6話「一般人は血を浴びる機会ないよね。」
飛び込んだ先は、家から入った時と変わらない森の風景。しかし、少し高い位置に出ていた。当然と言えば当然。建物のそこそこ高い階層から魔界へと入ったのだから。都合よく魔界の地面の高さが変わるはずない。
氷の足場を作り、辺りを見回すと、浮遊しながら離れていく敵を見つけた。足場を作りつつ、魔力で脚を強化して全力で走る。数秒して、距離がかなり詰まってきたところで気付かれた。かなり驚愕の表情をしていたが、追ってくるのは想定していたようで、すぐに冷静さを取り戻していた。逃亡を続けながら、ちらちらをこちらを伺い、遠距離攻撃を仕掛けてくる。しかし、先程撃ってきたものと同じものだ。簡単に氷膜で防げる。全ての攻撃を防ぎつつ、とうとう距離が十メートル以下にまで詰まった。
近接戦闘をするため、氷刀を作る。かなり焦り始めた敵は、風魔法を乱発し始める。
「くっ、来るなっ。死ねっ、死ねっ。」
しかし、敵の必死の攻撃も虚しく、全て氷膜で防いだ。すると、焦りや緊張が限界に達したのか、ターゲットは逃亡をやめ、両手をこちらに向けて魔法を放ってきた。
「ついてくんなぁ!」
先程までの攻撃とは違う。一度俺が、ラウムの使い魔に喰らった技と同じ。ノックバック目的の塊だ。吹き飛ばす気らしい。だが、
「ごめんね。それはもう一回経験済みだから。」
ラウムの使い魔との接触の後、考えたのだ。吹き飛ばされない方法を。二度も同じ失敗はしない。
自身の周りを氷の輪で囲う。そして、その氷輪に固定する魔力を込める。宙に浮かせた氷針をその場に留めておく魔力を、更に強化したようなものだ。同様に、足場にしている氷にも魔力を込める。これでどの方向から攻撃されても、氷輪が割れない限りは吹き飛ばない。まぁ、固定に使っている魔力量を大きく上回るような攻撃をされてしまったら、氷輪ごと吹き飛んでしまうのだが。野良の異端者ごときにはこれで十分だ。それに。
「輪の意味ねぇか。」
攻撃が来る方向さえ分かっていれば、そもそも体を固定する必要なんてなかった。一応、万が一の事態に備えて、氷輪を高速展開したが、敵の放った渾身の一撃は、氷壁によって防がれ、俺の元に届く事は無かった。
「な、なんなんだよこいつっ!」
パニックに陥った敵は、情けない声で叫びながら逃げようとする。
「これ、さっきのお礼ね。」
背中を向けて必死に逃げる敵に向かって、氷針を三本飛ばす。直前まできて気付いた敵は、すぐに風魔法を放って撃ち落とすが、反応が遅かったため、防ぎきれずに一本が腕に突き刺さった。
「う、う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
悲痛な叫び声をあげながら、地面まで落ちていく。いくら異端者とはいえど、体は人間だ。痛覚だってある。そこそこの大きさの針が突き刺されば、ああなるのは自然だろう。ましてや、俺のように回復手段があるとも思えない。怪我をしてもすぐに治療できる人と、自然治癒を待たないといけない人とでは、同じ怪我でも全く痛みが違うだろう。
落下した敵を追いかけ、足場を作って何回かに分けながら飛び降りていく。地面に着地すると、腕を押さえながら走る敵を見つける。落下で足を怪我したのか、足を引きずるような走り方で、先程までとは比べ物にならない程遅く、現場を見下ろしていた時とは比べ物にならない程惨めな姿だ。
氷刀を握りながら近寄ると、こちらを振り向いた敵は顔を歪ませ、バランスを崩して尻餅をつく。
「た、助けて。や、嫌だ、死にたくないっ。」
泣きながら懇願する様子は、もはや異端者とすら思えない程、惨めで情けなく、そして気持ち悪い。
「戦闘の最中にお喋りとか、随分余裕だな。命乞いなんかしても、助けてもらえる訳がないって、お前自身が一番分かってるだろ。何も知らない一般人殺してるような奴だもんな。さっさと逃げりゃいいのに、無駄に口動かしてる時間あるならさ。」
「ち、違うんだ!殺すつもりはなかったんだ!たまたま巻き込んじゃっただけで、本当に殺す目的はなか」
最後まで言い切る事なく、敵の首より上は地面に落ち、残った部分も音を立てて倒れた。氷刀を消すと、付着していた血が一斉に地面に落ちる。跳ねた血が靴に少し掛かったが、どのみち返り血で服が血塗れだし、そこまで気にする程でもない。
「地味に疲れたな。」
雑魚ではあったが、流石にちょっと疲れた。しかしまぁ、これでアヤとの買い物中に遭遇する事は無くなった。目的は果たせた訳だ。
「あれ?」
