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第五十二話 三人目の依頼者

「豊臣雑貨店……? もしかして寧音の家ってお店やってるの?」

「ううん、ここはおばあちゃんのお店」

 店の外観を眺めながら、寧音は隣に立つ同級生にそんな会話をする。

 俺と慎吾はそれを少し後ろからボーっと眺めていた。


 同じ高校の制服を着た四人組。いつもの三人ではない一人の女子が今日のお客様だった。

 クラスメイトの薄井良子(うすいよしこ)――寧音の友達だ。

 ショートカットがよく似合う少し勝ち気な所がある少女だ。背の高さは女子の平均くらいだと思う。

 確かバスケ部だったと思うが、あまり接点がないので詳しくはよくわからない。慎吾も同様らしい。

 

 なんでも放課後寧音が帰ろうとしたところに、相談事を持ち掛けられた。

 そしてその内容を聞いた結果、おっさんの力が必要な案件だと判断した。

 ということを、さっき校門前で合流した時に聞いた。ちなみに慎吾は完全に巻き込まれただけ。


『昨日あれだけのことをしたんだから、あんたにも手伝ってもらうわ』

 とは俺の横柄な幼馴染の弁。

『ちゃんと市場原理に則ってサービスを享受しました』

 と友人は返したものの、それは彼女に黙殺されてしまった。

 こうして、立見慎吾も『トネリコの不思議な店』の仲間になった!


 それでこうして薄井の悩みを解決するために、とぼとぼとここまで歩いてきたわけである。

 

「でもここ普通の雑貨屋だよね? わたしの悩みとは関係がない様な……」

「まあまあ騙されたと思って」

 困惑する薄井をよそに、寧音は店の扉を開けた。

「おじさん――()()()よ!」

 入り口から中に向かって叫んだ。


 まだ混乱が収まらないようで、薄井はとうとう俺たちの方を見た。

 しかしなんと言葉を返していいかわからず、俺は曖昧に笑うことしかできなかった。

 慎吾も隣で苦笑いを浮かべて首を振っている。


「なにしてんのよ、みんな。早く入ってきなよ」

 そんな俺たちの困惑具合などいざ知らず、元凶が後ろを振り返って急かしてきた。

 ぞろぞろと俺たちは、おっさんのマツテン内へと足を踏み入れた。


「へぇ、色々なものがあるね」

 薄井は興味深そうにあちこち眺めている。

 それがどこかぎこちなく見えるのは俺の気のせいだろうか。


「はいはい、それで何用ですかな」

 奥からトネリコがやってくる。その顔に人懐っこそうな笑みを浮かべて。

「あれおじさん、どこかで見たことがあるような」

 薄井は彼の姿を認めると、驚きと怪訝さが混じった表情をした。


「たぶん、この間のパン売り騒動じゃない?」

「ああ、そうだ! 小ホールでレジやってた!」

 友の一言で、彼女の記憶が蘇ったようだ。

「その節はどうも。トネリコと申します」

 まあこんな面白シルエットかつ中身もおかしな人間、そう簡単に忘れられないだろう。


「へえ寧音の親戚だったのね」

「違う違う。どうしてそうなるのよ?」

「だっておばあちゃんの店って」

 なるほど、類は友を呼ぶではないが、薄井もどうやら少しボケたところがあるらしい。


「いや、赤の他人を雇うこともあるだろう?」

「あ、確かにそうね。やっぱり尾張君は頭いいんだ」

「それどういう意味かな?」

 そこに食って掛かったのは、俺よりも学力が高い人間だ。

「だっていつも寧音が自慢ーー」

「うわぁっ、よっちゃん何言ってんのぉ!?」

 とても慌てた顔で、寧音は()()()()()の口を塞ぎにかかる。


 何かとんでもないものを感じた。

 普段この幼馴染はどういう話をしているのか?

