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第十七話 帰国

 魔王の秘密兵器である魔族、トオフが一芝居打って、魔王城で勇者騒動を巻き起こしていたころ。


 ドワーフの死体は北の大国。カイ王国にあった。





「おい生き残り。この死体が勇者パーティーのドワーフで間違いないか?」


「はい。間違い御座いません」


 震える声で返答するのは勇者パーティーにいた魔法使い。彼女は魔法帽子を目が隠れるぐらいに深くかぶっている。


 ドワーフの死体を最初に見つけたのは魔法使いだった。

 魔法使いの彼女は、武器である杖をドワーフに奪われ、わけもわからない間に眠らされていたのだ。


 一切無駄のない呪文の発動。得意の魔法も実戦では師匠に叶わなかった。

 勇者様も僧侶ちゃんも師匠も殺された。みんなアタシよりずっと勇敢で、アタシよりずっと強かったのに。


 あだ討ちは考えなかった。

 自殺という意味合いでなら脳裏によぎりはした。だが生き残ってしまった責任がそれを許さなかった。


「皆死んだ。あの魔族のせいで死んだ。アタシだけが生き残ってしまった」


 見つけたドワーフは死んでいた。

 穴の空いた身体は杖をぎゅっと握りしめていた。


「師匠。杖はもうアタシがもらったものですよ」


 ひとしきり泣いた魔法使いはドワーフの手から自分の武器を取り戻すと、ドワーフに保存魔法をかけて自分のローブでぐるぐるに巻いた。


 どうやって帰ってきたのかは覚えていない。四人で苦労して進んできた道のりと違い、道中、誰も助けたりなどしなかった。

 貴重な装備を集めたり、一切の冒険をしなかったことだけは違いない。

 

 もう自分にはそんな使命はない。そんな気力はない。

 最後に勇者様の死とパーティーの崩壊。それと危険な赤と白の髪色をした魔族の少年がいることを王国に知らせるだけ。


 そんなお使いのために、ここまで戻ってきた。


「国王様。アタシは死刑ですか?」


 玉座に座る国王は答えない。代わりに答えたのは国王に仕える神官。


「生き残り。お前はこの国最強の魔法使い。魔王討伐が失敗したからといってどうして罪を問おう」


「ですが神官様、アタシがもっと強ければ勇者様は死ななかったかもしれません。アタシがもっと慎重に進むように助言していれば、あの魔族とも出会わなかったかもしれません」


 神官の横にいる騎士が口を挟む。


「パーティーは十分慎重に進軍していた。なにせ魔王城からは遠い、魔族領の辺境に陣を設置したのだろう? 辺境の魔族に負けるようでは勇者殿もたいしたこと無かったのだろうさ。運よく魔王城まで行けたとしても、こうなるのがオチだったのさ」


 貴族出身の騎士は(さげす)むようにドワーフを見ています。


 ここはカイ王国、玉座の間。

 僧侶と魔法使いの生まれた国であり、勇者が召喚された国。

 死んだドワーフはこの地で暮すことを夢見ていた。


「頼めるか?」

 装飾過多な玉座の間で、黙って報告を聞いていた王が口を開く。王は魔法使いが帰ってきたことを聞いた時に謁見(えっけん)の間ではなく、玉座の間に来るように指定した。

 

 国内でも限られた者しか入室を許されない玉座の間。

 出立の時にも魔法使い達は国王に会ってはいるが、その時は謁見の間だった。


「ええ、準備は出来ています」


 国王が声をかけたのは玉座の横に立つ、絶世の美女。王の妻でも姫でもない。王国のキーパーソン。


「次の勇者を召喚しますね。次はもっと強力な力を与えましょう」


「頼んだぞ」


 王は言うが早く退出しようとする。

 玉座の間には家臣が出入りする大扉とは別に、王家専用の出入り口がある。

 王が扉に手をかけた。


「国王様! お願いがあります! お願いがあります!」


 魔法使いが一歩進むとすかさず騎士に押さえつける。

 顔を床にぶつけた魔法使い、鼻のおくがジーンとする。


「エドワード。放してやれ、それでは娘が潰れる」


「ははっ」


 王の命令で、騎士が手を離すと魔法使いは王にお願いをする。何も望まず、名前さえ使命のために捨てた魔法使いが願いを言う。


「師匠は、ドワーフさんは豊かなこの地で暮らすのが夢でした。もうその夢は叶いません。小さくていいんです。せめてお墓を下さい。死体があるのはドワーフさんだけなんです、せめてドワーフさんをこの地で眠らせてください」


 王は扉に手をかけたまま、顔だけを向けた。

 しかめっ(つら)だ。


「匂う匂う鼻が曲がりそうじゃ。ドワーフというのは死んでもくっさいのう。ぶさいくだし、手も足も短い。見るに耐えん種族じゃ。ちょっと魔法が使えるから雇ってやったが、なんの成果も出さずに死におった。墓? それは死んだ人間が入るものじゃ。人間以下の畜生に与える墓なぞ、このカイ王国にあるはずもなかろう。悪い冗談じゃ」


 王は去った。


「さぁ生き残り、お前も出て行け。ほんと臭くてかなわん。しっかり風呂に入ったらワシの寝室に来い。クヒヒヒ」


 神官も出て行った。


「はー」

 ため息を吐いたのは騎士。ドワーフの死体を持ち上げると神官の後続いて出て行った。


 玉座の間には立ち尽くす魔法使いと、美女だけが残った。


「なんのために。なんのためにアタシ達は戦ったんですかね?」


 ほとんど独り言だった。聞き取れないほど弱い声だった。

 だが美女は答えた。


「この国は豊かよ。でも他の国だって頑張ってる。隣の共和国は油断ならない相手だし、戦争にでもなったら負けてしまうかもしれない。戦争しないためにも、もっと豊かになる必要があるわ。王様はそう考えた。豊かになる為には奪うのが手っ取り早い。でも戦争はダメよ。お金もかかるし大事な国民にも犠牲がいっぱい出ちゃう。魔族ならいくら殺したって誰も文句言わないわ。魔族は強いけど数は少ないし、魔族領は豊かな平地よ。奪う相手としてこれ以上ない相手だわ。そしてこの国には私がいる。魔王を殺す勇者を召喚できるこの私がね」


 千年に一度、天界から派遣される女神。彼女はくすりと微笑んだ。

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