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友盟の絆  作者: Project_B.W
第2章 ユリアサイド 第2節
83/305

11話

「造艇所を脱出する前に飛空艇の構造を確認しておきたい」


 という、ケビンの一言でユリア達は飛空艇の内部に侵入することとなった。

 本来なら脱出するべきだが、ここまで大騒ぎになってしまった以上、二度目の侵入は難しい。

 それならば、兵士達が混乱している今の隙に、というのがケビンの弁である。


 唯一、ソフィナがケビンの意見に難色を示したのだが、多数決で押し切った。


 ユリア達は飛空艇の内部を足音を殺して歩いていた。


 等間隔に置かれた魔法灯の光が檜製の床を淡黄色に輝かせる。

 左右の壁には大小さまざまなパイプが連なり、要所には金属製の機械らしき物が設置されている。

 檜で覆われた外装と比べれば、内部はかなり違和感のある作りであった。


 周囲には油の匂いと樹脂の匂いが混同していて、不快感を覚えた。


 淡黄色の床を踏みしめながら一同は息を潜めて前進する。

 先頭はケビンとゴーザ、その後ろにユリア、メリエンヌ、ソフィナと続く。


 しばらく進むと、動力室と書かれた部屋に辿り着く。

 四方には所狭しと並んだ機械。

 その中心には人の二倍程度の大きさの黒い鉄の球体が四本の細い鉄で天井から吊るされていた。

 雑然とした作りに、ケビンを除く全員が呆気にとられていた。


 だが、呆気にとられていたのは動力室で仕事をしていた作業員達も同様だった。

 突然の侵入者に室内が騒然となる。

 動力室に待機していた兵士達が一斉にユリア達を包囲した。


 ゴーザがユリア達を庇うように一歩前に出た。

 その背中に向かってケビンがゴーザに話し掛けた。


「無骨な代物に見えるが、多分あの球体が飛空艇の動力だな。アレを直接確認したい。連中の相手を頼む」

「わかった」


 ゴーザから同意を得ると、今度は後ろを振り向いてケビンは女性陣に声をかけた。


「姐さんは俺と一緒に。ソフィナとメリエンヌはゴーザのサポート。それが嫌なら後ろで黙ってろ。いいな」


 ユリアとメリエンヌは静かに頷く。

 ソフィナは不機嫌そうな表情のまま無反応だった。


「じゃあ、行くぜ」


 その言葉を合図に、全員が一斉に動いた。

 ゴーザが兵士達に向かって攻撃を開始した。

 

 その隙にケビンとユリアが部屋の中心に向かって走った。

 2人を追ってくる者は誰もおらず、あっさりと目的の場所に辿り着いた。

 ケビンはすぐさま球体とその周囲を調べ始めた。

 ユリアはケビンの指示に従い機器をチェックする作業に入った。


「魔法管を通って魔流循環器に……相違収束回転機から魔法原動機に直結されてる。球体に繋がってるやつは精霊変換機だな。それにこいつは対魔分解機じゃねぇか。なんでこんなもんが? いや、それより」


 訳のわからない呟きを発しながらケビンは動力炉と思われる球体とそれに繋がるパイプラインや機器の構成を確認していく。


 言葉の節々に分かる単語が混じっているものの、ユリアにはさっぱり理解できなかった。


「ふむ。とてもじゃねぇがこれじゃダメだな」


 各部を調べるうちにケビンの表情が徐々に険しくなっていった。


「どうしたの?」

「理論はあってるぜ。ただ、空での魔力消滅を防ぐ仕掛けらしいものは見当たらねぇ。これじゃ飛空艇は飛べねぇぞ」

「これが動力じゃない可能性は?」

「配線的にはこれが動力だ。少なくともその一つだ。けど、それより問題はアレだな」


 そう言ってケビンは中心に鎮座する動力炉と思われる黒い球体に目を向けた。


「俺にはこれがただの鉄の塊にしか見えねぇ」

「それって見たまんま」

「そう言われてもなぁ。機器の接続状況からみてこの鉄の塊から動力を吸い上げる仕組みなのは間違いねぇんだよ。けど、こいつからはまったく魔力を感じねぇ。これが資料の情報通り『魔力炉』であるなら未稼働状態でも魔力は感じるはずなのに、だ。そもそも、なんか不自然なんだよな、この構造」


