コトバカリの夜 【愛について話そう】
少しばかり、非日常なお話を。
『ー愛について、考えたことはあるかい?』
今夜、いや、朝、昼かもしれないね。お話しするのは愛の話。真実の愛、というとありきたりな話に聞こえるかも知れないけど、どうか最後までお付き合い願いたい。
今回語り手を務めるのは、【コトバカリの夜】団長、言葉狩。どうぞごゆるりとした時間を。
ーそうですね、長くて2日と言った所でしょうか。
先生の口から放たれた音は、僕の耳を素通りした。
……僕はなんと言われたんだろう。
ただ、信じることが難しかった。
ー……まぁ、残念だな。あと2日、精々生きることだな。
兄は、医学生だった。
昔から優秀で、僕の自慢であると同時に、枷でもあった。
兄は僕の持って生まれた病を聞いた時から、この時を覚悟していたのかもしれない。
正しい名前は、忘れてしまったけど、僕の病はこう呼ばれていた。
『液化病』
その名の通り、水となって、消えてしまう病。
未だに理屈も解明されていないし、もちろん治療法もない。と先生や兄は言っていた。
僕の生まれたくらいの数年間、この病を持つ子が多く生まれたらしい。ただ、そこからぱたりとなくなってしまった所為で、研究は碌にされていないそうだ。
当然僕も死にたくはなかったから、ずっと前からこの病について調べていた。だけど、医療関係者でないと情報は簡単には見ることが出来なかった。
わかったことと言えば、罹っている人間はみんな青い眼と白い髪を持っている、ということくらいだった。
ーよし、あと2日は、お前の好きなようにしよう。な、母さん。
ーそ、そうね。……それがいいわ、そうしましょう。
その時両親は、必死に感情を押し殺して僕に愛情を注いでくれた。
一方で兄は、僕のことにはほとんど構わず、普段通りだった。
両親に愛されて、色々好きなことをして、楽しい2日間を過ごした。
せめてもの手向けとして、最大級の愛をくれた両親を僕も本当に愛していた。
最後の夜、兄が僕を部屋に呼んだ。
兄は僕に沢山の話をしてくれた。
お互いの夢を語り合ったり、好きな女の子のタイプの話なんかもした。こんなことは、今までになかった。
そして終わりに兄は、白い錠剤を渡した。睡眠薬らしい。
せめて、安らかに眠れるように、だろうか。
ー……死にたく、ないよ
気がついたら、涙が出ていた。
兄は黙って、僕の叫びを、嘆きを、聞いてくれた。
僕の手を、しっかりと握って。
どれだけ泣いただろう。
手を握ってくれているはずの兄の感覚すらなくなってしまった。
ああ、最後の時なのだろうか。そうも思った。
その時僕はふと、暖かさを感じた。
太陽の、暖かさを。
ー朝だ、嘘だろ。朝だ……なんで僕生きてるんだ……すごい、やった、やったよ……!
ひとり、喜びを噛み締めて、気付いた。
兄が座っていたはずの場所は、大きな水のしみが出来ているだけだった。
いかがでしたか?
死を運命付けられた子供の話。
……どこかで聞いたことがある?……ふむ、そんな言葉は、狩らせて頂きましょうか。
さて、ここで聴者アンケート程度に、少しお考え頂きたいことが。
この後『僕』の両親は、『僕』になんと言ったでしょう。
……聡明な聴者様なら、どう考えるかな?
ああ、アンケートの答えはそこにいる副団長の事秤くんへ。
さぁ、今夜はこのくらいで、【コトバカリの夜】閉幕とさせて頂きます。
色々と忙しかった所為かほとんど物語を書いていなかったので読みづらいところも多々あったと思いますが、見て頂きありがとうございます。
他作も半年ほど更新が止まっている状態ではありますが再開しようと思っていますので、よろしくお願いします。