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主人公は自分じゃない

「私、この三年間で気づいたことがあるの。聞いて……国王は今、苛立っている」

「苛立って?」

「ええ。この三年間、私はこっそり窓を開けたりして賊の侵入を手助けした。初めのうちは、国王は余裕の笑みを浮かべていたけれど、最近はどうも怒りっぽくなってるっていうか……」

「いちいち相手するだけ無駄だ、って言ってたなそういや」



「それで彼、怒ると目が赤くなるの」

「それがどうした?」

「エルム、貴方と同じよ……。それで一つ、思ったの。もしかしたら彼、エルムが転生した姿なんじゃないかって」

「はああ!?」



「んなバカな……じゃあアレが、生まれ変わった俺だってのか? 違う! 断じて俺はあんな奴じゃねえ!」

「聞きなさいよ。『転生システム』と『通行料』……これを利用しない手はないわ。『行き先』が選べるんなら……『転生する人物』や『時間』だって選べる可能性はある」

「…………」

「上手くいかない『苛立ち』や、他人の『怒り』……なんでもありだったこの世界で、月並みな言い方かもしれないけど、彼は今人の心を取り戻しつつあるわ」

「…………」

「エルム。貴方が彼に転生して、彼の『心』になるの」

「おいおいおい……」



「もちろん『通行料』はどれだけかかるか分からない。もしかしたら貴方そのものが、払いすぎで消滅してしまうかも……」

「要するに、転生を利用してアイツそのものを乗っ取っちまおうって訳だな?」

「このままずっと真正面から行っても、やられ続けるだけでしょう。貴方が内側から。私が外側から、彼を制御する。そうすれば、少なくともこれから先のファンタジアの未来は変わるかもしれない」

「いやいやいや……なんつー作戦だよ……魔女かお前は」

「魔女よ」



「マチルダ……」

「何?」

「……そっち、頼むぞ」

「アンタこそ、飲み込まれるんじゃないわよ」

「じゃあな」

「またね」


 

◾️


 ……そうしてエルムだった少年は、何度も何度も転生を繰り返し、最早彼自身と呼べるものは何も残ってはいなかったが……最後に砕かれた魂の欠片、残った自分の全てをかけて、トウドウショウジへと転生した。

 

 それは、時間軸にしてちょうど彼がファンタジアにやってきた、最初の瞬間だった。


 転生者であるトウドウショウジの中に、エルムと呼べるものはほとんどなかった。ただただ、マチルダとの約束……無意識の奥底に沈んだそれに突き動かされ、彼は砂漠の真ん中に立ち、ファンタジア王国の宮廷を見上げていた。


「おい兄さん」


 砂漠を行き交う行商人が、虚ろな目をして宮廷を見上げる彼を見つけて声をかけた。青年がぼんやりとしたまま首をそちらに向けた。


「珍しい格好だな……どこから来た?」

「…………」

「名前は?」

「…………」

「ん? 国王に用でもあるのか?」

「…………」

「ははあん。どこから来たのかも、名前も喋れない。分かったぞ。アンタが流行りの、あの馬鹿げた国王を懲らしめてくれる異世界の英雄って訳だな、ええ?」

「……いいえ」


 彼は行商人の冗談に、ニコリともせずに答えた。


「……主人公は、自分じゃない」


〈完〉

〈リーマン・ショック=ファンタジアへ続く〉


拙いところが目立つ作品でしたが、長らくご愛読いただきありがとうございました。「リーマン・ショック=ファンタジア」はマイナビ出版楽ノベ文庫様から電子書籍にて販売予定です。もし機会があれば、お手にとっていただければ幸いです。では。

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