第九話 変わっていく価値観
リリスとの会合が終わり、朝目が覚めて伸びをした後ふと枕元を見ると、10万円が置かれていた。
(なるほど、これが女神の言っていた報酬というやつか......)
もうすでにリリスの言っていることは全く疑っておらずむしろ信じてはいたが、いざ目の前に10万円があるとなると、少し夢を見ているような気分になる。
でもこれはまごうことなき現実だ。目の前にある現実は、この世界の常識には当てはまらない超常の現象が起きているが、今自分の目の前にあるものが全てだ。だから今の現状がどれほど普通からかけ離れていようとも信じるしかない。
(とりあえずこのお金で定期券でも購入するか......)
俺はこの10万円の使い道を即座に決めた。それはやはり、自分の中で1時間半もかけて学校に行くという事がかなりのストレスになっていたからだろう。
時間割りをしてそのまま学校には向かわず、最寄駅に定期を購入しにいく。
購入場所に行ってみると、意外と素早く購入する頃ができとりあえず1ヶ月分の定期代を支払った。
色々と手続きをして、定期を手に入れた俺は改札を通過して自分の学校方面の電車がある方に降りていく。
しばらく電車を待っていると、電車が到着し乗り込んだ。
朝一ということもあり、混んでいるから使えないだろうなと考えていたがそんなことはなく普通に座席に座る事ができた。
電車の中は冷房がほどよく効いており、床も壁もピカピカであることから清潔感を感じさせる。座った座席は、独特の柔らかさがあり自分の中にある疲労を全て受け止めてくれているような気持ちになる
(こんなに楽に学校に行けていいのか。今まで気づいてなかったが他の連中はこんなに楽をしていたんだな.....)
俺はあまり電車に乗った記憶がなく、電車の良さを全く知らなかったからこそ乗った時に感じた喜びはとてつもなく大きい。もはや罪悪感すら感じてしまうレベルだ。
しかし、それと同時に何の苦労もなくこの電車に乗っている年の近い人間を見ると嫉妬と劣等感を抱いてしまう。
(やっぱり俺って歪んでるんだな.....)
少し自分の器の小ささにショックを受けながらボーとしていると、余ったお金の使い方に思考を奪われる。
(定期代は1万円だったからあとはなにをしよう。新しい財布を買おうか、持っていないゲーム機でも買おうか。それともリリスの言っていたジムかサウナでも行ってみてもいいかもしれないな」
元々物欲の少なかった俺だが、お金を持ったことにより様々な欲望が心の底から湧き上がってくる。人はお金を持つと変わるというが、自分はその典型的な例かもしれない。
色々と欲しいものについて考えていると、自分の一番欲しいものが何なのかという問いについての答えが浮かんでくる。
(そうだ、携帯を買い換えよう。俺の携帯は母親から譲られたもので、機種も古いから新しいのに買いかえるのが一番いい気がする)
自分が今一番欲しい物が分かった所で、一つ問題に気づいた。
(でも携帯を買うとなると、母親にバレるといけないな。もしそんなお金があるなら私に渡してと言われるはず...... それにバレてはいけないから月々の携帯料金も自分で支払わなければならない)
この問題に気づいた事によりこれからもっと収入を増やしていく必要がある事に気づく。だが俺は一応バイトしているが、稼いだお金は全て母親の元に行くようになっているので、収入としては当てにすることはできない。
つまり、バイト以外で稼ぐしかないという事になる。
(そうなると、やっぱり依頼された掃除をするのが一番早い事になるのか......)
そういう発想が当たり前のように出てきた自分に少し驚く。もうその考えが普通にでてた自分はもう普通の人ではないかもしれない。なぜなら、生きていくための手段として、殺人が常に表示されるようになっているから。
客観的に自分のことを分析し、人としての危うさを自分の中で実感する。
(俺は自分が思っているよりももうおかしくなってるのかもしれないな)
その事に俺は乾いた笑みを誰にもみられないように浮かべ、窓の外を見ながらただひたすら学校に着くことをまった。
しばらくすると、学校の最寄駅につき歩いて学校を目指す。
(本当に電車登校は楽だな。通学にかかる労力が徒歩とは比べ物にならない。これはもう電車通学を止めるのは無理だな)
俺はこれから先も絶対に電車で通学することを心で誓う。
(そのためには、いっぱい依頼を金を稼がないとだな)
すでに心の中にあった殺人に対する抵抗感や罪悪感は、もうほとんどなくなっていた。地球のためという大義名分があるということもあり、自分がやっているのはむしろ悪いことではなく、いいことなんだとも思い始めてきた。
そうして、電車通学によって色々と価値観が変わり、さらに依頼された仕事をこなす事に対する意欲が湧いてくる。
すでに人として超えては行けないラインを軽々と超えているが、それでも自分の理想の生活を手に入れてやると俺は心に深く誓った。
学校についた俺は教室に入りしばらく時間が経ったあとに始まった、意味も価値も感じない授業を何個か受けながら、次はどこで誰を掃除しようかという事に頭の容量を全て注ぎ込みながら1日を過ごしたのであった。
(どうせなら腹が立つ奴がいいな......)




