第六話 自分に起きた変化
初めての殺人から数日が経ち、女神と会う日になった。
(確か夜寝ている時に現れるんだったな.....)
俺は過去の記憶をたぐり寄せて女神と会う条件を思い出す。殺人という退屈でつまらない人生を送っていた自分には縁遠いものを経験したおかげか、最後に女神に会ったのはとても前に感じる。
とりあえず俺は朝起きて学校に向かう準備をして、登校していく。しかし相変わらずしんどい。やはり俺の家からあの学校へは徒歩通学で歩くにしては遠すぎるのかもしれない。
(とりあえず10万円が手に入ったら電車通学に変えようかな)
そう心の中で静かに決意しひたすら学校を目指す。
ちなみに中村を殺した件だが、結局表沙汰にはなっていない。
教室の中で中村どうしたんだろうという心配の声は未だに聞こえてくるが、誰も中村に関する情報を持っていないようだ。まあ当たり前だが。
俺は自分だけがあいつの情報を持っていると思うと歪な優越感が心を満たし気持ちよくなる。
(俺ってもしかして性格悪いのかな)
少し自分の性格が嫌になり嫌悪感を抱きそうになる。でもすぐにその考えは消えた。それは俺にとって中村という男は殺されても仕方ないと思ってしまうほど自分にとっては価値がなかったからだ。
しかも、もしあのトイレで殺していなければ俺が死んでいたかもしれない。
あの殺人はいわゆる正当防衛というやつだ。だから俺は何も悪くない。悪いのは訳の分からない絡み方をしてきた中村の方だ。
そのように色々一時間半の登校時間で自分のことを正当化するために考えていたが、気づくと学校についていた。
俺はまた退屈で下らないしょうもない時間が長時間続くと思い憂鬱な気分になる。ただ自分にとって絶対的な害であった中村を排除できたのだから今の学校は中村がいた時に比べてかなり生活しやすい。
率先して、俺に嫌味を言っていた中村が消えたことによりクラスの人間もヒソヒソ何か言っては来るが正面から言ってくることはないのでかなり楽だ。
そして、今日も教室に入るといつものようにチラチラと自分に対して悪意を感じる視線を遠慮なくぶつけてくる人はいる。
でももう正直そう言った視線は俺はほとんど気にしていない。なぜなら、
(いつでも殺せてしまうからな.....)
その余裕が心の中に余白をもたらし常に安心感を俺に与えてくれる。何かあっても殺してしまえばいいんだという考え方ができると言うことは自分の思っていたよりもかなり気持ちの良い状態だ。
しかし、倫理的に見ればもう人として終わってしまっている考え方なのだろう。まあでもそんなことは気にしない。
なぜならこんな自分にしたのはこの世界でありこの環境のせいなのだから。
そうしていつもの様に退屈な授業をボーと受けていると4限の終を知らせるチャイムの音が鳴った。
(今日の授業はここまで!また明日までに復習しておくように。今の様な早い時期から勉強する事で周りに差をつけられるんだからな。)
何度も聞いたことがある様なセリフを最後にいい残し教師は立ち去っていく。因みに俺の学校は教科ごとに担当する先生が違うタイプの学校だ。だからいろんなタイプの先生がいる。さっき4限を担当していた谷川は、とにかく熱血で生徒への指導が熱い。
しかし、どこか生徒を馬鹿にしている様な雰囲気を感じ、一部の人間からは嫌われているらしい。これも誰かが話しているのを聞いた。
まあそんなことはさておき昼食の時間だ。まあもちろん俺は経済的に苦しいという事もあり、何も食べないのだが。
俺の中に昼食という概念はこの学校に入ってからは存在しない。最初は自分一人だけが弁当を食べられない事に怒りと嫉妬の感情が周りに対してあったが流石に1ヶ月も立つと慣れてしまうものだ。
(とりあえずいつものトイレに行くか)
そう俺は心の中で思い、4階にある誰も使っている人がいない最高の寛ぎスペースに向かう。
以前中村が俺のことをつけていて遭遇することはあったが、あれからは誰もこのトイレには来ていない。
