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友盟の絆  作者: Project_B.W
第2章 ユリアサイド 第2節
82/305

10話

 地下道を駆けながらゴーザはメリエンヌの存在をありがたく思った。

 ゴーザの使う気功術は離れた敵に対して攻撃することが難しい。

 その点、メリエンヌの魔法は自由が利く。

 遠距離攻撃は戦闘を優位にさせ、敵を惑わす囮にもなった。

 メリエンヌは自分の能力で出来ることを理解して、その活かし方をきちんと把握していた。


「ゴーザさん。後ろから、また」


 メリエンヌが甲高い声で敵の存在を知らせる。

 ゴーザはすかさず、踵を返し兵士達を迎撃した。

 後ろからメリエンヌが魔法で援護する。

 2人は兵士達を瞬く間に倒すと、走り出した。


 しばらく進むと迷路のような道を抜けて外に出た。

 視界には整備された広大な大地と幾つもの建物が映る。

 左側にある鉄の塀に囲まれた白亜の建物を目にしてメリエンヌが声を上げた。


「あれは、魔法協議会の研究施設です。ということはここは造艇所?」

「セルディーエの造艇所と軍の建造施設は繋がっていたというわけか。道理だな」


 2人は街の方へ向かった。

 造艇所は三方を山で囲まれ、入り口は街へと繋がっているため、逃げ道がそこしかなかった。


 その間にも兵士達は執拗に追い駆けてくる。

 前方にも待ち構える兵士の姿がある。

 敵を翻弄するつもりで建物の合間を縫って走ったが、地の利は敵側にある。

 逆に四方を兵士に抑えられ逃げられない状況になってしまった。


「ゴーザさん」


 メリエンヌが不安げにゴーザを見た。


 ゴーザは険しい表情を見せた。

 作戦を立てられるほど柔軟な能力は持ち合わせていない。

 できることは正面から力押しで強行突破するしかなかった。


 ゴーザは大地を蹴り上げて前方の兵士達に向かっていった。

 メリエンヌはその後ろに続く。

 接近してくるゴーザ達に向かって兵士達は次々と襲い掛かってきた。


 集中的に狙われたのはメリエンヌだった。

 彼女がゴーザにとっての足枷であることを敵は気付いている。

 ゴーザはメリエンヌを庇いながら拳を振り上げて、片っ端から倒していく。


 途切れることのない攻撃を受け流すゴーザ。

 兵士達の訓練された動きは読みやすく、ゴーザにとって簡単に見切れるものだった。

 だが、ゴーザは腹に一撃を受けて後ろに吹っ飛ばされていた。

 ゴーザは咄嗟に後ろに飛び、勢いを相殺した。おかげで大したダメージは受けなかった。


「ゴーザさん!」

「大丈夫だ。だが」


 ゴーザは駆け寄ってくるメリエンヌを制止し、小さく唸った。

 誰に攻撃されたか分からなかった。

 攻撃が見えなかった。

 拳で攻撃されたのか、足で攻撃されたのかも分からなかった。


(この兵士の中に強敵が紛れていたか。何者だ?)


