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ガイーシャルーティン  作者: 白椛 紅葉
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2話「召喚した悪魔は変態でした。」

 ザガンがバラムを召喚した後、バラムに名前を聞かれた俺は、

「ああ、俺は幻音。幻の音って書いてノア。御縁幻音(みえにしのあ)だ。よろしくな、二人とも。」

と、そう答えた。ノア。この名前は、知人から貰ったものだ。というか、勝手にそう呼ぶから勝手に使わせてもらっただけなのだが。何故そいつが、俺の事をノアと呼ぶのかは知らない。

とにかくそう名乗ったからには、今日から俺は御縁幻音だ。まぁ、ネットではずっとそうだったから、あんまり違和感は無いが。

「分かった。ザガンとどういう関係かは分からないけど、幻音ちゃんの言う通りに干渉魔法使えばいいんだよね?」

「そうそう。てか、そういや私も名前聞いてなかったわ。改めて、私はザガン。東の魔王の一人だ。こちらこそ、よろしくな、幻音。」

「よろしく。で、えーと。バラムさん?にいろいろ説明すればいいのか?」

「そそ。」

「バラムでいい。呼び方。時間かけたくないから、なるべく簡単に説明して。でも細かくね。」

難しい注文だな。まあ、断れないが。

「分かった、バラム。じゃあまずは。」


 バラムに干渉魔法を使ってもらった。まず家族や親戚等の記憶から俺の存在を消去。さらに、友人四名を除く俺の事を知っている人物に、もともと俺がこの姿と名前だったように認識させる。そう認識すると、書類等に書いてある名前や住所等も変化するらしい。都合が良過ぎるくらい便利だと思ったが、そういう魔法らしい。細かく説明すると、バラムが干渉するのは周りの人間ではなく、俺の存在そのものなのだ。俺自身にこの魔法を使うことによって、俺に関わってきた人達の持つ俺の記憶や情報を改竄するというものらしい。家族や学校関係者はともかく、親戚類や知人は諦めていたから可能だと聞いて驚いた。そして、同じようにザガンを転校生だと認識させた。俺の姉妹という設定で、日本人のような名前で。ザガンの転校に関しては、手続きや書類等々のために直接学校まで行くことになったが、その程度でなんとかなってしまった事にとても驚かされた。

その後、金銭面をザガンになんとかしてもらった他はほぼバラム頼りだったが、諸々を済ませ、学校に近いアパートの一室でダラダラとくつろいでいた。流石に当日のうちにいろいろと済ますのは無理かと考えていたのだが、全部バラムがどうにかしてくれた。なんだかんだでバラムにはかなり世話になってしまったが、いったいザガンはバラムにどんな貸しを作っていたんだろう。眠そうにしながらもここまでしてくれるなんて。

「あのさ、ちょっと気になったんだけど、ここまでいろいろ手伝ってくれるなんて、バラムはザガンにどんな借りがあったの?」

「ん?えーと。家出の手伝い。あれ?でももうお釣りが沢山来るくらい手伝った!.....と思う。」

家出かよ。魔王だろお前。.....ん?ちょっと待て、ここまでいろいろしてくれたけど、釣りがたくさんくるくらいって。.....お釣り分のなにかをここで要求されたりしないだろうな?ザガンも貸しを作ってたっぽいし、バラムも貸しってことになるんだろうが、その矛先が俺の可能性がある。

「ザガン、私、前に借りた分以上に働いたよね。今度私から頼んでもいいよね?ちょっとお願いが。」

お釣り分は支払わせるらしい。が、自分の方に来なくてよかった。

「え?あー、無理のない範囲なら。」

まあ、たしかに出来ないこともあるだろうし、流石にザガンの言い分は分かってくれるはずだろう。

「ここに住んでいい?」

「「はっ?」」

ハモった。

どういうことだ?バラムになんの利点がある?この怠惰そうな子が俺達みたく非日常を求めているとは思えない。どちらかというと、平凡に寝ていたそうな感じだ。いやでも待て、さっきこいつ家出がどうとか言ってたよな。まさかこの家出魔王。

「ご飯作って貰いたいのと、あと夜は幻音ちゃんを抱き枕にして寝たい。鷲より抱き心地良さそうだし。お昼寝は流石に一人でもいいけど。」

「おい、ちょっと待てバラム。お前、私が準備した隠れ家はどうすんだ。てか、逃亡中なのに家事めんどくさがってんのかよ。埃まみれになってねぇだろうな。あと、幻音を抱いて寝るのは私だからな。そういう契約なんだから。」

「ふぇっ?ちょっ。」

ザガンが急に馬鹿な事を言い出した。

「なっ、幻音ちゃん、ザガンといったいどんな契約したの?代償で姿取られたのは分かったけど、何要求したのさ。」

「いや、代償の一つに、ザガンのちょっとした頼み事とかを聞いたりするってのがあるだけだから。別に変なこと要求してねぇよ。」

するわけがないだろう。代償取られる悪魔との契約で、淫乱な要求するような馬鹿がいるなら、ぜひとも会わせてもらいたいくらいだ。

「ええっ、さっきバラムを召喚する前に百合で意気投合して、一緒に百合百合しようって言ってたじゃん。」

事実を改竄しやがった。

「えぇ.....。幻音ちゃん。ザガンはやめといた方がいいよ。」

「いや、そんな意気投合してねぇ。百合は好きだが、自分がなるのは多分違う。いや、もうそうならざるを得ない体にされたんだが。少なくとも俺はこいつとイチャつく気はない。」

「ひどい。バラムは私をなんだと思ってるの?それに幻音はもっと考え方を変えてもいいと思うの。悪魔と契約するとかいうぶっ壊れた行動力持ってるんだから、百合云々の概念くらい捻じ曲げちゃってもいいんだよ。」