(やっぱり誰もいない環境が一番落ち着く)
心の中で一人の良さを噛みしめながら用を足し鏡を見る。
そこに映っていたのは以前の自分よりも生気に満ちた顔をした自分だった。目は輝き顔色も元々少し悪い印象のあったが今では健康そのもので自分から見ても自信を感じることができた。
心の余裕というものはこんなにも自分を変えるんだなと感心し、嬉しい気持ちになる。
そうして、しばらく鏡を見て自分の顔を観察し、満足したので教室に向かおうと思い出ようとすると、肩がぶつかった。
(何か以前にもこんなことがあった様な気がするな)
俺は何かデジャブを感じながら、肩がぶつかった人間を冷静に見上げる。するとまさかの人物が立っていた。
「やあ坂口くんこんなところまでどうしたの?」
俺は冷静に話しかける。
「どうしたもこうしたもねえよ。てかお前なんでわざわざこんな遠い使ってんの?まじ意味わかんねえ」
そう坂口はイライラを隠そうともせずに話しかけてくる。坂口というのは、中村修二が所属していたグループの中でも特に中村と仲の良かったやつだ。
どうやらそうとうイライラしているらしい。イライラというか何か気になる事があるような素振りを見せながら俺の前に立ちどまる。
「修二はよお、あの日このトイレに話したい奴がいるって言って最後に別れたんだ。だからよおお前なんか知ってるだろ? 知ってること全部話せや! 」
そう俺にトイレの中が反響するぐらいの声の大きさを出し、俺に詰め寄ってくる。
(何だこいつ、鬱陶しいな......)
数日前なら足がすくみ怯えによる震えが止まらなかったろうがどうしてか今は何も感じない。
「知らないよ。中村くんとはここで少しお話しをしてそれっきりだよ」
「嘘をつくな。この学校の人間に色々聞きまくったがお昼以降にあいつを見たやつはいないんだよ」
問い詰める様にかなりの剣幕で坂口は攻撃してくる。
これはめんどくさいな。あっちは絶対に何かしら中村の行方不明に関わってると思ってるな。これじゃあいつまで否定しても帰れそうにない。
坂口は中村とは違い頭の出来はさっぱりだ。たまに教室で中村が勉強を教えているのを見たことあるが、坂口は常に頭を抱えていた様な印象がある。だからこそこんなにも俺に食い下がってくるのだろう。
)このままじゃ埒があかないな、また能力でも使ってみるか」
そう思い、俺は心の中で中村が俺の前から消え、教室に戻っていくイメージを強く想像する。
「本当に知らないから消えて」
そう静かに坂口に対して言い放った。すると、坂口は先ほどまであった威勢が急激におとなしくなり何故か俺を見ながら後ずさりをはじめた。
「そこまでいうならわかったぜ。何かあったら絶対教えろよな」
台詞こそ強気だが坂口は明らかに冷や汗を書いていた。もしかしたら、俺から何か強い迫力を感じたのだろうか。
そうして坂口はトイレから立ち去っていく。
(さて俺も教室に戻るか......)
俺も坂口から少し遅れて教室へ向かう。そして、教室に入ると坂口がこっちをジロジロ見ながらグループの人間と話している。
((あいつさっき喋ったけどおかしかったぞ..... 変な迫力があった...... さっきのあいつが修二を殺したって言っても驚かねえ))
とても小声だったのでよく聞き取れなかったがそんなことを言っていた気がする。
(そんなに迫力があったのか。あいつがあそこまで怯えるなんて本当に強力な力なんだな)
確かに最近自分の雰囲気が変わったという声をチラチラ耳にする事がある。おそらくそこからくる余裕が坂口が感じた迫力なのだろう。
俺は自分の能力の強さを改めて実感する。だが気持ちいい。今まで自分のことを下に見ていた人間が、こうして自分に怯えているのは最高だ。
そんなことを考えていると授業始まり、あっという間に終わっていた。俺は直ぐに帰る準備をして家に向かう。
(女神にこの1週間のことを報告するのがとても楽しみだ)
心の中でワクワクとドキドキを抱えながら家を目指していく。