血が落ちない。魔法で気体にしてしまえば簡単に取れると思っていたのに、血が全く気化しない。逆に、水を含めて固めて剥がすように落とすのならどうだろうかと試してみたが、固まる様子もない。そういや、ザガンが言ってたな。魔法の耐性がある物には使えないって。多分それか。めんどくさ。手洗いかよ。
「まじかー。」
大きくため息を吐きながら、入ってきた位置まで戻る。氷階段で登り、だいたいの高さで小さな亀裂を開くと、少し場所が低かったらしく、丁度入ってきた場所の足元辺りに繋がってしまった。普通に亀裂を開けていたら、下の階まで開いてしまったかもしれないので、割と危なかった。
「お、幻音ー。終わった?」
「終わったんだけど、返り血が落ちないから、こっちから帰るわ。」
「分かった。じゃあまた家に帰ったら聞かせて。ここも、いつまで人が来ないか分からないし。」
「りょーかい。まぁ、別にそんな話す事もないんだけど。」
「まぁ、一応ね。それじゃ、気をつけてねー。」
「分かった。」
簡単に会話を終えて、亀裂に魔力を込める。すると、一秒も経たずに亀裂は修復された。まぁ、こんな小さな大きさじゃ、たいした魔力も時間も要らないだろう。とりあえず、無駄に魔力を消費し続ける意味もないので、降りて氷階段を消す。身体中が鉄臭いような若干生臭いような、とにかく嗅ぎ続けたくはない匂いが付着しているし、服も湿っていて気持ち悪い。首なんか刎ねずに、心臓を貫いておけばよかった。まぁ、今更後悔しても遅いが。
不快感を感じつつ、家までの道のりを一人のんびりと歩くのだった。
帰宅した。流石に家へと繋がる位置は分かっている。これに失敗はない。亀裂を開くと、先に帰っていたザガンが出迎えてくれた。
「幻音、おかえり。とりあえず、風呂場で亀裂開くから、そっから入って。」
「分かった。」
言われた通り、一旦亀裂を閉じて待つと、すぐ近くに亀裂が開いた。入ると、すでに風呂は沸かしてあるっぽく、血で濡れた服が更に湿って少し気持ち悪い。
「あ、風呂ありがとな。とりあえず、このまま血洗い流すから、ちょっと居間で待っててくれ。」
「いやいや、幻音疲れてるでしょー。今日は一緒に。」
「お前に身体洗わせるのは絶対嫌だ。」
「ええー。たまにはよくない?一緒に風呂入ったのって結局一回きりじゃん。」
「普通は一回もいらねぇんだよ。」
しかしまぁ、身体も洗いたいが、その前に服に付いた血を洗わないとだからなぁ。正直、そこそこ疲れてはいるし、服を手洗いとかマジで面倒くせぇ。仕方ない、ここは。
「あー、分かった。じゃあ今日は一緒でいいから。その代わり、俺が身体洗ったりしてる間に、服洗っといてくれ。」
ザガンに服洗わせるの全部任せちまえばいいや。
「分かった。」
そう素早く言って、即洗面所へと戻るザガン。十秒くらい経ってまた入ってきた。
「おいちょっと待て。お前、制服の下に体育着着てたはずだよな?どういう脱ぎ方したら十秒で終わるんだよ。」
「ちょっと本気出して、全力で動けばなんとかなる。」
「いや、訳が分からない。日本人にも分かる文章で説明してくれ。」
「まぁ、やろうと思えば大抵できるってことだよ。」
もうどうでもいいや。言及するのは諦めて、血塗れになった服を脱いでザガンに手渡す。ちょっと気持ち悪さから開放されたが、まだ体に少し血が付いてるし、鉄臭いような生臭いような、なんともいえない匂いがまだ付いてる気がする。とりあえず、服を洗う用に桶に水を張り、洗剤と一緒にザガンに手渡す。地味に家事スキルは高そうだったし、変な洗い方はしないだろう。他人の血が付着しているので、いつもみたいに匂いを嗅ごうともしないし、かなり安心できる。これでザガンが洗ってる間にさっさと髪や身体を洗ってしまおう。さっきの異端者の血だと思うと、なんか気持ち悪いし。
髪を四回、体を三回、念入りに洗って匂いを嗅いでみる。うん、もうほとんど残ってない。服はどのくらい血が落ちたのか、ザガンの方を確認してみると、割と綺麗になってきている。というか。桶の前に座って洗うのはいいんだが、胡座って。一瞬で目を逸らしてしまった。こいつ、恥って言葉をどこに捨ててきたのか。拾いに行ってやりたいくらいだ。
「落ちそう?」
桶の前、ザガンの反対側に正座して、手伝い始める。
「多分落ちるし、ある程度綺麗になったら、私の魔法でどうとでもなる。ほら、魔力耐性がある物でも、それを大きく上回る魔力なら効くんだよ。」
「え?それ、手洗いする必要あるの?」
まさかこいつ、口実のためにわざわざ手洗いしてんのか?