いやまぁぶっ壊れてんのは自覚してるよ。

「いや、百合云々以前に、単に俺が一途なだけだよ。誰でも好きになるわけないだろ。十六年ちょい生きてきて、好きになった奴は一人しかいないから。」

「え?一途な奴なんて存在すんの?可愛い子に告白されたらコロっといっちゃうもんだと思ってたわ。それに、純粋な人でも三、四人くらいいるものだと思ってた。」

「可愛い子にコロっといったりするのは陽キャっていう種類の猿の話だろ。人間にはもっと一途な奴だっているんだよ。」

「うん。それは私も思う。ザガンがおかしい。」

バラムにも同意された。バラムにもそういう相手がいるのだろうか。

「いや、私も別に誰でも良いわけじゃないぞ。ただ幻音は私が、私の性癖の通りの姿にしたわけだから。」

「マジかお前。最初からその気でこんな代償提示してきたのか。」

やばい。これは思ってたのよりヤバい悪魔と契約したのかもしれない。

「で、話戻すけど。私、ここに住んじゃ駄目?あの隠れ家が見つかるのも時間の問題だろうし、人間界の方が安心できる。それに、ご飯作るのもめんどいし、埃くさくて安眠できないし。」

「やっぱ掃除してなかったのかよ。でもまぁ、見つかるのが時間の問題ってのはたしかかもな。もうラウムさんも、あの辺まで探しにきてる頃だろうし。」

家出魔王を捜索してる悪魔がいるのか。まぁ、バラムからしたら問題なんだろうが、家出してるバラムが悪い気がする。魔王だろお前。

「うーん。まあ、いろいろ手伝って貰ったのは確かだしな。住まわせるくらいは良いと思う。食事も、ザガンのおかげで金が有限じゃない訳だし。いるだけなら特に問題は無いだろ。むしろ、また助けてもらったりするかもだしなぁ。うーん、でも抱き枕はちょっと.....。」

「幻音。バラムをここに置くのは決定なの?だとしたら、強制的に抱き枕ルート確定になっちゃうと思うけど。」

ザガンがニヤニヤしながら言い放った一言に困惑してしまう。

「え?なんで?」

「だって三人でこの部屋住むなら、一人用のベッドで三人で寝ることになるじゃん。二人ならまだしも、三人だと流石に狭いから、真ん中の人に抱きつく感じじゃないと寝れないと思うけど。」

マジか.....。そういやそうだった。

「いまから家具屋行くか。まだ開いてるかな。」

「幻音、この部屋にベッドをもう一つ置くスペースがあるとお思いで?」

「う.....無いな。うー、じゃあ仕方無い。俺が床で寝ることにするわ。布団買おう。」

「何言ってるの。幻音を挟んで三人で寝ればいいんだよ。」

「私も、それでいい。あったかそうだし。」

「あの、俺に発言権は?」

抱き枕扱いとか、発言権以前に人権が危うい。

「契約の内容を思い出して。これからの重要な事以外、ちょっとした頼みなら聞いてくれるんでしょ。」

どうやら、姿を変えられた事の方が衝撃的であまり考えていなかったが、もうひとつの代償は思っていたより大きかったようだ。


 とりあえず、明日から学校である。荷物をしまったりするのも必要だが、まずは明日の準備をしなくてはならない。制服は男子用のしか持っていなかったが、ザガンの分を編入の手続きの後に買った時、俺の分も一緒に買っておいたので大丈夫だ。

制服を出し、ハンガーにかけておく。すると、

「幻音、早速着てみて。」

「あ、私も制服幻音ちゃん見たい。」

と、二人に言われた。まぁ、着るくらいならいいか。サイズが合ってるかとかも気になるし。

「はいはい。分かったから。」

と、そこで制服を着るため、ザガンに貰った白い服を脱ごうとして気付いた。そういえば、この姿になってから着替えるのは初めてだ。慣れないうちは大変そうだなぁ。上半身が特に。あれ、そういえば。

「なぁ、ザガン。」

「何?」

「この白い服貰ったのはいいけど、下着は?」

「え?その白服の下は何も着てないよ。」

「は?」

ちょっと何言ってんのか分かんない。

「だから、ノーパンだよ。」

「おい、お前、服準備すんならしっかり下まで準備してくれよ。つまり、あの後からずっとこんな状態だったのかよ。」

「その通り。推しキャラのノーパンが発覚した時って、ちょっとテンション上がるよね。だけど、ずっと気付かなかったの?違和感無かったの?」

ザガンは驚いたような表情をするが、

「それ以上の違和感がずっとあったし、普通に気付かなかったってか考えもしなかったわ。」

当たり前だ。それどころじゃない違和感と共に過ごしていたのだ。

「まあまあ、とりあえず制服着て。」

「え?下着は?」

「無いよぉ。」

馬鹿かよ。

「いや服準備してたんだから下着も準備してくれ。」

「仕方ないなあ。」

「いや、なんで脱ぐ?」

「え?これしかないから。私の脱ぎたてをはいて。」

こいつ、流石にここまでくると引く。

一応俺も、ちょっと前までは健全な男子高校生だったのだ。友達と下ネタくらいは言ったりする。が、こいつはそんなレベルじゃねぇ。平然と自分の下着差し出すとか、ドン引きなのだが。

「いやだよ。もういいわ、しばらくは。ってかもはやオタクってか変態じゃねえかお前。」

「いやぁ、幻音に召喚される前は、人間界の娯楽物、アニメ漫画ゲーム三昧な日々だったからねぇ。いつの間にかこうなってた。」

めっちゃ満喫してんじゃねぇか。

「いやお前、じゃあ何に退屈してたんだよ。」

「いや、一人っきりって意外とつまらないものなんだよ。」

「それはまあ確かに、なんとなく分かるけど。」

俺もそうだし、アヤが特にそうだからな。

「それで百合百合した作品見ながら、いいなー、私も彼女欲しいなーとか考えててさー。久しぶりの召喚者を女の子に変えちゃうくらい溜まってたんだよ。」

「おい、俺はそんなくだらない理由で女にされたのか?」

ふざけんな。

「百合がくだらない...と?」

「百合は否定してない。お前の動機がくだらねえっつってんの。」

これ以上言っても無理だと判断した。しかし、買いに行くのは流石に気が引けてしまう。なので、素材だけ買って自分で作ることにした。まさか、ザガンに貰った力の最初の実用的な使用が下着制作とは。馬鹿過ぎて頭痛くなってきた。

