第十四話 新しい波乱の予感
高木と陸也の2人をこの世から抹殺した後ゆっくりと温泉を楽しんだ俺は風呂から上がって牛乳を飲んでいた。
「美味い……」
口当たりの良い牛乳は飲みやすくよく冷やされていたことから、喉越しもかなりいい。今は本当に極楽で落ち着ける最高の時間だ。
そしてあの2人を殺害してから経った時間はおおよそ30分。2人の人間が温泉の中で死んでいるというのに周りにいる人はとてもリラックスした顔つきで休んでいる。
「やっぱり死体はだれにも見つからないんだな」
俺は改めて自分の能力の便利さに感心する。だれを殺そうと誰にもバレないということは殺人し放題ということだ。自分がだれを殺そうがしたいは消える。だから自分を法律で裁くことはだれにもできない。
「お兄さん顔引き攣ってるけど大丈夫?」
60代ぐらいに見える初老のおじさんがリラックスしていたはずの俺に話しかけてきた。一体なんのようだろうか?
「はい、大丈夫です。どこか体調でも悪いように見えますか?」
「一見風呂上がりだというのにすごい顔色が悪いからね。普通なら湯船に入ることで体内の血液の回りが良くなって顔色が良くなるはずなんだ。だからどうしてそんなに怖い顔をしているのか気になってね」
老人が頭をかきながら言ってくる。いかにもお爺さんという言葉が似合うマイペースな老人に見えたがよく人のことをかんさつしているらしい。
「いえいえ、そんなことないですよ。多分湯船から上がってしばらく経ったから顔色が悪く見えるんだと思います。わざわざお声がけありがとうございます」
「ああそうかい。それならいいんだ。体調には気をつけてね」
ニッコリと人のいい顔を浮かべた顔を浮かべたかと思うと老人はどこかに立ち去ってしまった。どうやら本当に俺にその事をつたえたかっただけらしい。ただ此処で一つ大きな疑問が残る。
(俺はあのムカつく2人を顔を倒して最高な気分なはずだ。)
あんなに気持ちのいいカタルシスは味わったことがないと思うほどあの2人が死ぬ瞬間を見るのは気持ちがよかった。それなのに顔色が悪いとはどういう事だろうか。
頭の片隅で老人に言われた言葉が反芻し、気になって仕方なくなってしまった俺はやや早足で温泉内にあるトイレへ向かった。鏡を見るためだ。
(嘘だろ...... 確かにこれは顔色が悪い)
想像以上の顔色の悪さに驚いた。それに顔には無理して笑っていることが一目でわかる歪な笑い皺が染み付いていた。
自分で言うのもなんだがもし今の自分と同じ表情をしている他人が存在すると言うのなら、真っ先に何かしら心に問題を抱えていると推測するレベルだ。
(しかし、なぜだ。どうしてこんなにも顔色が悪いんだ)
気になって仕方なくなってしまった俺は、温泉で緩んでしまった脳みそのギアをあげ必死に頭を回転する。
(分かったぞどうしてこんなに顔色が悪いのか)
鏡を見つめ続けていると自ずと答えは出てきた。そうだ。恐らくこれは心と体でギャップが起きているからだろう。心の中では自分がムカつく人間が死ぬのは嬉しい最高だと言う恍惚とした感情が支配している。ただ、体の方はこれまで幼い頃から刷り込まれてきた倫理観が邪魔をして反射的に人殺しに対して強い嫌悪感を抱いており顔色が悪くなっている。
(そうだ、だから俺は決しておかしいわけじゃないこれが普通なんだ)
心の中で結論が出ると自然に落ち着いた。どうやら自分は壊れていたのではなく進化している段階なのだ。だからこそ心の変化に体が追いついておらず歪な顔になっているのだ。
自分の中ではっきりとした答えが出た雄馬は、家に帰るために颯爽と自分に家の方面の電車へ向かった。
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「あれは完璧におかしくなっとるわ。もう手遅れ。何を言おうともしようとも彼を変えるのは無理じゃろう。だから雷華お前が楽にしてやれ」
「分かりました。師匠。本当にこのような結果になったのは残念ですが師匠がそういうなら仕方がありません。私が責任を持って掃除します」
温泉施設の中には、その広大な敷地面積によって使用されていない部屋がいくつかある。その内の一部屋で老人が電話越しに女性と電話をしていた。
「ああそうしてくれ。あれも可哀想な子じゃ。神どもの私利私欲に巻き込まれた哀れな子。だが油断するなよ。あの子が持っている能力は非常に強力じゃ」
「強力? 一体どのような能力なんですか? それは私の能力よりも強いんですか」
「まあそれは時と場合によるじゃろ。相手の隙をついて攻撃すればお前に勝てる生物はおらんよ」
「そうですかそれならいんですよ。私より強い能力ではないのなら。すぐにでも私の『鳴雷』で楽にしてあげましょう」
自信満々に女の方が笑う。まるで簡単で自分にとっては造作もない些細なことであると言わんばかりに。声からして、自分に対しての信頼と自信に満ち溢れており自己愛が強いことが窺える。
「そうか。じゃあ後は任せた。私は現実世界に干渉できないんでな」
「はい、ルキウス様。支持通りに」
老人と男女の怪しげな会話はそこで幕を閉じた。そして、老人は電話を切った後手を前で合わせ祈るように願う。
「石神雄馬。あの子に心から穏やかな死が訪れる事を願おう。」
そう呟いたかと思うと男の姿は地上から消え去った。まるで元々その世界にはいなかったかのように......




