01話
ルーディスは協会の依頼を受け、【石の王城】にあるという遺跡を調査する事になった。
最初の任務はミードレイモン王国の調査隊と合流すること。
向かう場所はミードレイモン王国北東部にある【石の王城】との玄関口、名も無い村。
王都バルティティスから出てすぐに向かったのは、ノーラス王国とアード王国との国境の町イシド。
目的地に行くには、ミードレイモン東地方の大都市であるオルトレイクシティから北上する必要がある。
陸路では、ハザンシティに伸びる街道を進みカルライノ街道に入ってから西に向かう必要があり、遠回りで時間がかかる。
そのためイシドからマイス川を川上に北上し、オルトレイクシティへ直接向かう航路を用いるのが一般的となる。
一行はこの町で足りない物資を補充をし、イシドで出国手続きを行うとマイス川を登る連絡艇で出国した。
ルーディスは船の中にある礼拝堂で朝の祈りを行っていた。
一瞬部屋が大きく揺れる。
しかし、ルーディスは気に留めず、最後まで礼拝を行った。
祈りが終わり、跪いていた足を伸ばす。
するとドアの開く音がしたので振り返った。
「おや、先客はルーディスさんでしたか。先程の大揺れは凄かったですね」
声をかけてきた人物はドワーフの国【石の王城】へ向かう遺跡調査の仲間、冒険神官のパナバスであった。
彼はその長身の体を丸め教会のシンボルの前に跪き一礼し、立ち上がった。
「礼拝中でしたので、気に留めていませんでした」
「そうですか。それにしても評判のルーディスさんに会えるとは思わぬ幸運でしたよ」
前回の冒険者協会入試で首席チームとなったルーディス達はそれなりの有名人である。
今も、第一線で吟遊詩人が唄に残すほどの功績をあげている。
派手な冒険者デビューと堅実で正確な仕事ぶりが評価されて、多くの依頼が殺到していた時期もあるほどだ。
「僕は評判のために活動しているわけではありません」
「はっはっは、失礼しました。しかし、貴方は我々アスタ派を代表する冒険者であり、協会内、いや世界で注目されている冒険者だと言うことは否定しないでくださいね」
アスタ派は元々、冒険者の信仰心から生まれた派閥である。
協会の中では権力への意識は低い。
だだ、中には派閥の権威中心に考える者がいる。
どうやらパナバスもその1人のようだ。
「私は神の意志を知りたいだけです」
ルーディスは小さな声で思わず呟いてしまう。
ただ、どうやらパナバスには聞かれずにすんだようだ。
「まあ、良いでしょう。神の教えたもうた事に従っていればアスタ派に栄光は訪れるはずです」
ルーディスは一礼すると何も言わずその場所を後にした。
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甲板の上では対象的な動きをする男女がいた。
レイリアとイルノアだ。
マストに吊るされた細い丸太を練習用の木刀で叩き付けた。
振り子の要領で返ってくる丸太にまた木刀を打ち込む。
「……1998……1999……2000」
その隣では、調査隊メンバーの一人、魔法使いのカルンが疲れた声でカウントを行っていた。
2人ともやっている事は同じなのだが、動きが違った。
イルノアは力任せに剣を振るっているせいか、丸太の返ってくる速度、位置はバラバラ。
対してレイリアは定位置で素振りのように剣の振り下ろし続けて、丸太の動きも一定だ。
ルーディスは2人の対決を見学していたイルノアの仲間、魔法使いサイスの横に並び訊ねた。
「何を賭けたんですか?」
「オルトレイクシティに着いて最初のディナーよ」
ルーディスは2人を眺めながら「ご愁傷様」とだけ言うとレイリア達の賭けを見守る事にした。
船員の合図が2200を超えた頃イルノアの方に疲れが見えはじめ、ついには船が大きく揺れた時に踏み込みのタイミングが狂ってしまい振りそこねて、転倒してしまった。
「わたしの勝ちね」
さっきより大きく振り上げ、船員の「2242!」の合図と同時に両手を使い振り下ろした。
丸太は2つに割れ川の中へ落ちていった。
イルノアは息も絶え絶えに両手を上げ「まいった。さすがに……凄いわぁ」といいながら甲板に倒れる。
「レイは子供の頃から、よく勝負事で賭けをしてました。身体を動かす勝負でレイが負けることは極々稀ですね。最近負けたという話は聞いていません。丸太打ちでは昔から全勝です」
ルーディスはイルノアに近づき声をかける。
「そりゃ、年期入っとるなぁ。勝てへんわけやわ。負けはないかて言うても、全戦全勝ってわけはあらへんやろ?」