というか、ザガンがちょっとどころじゃなく変態に見えてきた。このままだといつか犯られる気がする。けっこうガチ百合な感じだったようだ。しかも、容姿さえよければ見境無し。最低過ぎる。

「着替えるから、とりあえず隣の部屋行っててくれない?」

「え?女子同士だし別にいいじゃん。」

多分、聞いてはくれなさそうだと思う。今後、こんな感じのことがあっても聞く前に諦めた方がいいのかもしれない。

でも、バラムはいいとして、ザガンと同じ部屋で着替えるのは危険だと思う。危機感知センサーが振り切れるレベルで反応している。.....気がする。

あ。思いついた。少し考えれば分かることだった。制服持って洗面所に行けばいいだけの話じゃないか。たしか鍵が付いていたはずだ。それによく考えたら、まだ自分の顔をしっかり見ていない。洗面所に鏡があったし、丁度いい。

ハンガーにかけてあった制服を取る、そして。

洗面所まで走った。

「幻音ー!?」

ザガンが呼ぶ声が聞こえるが、鍵をかけたのでこっちの勝ちだ。

こっちまで来る足音がし、すぐにドアノブからガチャガチャと音がした。執念、怖。

「おーい。幻音ー。」

なんか呼ばれてるけど、鍵は大丈夫そうなので、安心して服を脱ぐ。そして、自分の体を見て驚いた。日焼けも傷もホクロも無い。手足も細く.....つっても、元々から痩せすぎだったため、前よりは太いけど、とにかく細い。のに、なんかこう、妙にむちっとしている。まぁ、とても綺麗だとは思う。あんなガチ百合なザガンの望む姿に変えられたのだし、まあ、醜いはずはないのだが。

しかし、本当に綺麗で汚いところが無いな。顔も、自分で言うというより、男子高校生の目線で見て、一目惚れとかされてもおかしくないレベルだと思う。というかこの、貧乳より少し大きいくらいの胸。歩いていてずっと思っていたのだが、地味に重い。正直、ちょっと邪魔だ。

そして、髪や眉などの頭部以外には毛が一切生えてなかった。そう。脛とか脇だけでなく、頭部以外全部生えてなかった。一応、姿が変わったとはいえ、十六歳のはずなのだが。どう反応すればいいのか。..........これは.....ザガンの趣味だと思っておこう。うん、それが良い。というか、それ以外に結論付けられない。反応に困る。でもまあ、こっちの方がいい。汚くないし。うん。困惑するな。あいつが変態なのは知っているだろう。とりあえず、自分を洗脳しとけ。

てか、俺の体。ザガンの性癖を具現化したような、というより、ザガンの性癖そのものなのか。そう考えるとちょっと気味悪いな。あの変態の願望そのものって。

困惑してしまったが、時間をかけて変な事をしていると思われても嫌なので、直ぐに制服を着て洗面所から戻った。

「おおー。幻音ちゃん可愛い。」

「うう、初の着替えシーンがぁ。」

素直に褒めてくれるバラムと違って、ザガンは残念そうにしていた。というか、隅で体育座りって、いくらなんでも露骨過ぎる。やりたいだけだろ、それ。

とりあえず、こいつも制服の方も大丈夫そうだな。


 明日からの学校の心配は、干渉魔法の影響対象から外した友人達への説明くらいになった。そろそろ本題に入ろうと思う。

そう、俺が求めているのは悪魔の力を使った戦闘とか、非日常な感じの生活なのだ。今も十分非日常だけど、このままだとバトルモノからTSモノにジャンルが変わってしまう。それも、あんなガチ百合悪魔の趣味でだ。契約した悪魔を間違えたか。.....いや、そもそも死んでた可能性があるし、ザガンは大当たりだろう。悪魔と暮らすなんて、他の悪魔との契約してたらできなかっただろうし。特に負荷があった訳でもなく、力を手に入れたのだから。

「とりあえず、明日の心配事ももうほとんど無いし、本題に入るな。」

「何それ?」

「ああ、バラムは知らなくて当然か。ザガンとの契約で力を貰ったから、これからそれを使ったりして何をするか、今後の方針を決めるんだよ。」

「お、今のままでも十分楽しいけど、たしかに今後の方針は欲しいね。」

.....今のままでも十分か。ほんとに俺は、この悪魔と思考が似ているらしい。もはや運命すら感じる。まぁ、性癖に関してはかなり違うが。

「そうそう。とりあえず、なにか倒したいとかそういった目標はないんだよね。この力が欲しいって思ってただけだから。」

「そういえば、なんで力が欲しかったの?」

「いや、前に炎の魔法みたいなのを見てさ。それで自分もこんな力が欲しくなって。」

「え?」

俺の話を聞いた途端、ザガンの表情が変わった。

「あ、いや。そんなに驚く?ただ力が欲しかっただけなんて。まあ、これからいろいろ面白そうなことを考えて実行したりしていくつもりなんだけど。出来ればこの力を使って戦闘とかしてみたいとは思ってる。」

「あ、いや、ごめんね。驚いたのはそっちじゃないの。前に魔法を見た?え、じゃあ他にもこの辺に悪魔が居るってこと?それって人間だった?」

「うん。多分。普通に人間にしか見えなかったけど、お前ら見てたらそうじゃない気もしてきた。」

「炎の魔法を使う異端者(ヘレティック)かぁ。うーん。気になるけど、この件はまた何か情報を得るまで保留でいっか。一回見た程度でそんなにいろいろ分かったりはしないだろうし。それにしても、炎ねぇ。あいつじゃなければいいんだけど。」

「うん。とりあえず、この力に慣れるまでは遭遇したくないと思う。んで、ヘレティックって何?前にもバラムが言ってた気がするけど。あと、あいつって誰?」

「悪魔と契約を交わした者のこと。異端者を英語でヘレティック。そのまんまだよ。あと、あいつってのは気にしなくてもいいよ。知り合いに炎使う奴がいてさ。そいつじゃなければいいなって思っただけ。ほら、バラムが家出してるって言ってたでしょ。だから、近くに居たらやだなって。」