「いや、手洗いする必要はあるよ。悪魔とか異端者の血って、魔力の塊っていうか、魔力そのものなんだよ。心臓を核に血液が身体中を巡ってるって感じ。だから、幻音の魔法が効かなかったように、魔力耐性が凄い高いの。ある程度、落とせる分は落としておかないと。」
良かった、ちゃんとまともな理由だった。
「成程、だからあれだけ心臓を守れって言ってたのか。耐性が高くて、回復魔法とか修復魔法とかも効かないから。」
「そうそう。だから、強ければ強いほど、心臓が弱点になるんだよ。魔力が高ければ高い程、心臓の魔力耐性が高くなるからね。その割に、物理耐性は無いし。」
「成程な。ていうかさ。」
さっきから、桶で手洗いするのはいいんだが。
「胡座はやめてくれ。桶とか服の方見るたびに視界に入ってくるから、正座とまでは言わないけど、せめて胡座はやめてくれ。」
「えー、でも一番座りやすいんだもん。」
「いやまぁ、それは分かってるけど。」
俺は正座の方が楽だが、まぁ、普通は胡座の方が楽だよな。あと、服洗うの手伝ってもらってる手前、あんまり強く言えない。
「うーん、まぁいいか。もうそんな時間かからないだろ。」
「あと五分もすれば終わると思うよ。」
五分か。地味に長いなぁ。
「とりあえず、水取り替えるよ。もうけっこう赤いし。」
「分かった。」
たしかに、何回か取り替えてはいるし、服もそこそこ綺麗にはなってきたのだが、それでも割と赤くなるのが早い。
「次回からはできるだけ血浴びないようにしよ。」
そう心に誓った。
「えー、二人で洗うの楽しーじゃん。」
「いや、普通に面倒くさいだろ。」
「えー。」
「まぁたしかに、複数人でなんかすんのが楽しいのは分かるけど、やってること浴びた返り血落としだぞ?しかもお前が毎回そんな格好でやってたら、こっちはやりづらいんだよ。」
「まぁ、絵の具落としてるって思えば。それに、そのうち見慣れてくると思うよ?」
「見慣れてたまるか。あと、こんな独特の匂いした赤黒い絵の具があってたまるか。」
「何事も、受け入れちゃえばどうということはないんだよ。」
「いや、分からなくはないが、何事もってのは違う気がする。」
だいたいの事はとかが合ってると思う。
「まー、どうせ血を浴びる機会なんて、これからいっぱいあるんだから。諦めよ?」
「ほとんど事実みたいな事言ってんのに、会話の内容がえぐい気がする。」
「まぁ、一般人は血を浴びる機会ないよね。」
あってたまるか。どんな世界だよ。
「次に血洗う時に備えて、あとで水着買っとくか。次回からはそれ着て洗え。」
「えー。面倒くさー。」
以後、異端者戦の会話やくだらない会話をしながら、結局七分程かかって洗い終えたのだった。
服を洗い終えたザガンが出ていった後、十分程湯船に浸かってから部屋に戻る。すると、夕飯がほぼ出来上がっていた。ザガンがいなくなってからまだ、十五分程しか経っていないのだが、先程の服を脱ぐスピードといい、こいつの速度どうなってんだ。いや、今回に関しては、俺が帰ってくる前から準備していたのかもしれない。いくらザガンが速かろうと、焼く工程や煮る工程等、料理するうえで作業速度じゃどうもできないものがある。俺がのんびり帰ってる間に準備していたと考えないと、流石に不自然過ぎる。バラムが手伝うとも思えないし。
「ザガン、お前、俺が帰ってくる前から作ってた?」
「え?うん。帰ってきてすぐ。」
良かった。合ってた。
「だよな。バラムがやってたとは思えないし。」
「いや、バラムも一応料理くらいはできるよ?」
「...」
「...」
「え、流石に嘘だろ。」
「いや、ほんとだよ?まぁ、たまに変なゲテモノ料理みたいな感じのだったりするけど。一応普通のも作れるはず。」
「マジか。」
あいつ自分じゃ何もしなさそうなのに。まぁたしかに、ザガンの用意した隠れ家に一人で住んでたらしいし、自分の分の食べ物くらいは自分でなんとかしてたのか。なら掃除くらいしとけよとは思うが。ていうか、風呂とかはどうしてたんだ?そういや、バラムが風呂入るなりシャワー浴びるなりしてるとこ一回も見た事ない気がするが、まさか。いや、それは流石にないだろう。臭くもないし。俺らが学校行ってる間とかにシャワー浴びてるのかもしれない。昼にゲームやってるって言ってたし、起きてるって事だもんな。きっとその時間に...ちょっと心配になってきた。実際今も、俺が帰ってきてから服洗ったりしてる間、ずっと眠ってる訳だし。未だに起きないからな。ザガンが料理してたんなら、そこそこ音は立ってるはずなんだが。考えるのはやめた方がいいかもしれない。