 ケビンは球体を調べ始めた。

 ユリアも一緒に確認したが、何か特別な技術を使ってるようにはとても見えない。

 ただ、一箇所、取っ手のようなものが付いている場所があった。

 試しに引いてみると、蝶番の軋む音とともに入り口が現れた。

 その取っ手はどうやらドアノブだったようだ。


 ケビンとユリアは球体の中を覗きこんだ。

 そこには石で作られた椅子が置かれているだけだった。

 椅子は天井から伸びる金属で固定されていた。


「なにこれ?」

「さぁ、なんだろうな」


 二人は困惑の表情を浮かべた。

 鉄の球の中身をくり抜いて、椅子を置いただけのようにしか見えなかった。

 それともこの球体はダミーで別の場所に動力があるのだろうか。

 そう考えさせてしまうほど、この球体の構造は想定外だった。


 ケビンが球体の中に入り込んで椅子を調べ始めた。

 しかし、石の椅子以上の代物には見えない様子で頭を捻る。

 試しに叩いてみたり触ってみたりもしていたが、成果はなかったようだ。

 ケビンは球体自体に仕掛けがあるとでも思ったのか、壁を調べ始めた。


(狭い部屋に椅子が一つか。まるで拷問部屋よね)


 ユリアも球体の中に入り込んだ。

 ケビンを真似て調べてみようと思い、何となく椅子に右手を伸ばした。

 しかし、ざらざらとした石肌の硬さとその冷たさを感じただけだった。

 そんなもんよね、と胸中でぼやいてからユリアは椅子に触れた手を離そうとした。

 ところが右手はまるで金縛りにあったかのように動かなかった。


 慌てたユリアは左手を椅子に付けて力任せに右手を引き剥がしにかかった。

 しかし、左手も椅子に吸い付けられて動かせなくなっていた。

 咄嗟にケビンを呼ぼうとした。

 だが、今度は声が出ない。

 それどころか、いつの間にか全身が動かなくなっていた。


(あ、あれ?)


 ユリアの視界が歪んだ。

 急な勢いで身体に気だるさを覚えた。

 唯一、動かせる目を自分の身体に向けてユリアは驚愕した。

 自分の身体が虹色に光っていたからだ。

 その光は両手を通して、椅子の中に吸収されていく。


(な……なによこれ!)


 虹色の光が吸われる度にユリアの身体は重くなっていった。

 平衡感覚が徐々に薄れていき、呼吸をしていないような錯覚を感じる。

 意識も段々と希薄になっていった。

 そして、突然大地が揺れ始めた。


「地震か。そういや、姐さん地震苦手だったよな。だいじょう……」


 ケビンはユリアの方へ顔を向けて目を見開いた。

 全身を虹色の光に包まれているをユリアを目にして驚いたのだろう。

 ケビンは慌てた様子でユリアに駆け寄る。

 だが、ケビンの腕は虹色の光に弾かれてしまい、ユリアに触れることが出来なかった。

 ケビンは戸惑い、何も出来ずにユリアを見つめていた。


「これはいったい」


 ユリアの体から発せられる光は急速に光度を増していく。

 地震もまるでユリアの放つ光に同調しているかのように激しくなっていく。

 ケビンはユリアに近づいて光の流れを目で追うような行動をとった。

 そこでケビンは何かに気付く。


「そういうことかよ。くそがっ!」


 ケビンは呪文を唱えると魔法で光の球を生み出し椅子に投げつけた。

 光の球は石の椅子に接触すると爆発を引き起こした。

 その爆発は石の椅子を破壊し、その衝撃でユリアは吹き飛ばされて、壁に背中を打ち付ける。

 だが、ユリアの身体が放っていた虹色の光は消え、同時に大地の揺れも収まる。

 ケビンはユリアに駆け寄ってその身体を抱え起こした。


「姐さん、大丈夫か?」


 呼びかけられたユリアは口を開いて答えようとしたが、低い呻き声が吐き出されただけだった。

 石の椅子の呪縛から解放されても意識は朦朧としていて、身体の方もいうことをきいてくれない。


 ケビンは小さく舌打ちすると、ユリアを背負って球体の外へ出てゴーザ達と合流する。


「ずらかるぞ!」


 それだけ言うとケビンはゴーザの脇を横切りそのまま動力室を出た。

 ゴーザは何も聞かず、ただ「わかった」とだけ答えてケビンの後に続く。

 メリエンヌとソフィナも訳もわからないまま、彼らの後を追った。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 短い呻き声を上げてユリアはベッドの中で目を覚ました。