あー、言ってたな。家出魔王の捜索してる奴ってことか。あいつはそんな風には見えなかったけど。

「へー。まぁ、次に会うまでは分かんないな。とりあえず、方針についてだけど。なにか思いつくか、他の悪魔の情報を得たりするまでは、普通に学校に通ったりしてればいい?」

「うん。いきなりデカイ組織を相手に戦うとか言われても無理だし。他の異端者(ヘレティック)を倒すとかも、魔法に慣れるまでは無理だろうし。」

ザガンは肯定してくれた。

「私は家で寝てる。あ、ゲームとかある?あるならやりたい。」

居候の家出魔王は、マジで何もする気なさそうだな。まぁいいけど。恩もあるし。

「なら、とりあえず、この家にWiFi繋げといて。それでパソコンとか買えばやっててもいいよ。一応、金は有限じゃないから。あ、でも、もし何か買う時はザガンに言ってくれ。あと、デカイものは駄目な。」

「ありがと幻音ちゃん。」

「そういえば異端者(ヘレティック)の他にあの時、気になること言ってたよね。バラムがなんか、暴れ牛じゃなくて良かったって。ザガンみたいに姿が変わったりするの?」

地味に、ずっと気になっていたことだ。

「いや、バラムは二重人格者なんだよ。今みたいなやる気のない怠惰な感じのが眠り羊の人格で、戦闘の時とかに三つ首の大悪魔の状態になったりすると現れるのが暴れ牛の人格。眠り羊は精神干渉系統の魔法が得意なタイプで、暴れ牛は物理干渉系統の攻撃魔法が得意なタイプ。」

「へー。そりゃ羊で良かったわ。牛がどんなのかは知らないけど、なんとなくやばそうなのは分かった。とりあえず、今日はもう疲れたし、風呂入って寝るわ。まだちょっと早いけど。ザガン、料理できる?さっきの鶏肉とか使って何か作れるなら頼みたいんだけど。」

「料理くらいなら作れるよ。」

「なら、夕食作って貰っていいかな?俺はそんなに自信ないし。」

とりあえず、料理はしっかりと覚えるつもりではあったが、ザガンが料理できるなら、しばらくは問題なさそうだ。安心していたが、ザガンがニヤリと笑ったので一瞬にして不安になった。

「うーん。では、幻音が背中流してくれるなら、これから料理担当でいいですよぉ?」

絶対なんか要求してくると思った。が、こいつは俺が男だということを忘れてはいないだろうか?もうマジで、容姿しか見てないのかもしれない。

「いやいや、忘れてない?俺、一応契約前は男だったんだけど。」

「うん。でも体は私の好みだし、性格もいろいろと私に似てるし、男か女かは関係無いと思うから大丈夫。」

うーん。どうしようこの変態。説得できそうに無い。契約のこともあるし。いや、待てよ。あいつのさっきの台詞なら.....。ちょっと危険だが、試してみる価値はあるかもしれない。

「分かった。背中くらい流してやるから。風呂出たらすぐ夕食頼むぞ。」

「お、とうとう幻音も百合百合した気分に?じゃあ、早く一緒に風呂入りましょ。バラムももうけっこう前から寝てますし。」

「寝てたのかよ。」

やけに喋らないなと思ったわ。そのまま、ザガンに引っ張られながら脱衣所に向かった。

ザガンの反対を向きながら衣服を脱いでタオルを巻く。ザガンがいるので、浴槽に浸かってる時以外は常にタオルを巻いたままのつもりだ。まあ、絶対なんか言われる気はしているけど。とりあえず、即身体を洗って、即出る。これしかない。

ん?おい待て何故息を吸う音が聞こえる?

「おい!」

振り向くとザガンが先程脱いだ白い服を裏返して胸の辺りに顔を埋めて深呼吸をしていた。キモい。

「出てっていいか?」

「駄目です。」

浴室に入ったあと、タオルを取ってザガンの反対を向きながら浴槽に沈む。

「ねえねえ、幻音。こういう時って、もっとガン見するもんじゃないの?元男子高校生でしょ?興味無いはずないと思うけど。うーん、あ、もしかして、一途がどうこういってたあれ?いやでも、いくら一途を自称する程だとしてもさ、隣にいる全裸の女の子を見ないとかそんな純粋な人いなくない?」

失礼だな。

「いや別に、一途とか関係なくさ、普通に失礼だろ。まぁたしかに、興味無い訳ないし、気になりもするけど。あれだけ変態発言したお前だけは、ちょっとそういう目で見れないし、それになんかされそうで怖い。」

「ほー、興味はあるのかぁー。じゃあ。」

ニヤニヤと煽るような声でそう言ったザガンは不意に、

バシャッ!

