表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この初めての恋の苦しさを。  作者: 琥珀猫幸
この初めての恋の苦しさを。 〜城川 渚視点〜
3/3

後編


6年生になった。

私はまだ彼が好きだった。

彼はあの子と結ばれたと聞いた。

両思いだった。

彼がほーくんと話す声が聞こえた。

ほーくんは私の事が好きだったのでは?と、聞いていた。

もしかしたらと言う小さな希望を胸に、私は思わず聞き耳を立てた。

でも、聞くんじゃなかった。


「ないよ。ありえない。」


………きつく心が締まった。

ギシギシと音がなった。

もう耐えられないほどきつかった。

このままでは、彼女や彼に害をなしてしまいそうで、怖くて、私は学校に行くのをやめた。

そうしたら、いつか、この恋心が消えてくれるんじゃないかと願って。

それなのに、彼のことをたまに思い出す。


彼の笑顔が好きだったこと。


彼と一緒に遊んだこと。


彼にちょっとだけ触れた時の温もりのこと。




彼が、大好きだったこと。




私はこんなんじゃなかった。

私はおかしかった。きっと今回も同じなのだ。

………なのに。

なんで。

なぜ。

君の事が、忘れられない。

心の奥から、よく分からない感情が込み上げてきては、涙になって落ちていく。

この感情に名前をつけてはいけなかった。

こんな感情………


好きだなんて感情、知るんじゃなかったんだ。


こんなこと、一生気付かなければ良かったのに……。

辛い。怖い。苦しい。

こんな感情嫌だ。

いらなかった。必要ない。

なのに、なんで諦められないの────!

いつのまにか時が経ち、とうとう小学校を卒業する時期がやってきた。

私は学校へ行った。

私は、しっかり彼にこの気持ちを伝えて、諦めるべきだ。

言おう。しっかりと。

伝えよう。この思いを。


「ごめんなさい。ずっとずっと好きでした。」

「……っ!?」


それだけ言うと、フラれることがわかっていた私は、その場を逃げ出した。

「えっ!ちょっ!まっ!」

彼がなぜか呼び止めてきた。

きっと彼なりに、しっかりキリをつけたほうがいい、と言う優しさなのだろう。

でも、その優しさが今の私には苦しくて、辛かった。

それでも、涙は流さなかった。

そう決めていたから。

噛み締めた唇からは、血が流れていた。

口の中に、鉄の味が広がった。

私は、近所の河原に座り、涙を飲むと、パシリと頰を叩き、しっかり諦めた。

私が拳に力を入れ、堂々と姿勢を正して立ち上がると、

「すごいね。ナギ。すごく頑張ったんだね。」

と言う声が聞こえた。

「ほー、くん?」

「うん。本当の本当に、好きだったんだね。」

彼の優しい言葉が、ただただ響いた。

もう、無理だ。


「好き、だったの。」

「うん。」


「泣きたいほど、苦しいほど、好きだったの。」

「うん。」


「今まで、こんなの、知らなくって。」

「うん。」


「怖いけど、愛おしくて。」

「うん。」


「大好き、で。」

「うん。」


「頑張って、伝え、て。」

「うん。」


「あははっ結局、忘れられないや。私。」

「………そう。」


「………ねぇ、ほーくん。」

「なぁに?」


「いつか、忘れて、また新しい恋、できるかな?」

「………うん。」


「新しく、ちゃんと、進めるかな?」

「………うん。」


「………ありがと。私、頑張ってみるよ。」

「………そう。ねぇ。ナギ。」

「ほぇ?ほー、くん……?」

ほーくんが、私の頰を撫でてくる。

その目は、まるで愛おしむようで。

「ふふっそんな緊張しなくても良いから。」

そう言っていつものように後ろから抱きついてくる。

首にあたる彼のサラサラした髪が、妙にくすぐったい。

あぁ、いつもよりもくっついてるのかと、混乱ながらにも理解する。

その意味までは理解できなかったけど。

「じゃ、な、に………?」

「ただ、僕の気持ちを伝えにきただけ。」

「きもち……?」

「うん。」

そして、穂高くんは微笑む。

その目は、そう。あの時の、私の目のような。

そうだ。

そうだよ。

なんで私は、気づかなかったのだろう。

ほーくんはずっとこの目をして居た。

ああ。

この、

この、感情は。

「好きだよ。」

少し耳を赤くしても私をまっすぐ見つめてくる彼に、思わず見惚れた。

ソウ君にはない、甘すぎる笑みに戸惑い、それでも惹かれた。

だから、これは、きっと、間違いなく。

私にとっても、彼にとっても。



本当に、恋だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