狐とラーメンとばかしあい
夕飯の為に、ラーメン店に訪れた【五条 悟】は隣の席の客に【ばかしあい】を仕掛けられてしまう。
※【ばかしあい】とは、
人間達と妖怪達が正体を隠し、互いの正体を暴く、という遊びのような物が行われます。
正体を暴くといっても、【だーれだ?】や【いないいないばぁ】みたいな感覚で行われているため、互いに楽しむためなのが多いです。
一軒のラーメン店にやって来た男子高校生。
『いらっしゃい!』
店員の声を聞きながら、青年は空いていたカウンター席に座る。
「……あっ」
隣の席に座っていた、OL風の女性が彼の顔を見てら小さく声をあげた。
「どうしました?」
「あっ、なんでもないです、失礼しました」
女性が謝ると、丁度――、
「おまちどぅ!」
粋な声を出して、鼻の長い店主が、隣の席の女性にラーメンを出す。
「わー、どうもー」
女性は嬉しそうに、割りばしを手に取る。
「……あれ?【悟】君かい?珍しいねぇ?」
店主が青年に話しかける。
「ちょっと、トラブルがありまして、冷蔵庫が壊れたんですよ」
「もしかして、また【サラティ】さんが何かをやらかしたのかい?」
「そんなところです、なのでラーメンひとつ」
「あいよっ!」
彼と店主は、知り合いで、短く会話をした。
(……やっぱり【五条 悟】君だ)
隣の席の女性は、二人の会話を聞いて焦り出す。
店主が調理のため、厨房の奥に戻ると、悟はスマホを取り出す。
彼が、スマホの画面に指を伸ばすと同時にスマホが、少し揺れた。
彼はスッ、とスマホを操作して耳元にかざす。
『もしもしー、悟君ー?』
「はい、そうです」
『あのねー冷蔵庫がー今無いからーだからー外で食べてきてー』
風を切る音と共に、間延びしながら女性の声が聴こえてくる。
移動しながら、電話をしているようだった。
「大丈夫ですよ、もう店に来ていますから」
『そうー?じゃあ、取り返してくるからー』
忙しく、女性が電話を切る。
会話の内容から件の【サラティ】という女性だったが――、
(……あれ、さっきの話、なんかおかしいな?)
OL風の女性は疑問に思いつつ、麺を啜る。
(あぁでも、ここのラーメン美味しいなぁ……。)
心のなかで、舌鼓を打っていると――
「……あの、狐のお姉さん?」
悟は!隣の女性に声を掛ける。女性はドキッ、として――
「……あの、なぜ私が狐だと……?」
焦りながら、聞き返すと彼は――
「だって、それは……椅子から尻尾が飛び出してますよ?」
女性の座る椅子の背もたれの隙間から、狐の尻尾が伸びていた。
「……あっ。すいません。」
女性は慌てて!尻尾を見えなくして隠した。
「へい!お待ち!」
「ありがとうございます」
丁度、悟の前にラーメンが置かれる。
「おっと、お嬢さん店内では尻尾は隠して置いてくれよ?」
「ごめんなさい、ラーメンが美味しくて、つい……」
女性は照れながら、言葉を返した。
「それと、悟君、久しぶりだから餃子、おまけするよ」
「ありがとうございます」
店主は笑ってまた、厨房の方に戻っていく。
(……ふぅ、バレたかと思った……)
女性は内心、安心しながら、今度はチャーシューに箸を伸ばす。
「あっすいません、そこの醤油 取ってください」
ところが、悟が女性の横にあった醤油差しを指差した。
箸を止められて、少しムッとしながらも彼に醤油を渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、【孤山】さん」
醤油差しを渡す女性の手が、ピタリと止まった。
「……誰の事ですか?」
「あれ、【孤山 美歌】さんでは?」
醤油差しを受け取りながら、悟は一人の女性の、名前をあげた。
(――なんで私の正体がバレてるの?!)
美歌は戸惑いながらも、誤魔化そうとして――
「い、いいえ、君のクラスの女子なんて知らないですよ?」
「あれ?僕は、クラスの友人とは言ってないですよ?」
墓穴を掘った。
(しっしまったあぁぁ!)
美歌は心の中で叫んだ。
「それに、女の子とも言ってないですよ?」
悟は揺さぶりながら、餃子を一つ、口に運ぶ。
(――あっ、もしかしてこれが……)
彼女はあることを思い出す。
(――【ばかしあい】!!)
この世界では、人と妖怪が一緒に暮らしていた。
特に隠す必要が無いものの、元々習慣付けられていた妖怪の性質は、今だに残っており、自然と自身の正体を隠す癖があった。
その正体を暴き合うことを、【ばかしあい】と呼ばれていた。
それを今、悟がしかけたのだった。
(――この場合は、私が正体を隠し通すか、彼の正体を暴けばいいのね!)