後ろから抱きついてきた。

「ひゃっ!ちょ、おい!離れろ。」

ザガンを無理やり引き剥がすと、ザガンの両肩に手を置き、突き放したままキッと睨みつける。

「やめい。」

少しだけ怒気を孕んだ声で言う。

「あ、やっとこっち向いた。」

効いてねぇ。そりゃそうか。はぁ。

「なんかもうどうでもよくなってきたわ。」

ザガンから手を離すと、そのまま脱力して肩まで湯に浸かる。

「でー、幻音。一途らしい幻音の想い人ってどんな人なの?」

「急だな。」

「気になる。」

「そうだなー。周りと関わる事に消極的で、落ち着いてて優しくて、ちゃんと周りに気を使える子だよ。」

「私か?」

「馬鹿だろ。」

お前の真逆だ馬鹿野郎。

「なんて子?」

「百衣文乃って子。六歳の時に一目惚れして以降、十年間ずっと好きでいるのに、未だに告白すらできてないんだよなぁ。」

「なっが。人間ってもっところころ好きな人変わるもんじゃないの?小学生なんか特に。」

「全員がそうな訳ないだろ。俺はアヤしか好きにならねぇよ。」

ほんと失礼だなこいつ。

「成程ー。幻音ちゃん純粋だねぇ。たしかに一途なのかもねー。あ、でもつまり、もはや恋人枠は空いてないってことか。」

枠とか言うな。

「空いてませんよ!アヤ以外を好きになるなんて無理だから。」

「じゃ、じゃあ。私は幻音にとってどういう存在?」

どういうって言われてもなぁ。

「特別な力を与えてくれた恩人。」

「恩人⁉︎なんか他人っぽくてやなんだけど。」

「男子高校生から女子高校生に変えてきた悪魔。」

「え?いや悪魔なんだけど。」

「で、一応、たった二人しかいない大切な家族の一人...かな。...重度の変態だけど。」

「.........」

静かになるな。柄にもない事言ってんのは承知してんだから。でもまあ、ザガンに対しては一応そう思ってる。もともと嫌いではあった家族は、契約後のバラムの干渉魔法で既に居なくなっている。いや、居るには居るが、既に赤の他人なのだ。一緒に暮らす事になった二人は既に家族だと認識している。

「家族......かぁ。」

うわぁ......王の爵位まで持ってる大悪魔がたかが人間に家族認定されてにやけ出しやがった。

「いやまあ、今の俺には家族なんて、ザガンと居候のバラムくらいしか居ないから。それに、本当の家族だった人は、そんなに好きじゃ無かったし。」

「そっか。ふふ。じゃあ、私は幻音の......お姉ちゃん?とかかな。」

「まあ、そんな感じかな?千歳くらい年上だけど。」

「幻音ー。」

急に抱きついてきた。さっき怒ったばっかなのに。

「ちょ、やめ。当たってるから、とりあえず離れろ!」

「ええー。お姉ちゃんが妹に抱きついてなんの問題があるのー?」

「問題大アリだわ!てか、妹って、いやまあ確かに妹なんだけど。そうなんだけど。」

契約の代償で女の子にされたんだから、たしかに弟ではなく妹だ。というか、俺の姉と認識するように干渉魔法を使ったのだから、一応戸籍上でも姉だし、たしかに間違いは無い。でもなんか納得いかねぇ。

「姉妹なら問題なーい。姉妹百合とか好きじゃないの?」

「いや、たしかに百合好きだし、姉妹百合はかなり好きな方のジャンルではあるけど!自分がなるのは違う!てか、なんだよ!TSと悪魔の歳の差千歳の姉妹百合とか、マイナーどころじゃねぇ。」

「ええ?姉妹百合好きならいいじゃん。可愛い妹ちゃんめー。」

「いや、少しイチャつく分にはいいよ。そのくらいならたしかに姉妹なら問題無い。でも、完全に百合になるのはダメだからな。それに俺は、アヤ以外とは普通に嫌だから!」

「ほほー、そういえばアヤちゃんについて全然聞いてなかったね。じゃあ、早速お姉ちゃんにその恋バナ聞かせてもらおうか。」

なんだこいつ。

「いや、さっきまで自分で百合百合しようとしてた人がなんで別の人の話に食いついてんの?なんでもありか?全部OKな変態なのか?てか、たしかに認めたけど、お姉ちゃん面はやめて。一人称を私に戻して。」

この悪魔はいろいろとヤバイ。なんていうかいろんな属性を取り込み過ぎて安定しない。こいつにお姉ちゃん属性は要らないと思う。てか、もうこいつ、大悪魔じゃなくてサキュバスなのでは?魔王とは思えねぇ。


 精神的に大ダメージを負った入浴を終えると、ザガンが早速夕飯を作り始めてくれた。

「ふふふ、素晴らしい時間を過ごせたぜ。また明日の風呂が楽しみだなぁ。」

ニヤついたザガンが料理をしながらそう言った。

「いや何言ってんの?風呂は今日だけだよ。」

当然のように言い返す。

「え?」

「だってザガンは、幻音が背中流してくれるならこれから料理を担当するって言ったんだよ。料理に関してはこれからって言ったけど、背中に関してはこれからとか何も言ってないし、一回でもいいってことでしょ。」

それを聞いたザガンが顔を青くする。

「あ......。いやでも、あの言い方なら両方ともこれからっていう風にも捉えられるでしょ。」

「そう捉える事もできはするけど、料理の方だけとも捉えられるよね。俺は料理の方だけこれからって捉えたうえで、ザガンの発言を了承したから。ねぇ、悪魔ってさ、契約とか、約束事を重要視するんでしょ。なら、自分の発言の責任くらいは取れるよね。」

そう言うと、ザガンの表情が固まってしまった。それを見て、媚びを売るような商業スマイルで言ってやった。

「お料理よろしくね。おねえちゃんっ!」

ザガンは喜んでるのか悲しんでるのか分からない微妙な表情で、

「分かった。」

渋々了承した。


 ザガンが夕飯を作り終えた後、夕食を三人で摂りながら話す。

「明日、朝、ザガンは早めに学校行かないとなんだよな。たしか。」

「うん。幻音も着いてきてくれる?」

「いや流石に着いてくわ。」

なにしでかすか分からんからな。

「ありがとー。」

「あ、あとこれは俺もだけど、学校ではザガンじゃなくて願莉だから、気をつけないとな。」

ザガンの名前は、御縁願莉(みえにしがんり)という事になっている。ザガンのガンにリを付けて願莉。家庭の事情で妹の幻音の元に来る事になったため、転校してきた姉というシナリオだ。