「起きろー、バラム。ザガンが夕飯作ったぞー。」
起きないな。あと、ザガンは今洗面所の方に行ってたし。...多分大丈夫だとは思うが。
...。
うん、やっぱ昼にゲームするのに起きた時とかにシャワー浴びてるんだろう。普通に良いにお...ってなんかこれじゃ俺がザガンみたいじゃないか。あくまで確認のためだ。うん。とりあえず、疑問は良い方向に解決した訳だし、もう考えるのやめよう。
「起きろー。」
熟睡するバラムを起こし、夕飯を食べた後、いろいろあった疲れに負けて、ベッドの上に倒れ込んだ。
気がつくと、見慣れた風景の中に立っていた。最近は見ていなかったが、この場所には昔から何度も来ている。庭園と呼ぶに相応しいような場所だ。長閑で、なんとなく心が安らぐような空間。まぁ、今の現実での状況として、悪魔や異端者の存在を知った今、いつもみたいにゆったりとはしていられないが。少し歩き、小さな小屋の中に入ると、とても見慣れた顔が微笑んで出迎えてくれた。
「おかえり、ノア。」
「お前は見た目変わらないんだな。」
「まぁ、君に似ているだけで、僕は君じゃないんだから。」
「そうか、じゃ、ドッペルって仇名もやめるか?俺がこんなんなっちまった以上、もうドッペルゲンガーにも見えないしな。」
「じゃあ、次はなんて呼ぶ?」
「名前はまだ教えてくれないのか?」
「そうだね。まだかな。でもけっこうもうすぐかもしれないよ。」
「そうか、じゃ、とりあえず結人って呼ぶわ。今の俺は頭のおかしい変態のせいで、現実でも幻音って名乗ってるからな。」
「分かった。」
昔から、俺の夢の中に出てくるこいつ。ザガンに姿を変えられる前の俺、御縁結人と瓜二つの姿をした何か。今までは害の無いドッペルゲンガーみたいな感じに捉えていたので、ドッペルと呼んでいた。そしてこいつは俺の事を、初めて会った時からノアと呼んできていた。ザガンに姿を変えられた後、幻音と名乗ったのはこいつにそう呼ばれ続けていたからだ。
今までは、ここにくるたび談笑して、相談なんかもしたりして、とても安らげる空間だった。しかし、悪魔や異端者の存在を知ってしまった今、俺の姿が変わっても、結人の姿をしたままのそいつを、今まで通りに扱う事はできない。
「なぁ、お前って結局なんなんだ?俺の姿が変わっても、お前だけ特に変化がないのは、ただの似てる別人だからってので一応納得はしたけど。だとしたら、なんで俺の夢に昔から出てくるのかとか、なんで俺の事をノアって呼ぶのかとか、いろいろ聞きたい事があり過ぎる。この姿の俺を見ても、いつも通りノアって呼んできてたし、ザガンとの事はもう知ってるんだろ?」
「一気に質問責めにするね?そんなに沢山聞かれても、答えられる事と答えられない事もあるし、どれから答えてけばいいかも分からないよ。」
「ならまず、これを聞かせろ。お前、悪魔か異端者のどっちかだったりするか?そいつらの存在を知った以上、お前も同様の存在にしか見えなくなってる。自分と同じ姿の人間が、何年も何年もずっと俺の夢の中に出てきた訳だし、魔法とかでもないと不自然過ぎるからな。」
正直、かなり幼少の頃から会っていたし、こいつの事は悪魔なのではと思っている。仮に異端者だとするなら、かなり年上だろう。
「うーん、どっちでもないかなぁ。僕は悪魔でも無いし、悪魔と契約した事もないよ。残念だけど、その考察はハズレかな。」
違うのか。今まで、永くこいつと関わってきたが、嘘をついた事は一度も無かった。おそらく、今回もそうだろう。どちらでもないのなら、こいつの存在が説明できなくなってしまうというのに、そのどちらでもないという答えが嘘でないと、妙に納得してしまった。こいつの言葉は、なんとなく信用できてしまう。
「じゃあ次、これも気になった。姿が変わってるはずなのに、なんで俺って分かったんだ?あと、最近なかなか会わなかったのに、このタイミングで会えたのもよく分からん。」
「うーん、どうして分かったかって質問の答えは簡単だよ。この場所にはノアしか来れないから。あと、どうしてこのタイミングかって質問の答えは、今から説明するつもりだったから、慌てないで。」
成程、確かに俺とこいつ以外が居るのを見た事がない。最初から今現在まで、完全に二人だけの空間だった。それに、この場所に俺を呼んでるのがこいつなのだとしたら、更に納得できる。
「分かった。じゃあ説明してくれ。お前が悪魔とかじゃないにしろ、何かしら関係はあるんだろ?」
「うん。ノアが悪魔と契約してくれたから、ここに呼んだ。」
「成程、なんとなくそれは分かってたけど。なら、俺が悪魔に惹かれたのもお前の影響か?」
