リアル御百度参りの最果てに 〜不思議な体験をした話〜
「はぁはぁはぁ」
私は階段を登っていた。
足が上がらない。
うんん、何か考えるぐらいなら、足を動かせ。
考えるな。
足を動かせ。
階段も半ばを過ぎて、残り半分だ。
足を動かせ。
足を動かせ。
毛虫が歩いている。
足を動かせ。
大嫌いな毛虫を、無感情で視認できるなんて、数時間前の私ではありえないことだろう。
それほどに、今、私は、極限の状態で階段を登っている。
足を動かせ。
足を動かせ。
眼鏡内側にに汗がつく。
どうでもいい。
足を動かせ。
私は吹き出すような汗をかいていた。
50往復目くらいに飲み物を持ってくれば良かったと思ったが、100往復目の今となっては、水分を欲していたことさえ忘れていた。
足を動かせ。
その時、足がガクッとなって、一度、立ち止まった。
足を動かせ...
動かない...
立ち止まったせいか足が動かなくなってしまった。
私が頑張らなきゃ、これまでの99往復分の努力が無駄になる...
しかし、そう思った瞬間、足はさらに重くなってしまった。
重たいよ...プレッシャーが...
99人の私が私の重みになる...
私は今、リアル御百度参りという無謀なチャレンジをしている。
近所の神社の長い階段を登って、境内を確認してまた降りる。
そして、また、長い階段を登って、降りるのだ。
そんな無謀チャレンジを体力のない私がしているのには理由がある。
私は志望校の模試の結果が散々だったのだ。
そこで思いついたのが御百度参り。
困ったら神頼みとはよく言ったものだ。
それも普通にしてはダメだと思って、私は階段を100往復することにしたのだ。
こんなことをするなら、いつもなら、受験勉強をしたはずだ。
それほどまでに私は追い込まれていたのだ。
足を動かせ...
足を動かせ...
足を動かせ...
私の努力は無駄になってしまうよ...
99回はしんどいの我慢したじゃん!
あと1回だけだよ!
私はその場にしゃがみ込んで、泣き出してしまった。
何で、頑張れないの?
何で、努力できないの?
私は私は私は!
『泣かないで!』
私は突然、背中をポンポンとされて、そんなことを言われる。
私はすぐに振り向く。
「誰なの...?」
逆光で、その人は女の人だとは分かったが、顔はわからない。
私の質問に笑う。
『ふふふ、あなた、今、99人のプレッシャーがかかってるって思ったわよね』
私は泣きながら頷く。
『99人のあなたはプレッシャーを与えたいのではなくて、応援したいのではないかしら』
「え?」
『あなたの努力で、あなたは今、99人に応援される立場なのよ』
「その応援が重いんです!」
『あなたが頑張ると期待も大きくなるものよ。応援団はあなたの敵じゃない!味方よ!』
「そんなこと...どうやって...」
『頑張れ!』
意味わかんないよ。
なによ、99人の応援団って。
なによ...変でしょそれ...
ふふふ。
私は思わず笑ってしまった。
目を少し離したすきに、その女の人はどこかに行ってしまった。
プレッシャーにとらえるんじゃなくて、応援団としてとらえてみる。
私の足の枷は外れる。
また、足が動き始める。
足を動かせ!
足を動かせ!
毛虫さん!
応援ありがと!
足を動かせ!
私は、次に、立ち止まった私がいたら、今度は今日の私が励ましてあげようと心に決めた。
私の夏は、また、ゆっくりとではあるが進み始めた。
作者の近所に神社がありまして、その長い階段を登っているときに思いついたお話です。
作者は、1往復でノックアウトです...tohoho