傷心にフォレスト
ゆきちゃんは、いいました。
ある日、青くてうすい、おおきな空の下。
「さくらちゃん、こんにちは」と。
わたしはかえしました。
ほほえんで、おじぎをしてくれたから。
おじぎでかえしました。
「げんき? ゆきちゃん」
「げんきだよ、さくらちゃん」
ゆきちゃんのつるりなめらかな、まっ白のおめめからは、しんしん、とろり、きずのついた気おくがゆれていました。
ふわふわと、わた毛のようにおぼろげな色を、いまはお空がつかまえています。
ゆきちゃんのお手ては、ひんやりしていて、つよくにぎられていました。
「さくらちゃんは、とってもすてきね」
わたしに見せてきた、ゆきちゃんのうでには、かざりのついたわっかがありました。
きん色のつる草が、ぐるりと、手首のまわりにまきついています。
だけど、かざりのほとんどが、かたい石や、木のささくれで、引っかいたようなせんが入っています。
それをはずして、これもあげる、とわたしてくれました。
きん色のつる草は、ゆきちゃんのたからものです。
それでも、そのかざりのわっかを、わたしはじぶんの手首につけました。
ゆきちゃんのかわりに、ずっと、持っていようとおもいます。
そうすれば、もみじちゃんに会うとき、つららの森を、もっとらくに出られるでしょう。
「ゆきちゃん、もどって」
わたしはいいました。
おめめと同じくらい、おかおがまっ白に見えたから。
このまま、つめたいおひさまに見られたら、とけてきえてしまいそうです。
手首をうしろで組み、もうかえるねと、手をふりました。
ゆきちゃんの、はりのようにとがった気おくは、ちいさなけっしょうになっていきました。
あさやけ前のお空にむかって、かぜにさらわれていきます。
そのまま、くものなかへ、すいこまれていきます。
わたしは、ゆきちゃんのいるほうこうとは、ぎゃくへ歩きました。
すこし歩けば、うららかなぬくもりがむかえてくれます。
かばんには、しずくのついたかみかざりを入れています。
ゆきちゃんにおねがいして、もらったものです。
これを、ひまわりちゃんに、持ってかえろうとおもいます。
わたしは、かさをかぶるおひさまをめざして、歩きました。
しばらくして、ふりかえると。
ゆきちゃんは、もう、そこにはいませんでした。
きっともう、もどっていったのでしょう。
ここは、かすみのまくに守られています。
ゆきちゃんは、また、つららの森を出ることになります。
それは、みずうみをこえた先です。
わたしも、ひまわりちゃんも、近づけないようなばしょです。
ゆきちゃんは、きっと、こいしいのでしょう。
もみじちゃんに、どうしても会いたい、とねがっているのです。
もみじちゃんは、つめたいかぜにのることもできます。
だから、はやく、いっしょにあそびたいのだとおもいます。
そのためにも、すぐに見つけたいのでしょう。
わたしのかわりにがくぶちにおさまる、すてきな、なにかを。