緑の雨
小さな村に雨が降る。
ずっと降り続けている。
けれど、屋根に、窓につたうのは、透明な雫じゃない。
緑の雨だ。
葉っぱがとけて、雨とまじりあったから、こんな色になっているのだ。
どうしてそんな色になるのか?
それは分からない。
けれど、この雨は、植物を溶かしてしまうらしい。
村人達は、アメノカミとメブキノカミが喧嘩したからだとか言っていたけれど。
そんな事は小さな子供である僕らにはどうでも良くて。
窓際で外を眺めながら、今日も緑が溶けてるなと思うくらいしかない。
それから少し後。
今度は、鉄が溶け始めた。
アメノカミは、メブキノカミだけでなくイシノカミとまで喧嘩しているらしい。
大人達は、わあわあ言いながら建物の耐久性がとか、仕事がとか言っていたけど、やっぱり僕達子供には関係なくて。
その日もぼんやりしながら、窓の外をしたたるサビ鉄色の雨を眺めていた。
最初に緑の雨が降ってから、たぶん一年くらい?
それくらいになったら、たくさんのカミ様がアメノカミとけんかするようになっていた。
いい加減仲直りすればいいのに、皆思ってる。
けど、アメノカミはへそまがりらしい。
だから毎日、村のありとあらゆるものが、かわりばんこに溶けていく。
大人達は、雨で溶けてはかなわないと言って、最近は色々な物を家の中にしまい込んでいるから、部屋の中がすっかり窮屈。
家の中で遊ぶ時は、物を壊さないようにって、いつもそうっとしなければいけなくなった。
村の中の家はみんなそう。
こんなにたくさんの人が困っているのに、どうしてアメノカミは素直にごめんなさいができないのだろう。
神様は、神様だから。
きっと偉くてすごくて、色々なものが見えるはず。
だから、多くの人が迷惑していることも、当然知っているはずなのに。
不思議でたまらなかった。
それからそれから、さらに月日が経った頃、言葉を喋れるようになったアメノカミが皆にごめんなさいをして、やっと雨に色が付くことがなくなった。
わあわあ、おぎゃあと鳴いていた声が聞こえなくなって、神様たちの世界は静かになったみたい。
なぁんだ。
雨の神様、赤ちゃんだったんだ。