 見知らぬ光景が目の前に広がっていた。


 最初に飛び込んできたのは木目の天井。

 開け放たれた天窓から、太陽の光が侵入してくる。

 右を向くと箪笥や棚といった調度品は並んでいた。


 寝返りをうって反対側を向くと、視界に少女の姿が現れた。

 少女は備え付けの椅子に腰掛けたままユリアを見ていた。


(……誰だっけ?)


 寝ぼけ眼でぼんやりと少女を眺めた。

 細りとした体躯。

 腰まで伸びた艶やかな栗色の髪。

 切り揃えられた前髪の奥に光る大きな碧眼。


 少女の目線と自分の目線がぶつかった。

 すると少女の目が僅かに揺れた。

 その時、ユリアは少女のことを思い出した。


「あ、爆弾魔」


 少女――メリエンヌは眉を顰めてユリアを睨んだ。


「あなたに爆弾魔呼ばわりされる筋合いないんですけど」


 冷やかな口調でメリエンヌが言う。

 だが、寝ぼけたユリアの頭にその言葉はまったく届いていなかった。


 全身を覆っているシーツを払ってユリアは上半身を起こした。

 すると、メリエンヌの身体で死角になっていた場所にソフィナの姿を発見する。

 ソフィナは窓枠に肘をついて、外を眺めていた。

 物思いに耽っているその様子から、ユリアが目覚めたことに気づいていないことが分かる。


 ユリアは「ソフィナ」と声をかけた。

 ソフィナは首だけ動かしてユリアの方へ顔を向け、笑みを返してきた。


「ユリアさん、気分はどう? 大丈夫ですか?」

「あ、うん。平気」


 優しい言葉をかけられ、ユリアは素直に答えた。

 どうやらソフィナは心配してくれていたようだ。

 そのことにユリアは少し安心した。


「そういえば、ここどこ? それにケビンとゴーザは?」

「ここはゴーザさんの知り合いの家です。2人なら、わたしとソフィナさんにあなたの看病押し付けて隣の部屋で密談してますよ」


 質問に答えたのはメリエンヌだった。

 ユリアに対して怒りを放ちながらではあったが。

 メリエンヌから向けられた敵意にユリアは戸惑った。

 爆弾魔呼ばわりしたことだけが原因とは思えなかった。


「何をそんなに怒ってるの? あ、えっとぉ……」


「メリエンヌです。メリエンヌ・シャトール。別に怒ってるわけじゃないです。ただ、あなたのような女性(ひと)を看病をしなくちゃいけないという事実が納得できないだけです」


