表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/36

第一話 勇者死す。

 僕の名前はトオフ、魔族です。


「魔族め。成敗してくれる!」


 おやつの時間。庭のテーブルにティーセットを準備していると、何もないところから突然彼等は現れました。


 先頭の人物。僕に剣を向けているのは(うわさ)に聞く勇者でしょうか? 

 だってさっきのは勇者だけが使えるチート。『テレポート』でしょうから。


「勇者様、こちらの少年は魔族なんですの?」

 勇者のすぐ後ろ、ピンク髪の僧侶が疑問を口にする。


「ああ、間違いない。見た目は上手く化けてはいるが、女神からもらったオレのスキル『鑑定』をごまかすことは出来ない」


 なるほど、流石は勇者だ。僕は素直に関心した。


「で、あれば早々に倒すのみじゃ!」

 ドワーフの戦士が、やたら大きな斧を構えて言った。


「え、援護ならアタシ任せてよね!」

 魔法使いなのでしょう、大きな魔法帽子をかぶった少女が杖をとり出しました。


 魔界のはしっこ。こんな戦略的に重要でもない土地に勇者が来てしまうとは、どうやら僕は運がないらしい。しかし慌ててはいけません。


「たしかに僕は魔族です。ですがこれまで僕は人間を襲ったことがありませんし、これから襲う予定もありません。どうかここは見逃してもらえませんか?」

 まずは下手に出よう。僕は無駄なことはしたくないのです。


 ガチャッ。勇者が立派な鎧を鳴らし、一歩前に出る。


「確かにオレの『鑑定』によると嘘は言っていない。しかし同時に何かを隠していると『鑑定』には出ている。見逃すことは出来ないな!」


 勇者パーティーは僕を囲むように広がった。


「いやーホントに困るんですけど、魔王様に怒られたくないし」

 僕はお菓子や紅茶を乗せたトレイを、優しくテーブルに置いた。


「魔族よ。オレ達に倒されて経験値となるがいい。お前達は人間を下等と(あなど)り、暴虐(ぼうぎゃく)の限りをつくしてきた。これまでの罪をあがなうがいい!」


 勇者が剣を振り回し口上(こうじょう)()べる。

 あーこれ無理だ。

 終わった。


 戦いは避けられない。

 んじゃーしょうがない。ごめんよ魔王様。


「再生の炎よ、敵を(めっ)せよ! フェニックスフレイム!」

 魔法使いの少女が放った炎。見た目は派手だが威力はさほどではない。陽動なのだろう。僕は腕をふって炎をかき消す。


「ゆくぞ!」

 すかさず飛び込んでくる勇者。素晴らしい連携だね。


 魔王様は僕に名前をくれなかった。僕のトオフという名前は、この呪文から自分でつけたんだ。


「チートオフ」


 僕は小さく呪文を唱えた。


「ぐぁぁぁっ!」

 盛大にすっころんだ勇者が、庭先のレンガにぶつかる。


「勇者様っ!」

「貴様、何をした!」


 驚きに身体の動きが止まる勇者パーティー。


「ううぅ」

 身体が重いのか、剣を杖のようにしてなんとか立ち上がる勇者。今ならすきだらけだ。


「さっきの炎、火傷しちゃったじゃないか、僕は大したことない魔族だから痛かったぞ」


 一発は一発だ。放ったのは魔法使いだが、パーティーなんだから連帯責任だよ。

 それに一番いい鎧を着ているから大丈夫だと思う。


「撤退だ。テレポート!」

 勇者が叫ぶ。でもね。


 無駄だよ。

 もう“ソレ”は使うことが出来ない。


 僕は勇者の顔面に殴ってみた。


 おおなんということでしょう。


 勇者の首は胴体から遠く離れ、どこかにすっとんで行きました。

 吹き出た血が雨のように降り注ぎ、庭の池で飼っているお魚さんが喜んでいます。


「勇者様っ!」

「嘘でしょ……」


「あれ?」


 僧侶がわなわなと震えています。嘘だと思いたいのはこっちのほうです。これでは魔王様に合わせる顔がありません。


「さーてどうしよっか?」

 

 失敗しても落ち着きが肝心です。僕は(つと)めていいスマイルで勇者パーティに話しかけました。


 魔法使いも僧侶も動きません。


「バカ、逃げるぞ!」

 ドスンッ。ドワーフは斧をに捨てると、魔法使いと僧侶を担いで逃げて行きました。土煙をあげ物凄い速さです。


「追いかけたほうがいいんだろうけど、面倒くさいなぁ。あー困った。実に困った」

 こういう時は紅茶です。お菓子を食べて、紅茶を飲んで落ち着きましょう。


「ふー」

 実に心が落ち着きます。

 こうして僕の日常は困ったことになったのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