「お姉ちゃんって呼んでくれても」

「却下」

「姉妹設定なんだし、てかもう姉妹じゃん。」

「明日早いんだし早く食べて寝るぞ願莉。」

「はぁーい。」

夕食を食べ終えた後、記憶を改竄しなかった友達に今日の事を連絡して、返信を待たずに二人の抱き枕になった。


 翌朝、居候の眠り羊と変態お姉ちゃんに抱きつかれたまま目を覚ます。眠り羊こと、バラムを起こさないように変態を起こす。

「おいザガン、起きろ。」

肩を揺らしながら話しかける。

.......起きない。

「起きろって、遅刻するぞ」

「おい、起きろ。」

全く起きる気配がない。なんだこいつ。

「.........」

「早く起きないと遅刻するよ。お姉ちゃん。」

「.........」

いや、今のは起きる流れだろ!全然起きなかったのにお姉ちゃんとか言われたら起きるのはテンプレみたいなもんだろう。

もういいや、先に着替えよう。安全なうちに。起き上がってベッドから静かに降りる。二人は相変わらず寝たままだ。ほんとに魔王なのか、こいつら。

着ていたパジャマを脱ぎ捨て、昨日ハンガーにかけておいた制服を着る。.....できれば今日の帰宅後にでも下着を準備しなくては。いや...そうか。別の方法があった。天才、って程でもないな。普通の発想だ。

今来たばかりの制服を脱ぎ、クローゼットを漁る。あった。今日は体育はないが、取り出した体育着を着て、その上から制服をもう一度着た。これでよし。これでスカートを気にする必要がなくなった。少し安心。

着替え終わったし、さっさとザガンを起こさないと、ほんとに遅刻する可能性がある。いや、近いアパートにきたからそうでも無いか。今日はいくら早く行かなきゃとはいえ、前の家とはそもそもの距離が違う。電車要らずなのはありがたい。とりあえずザガンを起こそうとしてベッドの方を向くと。

変態と目が合った。

「.....いつから起きてた?」

「幻音がパジャマを脱ぐところからかな?制服一回脱いで体育着着たじゃん?あの時にね、すっぽんぽんでクローゼット漁る幻音を見て思ったの。下着、準備しなくて正解だったなって。」

なんなんだこいつ。風呂でも見られてるし、そもそもこいつがこの姿に変えてきたのだから、そこまで恥ずかしがる必要はたしかに無いのかもしれない。しかし、イラっとした。

「.......」

ガンッ!

「痛っ」

俺は無言で変態に、昨日役目を終えたベルトを投げつけた。ズボンではなくスカートを履くことになった今日からは、武器に転職してもらおう。

「起きてたんなら話しかけろ。なに観察してるんだよ。」

「痛いなあ。でも、覗きがバレて桶投げられたみたいでちょっと興奮し...」

言い切らせる前にザガンの口を手で塞いだ。

「いいか、学校では変態発言は控えろよ。あと、アヤの前で抱きついたりはするなよ?」

言ったあと、手をどかす。

「はーい。他人の前じゃ言わないし、妹の恋路の邪魔はしないよ。」

今更姉ぶられてもなぁ。

「あと、朝食は特に何も無いから、学校行く時にコンビニ寄るからな。バラムの分は、昨日の夕飯の残りをあっためるか。家出る前に起こそう。」

「コンビニ弁当?おおー、食べたい。」

「普通に美味しいぞ。まあでも、昨日のザガンの作ったやつのが個人的には好きだけどな。」

「よし分かった結婚しよう、それってプロポーズだよね?毎日君の味噌汁が飲みたい的な。」

「違う!俺はアヤ以外を嫁に貰うつもりはない。お姉ちゃんと結婚する気なんか毛頭ない。」

「うぅ。幻音が求婚してきたのに私が振られた。でもでも、お姉ちゃんって呼ばれるのは嬉しいよー。是非学校でも。」

「それは無理だ。早く着替えろ願莉。近いとはいえ、今日は早く行かなきゃなんだし、遅れるぞ。」

「分かった。」

ザガンは返事をするとそのまま脱ぎ出したので、洗面所に逃げた。

櫛で寝癖だけ直し、顔を洗う。

.....相変わらず綺麗なんだよなぁ。鏡に映った自分の顔を見て、昨日ザガンに姿を奪われた時の事を思い出す。女子にされたことを改めて実感するが、それと同時に契約で得た力のことも考え、長らく求めていたモノが、ずっと探し続けていた(こたえ)が、今自分の手の中にあるという事を実感する。ずっと欲しかった力が手に入った。それも、顔は普通の細い男子から、美少女に変えられるのを代償としてだ。なんか、寿命と比べればそれなりに得した気がする。ただなぁ。なんとなく納得がいかないとこもあるんだよなぁ。でもまあ、力を得たのは事実。

目の前に氷の塊を作り出す。本当に...本当に魔法が使えるようになった。まだ試してはいないが、氷以外もできるらしい。まあ、氷が一番作りやすくて扱いやすいし、魔力で硬化させたりできる以上、金属等の硬い物である必要は全くないため、一番いいんだけど。

とりあえず作った氷を気体に戻し、洗面所を出る。

流石に着替え終わっていたザガンが鞄にいろいろと詰め込んでいた。

「あ、幻音、丁度準備終わったよ。」

「そか。じゃあ行くか。あー、倉橋氏達になんて説明しよっかなぁ。あ、そいえば!」

スマホを確認する.......めちゃくちゃ通知がきてた。

昨日の夜、返信を待たずして寝たからなぁ。とりあえず全員に、学校で説明すると返信しておく。

「よしおっけ。行こっか。って、忘れるとこだった。」

急いでベッドのとこまで行き、バラムを起こす。

「んぁ?おはよ。」

「うん、おはよ。俺らもう学校行くから、朝食、あっためて食べてくれ。テーブルの上置いとくから、食べ終わったら、食器は水に漬けといて、まあ、めんどくさくなかったら、洗ってくれると助かるけど。昼の分は冷蔵庫な。」

「はーい。」

「んじゃ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

朝食のことを伝えて、玄関に戻る。

「お、きた。行こっ。幻音。」

「うん。今度こそ行くか。」

今度こそ、本当に家を出た。そして、近くのコンビニに寄る。

「幻音、コンビニって何が美味しいの?おにぎりとかのイメージあるけど。」

「あー、おにぎりもだけど、パンが上手いよ。受験期、毎日塾でコンビニのメロンパン食べてたから。」

そう言って俺はメロンパンと梅のおにぎりを手に取る。

「じゃあ、私も。」

ザガンは、俺と同じメロンパンと、エビマヨのおにぎりを手に取った。

「飲み物は学校の自販機で百円だから、そっちでいいよね。荷物になるし。」

「あー、うん。持ち物は減らしたい。」

そんな会話をしてレジに並ぶ、と言っても並んでる人は一人しか居なかったので、隣のレジに呼ばれた。

二人一緒に会計を済まし、コンビニを出て、おにぎりを齧りながら歩き出す。メロンパンだけ鞄に入れ、おにぎりの包装は外のゴミ箱に捨てた。倉橋達への説明を考えながら歩き、すぐに学校に着く。