 ゴーザがまったく相手の攻撃を見抜けなかった。

 兵士達の気配を探っても、強さを感じる相手を見つけられなかった。

 その事実はゴーザを戦慄させた。


 ゴーザに一撃を与えたことで勢いを得た兵士達は、更なる猛攻をゴーザ達に仕掛けてきた。

 すかさず、メリエンヌを庇って前に出た。


 そこへ突然、シュッと風を切る音が遠くから聞こえた。

 敵を警戒しつつ音のした方角へ視線を向けると、人の大きさ程の巨大な光の球が空へ上昇しているのを目撃した。

 光の球は弧を描くように上昇し、ゴーザとメリエンヌを目掛けて加速する。


「うそ!」


 メリエンヌが下降してくる光の球を見上げて悲鳴を上げた。

 ゴーザは咄嗟にメリエンヌを抱きかかえ、大地を蹴りつけて大きく跳躍する。


 間髪入れずに光の球が地上に着弾。

 白い閃光が走り、兵士達を飲み込んだ。

 光が走り去った後、見えたのは大地に横たわる兵士達の姿。


 兵士達が怪我をしている様子はない。

 気絶しているのか、眠らされているのか、一目では判らない。

 ただ、100に近い兵士達が一発の光弾で倒れてしまったという現実が目の前にあった。


 メリエンヌはその光景を目を見開いて見下ろした。

 そこには驚愕と恐怖の感情が覗える。

 ゴーザは地上に着地すると、抱えていたメリエンヌを下ろした。



 倒れた兵士達の向こうに視線を向けると、見知った顔が並んでいた。

 ケビンとユリア。

 その隣にはゴーザの知らない女が一人。

 

 先ほどの光の球はケビンが放った魔法だと推測できた。

 ただ、明らかにゴーザを巻き込むことを分かった上で放ったものだった。


「ケビン。やり方が乱暴だぞ」

「結果オーライだろ。お前はちゃんと気付いて避けた。そして不意打ちは成功して俺の睡眠の魔法は兵士達を一網打尽にした。何の問題もねぇだろ?」


 ゴーザの苦情にケビンは気楽な口調で返した。

 ケビンのいつも通りのふざけた態度にゴーザは苦笑しながらもほっとしていた。


 だが、次の瞬間。

 ゴーザは真顔に戻った。

 それは奇妙な気配を感じ取ったからだった。


「気をつけろ。どうやら、まだ終わりではないようだ」


 その言葉にケビンとユリアは怪訝な表情をするが、すぐに状況を理解して身構えた。


 倒れた兵士達の中でたった一人、立ち上がってくる男がいたのだ。

 ミードレイモン王宮軍の鎧を身に纏ってはいるが、他の兵士とは雰囲気が違う。

 不敵な笑みを浮かべ、全身から殺気を撒き散らしていた。


 ゴーザはその男に向かって駆け出した。

 そして右の拳を叩きつける。

 男は右手でそれを受け止め、左の拳をゴーザに放つ。

 ゴーザはすかさず右の拳を引き腰を屈めて、左肘を突き出し男の顎を強打する。

 男はたたらを踏んで一歩下がった。

 ところが、即座に両足に力を込めて頭を前面に突きだす。

 次の攻撃を繰り出そうとしていたゴーザは避けきれず、男の頭突きを額に受けてしまう。

 ゴーザの身体は一瞬よろめくが、両足に力を込めてなんとか踏み止まった。

 態勢を立て直すべく、一歩後退した。


 男の動きはゴーザの目で追えないほど俊敏だが、それ以上に違和感があった。

 今まで戦ったどの相手とも違う。


 ゴーザは立て続けに攻撃を繰り返した。

 男は簡単に避けれそうな一撃を受けて、確実に当たると思った攻撃を避けた。

 さらには届くはずのないと確信した相手の攻撃が自分に命中する。

 おかげでゴーザの違和感はますます募った。


 変則的な男の攻防と素早い動きにゴーザは焦りを覚えていた。


 後方でゴーザと男のやりとりを見ていたメリエンヌが突然、剣を手にして敵に向かって駆け出した。

 相手に圧倒され、苦戦している姿を始めて目にして突発的にとった行動であった。


 それに気付いたユリアはメリエンヌの前に出て行く手を遮る。


「あんたが行っても邪魔になるだけ。止めておきなさい」


 行く手を阻まれたメリエンヌは歯噛みして、ユリアを睨みつけた。

 自分の弱さを指摘されたことより、物知り顔で言われたことの方が腹ただしいようであった。

 しかし、ユリアの忠告は正しい判断だ。

 ゴーザと男の攻防には介入できるような隙がないのだ。

 ケビンですら援護出来ずにいる。

 