「まぁ、そうですね。でも、1人だけ正式な試合でレイと引き分けた人物がいますよ」
「それって、アレやろ。前回の協会入試。実技試験、武道の部の最終戦でレイリアと戦った相手やろ。有名やさかいな、知っとるで。相手めっちゃ強かったらしいやんけ。引き分けで同率首位っちゅうのもなかなか珍しいって話題になったしの」
「えぇ。あの試合は本当に見応えがありました。ちなみにレイは今、その対戦相手を目標にしているんですよ」
「ちょっとルーディス、そこまで! 手のうち全部見せちゃつまらないでしょ」
レイリアが手を腰に当てルーディスに詰め寄る。
「ご、ごめん……というわけですので」
レイリアとイルノアにわびる。
「1つだけ教えてもろてもええかな? 何で分けた相手が目標なん?」
レイリアは急にそれまで余裕をもっていた表情から一転し不機嫌になり、怒鳴るように答えた。
「相手が本気を出していなかったのよ!!」
声を荒げて言い返すと、レイリアは自室へ向かっていってしまった。
ルーディスも片手でイルノアにわびながらレイリアの後を追いかけていった。
「なんや、悪いこと言ったみたいやな」
「もうちょっと、女心の勉強をしなきゃいけないみたいねイルノア。ルーディスくんも」
いつのまにかイルノアの真後ろに立っていたサイスがイルノアを見下ろしながら言った。
「なんやそれ……」
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ルイはここ1年の研究を評価されて、マイスタークラスを与えられる事となった。
そのほとんどが魔法具に関するものであり、バルティティスの職人には珍しい事であった。
魔法具の研究は主に各国の魔法研究機関が行っているので、技術研究の機関では情報の入手が厳しく研究が難しい。
結果、魔法具を研究する技師は少なく、いても成果は実ることは稀だった。
ノーラス国の首都バルティティスの王城にある大広間は、マイスタークラスの授与式も終わり、国の名士達も去り、ネイザン親方と弟子達が少し残って王子と話をしていた。
主役のひとりであるルイはベランダに出て自分の一番の顧客と話をしていた。
「まったくお兄様達はいつも兵器の話ばかり、困ったものね」
後ろの方をチラリとみてため息をつく。
その顧客というのは、ノーラス王国第三王女ルモルティンであった。
「仕方がありませんよ、それが国を運営する人の仕事なんですから」
「そうかしら? 民を幸福にする事が役目ではないのかしら?」
ルイは黙って王女の顔をみる。
「あなたは、良い統治者になられる素質をお持ちです。しかし、外敵を寄せ付けなくするのも人を幸福にする手段です。私たちネイザン工房は、それを国から依託されている」
「でも、貴方はそういうものはあまり作ってないじゃない。いまや、魔法具の革命児と称賛され、その名声はバルティティス中に広がっていますよ」
王女はすこし黙り、間をあけてルイに話し掛けてきた。
「私が貴方の顧客になった時に交わした約束を憶えていますか?」
「『貴方への依頼は民を幸福にする事が目的です。貴方も幸福に仕事をする事を約束してください』でしたね」
「ええ。私は貴方を信頼しています。人を幸福にするものを作るのに、作るひとが不幸ではいいものはつくれません」
ルイは、その言葉を聞いて笑った。
それは、ネイザン親方に散々言われてきた言葉に似ていたからだ。
そして、その言葉のルーツが昔のノーラスの哲学者の言葉だとわかってしまったからだ。
「彼の言葉はあまりすきじゃないけど。あなたが言うと違って聞こえるわ」
「あら? 私は彼の信奉者よ。彼は本当に幸福というものを考えた人だわ」
「人の幸福しか考えなくて国政の幸福を考えてなかったわ。彼の時代は戦争中よ。戦いたくないと言っても戦わなければいけない時代。国が民を守れないのは不幸だわ」
2人は可笑しくなり声を出して笑った。
「そういえば、明日には冒険へ出かけるのでしたわね」
「それが、ちょっと困ってしまった事がありまして。オルトレイクまで行きたいのですが【水上の覇者】が来ていないんですよ」
ルイは【水上の覇者】の称号を持つ兄弟子にオルトレイクシティまで連れて行ってもらおうと考えていたのだ。
彼の船がなければ一足先にオルトレイクに向かっているルーディス達に追いつけないだろう。
「それなら、私の船を使いなさい。あれも【水上の覇者】が作った高速艇です。今から伝令をむかわせます。朝には使えるようになっているでしょう」
「ありがとう、姫様。感謝します」
その後、彼女達の夜はおしゃべりと共に過ぎていった。