 別にいつもならば特段関心はないが、事ここに至れば流石に確かめたくなる。


「寧音、ちょっと」

「は、はい。なんでしょう……」

 こいつがこんなに素直なことはまずない。

 顔を真っ赤にして俯いたまま、俺の近くへ来た。


 その場で問い詰めようにも、他の三人の目が気になった。

 こいつら、好奇心というものをちっとも隠そうとしない。

 六つの瞳には、野次馬根性がはっきりと見てとれる。

 トネリコなんかはこちらを見守るような生暖かい目をしているが、正直気持ち悪い。


「やっぱいいわ」

 結局ここは不問にすることに。

 第一まだ本題にだって、入っていないわけで。

 時間が惜しいという事情もあった。


「またまたぁ。わたしたちの事などどうかお構い無く~」

「そうそう。幼馴染とイチャイチャで甘々な会話をしちゃなよ、ユー」

「我々はここでなにも耳にいれることなく待ってますので」

 そして、三人は一斉に自分の耳を掌で押さえた。


「やかましいぞ、お前らっ! ほら、薄井さんは相談事を解決しに来たんだろ?」

「そうだよ、よっちゃん!」

 ここぞとばかりに威勢よく同調する寧音。

 元気を取り戻したところ悪いが、尋問は無くなった。わけではなく、後回しにしただけだ。


「そうだった。くっ、今はそっちの方が大事か……」

 悔しそうに歯を食い縛る薄井。謎の葛藤である。

「まあ仕方ないですな。さて、話を聞きましょう」

 おっさんの方はすぐにお仕事モードに切り替わって、依頼人の方に身体を向けた。


「えっと、もしかしてこの人がわたしの悩みを解決してくれるの?」

「うん、そうだよ。実はねーー」

 寧音が事情をまだ飲み込めていない友人に詳しい話を説明し始めた。





 実はここでは不思議なアイテムを売っている。

 長々と寧音は話していたものの、結論としてはそうなるわけで。

 当たり前だが、クラスメイトはすぐにはそれを事実として受け入れられないようだった。


「それで、えっと……このおじさんのアイテムを使えばアーサーは見つかるのね?」

 それでも一番大切なことは理解してもらえたらしい。

「すいません、その()()()()さんとはどなたでしょう?」

 今度はおっさんが疑問符を灯す番だった。


「ああええと、飼っている犬の名前です」

「ほう、ワンちゃん! よいですなぁ」

「実は昨日家出しちゃって……」

「それは心配ですな。そういう事であれば、私にお任せあれ」

 おっさんはさも自信ありげに胸を張った。

 そして一度奥へと戻っていく。


「大丈夫なの、ホントに?」

「そんな心配しないで。この寧音ちゃんのお墨付きだから」

「それを自分でいったところで信用度は皆無だけどな」

「まあまあ晴信、そんなこと言わない。薄井さんが不安がるぞ」

「……怪しい感じはするけれど、そこは俺たちのことを信用してくれ」

「へえ、優しいじゃない。寧音のカレ」

「カレ、違うから!」

「何やらずいぶん盛り上がってますなぁ」

 そんなに間を置かずに、トネリコが再び姿を現した。左手にはいつもの小汚い麻袋を持っている。


「やはりですね、相手が動物さんということなら、これがいいと思いますな!」

 自信満々な笑みを浮かべて、おっさんが取り出したのはコロコロとした謎の物体X。

「なんだ、これ?」

「魔獣のエサです。魔物との遭遇率が上がります」

「いや、アーサーは魔物と違うから」

「それに仮に動物に効くとしても、ピンポイントにアーサー君にヒットしないんじゃ?」

「おおっ、それは盲点でした。流石、探偵殿ですな!」

 おっさんは感心した顔で何度か頷きを繰り返した。どうやら本当に頭にはなかったらしい。


 先ほど薄井にああは言ったものの、俺まで不安になってきた。

 そっと彼女の方を窺うと、引きつった笑みを浮かべている。

 そんな顔をしたくなる気持ちはよくわかる。

 ちゃんと頼むぜ、おっさん。心の中で強く願った。


「ああじゃあ『ファインディア』の巻物にしますか?

 隠されたものを見つけるなら、やっぱりこれですよ」

「いや隠されてるわけじゃないし……」

「いい案だと思ったんですけどねぇ」

 トネリコはしょんぼりとしてしまった。


「なにかピンポイントでアーサーを見つけれるものはないのかしら?」

「そうはいっても寧音お嬢さん。難しいですよ、やっぱり」

「ゲームとかだと、マーキングした敵をマップ上で終えるのにねぇ」

 慎吾が滅茶苦茶なことを言い出した。流石におっさんもそこまでのことはできないだろう。


 ……と思ったら、トネリコはそれだとはっとした顔になっていた。

 得意げな顔で、袋の中を漁り始める。

 程なくして、取り出されたのは液体の入った小さくて透明な容器だった。


「千里を見通せるようになる目薬です!」

 はあ。また随分と胡散臭いアイテムが出てきたもんだ――

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