後編
6年生になった。
私はまだ彼が好きだった。
彼はあの子と結ばれたと聞いた。
両思いだった。
彼がほーくんと話す声が聞こえた。
ほーくんは私の事が好きだったのでは?と、聞いていた。
もしかしたらと言う小さな希望を胸に、私は思わず聞き耳を立てた。
でも、聞くんじゃなかった。
「ないよ。ありえない。」
………きつく心が締まった。
ギシギシと音がなった。
もう耐えられないほどきつかった。
このままでは、彼女や彼に害をなしてしまいそうで、怖くて、私は学校に行くのをやめた。
そうしたら、いつか、この恋心が消えてくれるんじゃないかと願って。
それなのに、彼のことをたまに思い出す。
彼の笑顔が好きだったこと。
彼と一緒に遊んだこと。
彼にちょっとだけ触れた時の温もりのこと。
彼が、大好きだったこと。
私はこんなんじゃなかった。
私はおかしかった。きっと今回も同じなのだ。
………なのに。
なんで。
なぜ。
君の事が、忘れられない。
心の奥から、よく分からない感情が込み上げてきては、涙になって落ちていく。
この感情に名前をつけてはいけなかった。
こんな感情………
好きだなんて感情、知るんじゃなかったんだ。
こんなこと、一生気付かなければ良かったのに……。
辛い。怖い。苦しい。
こんな感情嫌だ。
いらなかった。必要ない。
なのに、なんで諦められないの────!
いつのまにか時が経ち、とうとう小学校を卒業する時期がやってきた。
私は学校へ行った。
私は、しっかり彼にこの気持ちを伝えて、諦めるべきだ。
言おう。しっかりと。
伝えよう。この思いを。
「ごめんなさい。ずっとずっと好きでした。」
「……っ!?」
それだけ言うと、フラれることがわかっていた私は、その場を逃げ出した。
「えっ!ちょっ!まっ!」
彼がなぜか呼び止めてきた。
きっと彼なりに、しっかりキリをつけたほうがいい、と言う優しさなのだろう。
でも、その優しさが今の私には苦しくて、辛かった。
それでも、涙は流さなかった。
そう決めていたから。
噛み締めた唇からは、血が流れていた。
口の中に、鉄の味が広がった。
私は、近所の河原に座り、涙を飲むと、パシリと頰を叩き、しっかり諦めた。
私が拳に力を入れ、堂々と姿勢を正して立ち上がると、
「すごいね。ナギ。すごく頑張ったんだね。」
と言う声が聞こえた。
「ほー、くん?」
「うん。本当の本当に、好きだったんだね。」
彼の優しい言葉が、ただただ響いた。
もう、無理だ。
「好き、だったの。」
「うん。」
「泣きたいほど、苦しいほど、好きだったの。」
「うん。」
「今まで、こんなの、知らなくって。」
「うん。」
「怖いけど、愛おしくて。」
「うん。」
「大好き、で。」
「うん。」
「頑張って、伝え、て。」
「うん。」
「あははっ結局、忘れられないや。私。」
「………そう。」
「………ねぇ、ほーくん。」
「なぁに?」
「いつか、忘れて、また新しい恋、できるかな?」
「………うん。」
「新しく、ちゃんと、進めるかな?」
「………うん。」
「………ありがと。私、頑張ってみるよ。」
「………そう。ねぇ。ナギ。」
「ほぇ?ほー、くん……?」
ほーくんが、私の頰を撫でてくる。
その目は、まるで愛おしむようで。
「ふふっそんな緊張しなくても良いから。」
そう言っていつものように後ろから抱きついてくる。
首にあたる彼のサラサラした髪が、妙にくすぐったい。
あぁ、いつもよりもくっついてるのかと、混乱ながらにも理解する。
その意味までは理解できなかったけど。
「じゃ、な、に………?」
「ただ、僕の気持ちを伝えにきただけ。」
「きもち……?」
「うん。」
そして、穂高くんは微笑む。
その目は、そう。あの時の、私の目のような。
そうだ。
そうだよ。
なんで私は、気づかなかったのだろう。
ほーくんはずっとこの目をして居た。
ああ。
この、
この、感情は。
「好きだよ。」
少し耳を赤くしても私をまっすぐ見つめてくる彼に、思わず見惚れた。
ソウ君にはない、甘すぎる笑みに戸惑い、それでも惹かれた。
だから、これは、きっと、間違いなく。
私にとっても、彼にとっても。
本当に、恋だ。