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プロローグ


「魔物を倒さない勇者など必要ない! どこへなりとも行くが良い!」


 国王陛下からそんなことを怒鳴られて、僕は王城から放り出されてしまった。

 何がどうしてこうなったのか――手切れ金として渡された金貨の袋を両手に持って、王城を見上げて呆然と、しばらくその場に立ちすくむ。

 手の中の金貨はずっしりと重い。しかし、自分の気持ちもそれと同じくらい重く沈んでいた。



  ◇ ◇ ◇



 レオナルド・ライト。

 それが僕の名前で、つい先ほどまでこのアストラル王国の勇者を勤めていた。


 国からの指示でアストラル王国のあちこちへ派遣されて、そこで発生している問題を解決する。それが勇者の仕事だった。

 お隣さん同士の諍いの仲裁から始まり、強盗団の捕縛や、狂暴化した魔物に狙われた村を守ったりもしてきた。

 無茶な命令も度々あったおかげで、勇者として任命された頃よりも身体能力も鍛えられている。体格だってそれなりに――まぁ、前衛職の仲間や知り合いの傭兵団の団長さんと比べたら、ぜんぜん痩せっぽちなのだけれど。


 そんな僕が勇者として活動をし始めたのは、今から二年ほど前の事だった。

 冒険者ギルドに所属をして、あちこちで仕事をしていたところ、どうやらそれが国の目に留まったらしい。ちょうど勇者という役職の席も空いていたからという何とも微妙な理由も相まって、一介の冒険者である僕にその白羽の矢が立ったのだ。


 当時は詳しくは知らなかったのだけど、勇者とはなるべくしてなるものではなく、誰かに選ばれて与えられる称号らしい。

 正直に言えば何で僕がとは思ったけれど、国から提示された条件や報酬などは冒険者よりも実入りが良くて、頼りにしてもらえた事も嬉しかったからその話を受ける事にしたのだ。

 まぁ、報酬が多ければ多い分、仕事は大変だったのだけれど。けれど、それでも日々の生活はそこそこ充実していたから特に文句はなかったんだ。

 文句や不満を持っていたのは僕の仲間の方だった。


「ちょっとレオ! どうして魔物を倒さないの?」


 ある日、教会から聖女として派遣された仲間にそう問われた。

 勇者であるにも関わらず、魔物を一匹も殺さない事が理解出来ない、とも言っていた。


 彼女の言う通り、僕は旅の最中に一度も魔物を殺した事がない。魔物だけではなく、盗賊や悪党と戦った時だって、命を奪うような事はしなかった。

 リーダーである僕がそういう方針を取っているから、仲間達も必然とそうせざるを得なかったのだ。

 それが仲間達の不満となっている事に気が付いたのは、つい先ほどだった。国王陛下からクビを告げられるまで、僕は彼女達のストレスや不満を察する事が出来なかったのだ。

 勇者以前にリーダーとして失格だった。本当に恥ずかしい話だ。


 そうして僕は勇者ではなくなり、こうして放り出されてしまったというわけである。手切れ金をもらえた事だって奇跡だろう。

 ……これから、どうしようかなぁ。

 途方にくれはしたものの、いつまでもその場に立ちすくんでいるわけにもいかず足を動かす。そして王城の門をくぐって外へ出た時、


「あ、あの……勇者様……」


 と門番から声をかけられた。

 顔を向けると、城門の左右に立つ門番二人が、心配してくれているような眼差しを僕に向けていた。

 声を掛けてくれたのは向かって左側に立つ女性の門番だ。


 彼女は僕が勇者となったのと、ほぼ同じタイミングで門番に抜擢された子だ。若いながら腕が良く親切だと、王都の住人から評判が良い子である。

 仕事の報告で王城を訪れると、朗らかな笑顔で挨拶をしてくれるのが印象的だった。時々差し入れをすると嬉しそうに笑ってくれたっけと思い出しながら、いつも笑顔を向けてくれた彼女に、今のような顔をさせてしまうのが申し訳なくて仕方ない。


()勇者だよ。……門番の仕事、すごく大変だよね。二人共、身体を大事にしてね。いつも声を掛けてくれてありがとう。嬉しかったよ」

「……ッ、はい……!」


 僕がそう言えば、彼女は今にも泣きそうな顔で、頭を深く下げてくれた。

 右側に立つ門番の青年も同じように頭を下げて、


「勇者様も、どうか……お元気で」


 と言ってくれた。

 別れの言葉が胸に沁みる。


「うん。それじゃあ……また、どこかで」


 僕は頭を下げたままの二人の門番にそう言うと、その場を後にする。

 綺麗な青空が酷く目に焼き付いて、何だかとても痛く感じた。

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