答える必要はないわね」


 膝が震えてはいますが魔法使いは強情です。

 僕は目に魔力を集中させます。


「ふむふむ。十七歳。帽子の角は飾り。得意魔法は火術全般。好きな人は勇者(故人)。スリーサイズは――」


「ちょっとなんで分かるのよ!!」


 本当に何も知らない奴です。


「僕の目は魔眼だ、生まれつき魔力の高い者の瞳は魔眼になることがある。性能に個人差はあるがな。貴様のような程度の低い存在なら少し目を凝らせば大抵のことはわかる」


 自信の魔眼でしたが、ユリのことは全く見破れませんでした。ちょっと自信なくしちゃいますよ。


「しかし貴様、名前を神に捧げているとはな」


「何よ悪い? アンタのような悪党を倒すためには少しでも力が必要なの」


「悪党ね」


「悪党でしょ。だって魔族だもの」


「そうだな。僕は悪さ、だから聞かせてもらおう、どうやってここまで来た? ……おおかたの予想はついている、チートだな? 勇者を語る何者かが貴様を連れて来た。そうだな?」


 そうとしか考えられません。勇者以外にテレポートを使える奴がいるのは想定外でしたが、情報が向こうから歩いてきたのですから聴かない手はありません。

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