第十二話 槍
槍とは、最強の武器である。剣の威力と扱いやすさはそのままに、相手より遠い間合いから一方的に攻撃するために作られた。
斬る、払う、薙ぐ、防ぐ、回す、いつくもの使い方が出来るが主な用途は一つ。貫くこと、どこまで相手を追いかけ、相手を絶命させること。
それが槍。
「我は偽り、自分を偽り、相手を偽り、チカラを偽りましょう」
ユリが呪文を唱える。呪いを具現化する。
「我が貫くのは偽りの心臓。されど偽りを偽ればそれは真となる」
「距離も速さも時間でさえも嘘には勝てぬ、故に槍こそ最強。槍よ、シンの臓を貫け」
「死ね」
ユリが槍を動かした。たったそれだけの動作。
ユリは虚空から一歩も動いていない。位置情報でも偽っているのだろう、ドワーフは相手を見失って無軌道に飛んでいる。
ユリが槍を引き抜く。なにもないところを突いたはずなのにべったりと血がついている。
「ぐはッ」
胸に穴を開けたドワーフが、口から血を吐いて落ちる。
強い。どっかのヘボ四天王とは大違いだ。
「さーて終わったよ。ティンベーヌ、トオフさん」
「わー! ユリつよーい!」
ティンはジャンプして喜びを表している。
「ユリのことすっかり忘れてたよ。あれが認識阻害っていうの? 初めてだから驚いちゃったよ」
「驚いたのはコッチだよ。最近見かけないと思ったら男連れで人間の町にいるじゃんか! いつどこで出逢ったんだよ!」
「うへへへっ」
「くねくねするな気持ち悪い!」
いつもの調子でティンを殴っておく。どうもこいつはもう四天王という気がしない。弟子だからか。
「四天王ユリ様。見事な認識阻害でした。僕は完全に人間だと思っていました。それに鑑定眼ってのも嘘だったんですね。騙されました」
「え? 嘘だったの?!」
ティンが本気で驚いています。いやいや、お前はユリ様とは旧知の仲でしょうよ。
「あはははっ。嘘に決まってるじゃん。それとトオフさん、私のことはユリでいいよ。ティンベーヌも懐いているみたいだしね」
「いえ、これは成り行きで……」
とりあえずごまかしましょう。
「鑑定眼ってのは嘘だけど、トオフさんが只者じゃないってのはわかるよ。色々総合的に考えて普通の魔族じゃないもの。だって角ないし。私と違って認識阻害じゃなくて生まれつきでしょ? 角なしなのは」
「ははは」
実に困りましたね。
「そうです! ご主人様は凄いのです。なんかすっごく強い僧侶もあっさり倒したのです。あ、しまったコレ秘密でしたテヘヘ」
「おい!」
「へー面白そうだね。その辺の話も詳しく聞かせてよ」
この流れで何も話さないってのは無理がある。可能な限り少ない情報でどうやって満足してもらうか。
僕は考えます。
「とりあえずウチに来なよ。自分で言うのもなんだけど四天王の家だからそこそこ立派だよ」
「私、家きらーい。みんな色々うるさいんだもん」
ティンが珍しく不機嫌な顔を見せます。
「大丈夫よティンベーヌの家には行かないから、それにいざとなったらあんたの家の連中に、認識阻害をかけてやるわ。それでいいでしょ?」
「ほんとぉ? んーそれなら」
「おっけー♪ 決まり! じゃあ行きますかトオフさん」
「あの、ユリ。僕のこともどうか呼び捨てで」
「それは話を聞いて決めるわね」
ユリがウインクをして笑います。
ユリやティン。そのほか魔王城に住まう魔族。城暮らしと呼ばれる彼らは正確には魔王城城下街に住んでいます。
魔王城に寝室を持ち、寝食を城で過ごすのは魔王様ただお一人。
残りの魔族は魔王城勤務というのが精確な表現。彼らは仕事がない時は城の地下にある城下都市で暮しています。
巨大な魔王城の巨大な城下都市。人間の町よりも密度の高い発展した街。
高い構造物の並ぶ魔王城城下都市において一際目立つ、宮殿のような大きな屋敷の、広い客間に僕とティンは通されました。
「いや、これほどとは。流石四天王様はスケールが違いますね」
家の門をあければ美しいメイドと執事達、家の造りは実に立派で調度品も高級なものばかり、今腰をかけている椅子だけで僕の家が百は建てれそうです。
「だから様はいらないって。豪華なのも役目みたいなものよ。四天王という役職に対するなんていうの? 箔? とかそういうのをつけるためよ。四天王が凄ければ魔王様はもっと凄いってね」
「ええ確かに。魔王様は至高です」
美しい角。大きなおしりと締まったくびれ、そしてはちきれそうな胸をしている。ユリもなかなかですが、魔王様には勝てないですね。
「トオフさん、なんか変なこと考えてない?」
「ご主人様、なんかやらしー顔してる」
「コホン。そんなことはありませんよ」
魔王軍の秘密兵器(以下略)を読んでくださり誠にありがとう御座います。
読んでくださる貴方様のおかげで僕は小説が書けています。次話も是非読んで下さいネ。
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