「それじゃ、靴履き替えたら教務室行こっか。」

玄関で靴を履き替える。ザガンの下駄箱は昨日教えてもらったので大丈夫だ。

そのまま教務室のある棟まで行き、いろいろと説明を受けた。でも、「分からないことがあったら、御縁に教えてもらって。こいつ生徒会だし、いろいろ頼れるからね。自分の妹の方が話しやすいでしょ。」と面倒な説明は丸投げされた。でも、俺を御縁だとちゃんと認識し、妹だとも言ったので干渉魔法がバッチリ効いていたことは分かった。


 教員の説明を聞いたあと、教室のある棟に行く。そして教室の扉を開けると、流石に誰も居なかった.....と思ったらアヤが居た。こんな早く来てるとは、また親と嫌な雰囲気にでもなって早く来たのかな?たまにアヤは、仕事で嫌な事があって荒れている状態の親と一緒の空間に居づらくなって、学校に早く来る事がある。気を遣っているのと、居づらさに自身が耐えかねている事の両方が理由。まぁ、帰ったら特になんともない事が多いのだが。

干渉魔法の影響を受けていないアヤはこっちを見て誰だろうという顔をしたあと、すぐに俺かもしれないと気づいたようで、小走りに寄ってきた。

「あ、あの。.....み、御縁...君?」

困惑するのも無理はない。ってか、困惑しないほうがおかしい。

「そうそう、俺が御縁、んでこっちが一応大悪魔のザガン。」

大悪魔と聞いたあと、少しアヤが後ずさった。

「ザガン改め、御縁願莉だよ。よろしくね。あと幻音、一応って何。私、魔王だし、正真正銘の大悪魔だよ。」

ザガンはあんまり気にせずに挨拶をする。一応の方は気にしてるが。

「えっと、あなたが御縁君の言ってた悪魔さん、なんだよね。よろしく...お願いします。えっと、願莉...ちゃん?さん?えと、百衣文乃...です。」

「あー。じゃあやっぱ君がアヤちゃんかぁ。幻音の言ってた通りだー。可愛いー。髪の毛もなんか雪みたいで綺麗だし。オドオドした感じもなかなかに。」

「え?え?...か、かわ、私なんて、周りと見た目全然違うし、可愛くなんて...。」

アヤが顔を少し赤くする。くそ可愛い過ぎかこの生き物。

「いや、アヤは普通に可愛いと思うぞ。ただ、病気のことを理解してくれるような人が少ないだけだし。むしろ、俺からしたら、その銀髪はかなり魅力的だと思うけどな。」

それを聞いたアヤがさらに顔を赤くし、

「あ、ありがと。」

と答えた。なんか横でニヤニヤしてる変態がウザイ。

「とりあえず、昨日連絡した通りだから。よろしくな。」

「う...うん。なんか微妙に飲み込めてないけど、そのうち、慣れる...かな?」

「まあ、すぐに飲み込めちゃう方が変だろ。そのうちでいいよ。」

そのまま他の生徒が教室に入ってくるまで、いつも通りの会話をしていた。ザガンが居ることだけがいつもとは違う。

しばらくすると、関澄氏が入ってきた。この人は基本的にいつもけっこう早いらしい。普段俺が学校に行くと、必ず先に来ている。そして、アヤと一緒に居る知らない二人を見て、状況を把握したらしく、

「おはよ。御縁と、願莉さんだっけ?」

と言ってきた。

「いや、状況飲み込むの早すぎだろ。お前。」

「いや、流石に驚いたよ。えっと、願莉さん。俺は関澄渉耶、よろしく。悪魔って言ってたけど、なんかちょっとイメージ違うね。」

「いや、こいつ、今は人間の姿してるだけで、グリフォンの翼生えた牡牛だったんだぞ。最初。」

「へー。そっち見てみたいねぇ。」

「俺の見た目に対するコメントは無いのか。」

「ごめ、悪魔はちょっと興味あるけど、人間は二次元か二・五次元にしか興味無い。てか、イベントもうすぐ終わるから徹夜で眠い。」

「そういうやつだったなお前は。」

「変わった人間だね。この人。」

お前が言う?

「お前も悪魔ん中では変わりモンだろ。」

「さあ?分かんないけど居るんじゃない?他にも。」

マジか。悪魔やべぇ。

「と、とりあえず、御縁君。倉橋君と登佐君が来るまで待とっか。」

「うん、まあ、倉橋氏はもうすぐ来ると思うよ。」

倉橋氏は普段俺と同じ電車で来てたから分かる。

話してるうちに倉橋氏が来た。いつも通りの時間帯だ。

「おはよ、みんな。で、どっちが御縁?」

「両方御縁だよ。こいつが願莉。俺が幻音。いろいろありがとな。おかげで無事契約できたわ。」

「まあ、流石に見たら分かるけど。それで、代償はよく分かったけど、願いの方は?」

「あ、それは俺も気になる。」

「わ...私も。」

「あー、流石にここは無理だわ。もう結構人来てるし。午後って空いてる?うちのアパート、学校のすぐ近くだから。そこで。それならバラムも紹介できるし。」

「分かった。でも、普通に違和感あるなぁ。先週の金曜に会った時は男だったし。」

「うん。御縁君、私なんかより全然可愛いと思う。」

「あー、違和感の塊だな。周りが全く気にしてないあたりが特に違和感ある。」

「まあ、自分でも違和感しかない。」

「なに?下半身とか?」

流石だな。なんの躊躇いもなくそれを言うとは。まぁその通りなんだけど。

「ちょっ!関澄君!?」

関澄氏の言った一言にアヤが赤くなり、みんなの視線がこっちに向く。

「いや、みんなしてこっち向くと普通に恥ずいんだけど。」

と、話してるうちに登佐氏が教室に入ってきた。

「おはようございます。えと、どっちが御縁君ですか?」

「あー、俺。おはよ、登佐氏。」

「おはよう。歩佑君。」

「登佐君、おはよう。」

「歩佑、おはよ。」

「初めまして、願莉だよ。登佐歩佑だっけ?苗字含めて四文字ってなんか珍しいね。ま、とりあえずよろしく。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

