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第十五話 勇者ごっこ

 ツキチヨさんとはその場で解散しました。


 ツキチヨさんは是非屋敷に招待したいようでしたが、ティンが「歓迎されますよ。それはもう盛大に歓迎されちゃいます。きっと皆、私の婚約者か少なくとも恋人だと勘違いするから、それはもう凄い歓迎されて面倒ですよご主人様」と言うので遠慮しました。


 ツキチヨさんの誤解を解くだけでもかなり苦労したからな。これ以上の面倒は確かに、ごめんこうむる。


 ニンジャ一族はさまざまな武具を持っているらしく、おじいちゃんに可愛がられたティンも、色々な武具を扱えるそうだ。ちょっと気になるな。僕にも得意な武器があったりするのだろうか。

 ティンがなぜ盾を愛用しているかは謎だが、深くは聞くまい。だって面倒な話になりそうだし。




 ――。

 ――――。


「何故なの! 勇者は何処へいったの?!」


「いやぁホントどうしたんですかね。ははは」


 騒動も落ち着いたある日、僕は久方ぶりに魔王様と会っていた。

 謁見(えっけん)などという大層なものではなく、秘密の抜け道をつかいこっそり魔王様とお茶をしているのです。


 いやぁ今日の魔王様も実にお美しい。出るべき場所は、はちきれんばかりに隆起し、締まるべきところは美しい曲線を描いて締まっている、光沢のある肌と長い髪。魔界でもっとも強く、同時にもっとも美しいお方。


「ねぇ、私のかわいい坊や。最近変わったことはない? 勇者のうわさとか何か聞いてない?」


「そうですね、新聞にあったようにゴブリンなどの下級モンスターを狩っているという話の後はめっきりさっぱり。いったいどうしたんでしょうねぇ。ははは」 

 

 だってもう勇者死んでるし、ユリも人間ごっと辞めたみたいだし。

 つまり勇者も偽勇者もいないのだ。


 魔王城から帰った僕は、ある計画を開始することにしました。この計画が上手くいけば魔王様もいつもの調子に戻るはずです。


 魔王様、楽しみにしていてください。


「ティン、ちょっと出かけてくる。留守を頼むぞ」


「ご主人様今度は何処に行くんですか?」


「ちょっとユリの所に」


「浮気!?」

 飛び掛ってくるティンの背後に回りこんで手刀を一発。嬉しそうな悲鳴をあげて倒れるティンを踏んで、家から出て行く。


「浮気も何もお前は何様だよ」



 ユリの家についた僕はユリの保管していた勇者の鎧をもらう。てっきりしつこく色々訊かれるかと思ったが、不思議と訊いてはこなかった。


 さて、計画というのは簡単な話だ。第一僕が複雑で面倒なことをするはずがない。

 勇者がいないのだから偽勇者を作ればいい。ユリの焼き増しだ。


 ユリは人間ごっとという遊びの中で、結果的に偽勇者を演じたわけだが、僕は偽勇者を演じることが目的だ。別に僕が演者でなくてもいいのだが、現状適任がいないので仕方がない。

 目的の目的、真の目的とでも言えばいいのか? ともかく魔王様に元気で健やかにいてもらうためには、勇者の存在が必要不可欠。

 そのための偽勇者作戦である。



「おかえりご主人様。鎧もってきたんですね」


 帰った僕にティンが突撃してくるので、鎧を盾のように使ってガードする。


「喜べティン。明日から稽古をつけてやる」



 当初はユリと同じように、どこか人目につく場所で、モンスター狩りでもしようかと考えたのですが辞めました。もっといいことを思いついたのです。

 勇者がついに魔王城まで来る。こちらのほうがずっとエキサイティングで、魔王様もお喜びになるはず。

 偽勇者の正体がバレてもいけませんので引き際が肝心ですが、四天王と闘って帰ったのであれば、魔王城攻略の順序として怪しまれることもないでしょう。


「という訳でティン。僕は勇者の格好で魔王城に行くので、お前は四天王として僕と闘ってください」


「どういう訳か全然わかりませんが、合点承知です! やったー!」


 なんの説明もせず鎧と剣を装備する僕が、魔王城で稽古をつけてやると話すとティンは大喜びです。魔王様もこのぐらい喜んでくださると良いのですが。


「だから先に行って待ってろ。あと間違っても僕のことをご主人様と呼ぶなよ、今日の僕は勇者だからな」


「はい! ご主人様。じゃなくて勇者様! 盾のティンベーヌ。先に行って待ってます!」


「様はいらん!」


「はい! 勇者!」


 ばびゅーん、という効果音を口から発しながらティンベーヌが出勤します。


「さて、僕もいくか」

 兜のバイザーを下ろし、顔が見えなくなったことを鏡で確認する。


「これならいいでしょう」


 万が一、ティンベーヌがこの家から出て行くとこを見られ、また今の格好の僕を、誰かに見られるといけません。


「チートオープン。チート選択……テレポート」


「なるほど、これは便利ですね」


 閉じることが出来るのだから、開くことも出来るのが道理というもの。僕が閉じた勇者のチート、テレポートを使い、魔王城入り口近くの小部屋に瞬間移動します。

 移動に必要な陣は計画を思いついたときに準備しました。

 

 誰にも見られていないことを確認した僕は、勝手知ったる魔王城最初のフロアを探索します。以前に僧侶を追いかけてきましたからね。


「おい、ミミック。俺は勇者だ! 死にたくなければ中身の宝石を落とせ!」


 前回僧侶のかかったミミックの部屋。高らかに宝箱に偽装したミミックに話しかけます。


「なんだとゥ! どうしてわかった!」


「どうしてわかったと思う? それは俺が、勇者だからだ!」

 バカっぽくて嫌なのですが、勇者の一人称がボクでは違和感がありますからね、しっかりオレと発音した上で、これでもかと勇者アピールしておきます。とどめに勇者の剣を天高くかかげ、なんだかカッコイイポーズをしてやります。


「くそォ。覚えてやがれ!」

 宝石を吐き出したミミックが、ぴょんぴょんしながら部屋を出て行きました。


 トラップにも適度にひかかっておきましょう。折角魔王様が考えて配置したものですから全てを素通りでは可哀相です。


 落とし穴プラス串刺し床。天井から降ってくる巨大鎌。進行方向から転がってくる大きな岩玉。


 道中の雑魚モンスターを蹴散らし、知性ある者には勇者であることをアピールして逃がす。


 そしてついにやってきました。四天王の間。

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