 ゴーザと男の攻防は息つく間もなく続いている。

 どちらもたいして消耗はしてはいないが、ゴーザの方が圧され気味であった。

 相手の攻撃に対する戸惑いがゴーザの動きを鈍らせていた。


 唐突に、後ろで様子を覗っていたケビンが鋭い目つきを男に向けながら叫んだ。


「ゴーザ、遠慮は不要だぜ! そいつは人間じゃねぇ!」


 人間じゃない。

 その言葉にゴーザは驚愕を受ける。

 だが、同時に躊躇いも消えた。


 ゴーザは「はぁぁっ」という咆哮と共に右の拳を握り締め、体内に眠る『気』を流動させる。

 その行動の意味を理解していない男はゴーザに向かって右足を振り降ろす。

 ゴーザはそれを左腕で払うと同時に『気』を込めた右の拳を男に向かって放った。

 刹那、拳から衝撃波が生まれた。

 男は咄嗟に身体をひねって衝撃波を避けようと試みた。

 しかし僅かに間に合わず、右腕が風船のように破裂した。

 同時に男は大地に投げ出され仰向けに倒れた。


 右腕を失った男の肩から夥しいほどの鮮血が流れていた。


 ただし、その血の色は青。


 ユリアが、メリエンヌが、悲鳴の様な声を上げた。

 恐らく初めて目撃したのだろう。

 『青い血』をその身に宿す生き物に。


 男は痛みに震えながらも、すぐさま立ち上がってきた。

 そこへゴーザが『気』を込めた追撃の拳を振り下ろす。

 男はゴーザの攻撃を横に飛び寸前で回避する。

 目標を失った拳は進行を止めたが、流動する『気』はそのまま放出され大地を穿つ。

 ゴーザはすぐに態勢を立てて男に向き直った。

 しかし、男はゴーザに背を向けて走り去った後だった。

 向かった先はケビンのいる方向。

 

「ケビン、下がれ!」


 ゴーザは叫び、男を追った。

 理由は不明だが、男は狙いをゴーザではなくケビンに変更したのだ。


 いきなり標的にされたケビンは逃げるタイミングも魔法を放つタイミングも完全に失っていた。

 ユリアが咄嗟に男とケビンの間に入ってきた。


 男が一気に距離を縮め、攻撃を仕掛けてくる。

 ユリアには恐らく軌跡がまったく見えいないだろう。

 にも拘わらず、ユリアは男の一撃を右腕で受け流してみせた。

 しかし、即座に次の攻撃が来た。

 ユリアは横腹に強烈な一撃を受けて宙に投げ出されたのだ。

 だが、そのおかげで男に僅かな隙が生まれ、ゴーザとケビンにチャンスを与えた。


 ケビンはすかさず、魔法で炎を生み出し男に放った。

 至近距離で放たれたそれを避けきれなかった男は全身を焼く炎の痛みに悲鳴を上げた。

 そして追い討ちをかけるようにゴーザが『気』を込めた蹴りを男の脳天に振り下ろす。

 目に見えぬゴーザの『気』の力に押さえつけられた男の身体は、まるで霧が晴れるかのごとく蒸発した。


 滅せられた男のいた場所をゴーザは険しい表情で見つめた。

 ケビンがゴーザの肩を軽く叩いた。


「ゴーザ、あんま気にすんな」

「分かっている」


 ゴーザは静かな声音で答えて後ろを振り向いた。

 その視界に倒れたままのユリアの姿を発見したゴーザは彼女に駆け寄った。

 そしてユリアの手をとり、助け起こした。


「ありがと」

「姐さん、無茶しすぎだ」

「でも、無謀だとは思わなかったわよ。なんとなくだけど最初の一撃は予想できたのよね」


 ゴーザは呆れたようにユリアを見返した。

 その時、ユリアの左腕がだらりと垂れ下がっていることに気付く。


「左腕、どうした?」

「あぁ、これ? 闇討ちに遭って斬られたの。医者は一時的に麻痺してるだけだって言ってたけど」

「肩かして」


 そう言ってゴーザはユリアの背中を胸元へ引き寄せた。

 左手でユリアの左肩を掴むと、そこに『気』を流し込んだ。

 一瞬、ユリアが痛みに顔を歪める。


「これで動くはずだ。やってみて」


 ユリアは言われた通りに左肩に力を込めた。

 すると、ユリアの左腕は簡単に持ち上がった。

 ユリアの顔に安堵の表情が浮かんだ。


 左腕が動く事を確認したゴーザは踵を返して一同を見渡した。

 そして宣言する。


「行こう」

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