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第十一話 温泉マナー最悪男②

いざドアを開け中に入ってみると、流石大人気温泉旅館ということもありとても掃除が行き届いていた。大理石でできた床に竹の飾り物。まるで過去の平安時代にタイムスリップしたのかと思うほど内装は凝ったデザインになっており俺は胸を躍らせた。


(だが、あの2人組のことが心配だな。おそらく不可能だと思うが、どうにかあの2人と入浴のタイミングをずらせないものか......)


俺は心の中でさっき自分よりも一足早く入り口を通っていた大学生2人組のことを懸念していた。せっかくわざわざ普段しない遠出をして、温泉地まで来たのにその楽しい思い出を汚されるのではないかと。


だが中に入ってみると、大学生ぐらいのやかましい2人はすでにいなかった。もしかするともう受付を済ませて中にいるのかもしれない。


(ここで、あいつらのせいで自分の行動を曲げて、温泉に入るのを遅らせるのは癪だ...... もしもの時は掃除してやる)


心の中で固く誓い、受付を済ませた後入浴場に向かう。

今は以前よりも自信が持てるようになったということにより最近徐々に他人に対して強く自分の意志を持って接する事ができている方な気がする。だからこそこのような決意を平然とできているのだろう。


(まあそれで人殺しをしてるとなると人としては終わってるんだろうがな)


また少し自分の発想が少し嫌になり、自己嫌悪に陥りそうになる。

だが、以前の俺よりは確実に精神の状態は良くなっているはずだ。退屈で苦しくて意味の感じる事ができなかった人生から脱出し、以前よりも刺激的な日々を送る事ができているのだから。


そんなことをボーと考えながら男湯の方の青い暖簾を潜り更衣室へと到着した。

あたりの作りを見渡すと主に木で作られたロッカーや床がいい感じに古き良さを醸し出し、心を安らげてくれるような作りになっていた。


人の方はというと、自分が思っていたよりも少ないようだ。やはり、昼でも夕方でも夜でもないこの中途半端な時間に温泉に入りにくる人間はかなり珍しいようだ。


(さっきみたうるさい大学生はいないようだな......)


更衣室に先程こちらの気分を著しく害した大学生に見える男2人組はいないようだ。もしかして来ていないのだろうか? 


(それは甘い考えだな。いると思って行動した方がいい)


楽な思考に逃げそうになっていた自分を戒め、現実と向き合う覚悟を自分の中で決める。


服を脱ぎ、ロッカーの中に持ってきた荷物や着ていた衣服を詰め込みタオルを一枚持って温泉へとつながる引き戸式のドアを開く。


すると、目の前にはまた自分の心を揺さぶってくる圧倒的な自然の魅力を内包した景色が広がっていた。


床は光沢を放つ大理石でできており、パッと見ただけでも8個以上もの多種多様な入浴スペースを確認できたまた、広さもこちらの想像を上回っており、広大な温泉テーマパークのようにも思えてくる程だ。


(これはすごい、圧巻の景色だな)


俺はまだ入浴もしていないのに温泉の作りを見ただけで感動してしまう。休日は引きこもりで外に出ることを嫌っていた俺は温泉というものがここまで素晴らしいものだということは知らなったので、余計に感動しているのだろう。


(次リリスにあったら感謝しないとな......)


俺は温泉に行くという発想を与えてくれたリリスに感謝することを心に決め、温泉に入るための準備をしていく。


まずは、体を所定の場所で洗うことが大切だ。俺が見たネットの記事によると体を洗わずにそのまま温泉に入浴することはご法度でマナー違反であるらしい。


理由は、外から拾った汚れを温泉の中に染み込ませないためであったり同じような入浴客が不快に感じないようにするために必要とされているものであると俺が見た記事には書いてあった。


俺も例外に漏れず昔からの伝統的なマナーを守るためにしっかりと体と頭をタオルを使って洗っていく。


そうして、身体の全部分を清め終わった俺は待ちに待った入浴をするために湯船に向かっていく。


まず俺が入ったのが炭酸の湯だ。シュワシュワと湯船の真下から炭酸が吹き出ており、それが体に当たると妙に気持ちいい。


『この温泉は炭酸の力で体の疲れをほぐす温泉に待っております。ぜひ日頃の疲れを炭酸の力によって癒やしてくださいませ』


このようなことが書かれた看板を見つけた。その看板には、具体的な成分やどういった疲労や病気に効果的なのかを端的に分かりやすくまとめられており、頭にスッとその知識を入れることができた。


(とてつもなく気持ちいいな。これはハマってしまうかもしれない)


俺は16になって温泉の良さに気づいた幸運に神様に精一杯の感謝をしてしまう。


そうして心の中でしみじみと感謝を唱えていたが、ふと違和感を感じ、耳をすましてみると声が聞こえてくる。


「ここマジでさいこうじゃんー。景色もいいしナンバーワン温泉じゃね?」


「それなー。一生ここに住んでてもいいわ」


このようなつまらない会話を2人で笑い合いながらしている人間を発見した。どうやら温泉の魅力に夢中になっており気づかなかったようだ。


(間違いない、この声はあの大学生だ)


数刻前に、電車の中で自分の気分を害した忌々しい声がフラッシュバックする。


(だが仕方がない。俺以外のお客さんはみんな我慢しているようだし、ここは我慢するか)


心に余裕のある俺は2人組の明らかにこの場に似つかわしくない声量の会話に目をつむり、ひたすら我慢をする。



この後、さらにマナーを逸脱した行動をするとは知らずに.....


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