 それを怒ってると言うのでは、とユリアは危うく口にしそうになった。


 直球な物言いのおかげで怒りの原因ははっきりと分った。

 冒険者協会内でのユリアの噂を彼女は真に受けているのだろう。

 否定する気もないユリアは「ごめん」と謝った。

 もちろん、その程度のことでメリエンヌの怒りは収まるはずもなく、逆により険悪な感情を剥き出しにしてきた。


「メリエンヌさんはゴーザさんに相手にされくて不貞腐れれるだけ。まともに取り合わない方がいいですよ」


 ユリアとメリエンヌのやりとりを見かねたソフィナがそう言って会話に介入してきた。

 するとメリエンヌがそれに力一杯反論する。


「ちょっと、何言い出すんですかソフィナさん!」

「事実でしょ。ゴーザさんが席を外してと言ってるのに離れようとしないんだもの。見苦しかったですよ」


 務めて冷静にソフィナは答えた。

 ソフィナの言葉でユリアはメリエンヌの怒りの理由が分かった。

 メリエンヌはゴーザに好意を抱いているのだろう。

 恋愛的な意味で。


「なるほど。そういうこと」


 ユリアの反応にメリエンヌは頬を真っ赤にして睨んできた。


「なんですか、それ。ば、馬鹿にして!」

「そんなつもりないわよ。ただ、初々しい反応だなぁって」

「それを馬鹿にしてるって言うんです! 流石は男をはべらせて得意になってる人はこれだから」

「お、おっと。そこまで直球で言われるとさすがに反論したくなるんだけど」


 ユリアが何か言おうとした時、部屋の扉が開きケビンとゴーザが姿をみせた。


「騒がしいと思ったら、やっぱ起きてたな」

「姐さん、大丈夫か?」

「平気よ。それより密談は終わったの?」

「密談って何のことだ? ん、あぁ……そういうことか。おう、終わったぜ。色々と情報の整理もできた」


 ケビンはユリアに近づくとベッドを椅子代わりにて座り、ゴーザは窓際の壁に凭れた。


「んじゃま、これからのことを話し合うとしようか」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ユリア達はファスルト村のクロフ・ディードの自宅に身を寄せた。

 家主であるクロフがメリエンヌの潔白を証明するために王都へ調査に出向いてくれている。

 ケビンとゴーザの提案でユリア達はクロフの帰還を待つことにしたのだ。


 幸い、クロフの弟子達がセルディーエに潜伏してくれているおかげで情報は入ってくる。

 その情報によると施工式が1週間ほど延期になったそうだ。

 造艇所でユリア達が大暴れしてしまったのが原因だろう。


 結果的にこれで時間的猶予ができた。


 とはいえ、ユリア達は追われる身。

 表立って動くことは出来なかった。

 こうしてユリア達の潜伏生活が始まった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 照りつける光は大地に幾重もの影を作る。

 生い茂る緑の隙間から青い空が垣間見えた。

 緩やかな風に緑が靡くと、青い空も同時に揺らぐ。


 緑の底に身をかがめて、ユリアは息を殺した。

 左手は弓を握り、右手は弦を引く。

 つがえられた矢は目標を空に向けたまま、飛び立つ瞬間を待っていた。

 風が吹き、緑が優しい声を上げる。

 注意深く、周囲に神経を集中させる。


 ふと、空に一つの影が横切る。

 それは一羽の鷹だった。

 ユリアは鏃を影に向け、右手を離した。

 支えを失った弦は自然の力に身を任せ、矢を吐き出した。

 矢は勢いよく宙に舞うと、空を走る鷹に深々と突き刺さり、急降下を始めた。

 ユリアは茂みから身を乗り出すと、落ちゆく鷹を追った。


 ばさり、という音と共に木々の向こうに鷹が消えていった。

 そこへ密林の中に身を潜めていたメリエンヌが姿を現した。


「一発で仕留めるなんて、ユリアさんにも意外な特技があったんですね」


 メリエンヌはユリアに対して称賛の声をかけた。

 初対面の印象が悪かっただけに、ユリアはなんだかこそばゆくて身悶えした。


「こう見えてもあたし一応、武芸全般それなりにやってたのよ。弓矢だけじゃなくて、格闘術とか槍とか」


 思わず調子に乗って得意げな発言をしてしまうユリア。

 メリエンヌは目を細めてユリアに視線を向ける。


「多芸なのに、試験は落ちたんですね」

「はぅ」

 

 痛いところを突かれてユリアは勢いよく肩を落とす。


 2人は射ち落した鷹を追いかけて森の中を歩いた。


「それで鷹って美味しいんですか? わたしは食べたことないですけど」

「あ、いや。独特であたしはあんまり……」

「じゃあ、なんで狙ったんですか?」

「いやほら、他に食用になりそうな動物いなかったし。本当は兎とかのいればよかったんだけど」


 ユリアは地面に倒れて絶命している鷹を発見すると、その足を縄で縛って担ぎ上げた。


「さて。得物は仕留めたわ。いったん戻りましょうか」

「うぅ。わたしはまだ、何の成果もあげてないんですけど」

「メリエンヌって狩りの経験は?」

「……か、皆無です」

「じゃあ、やめといたいいんじゃないかな。別に無理するよな場面でもないから」


 ユリアの言葉にメリエンヌは不貞腐れたように頬を膨らませた。

 どうやら、ユリアの気遣いが逆効果になってしまったようだ。


 狩りを切り上げて、森の出口へ向かっていると視界の端からゴーザの姿が現れた。

 ゴーザは両肩に猪を1匹ずつ担いでいた。


「おつかれ、ゴーザ。そっちは猪?」

「あぁ。森の奥に水場があった。魚も捕れそうだ」

「そっか。それじゃあとで、行ってみようか」


 ゴーザと合流したユリア達はファスルト村へと戻っていった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ケビンはディード家の庭に胡座をかいて座っていた。

