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第七十二話 その真実、衝撃につき

 とりあえず、闖入者を招き入れ、四角い机に五人向き合う。

 俺と安斉が隣同士、その向かいにおっさんとそれを挟む形で残った二人。

 幼馴染とは対角線の距離にある。

 ……正直少しばかり違和感を覚える。


「今までなにやってたんだよ、おっさん!」

「す、すみません、晴信ぼっちゃん。

 ご心配をおかけしました」

「それはいいんだけどさ。

 外、大変なことになってんぞ」

「みたいですな」


 おっさんは見たところ、普段と変わりない様だった。

 こいつの元いた場所から考えれば当たり前なのかもしれないが……。

 その落ち着き払いようは鼻につくような、いや頼りになるというような、複雑な感じ。


「もしかして、何か心当たりがあるとかですか、トネリコさん」

「いいえ、全然、名探偵殿。

 どうして魔物がこっちの世界にまで……

 みなさん、よくご無事でしたね」

「ああ。勇者に助けてもら――」

 その言葉を聞いて、たちまちに逃げようとするトネリコ。

「待て待て、逃げるな。

 慎吾、出口塞いどいてくれ」

「イエッサー、大佐!」

 慎吾はそれよりも早く部屋の扉の前に立ち塞がった。

「誰が大佐だ……」


 行き場を失ったおっさんは再び腰を下ろす。

 どことなくばつの悪そうな顔をしていた。

 どんだけあいつの話をしたくないんだよ、こいつは……

 大の大人が、と少し呆れる。


「そもそもなんであの場から逃げたんだ?」

「それはですね……

 あっ、そうだ。寧音お嬢さん、わたしの道具袋はどこですかな?」

「うーんと、バックヤードにおきっぱだと思うけど」

「ちょっと取ってきてもらってもいいですか?」

「うん、わかった。

 立見君、ちょっと避けてくれる?」

 寧音はさっさと立ち上がって部屋を出て行った。

 相変わらず、俺の方は一切見ようとしない。


「寧音ちゃん、私も手伝うよ」

 そう言って、安斉もパタパタと追いかけて行った。

 もしかすると、空気に耐えかねたのかもしれない。


 俺はいきなりのことに、ちょっと呆気に取られてた。

 おっさんめ、真面目に話そうとするのを度々妨害してきやがって。

 やや不満を顕わにしながら、俺は再び口を開く。


「おっさん、露骨に話を逸らすなよ」

「いえ、一応魔物が飛び込んできた時の準備をしておこうと」

「ほんとかよ……」

 俺は半信半疑だった。

 一理あるから祖追及はしないでおくが。

「で、さっきの質問の答えは?」


 俺がそういうと、あからさまにおっさんの顔が曇った。

 困ったように、ぐっと眉間に皺を刻む。

 そのまま腕を組んで、小さく呻り声を上げつつ、考え込む仕草をとりだした。


「決心がつかなかったというか……

 はっきり言えば、帰りたくないんです!」

「そんなに勇者たちのことが嫌なのか?」

「それもありますけど……

 私はこの世界で世界一の商人になると決めたので」

 ふんす、と気合の入った表情を浮かべるトネリコ。

「いやいや、それ初耳なんだけど……」

 苦々しい思いを感じながら、俺は頭を振った。


 そういう話は一番最初の頃に聞いていた。

 しかし、あれは向こうの世界での話だ。

 それがいつの間にか、こっちの世界での話になっているとは……


「じゃあこの店を手伝ってるのもその一環なんですか?」

「そうでございます、名探偵殿。

 さすが、鋭いですな!」

「まあその是非については後で考えるとして。

 でも、向こうの世界を救えるのはお前だけだって話だぜ?」

「あんなの勇者様の嘘に決まってます」

「何のための?」

「勇者様に聞いてください!」

 強い口調で言われたら、俺には反論の余地はない。


 そうこうしていると、再び扉が開いた。

 寧音と安斉が袋の口紐を互いに持って部屋の中に入ってくる。


「ありがとうございます」

「いいのよ、これくらい」

「トネリコさんは、これを取りにここに来たんですか?」

「ええ。奴らと闘うための道具が必要ですから。

 ……そうだ、皆さんも護身用に何か渡しましょうか?