「そうそう。ノアの意識にちょこっと触れてね。なんとかして悪魔と会わせないといけなかったから。」
「やっぱりか。なんとなく察してはいたよ。急にあんなもんに惹かれてったからな。まぁ、元々興味はあったけど。それに、あの青年に会ったのがきっかけってのもあるしな。」
「うん。具体的に、悪魔に惹かれるようにとかはできないからね。なんとなく物足りない感じと、何かに惹かれる感覚を与えただけ。あの青年との出会いは、僕としてはラッキーだったよ。前々から少しずつノアの心に影響を与えていたとはいえ、ノアが悪魔と関わるのはもっと後だと思ってたから。それに、僕が与えた影響以上に、ノアが悪魔に魅せられてくれたのも好都合だった。あとは、君が呼び出したのがザガンだったのもね。ちゃんと僕の目的にも近づいてるし、しっかりと猶予も取れる。さらに言えば代償による負荷も軽くて。ザガンを選んだのは僕にとっても、もちろんノアにとっても最善の選択肢だったよ。」
成程、少しずつ話が見えてきた。しかしまぁ、焦らずしっかりと聞いていこう。にしても、ザガンが最善ねぇ。たしかに代償の負荷は無かったけど、別の意味での負荷はデカ過ぎたよ。ま、寿命ごっそりやられるよりは全然良かったって思えるけど。
「で、お前がそこまでしてまで、俺と悪魔を関わらせたかった理由はなんだ?俺が異端者にならないといけない事情があるんだろ?」
「うん、もちろん。契約に代償が必要なのに、わざわざ悪魔と会わせようとするくらい大事。でもまぁ、まだ言えないけど。」
は?
「え?ここまで言っておいて?」
「うん、ここまで言っておいて。」
は?
「いや、ここまできたら別に言ってもよくね?」
「駄目だよ。まだノアじゃ無理だからね。」
「なんだよ、別にまだ無理だとしても、聞いとくくらいはよくない?まぁ、なんとなく察してはいるけど。どうせ、倒さなきゃいけない何かがいたりするんだろ?悪魔だか異端者だか天使だかは分からないけど、野放しにできないようなのが。」
「うん、それは正解。でも、具体的に誰をってのは言えないよ。残念だけど、今のノアじゃ戦いにすらならないから。」
それってもう、西の魔王か天使のどっちかじゃね?ザガンで良かったって言ってるから、東のはないだろうし。
「でもひとつだけ言っておくね?これだけ言っておけば、君がそいつを倒す理由、強くなる理由には十分でしょ?」
「なんだよそれ。」
「まだそいつが動くまで時間に猶予はあるけど、このままだと悪魔だけじゃなくって人間も危険になる。当然、君の大切な文乃ちゃんも含めてね。君は契約する悪魔をザガンにしたおかげで、すぐに東の戦力として使われる事なく、自由に魔法の練習をすることができる。そいつが動き出すまで、ザガンのところで強くなって。」
人間も危険って、どういう事だ?やっぱり西の魔王なのか?
「おい、人間もっていったいどういう、」
俺の言葉を遮るように、そいつは話を続ける。
「僕が君の思考にどんな影響を与えても、全く揺らぐ事がないくらい文乃ちゃんが大切なんでしょ?なら、この理由だけで君には十分だよね。」
そう言って俺の返事を待たないまま、夢は途切れてしまった。
目を覚ますと、真っ暗な部屋の中。スマホを見ると、もう日付は九月十三日。しかし、まだ三時前だ。丁度、丑三つ時とか言われてる時間帯だが、正直、悪魔とかの存在を知った今なら、幽霊とかも今更感ある。出てきたら氷漬けにするくらいの気持ちでいられる。とりあえず起きたんだし、トイレくらい行っておくか。あとは少し喉が渇いた気がしなくもない。
にしても、結人の奴、やっぱいろいろ関わってたんだな。そんな気はしてたが、一応確認が取れて良かった。後気になる点といえば、やはり結人が倒せって言ってた奴の事。どのくらい強いのか想像もつかない。今の俺だと戦いにすらならないか。まぁ、実際その通りなんだろうな。ザガンとの間にすら、圧倒的な実力差を感じるくらいだ。相手がどんなものかは分からないが、少なくとも、ザガンと同等に戦えるくらいには強くならないといけない。
何ヶ月、何年かかるか分からないし、そもそも猶予ってのがあとどれくらいあるのかも分からない。もっともっと、沢山特訓して、もっともっと沢山学んで、もっともっともっと、結人の期待に応えられて、ザガンと肩を並べられて、アヤを守れるくらい強くならないと。
洗面所で手を洗いながら、ぼーっと考えていると、バラムが入ってきた。
「あれ?バラム、どしたの?」
「幻音ちゃんに伝えなきゃいけない事があって。」
何の話をするんだろう。こんな時間にわざわざ伝える事って。