美歌は緊張しつつも、正体を隠すことにする。
「……それは、君が高校生で私が女性だから、私の尻尾を見てクラスメイトだと思われたと思ったからよ。」
(……誤魔化せたかな?)
悟に人違いと思わせるため、嘘の話をする。
「うーん、確かにそうてすねぇ……。」
「どう?まだ、続ける?」
彼女は少し余裕になって、煽った。
「……でも、先ほどの尻尾、一本だけでしたよね?」
「……それが何か?」
悟は、まだ質問を続ける。
「以前、卒業生の方から聞いたことがありまして、大人の狐の妖怪の方々は、尻尾が二又に分かれていると……。」
食べ終わった、箸を置いてから――
「だから、大人の女性のはずのあなたの尻尾が一本なのがおかしいんですよ?」
(……あっ、いけない!)
始まった時点ですでに、高校生と言うことはバレていたようだった。
しかし――、
(もしかして、悟君の正体って……)
美歌は、先ほどの電話を思い出して、手を打ってみる。
「……そうね、確かに私はまだ高校生よ。でも、あなたの正体が解ったわ」
「……へぇ、いったい何だと思いますか?」
彼は表情一つ変えなかったが、美歌はニヤリとして――
「……それは……」
「お二人さん、知り合いだったのかい?」
そのタイミングで、店主が二人に話しかけてきた。
「いえ、ラーメンが美味しいので、味の感想を言い合っていたんですよ」
悟は、簡単に誤魔化した。
「いやぁ、嬉しいねぇ!」
上機嫌にになった店主は、他の客に呼ばれて離れていった。
「……どうしました?」
「……店の外で話しましょう」
美歌は思うところができて、丁度二人共、食べ終わっていたので
支払いを済まして、店の外に出る。
美歌は辺りを見渡して、人がいない事を確認してから――、
「もういいかぁ」
そう呟くと、彼女の体を煙が包む。
煙が晴れると、悟と同年代の女子高生が現れる。
「なんで、バレちゃったかなあ?」
彼女が件の【孤山 美歌】だった。
「いいの、正体明かしちゃって?」
悟は疑問を投げ掛ける。
「だって、他の人に話すつもりなかったでしょ?」
「まぁ、【ばかしあい】をやってみたかっただけだからね。それに正体を隠してラーメン食べてるのを話してもねぇ」
美歌は、少し顔が赤くなった。
「だって、ラーメン食べに来てるの、見られたら恥ずかしいもん」
言ってから、今度はいたずらに笑うと――、
「でも、君の正体には気がついたよ!」
悟は、ドキッとした。
「君の正体は【さとり】ね!」
美歌はビシッ、と悟に指を向けた。
「電話に出た時の先読みしたような会話!きっと心が読める妖怪の【さとり】に違いないわ!」
彼女はキメ顔をしたが、悟は――、
「……どうでしょうね?」
「ふふ、そういうことにしておく」
そんな態度の悟に対して美歌が、負けじと答えたが――
「……でも、ここのおじさんは気づいていたよ?」
彼は、ラーメン屋の方を見ながら言った。
「えっ?」
美歌も!店の方を見る。
「おじさんは天狗の中でも変わり者で、ラーメン屋をやってるんだけど、女性のお客さんが来ると口説き始めるんだけど……」
更に彼は、あきれた顔で――
「子供は口説かないんだ」
「……つまり、それって……」
美歌は、気付く。
「そう、おじさんが口説いていなかったから、OL風の姿をした君が大人の女性じゃないって気がついたんだ」
(そういえば、何度も来てるのに一度も口説かれたことがない…いや、口説かれたい訳じゃないけど)
美歌は思い返して、ため息をついた。
「なんだぁ、最初からばれてたのかぁ~」
悟は、クスっとしてから謝った。
「ごめんね、【ばかしあい】のつもりではなかったんだけど、何となく気になって確かめちゃったんだ」
「んーん、結構楽しかったからいいよ、でも……」
彼女は、一呼吸おいてから――
「私、初めてだったんだ、だから次はしっかり化けるわ」
「……」
その言葉に、悟は何かを答えようとしたが、彼のスマホが鳴った。
「あっスマホ鳴ってるね……。じゃあ丁度いいから私帰るね、それじゃまたね」
「……またね」
美歌は手を振って、帰路を歩き出す。その途中で、ふと疑問に思う。
「……あれ、何で最初に名前を呼べたんだろう?」
普通、おじさんの行動から大人の女性ではないと気がついても、個人の特定はできなかったはず。
ましてや、男性が女性に化けていた可能性もあったのに。彼女は考えたが――、
「……やっぱり、悟君は【さとり】なのかな……?」
その結論に至り、いつか正体を教えて貰えることを願った。
―――続く。
『こんな感じで、どうでしょうか?』
「妖怪の遊びって感じだね」
『五条君は人間ですけどね』
「そういえば、彼が主人公だったね。ほとんど孤山さんがメインだったけど」
『それについては次回に』
では、この辺で。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。