 安くしておきますよ」

「金とんのかよ!」

「おおっ、晴信、キレのいいツッコミ!」

「そういうこと、言わなくていいから……」

 俺は苦々しい気持ちで、親友の顔を睨みつけた。


「それでどんなものがあるんだ?」

「女性陣には魔法の杖を渡しておきましょう。

 振るだけで、なんとあら不思議!

 氷も炎も自由自在!」

「あ、ありがとうございます」

 差し出された杖を安斉はおずおずと受け取った。

「ふっふっふ、あたしの炎が火を噴くわ!」

 対照的に、やる気満々に幼馴染は手に取る。


 何意味不明なこと言ってんだ。

 そう言おうとしたけれど、直前でやめた。

 相変わらず俺と奴の冷戦状態は続いている。


「男性陣はやっぱり武器がいいですよね。

 剣とか、ハンマーとか、槍とか……ボウガンなんてものもありますぞ!」

「ありますぞ、じゃない!

 そんなもん持ってたら、俺も慎吾もすぐに牢屋行きだ」

「晴信、冷静に考えれば、魔法の杖も怪しいと思うよ……」

 

 ……確かにそうだ。言われて初めて気が付いた。

 物騒な道具な事には変わりない。

 どうも俺自身、おっさんにだいぶ毒されてしまったらしい。


 その後も、ああだこうだと俺たちは騒ぎ始めた。

 こうしていると、いつも通りの日常を感じられる。

 相変わらず異常事態は続いているだろうし、俺と寧音の仲は最悪なんだが。

 まあ束の間の心の休息ということで……


「ただいま。――なんだ、トネリコ。キミもいたのか」

「ひいっ! 勇者様、すみません、すみません」

 すぐにそんな時間も終わりを告げたわけだが。




「つまり、この異変は二人がこっちの世界に来たから起きた、ということですか?」

「ああ。もともと自分たちはこの世界にあるべき存在ではないからね

二つの世界のバランスが崩れてるんだろう」


 まあ、なんとなくそういうことは想像できたけれど。

 いわゆる()()()なわけだし。

 勇者の話を聞きながら、ふとそんなことを思う。


 魔物は一通り倒し尽くした、彼女はそう告げた。

 それでも、息一つ乱れていない姿を見て、改めて歴戦の戦士はすごいと感心させられた。

 だが、まだ余談を許さない状況らしい。

 またいつ魔物が現れてもおかしくない、彼女の表情はとても悩ましげだった。


「とにかく、我々は一刻も早く帰らなければならないのだよ、トネリコくん」

「うぅ、しかし……でも……この状況では……」

 苦悶の表情でぶつぶつと、おっさんは言葉を漏らす。

「選択肢はないんだよ」

 そこに追い討ちをかける勇者。


 おっさんは助けを求める視線を俺に送ってきた。

 しかし、勇者の言うことは至極もっともだ。

 二人の存在が、俺たちの世界に悪影響を及ぼしているなら、帰ってもらうほかない。

 それに――


「一度戻って、落ち着いたら、またこっちくればいいさ」

 魔王を倒して平和になった後ならば、トネリコの使命も失われる。

 後は、彼の行く手を阻むものはなにもない。自由だ。


 奴の大それた野望を聞いた時、初めこそ驚いたものの。

 今となっては、それがあいつの本当にやりたいことなら、別にいいんじゃないか、と思う。

 むしろ羨ましい。夢中になるものがあって。

 進路選択を前にしたこの身としては、心の底から本当に。


 だが、勇者の表情は渋い。

 何かを言いにくそうにしている。

 俺には、そんな風に感じられた。


「それは、それは、できないんだよ――」

 やがて、彼女の口を飛び出したのは、絶望を纏った言葉だった。

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