「幻音ちゃん、ずっとここに居てもいいって言ってくれたよね。」
「ん?ああ、言ったよ。ずっと居てくれていいけど。」
「私、東軍に大切な人がいるの。一人だけ、でも私にとって一番大事な人。」
「うん。」
「だから。まだまだここにいるつもりだけど。いつかは、」
「分かった。そん時はそん時でいい。別に止めはしないし。」
「ありがと。でもほんとに、まだまだここにいるから。」
「分かったよ。居なくならなきゃいけなくなる時まで、ここに居てくれ。アヤにもお前が必要だからな。どのくらい居られるかは分からないけど。」
「うん。」
「じゃ、おやすみ。」
「おやすみ。この話、まだザガンにはしないでね。」
きっと、バラムの言っているいつかってのは、結人の言う俺の猶予って奴と似たような時期だろう。なんとなく察した。
バラムが東側に戻ってしまったら、きっともう、会える事はなくなってしまう。けど、俺には止める権利なんてない。バラムの言う大切な人というのが、家族なのか、恋人なのか、親友なのか、それとももっと複雑な関係なのか、全く想像もつかないが、俺にとってのアヤのように、バラムにとって、自分自身より大切に想っている存在だというのはなんとなく理解した。
よし。
さっきした決意と似たような感じになってしまうが、まぁ別にいいだろう。結人に求められるくらいの強さで満足はしない。それ以上に強くなって、西の魔王達を超えてやる。東と西の戦いさえ終われば、バラムも気軽に遊びにこれるようになるだろう。まぁ、そうならない可能性もあるが、そうなったら無理矢理連れてくるだけだ。バラムの周りの魔王も、東のトップのガープとやらも関係ない。アヤにはバラムのような友達が必要、いや、バラムが必要だ。俺が強くなって、東西の戦いを終わらせて、少なくとも一ヶ月に一回以上はこっちに遊びにこさせよう。まぁ、無理矢理連れてこなくても、西の脅威が無くなれば、仕事を嫌がるバラムはこっちに逃げてくるとは思うが。
なんでこう、大切な話ってのは連続して聞くことになるのか知らないが、どっちも俺が解決してやる。結人の話はアヤのために、バラムの話はアヤとバラムのために。無謀だろうが関係ない。アヤのためならなんだってする。それが今まで通りの俺の生き方だ。
その日の昼、図書室で硴水先輩とザガンと三人で集まった。昨日の報告をするためだ。
「って訳で、そのまま討伐しました。先輩の言ってた通りでしたね。相手の魔法。」
「うん、報告ありがとう。でもほんと、めちゃくちゃな戦い方するね。飛んで逃げてる相手を空走って追いかけるって。でもまぁ、討伐成功ならなんでもいいや。昨日の落下事故もちょっと話題になってたし、他校の男子生徒一名が行方不明って話も聞いたし、間違いは無さそうだからね。」
「行方不明ねぇ。」
「ま、魔界で死んで遺体も放置されてんじゃ、人間界だと神隠しにあったようなもんだよね。一応、高校でいじめられてたっぽいから、それが関係してるんじゃないかって話になってる。聞いたところ、事故が起きてた場所にはいつも、そいつをいじめてた奴らがいて、事故死したのもその中の一人だってさ。どうする?名前聞く?」
そうか、それで悪魔と契約して力を得たのか。でもあいつ、殺すつもりは無かったって言ってたし、ただ単に脅かしたり、少し怪我させたりする程度のつもりだったのかもな。悪魔と契約しておきながら、人を殺すのは躊躇うのか。不思議ってか不気味な奴だな。でもまぁ、あいつも事情があって契約して、殺した奴もいじめてた奴って知っちゃうと、なんとなく後味悪いな。まぁ、仕方ない。あいつのせいで被害が出てたのは事実。俺は俺の正義を貫けばそれでいいだろう。でもまぁ、後で花くらいは手向けてやるか。
「興味ないな。」
「そう。まぁ、知らない方がいいかもね。もしかしたら、そのうち小耳に挟むかもしれないけど。」
「その時はその時ですよ。」
「御縁君がそれでいいなら、私は何も言わないよ。じゃ、次の討伐対象について話してもいい?」
「いくらでも引き受けますよ。」
「お、やる気だね。どしたの?」
「いや、ちょっといろいろありまして。あ、あと。引き受けはしますけど、次の土日は働きませんよ?アヤと買い物行ったり、家で遊んだりしますんで。」
「あー、それでちょっとテンション高くて、やる気あるように見えただけか。」
いや、そういう訳ではないんだが、まぁ、夢がどうこうとか、バラムの話とかも言えないし、そういうことにしとくか。
「で、次の敵は?」
早く本題に入ってしまおう。
「それなんだけど、何人もいる討伐対象のうち、誰がいつ行動を起こすか分からないから、とりあえず危ない奴を三人頼もうとおもうんだけど。」