 森で採取してきたばかりの無数の薬草を地面に広げているところだった。

 ケビンの傍らには物珍しそうに薬草を眺めているソフィナの姿もあった。


「なに、やっているんですか?」

「魔法薬の調合だ。ソフィナこそ、姐さん達と出かけなかったのか?」

 

 ケビンは質問を質問で返しながら、地面に広げた草の分別を始めた。

 ソフィナは苦笑いを浮かべる。


「食材調達とか役に立ちそうもないんで遠慮しました」

「そうか」


 会話はそれで途切れた。

 ケビンは沈黙のまま、草の選別に勤しんだ。

 ソフィナはそれを黙って見物していた。


 ケビンは草の分別を終えると、地面に指で五紡星の魔法陣を彫る。

 魔法陣の上に数種類の薬草と、魔物の角らしきものを必要な分量だけ並べた。

 そして左手で上空に魔法陣を描き、それを地面の魔法陣に重ね合わせた。


自然(メル)分解(スウ)開始(クオン)


 ケビンの呪文が魔法を発動させた。

 魔法陣が閃光を発し、光は一瞬で姿を消した。

 地面に刻まれた魔法陣は痕も無く消えて、白い粉状のモノが残った。

 これは即席で作った魔法の粉だ。

 魔法の粉とは長旅などの際に、魔法使いが好んで持ち歩く魔力補給剤だ。


 ケビンは魔法の粉を手で掬うと、準備しておいた小さな袋に収めた。

 そしてケビンはまた地面に新しい草を並べ同じことを繰り返した。

 

 しばらくして、ケビンがギブアップとばかりに声を上げた。


「なぁ、気が散るんだが」


 ソフィナは作業の間中、ずっとケビンの瞳を覗き込んでいた。

 そこには好意はなく、単純な興味が伺えた。


「何か聞きたいことでもあるのか?」


 視線の意味を察したケビンがそれとなく聞いてみる。

 すると、ソフィナは微笑んだ。


「まぁ、あると言えばありますけど」

「なんだ? 答えられるなら答えるぞ。ここには今、俺とアンタしかいねぇ」

「では遠慮なく。ケビンさんは私と『同類』な感じがします」

「それはどういう意味でだ?」

「自分ではどうしようもなかった荒んだ過去を持っている、と言えば分かりますか?」

「あぁ、そういうことか」


 ソフィナの回りくどい物言いに、しかしケビンはその意味を理解した。


「なるほど。『同類』な。まぁ、間違っちゃいない」

「どうやってそこから抜け出したんですか?」

「拾われた。アンタは?」

「同じです。拾われました」

「そうか」

「でも、ケビンさんと私では決定的に違います。あなたはきっと自分の実力で居場所を手に入れた人です。でも私は今も……」


 ソフィナは言葉に窮して顔を伏せた。


「姉さんがアンタのことすげー気にかけてる。まぁ今の話を聞く限り、悩みの原因は明白だな。アンタの中でも結論は出てんだろ? けど、それでも迷いがある。そんなところか」

「まぁ、そうですね。ユリアさんに図星を刺されて動揺したのは事実です。あの人、なんかお節介がすぎるというかなんというか」

「迷惑か?」

「そこまではないですけど」


 ユリアの行動にはちゃんとソフィナの心を動かしている。

 それが知れてケビンは安堵した。

 

「そうか。ならよかった」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 

 家事をして、狩りをして、食事をして、余った時間をそれぞれの興味に費やす。

 ユリア達はディード家で、そんな何もない平和な日常生活を送った。


 そして潜伏生活から5日の夜。

 クロフが王都から帰還した。

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