「てかさ、なんかみんなこっち見てない?」

「あー、願莉見てるんだろ。転校生っつっても、土日のうちに手続きしたんならみんな知らないだろうし、多分、他のクラスの人が来てるくらいに思ってるんだろうけど、知らない人いたら、流石にちょっと見るだろ。てか普通に可愛いし。あーでも、うちの学年、女子少ないし、一年生が二年の教室来てるとかそんな認識かも。」

「はー、成程。あ、そだ登佐氏。今日の放課後、うち来てくれ。学校のすぐ近くのアパートだから。もう一人紹介したいやついるし、いろいろ説明したいし。」

「あ、はい。分かりました。」

いろいろ話してるうちにSHRの時間になり、席に着く。みんなと同じように普通に席に座った願莉を、みんなが気にしだした。

「起立.....礼。」

週番の号令で挨拶をする。

「えーと、気付いてる人もいるかもしれませんが、転校生が来ました。」

担任の言葉に、全員の目線が願莉に向く。

「御縁さん、前へお願いします。」

その言葉に、今度はみんなが俺の方を向いた。そして、周りと話しながら視線を、前に出ていく願莉に戻した。

「自己紹介してもらっていいですか?」

担任に言われ、ザガンが口を開く。

「御縁願莉です。幻音の姉です。よろしくお願いします。」

ザガンが俺の姉だと言うと、周りがざわつきだす。が、そんなの気にせずにザガンは席に戻った。

再び週番が号令をした後、ザガンの周りに人が集まる。転校生だと分かった途端に質問攻めしに来たのだろう。なんか俺も連行されて一緒に質問攻めされた。ザガンは少し楽しそうに返答していたが、俺は面倒くさかったので、その輪から抜け出し、アヤの近くに行った。SHR前に一時間目の準備はしてあるから、チャイムが鳴るまでは話せる。アヤとしばらく話したあと、授業の一分前には席に戻った。


 一時間目を難なく終えた後、ザガンの席に真っ先に行き、周りに話しかけられる前に二人で鞄に入れておいたメロンパンを食べ始めた。それでも寄ってくる人は流石にいるが、話しかけられても口に含んだ分を飲み込むまでは返事ができないので、普通に楽だ。食べ終えたあと、少し喉が乾いてきたので、ザガンに提案する。

「次の休み時間、飲み物買いに行かない?流石に喉渇いたから。」

「あー、確かに。パン食べたから余計にかな。」

そんなやり取りをして、休み時間が終わりそうなのに気付き、席に戻った。

二時間目も特に問題なく終え、一時間前に言った通り、二人で玄関のある棟まで行き、飲み物を買った。

「あ、ザガン。先に戻ってて、トイレ行ってから戻るから。」

「いや、ここで待ってるよ。戻ったら質問攻めされそうだし。面白いっちゃ面白いけど、流石に朝からずっとはつらいわ。」

「あー、だよなぁ。じゃあここで待っててくれ。」

「はーい。」

玄関のある棟の、特に誰も居ないトイレに入り、用を足して個室から出ると、満足気なザガンが居た。おかしいなぁ。廊下にいたはずなんだけどなぁ。

「なんとなく想像はつくけど、何をしてたか、言え!!」

「耳を澄ましていただけです。変なことはしてません。」

「そうか、耳を澄ますのは特に問題ないな...時と場所によっては。で、こんなところで耳を澄まして何を聞いてたんだ?」

「幻音のトイ...」

とりあえず殴った。

教室に戻るとすぐにチャイムが鳴り、三時間目が始まる。なんか、授業があるから休み時間くらいしか話したりもしないし、いつもとそんなに変わらない。まぁ、そんなもんだよなぁ。


 その後、何事もないまま四時間目まで終え、昼休みになった。いつもはアヤと二人、たまに倉橋氏や登佐氏も一緒に食堂に行くが、今日からはザガンも一緒だ。関澄氏は基本、他の人と一緒に食べに行っている。ので、今日は倉橋氏、登佐氏、アヤ、ザガンと五人で食堂に行く。五人集まったはいいが、流石に人が沢山居るとこで悪魔とか話す訳には行かないので、普通の会話をする。

「願莉さん、学校はだいたい慣れた?まだ一日目だけど。」

「んー、なんとなくは。」

「まだ、専門科目の授業やってないし、慣れるのはその後でしょ。」

「あー、確かに。」

そう、うちは工業高校なので、専門科目が結構ある。なので、慣れるのはその後だ。

「とりあえず、食べ終わったら俺は図書室行くけど、みんなはどする?」

この後のことを聞く。

「私は幻音についてくかな。」

「わ...私も、御縁君についていきます。」

「俺は教室に戻るかな」

「僕も本の返却だけしたら教室に戻ります。」

聞き終えた後、まだまだ会話をしながら昼食を食べ、先に食べ終えた倉橋氏と登佐氏は食堂を出て行った。

残った三人も食べ終え、食堂を出たあと図書室に向かう。と言っても、玄関と食堂と図書室は同じ棟の一階にあるので、すぐに着く。

図書室で、借りていた本を返却したあと、新しい本を借りる。司書さんと仲が良いので、お勧めの本を聞いて借りた。借りた小さい本を制服のポケットにしまった後、そのまま図書室の中でくつろぐ。図書室には座りやすい椅子だけでなく、ソファまであるので、そこで座りながらゆっくりする。

ザガンとアヤの二人と座りながら話していると、突然後ろから知らない人に話しかけられた。

「こんにちは。御縁君とザガンさん。」

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