「成程。たしかに、一人一人よりいいですね。狙ってた奴とは違う奴と遭遇、なんて事もあり得なくはないですし。」
「そうそう。まぁ、一応は周期的に行動を起こす奴もいるにはいるんだけど、ほとんどは不定期に、何の前触れもなくって感じだからね。とりあえず、行動頻度の高い奴を三人。」
「分かりました。てか、周期的になんて奴もいるんですね。」
「いるんだよねぇ。まぁ、異端者って変な奴多いからね。」
「それは俺も含まれてます?」
「まぁ、ある意味ではね。うーん、戦い方とか偏愛っぷり?が特に。いや、重愛?分からないわ。でも、異端者っていうより人間として変わってるよ。」
「え?そんなに?」
まぁ、戦い方とか、たしかに普通じゃないかもしれないのはちょっと自覚してる。でも別に、一途なのは悪い事ではないだろう。むしろ、好意対象が変わるような奴の方が問題あるだろう。どう考えても。まぁ、ちょっと重いかなって自覚はし始めたけど。
「そんなにだよね。うん。」
「私も幻音はちょっと変わってると思うよ。」
ザガンにだけは言われたくない。てか、急に話に入ってくるよなお前、いつも。
「一番変人なのは間違いなくお前だよ。」
「もっと変わってる奴なんて山程いるよ。幻音が思ってる以上に、悪魔って変な奴ばっかだから。」
「いや俺、ザガンとバラムしか知らないけど、お前ら二人見てただけで悪魔って変な奴ばっかなのかなって普通に思ってたけど?お前が思ってる以上に、俺はお前の事、変な奴だって思ってるけど、お前らってもしかして、悪魔の中では割とまともな方の部類なの?」
「え?私らそんなに変に思われてたの?でもまぁ、まともな方だと思うよ?私、人間の眼球とか手とか魔獣の歯とか尻尾とか収集してないし、暇な時にその辺の魔獣の骨しゃぶったりもしないし、なんとなくで山削ったりとか意味不明な事もしないし、自分の血で料理したりとか頭のイカれた事もしないし、魔力補給とか言いながら殺した魔獣の魔力を啜ったりもしないし、」
待て待て待て待て。
「ちょっと待て、お前がまともな方なのは理解したからもういいやめろ。なんかもう聞きたくない。」
マジでそんなんばっかなのだとしたら、たしかにザガン達はかなりまともな方だろうな。ちょっと気持ち悪くなってきた。ていうか、喚んだのがザガンで良かったって心の底から思ったわ。
「へー、そんな人たちいるんだ?ねぇねぇ、他にも聞かせて。ちょっと気になる。」
マジすか先輩。あんまり聞きたくないんですけど。
「えっとねぇ、他だとー、クソ真面目に実験してる奴とかいるよ。魔力を採った後に魔法で毒殺して、魔獣の魔力の強さによる毒の効き方とか、前後の変化とかを調べてる奴とか。前に、幻音にちょっとだけ話したフォルネウスって奴ね。あとは、契約した人間に固執してる奴とかも多いよ。意外と立場が上の奴の方が契約者に固執しやすいっぽくて、ベリアルって奴は、双子の人間と契約してるらしいんだけど、そいつらと兄弟みたいに接してるらしいし、ガープ様も、契約した人間を自分の娘みたいに可愛がってるらしくて、その子の話ばっかするから親バカっぽくてなんかウザいって直属の部下に言われてるらしいよ。」
よかった。確かにちょっと変わってる気がするが、さっきのよりはまだマシだ。とりあえず、続きそんなに聞きたくは無いし、ちょっと気になったところがあるから聞いてみる。
「おい、ザガン。それって何年前の話?」
それがどうしても気になった。こいつ、東軍から逃げて隠れてるんじゃなかったっけ?だとしたら、それ以前の話になる。
「いや、割と最近だよ。今私、東軍にはいないけど、連絡取ってる子はいるからね。」
成程。ザガンとバラムだけで逃げた訳じゃないってことか。てか、トップが親バカで、ザガンがこんなんで、バラムもあんな感じで、ベリアルって魔王も契約者に兄弟のように接するとなると、パイモンがどういう人かは知らないが、割と東軍って、俺が想像していたのよりも悪くない雰囲気の場所なのかもしれない。直属の部下が組織のトップに対してウザイとか言える環境って、あんまり無いような気がするし。
「お前、東軍って普通に良さげな環境に思えてきたんだけど、何が嫌で逃げてきたの?バラムみたいに働くのがめんどくさいから?」
「いや、普通に死ぬのが嫌だったからだよ?環境自体は良かったけど、天使相手に戦ってたらいつか死ぬよ。同僚も部下も好きではあるけど、流石に死にたくはないし。」
あー、そりゃそうか。俺も、自分を犠牲にしてまで守りたい人とか、アヤ以外にいないしな。
