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第十六話 ティンベーヌに御褒美を

 立派な扉を開けると中の空気がじわりと伝わります。


 部屋の左右には魔力で灯された青白い炎が列をなし、中央では盾を持った魔族が待ち構えています。


「よく来たな勇者よ。我は四天王が一人、盾のティンベーヌ! どこからでもかかってこい!」


 ティンベーヌがいます。うん、当たり前なんだけどね。

 なんだか一気にやる気がなくなってきました。

 どうしよ。もう十分にアピールしたし、ここで帰っても魔王様に報告が行くよね? 


 あーなんだか疲れました。勇者ごっこというのはいいアイデアですが、疲れますねこれ。


「よし」


「ちょ! 勇者よ! 扉を閉めようとするな! 入って来い!」


「ああん?」


「あ、違うんです。ごしゅ……勇者よ! 入って! ね? 入って!」


 一生懸命威厳を出していたティンが素に戻りそうです。いかんいかん、ティンが頑張っているのですから僕もあと少しだけ勇者やります。


「よし勝負だ! 四天王! 盾のティンベーヌ!」


「よ、よーし。ゆくぞぉぉぉ!」


 まずはティンの出方を見ます。飛び込んでくるかと思ったティンは盾をしっかり構えてジリジリとつめよってきます。


 長期戦が望みか、さてどこまで付き合ってやるか。

 

 まずは勇者の剣で斬りかかります。

 それなりにいい音がして剣が弾かれます。僕が魔力を通していないとはいえ勇者の剣を弾くとは、いい盾です。


「ならばこれはどうだ!」


 剣を持ってないほうの手をティンに向けて魔法を放ちます。

 人間にも魔族にも広く普及した破壊呪文の代表格。

 火の呪文の初級にして最も短い呪文。


「ほむら!」


 左の手の平から放射された赤い炎が、わずかに拡散しながらティンの盾にぶつかります。

 勇者の剣同様に弾かれた炎が霧のように消えてなくなる。


 しかし。


「ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむら、ほむらぁッ!」


 呪文が短いということは連射が簡単だということ、初級呪文とはいえ勇者ぐらいの魔力(推定)で連射される魔法はそれなりの殺傷力を持ちます。


 連打。連射。連続。連発。


 ほむらを休むことなく撃ち続けます。僕のマナポイントは有限ですが、この程度の呪文であれば、一年撃ち続けても問題ありません。


 一発では弾かれて消える火も、火と火とが重なり合うことで大きな炎になっていきます。

 部屋の温度が何度かはわかりませんが、炎の中心となったティンはひとたまりもないでしょう。


 勇者ごっこもひとまずここまでですかね。

 ティンを倒すにしろ、僕が負けるフリをするにしろ、決着がつけば大きな捨てセリフで最後のアピールをして退却つもりです。


風遁(ふうとん)意流陣(いりゅうじん)


 ティンの使った、僕の知らないの魔法らしきものが炎を吹き飛ばします。


「なんだその魔法は?」


「忍術だ。勇者よ」


 ニヤリと笑うティンが風のような速度で飛んで来る。僕は突撃をよける。しかし風を操っているのか、竜巻の渦に乗ってティンは方向転換。


 完全に油断していました。

「かわしきれないっ」


 速度を増したティンは矢よりも速く、ぎりぎりで当たってしまう。鎧の先をギャンッと気味悪い音を立てて(こす)れていく。


 ティンの使った忍術という魔法は、まだ終わっていませんでした。むしろこれからが本領なのでしょう。

 部屋中に竜巻を乱立させて、激しく移動するティン。さらに速度は増していき……。


「全然攻撃が来ない」


 ティンは竜巻を使って激しく部屋中を飛んでいる。ときおり部屋の支柱にぶつかっては、削ったり、折ったりするものも勢いがありすぎて止まりはしない。


「このままだと修理が大変そうだなぁ」


「ご、ゆうしゃめ! どこだぁぁぁ?!」


 ティンの悲鳴にも似た声。


「確定的だな。やれやれ」


 馬鹿正直にティンを追うのは無駄が多い、荒れ狂う竜巻の流れを読み、ティンが飛んで来るであろう位置を計算する。


「ここだな」


 あとは少しだけ本気をだして飛んできたティンを捕まえる。必死に盾にしがみ付いていたティンはもうヘロヘロだ。ちょっと人様にお見せできない姿形になっている。


 僕、いや俺は息を深く吸っては吐く。

 これが最後の仕上げだ。


「くっ流石は四天王だ。だがこの次は必ず勝つ。覚えていろ!」


 ティンをその場に残して、テレポートで帰ります。


 ……。


「あー疲れた」

 

 自宅に戻った僕は、鎧も剣もその辺に適当に散らかしてソファに深く座ります。首を回してあくびをひとつ。


「ふあー眠い。……寝よ」


 ZZZ


 ZZZ


 ZZZ


 ZZZ


「ご主人様、置いてかえるなんてひどいです」


「お、帰ってきたか」


 ティンがむくれているますが、このお馬鹿さんは一緒に帰ったら計画がダメになるとわかっていないのでしょうか。


 全部を説明したら理解してくれるのかもしれませんが、やっぱり秘密は話せないですね。


「それで、魔王城の様子はどうなった? しっかり勇者の噂は流れているか?」


「流れてるなんてもんじゃないですよ。もちきりですよ。もちきり! なんとか私が追い返したみたいになってますけど、私の部屋の惨状をみて、経理担当のマモンさんが泡吹いて倒れちゃいましたよ」


「高そうな作りだもんね。四天王の部屋」


「多分高いんだと思います。絶対に破損しないという永久オブジェクトなんちゃらって素材らしいんですけど、べっこべこでしたから」


「やったのお前だけどね」


「そこはホラ……勇者がやったことになってますから、大丈夫です」

 苦笑いを浮かべてティンがほっぺたをかきます。


「まぁいいけどさ、お前あの呪文なんだよ」


「忍術ですね。魔法を利用した(しのび)の技です。もうバレちゃいましたし、久しぶりに使おうかなって……ちなみに風遁(ふうとん)ってのは風の術のことです。はい」


「未完成なんだな?」


「てへっ」


 失敗を怒られると思ったのか、ティンが無防備に立ち尽くします。

 だから、不意打ちをしてやりました。


「!! ……ご主人様、今頭をなで……」


「さーてこれでしばらくは魔王様も落ち着くかな」


ティンベーヌ「叩かれるものも好きだけど、こういうのも嫌いじゃないかも。えへへへ」

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