「とりあえず、あと続きね?そういう変わったタイプの奴のほかに、最初言ってたようなサイコな行動する奴は、」
と、ザガンがまたヤバい奴らの話を始めようとしたところで、今度は硴水先輩からストップが入った。
「あの、その前にちょっといい?」
「なに?」
「その、さっきザガンさん、一人だけガープ様って言ってたよね?ザガンさんって一応魔王らしいし、様付けで呼ぶのってどういうことなのかなって思ったんだけど。」
あー、そうか。硴水先輩って、東軍の関係者の知り合いとか言ってたし、東軍そのものを知ってる訳じゃないのか。まぁ、俺もザガンとバラムに聞いた話しか知らないけど。
「あー、ガープ様はね、東魔王って呼ばれてて、東軍で一番偉い悪魔って言えばいいのかな?反対に、西軍には西魔王って呼ばれてるアスタロトっていう糞野郎がいるんだけど。」
敵対勢力へのヘイト高過ぎかよ。
「え、じゃあ、ガープ様って悪魔が東軍のトップ?」
「そうそう。それでその下に、私とバラムとベリアルとパイモンの四人の魔王。後は、ガープ様直属の部下と各魔王の部下、各悪魔の契約者ってところかな?一応、ガープ様直属の部下のラウムって悪魔がだいたい指揮ってるよ。でも、幻音と話す時にたまに話題に出てくるフォルネウスって悪魔みたいに、ガープ様の直属は、基本的に単独行動が多いかな。」
「へー。」
硴水先輩が、思ってたより話に食いついている。もしかしたら、硴水先輩の知り合いって人がガープ直属部下の一人だったりするのだろうか?さっきザガンが、単独行動が多いとか言ってたし。まぁ、それも後で、あの青年を倒せば分かる事だ。今は気にしないでおこう。
「てか、お前が普通に俺と契約してたし、なんとなく、他の魔王も人間と契約とかしてるんだろうなって予想はしてたけど。軍のトップにまで契約者がいるのか。」
「うん。まぁ、ガープ様の契約者の娘って、実際に会ったことはないから分からないし、そもそもガープ邸に来る事も無いから、連絡取ってる知り合いも見たことないらしいんだけど、魔力の性質が独特で、戦闘には不向きだから、別の仕事してるって聞いたよ。」
「強い悪魔と契約したら、強い異端者になるって訳じゃないのか。」
普通に、魔王とか、元熾天使とか、強い悪魔と契約した方が得られる力も大きいと思い込んでいた。
「まぁ、その通りではあるけど。でもガープ様の契約者の娘って、状態によっては私ら魔王より強いらしいよ?ただ、性質故に魔力が全く安定しないから、実際には魔獣と戦えるくらいらしいって言ってた。攻撃特性とか属性の無い、ただの魔力攻撃しかできないらしいし。」
「成程、ならどうにか性質を克服して、魔力を安定させられるようになったらお前より強いのか。まぁ、どんな性質か知らないし、今までできてないって時点でそうとう難しいんだろうけど。」
「私も詳しい性質までは知らないけど。多分、ガープ様の魔力性質に似てるんだろうし、なんとなく想像はできるかな。」
「へー。まぁ、契約した悪魔に似るか。俺もそうだし。」
「だね。てか、ごめん碧音ちゃん。まだまだ他にも変な奴いっぱいいるんだけど、もうあと五分くらいしかない。」
よし、なんとか時間は稼げたっぽい。普通にもう聞きたくなかったし。
「また後で聞くよ。私もそろそろ戻らなきゃだし。」
それはできれば俺のいない時にして欲しいなぁ。
「ごめんねー。じゃあ、またね。」
「うん、また。あ、御縁君。話してる間に地図に書き込んでおいたから、スマホ返すね。三人、色で分けたから。」
「分かりました。」
「現場状況とか、被害者の死因とか、討伐対象の使う魔法の考察とかは、普通にあとで連絡しとくから。それじゃ。」
「了解です。それでは。」
無駄に時間を使いまくった気がするが、とりあえず次の敵の情報を三つも手に入れた。まぁ、土日は働くつもりはないし、アヤとの買い物とかを楽しむとして、祝日の月曜に一人くらい見つけられたらいいな。
スマホをしまい、図書室を出てザガンを追い越し、アヤの元へ足速に戻っていった。
相手の情報、境遇を知り、少し後味が悪くなってしまったが、それでも最初の任務は達成。それにあの戦いを通して、野良の異端者よりも、自分の方が圧倒的に魔力量、及び質で上回っている事が分かった。結人の事、居候の事、その他にも気がかりは多いが、今はひたすら依頼をこなすことしかできない。少しずつ近づいてきている大きな問題を解決するには、結局のところ、ひたすら強くなるしかないのだから。次の月曜がきたら、早速依頼をこなしていこう。依頼内容くらいは今日中に確認しておいて。スマホの、先輩から送られてきたデータを開く。それじゃあ次の敵は、