07話
最初だけ派手だった開会式はつつがなく終わり、受験者はいくつかのグループに別れ身体測定の為にホールをあとにしていた。
ケネスとは別の場所に分かれてしまった。
「やっぱりそうだ。さっきうるさくしてたのは、ぬれネズミちゃんたちだったのね」
ホールの外で、ルーディスたちを見つけからかいに来たマステラ・ミーナだったが
「あ、マステラ・ミーナちゃんじゃないの。有名人が私達に何か御用かな?」
昨日の一件をしらないルイが無邪気に話しかけられ、一瞬戸惑うマステラだった。
「あら、知らない顔もあるわね。あなたがこの子たちの保護者かしら?」
「そうよ」
「「違います」」
マステラの問いに間髪入れずに肯定するが、レイリアとルーディスに、すぐに否定されてしまった。
「あら、ツレないわねぇ。でも、みんなのお姉さんってのは間違いないわ☆」
と人差し指と中指を顔の前でポーズを付けながらマステラに振り返った。
「バカにしてんの?ムカつくわね」
大声を上げるマステラを、後ろから現れた長身の男オービル・フォーネが片手で制した。
「こんな所で、ネイザンの愛娘に出会えるとは思ってなかったが……うちのチームメイトをからかわないでくれないか」
「ふ~ん。さすがに豪商の息子……フォーネさんは私の事をしってるのね」
先程までの無邪気な顔を捨て、真面目な表情でオービルに目を向ける。
「これだけは言っておく。一介の技術者が簡単に受かるほど、入会試験は甘くないぞ」
「ちょっと、姉さんをバカにすると私が許さないんだから」
明らかに見下した口調で語るオービルに、レイリアがキレた。
「許さなきゃ、どうするってんだ?」
更に後ろから、クリストフ・ゴーダが睨みを効かせながら現れた。
「決まってるわ。アンタも含めてギッタギタにしてやるんだから」
レイリアは挑発的にクリストフに指を突きつけた。
「ふん!俺は気の強ぇ女は好っていったが、起伏の乏しいガキは嫌ぇなんだよ」
「だったら、僕らに構わず身体測定の会場に移動したらどうです」
頭に血がのぼったクリストフにルーディスが怒りの矛先を自分に向けた。
「またぶん殴られてーのか小汚ねーガキが……」
「まーあ、まーあ、まーあ、まーあ」
一触即発といった状況の中、ルイが間に立ち全員をなだめるように声をかける。
「レイちゃんも、ルーくんも、愛するお姉さまが危機に瀕したからって憤らなくていいのよ」
突然の流れに、そこに居た全員が呆然とした。
「それで、クリストフくんたちも、このオネーさんに免じてこの場はおさめてくれる?」
「お、おう……」
流れでついつい答えてしまったクリストフの言葉をとって
「それじゃ、みんな行くわよ!」
とさっさと身体測定の会場へ歩いていった。
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市街にいくつかある医療施設にて、受験者の身体測定を行っていた。
基本的な体格を調べる為の、身長・体重などの測定をはじめ、様々な筋力測定や、反射速度、動体視力などの能力測定、そして今回から新たに加わった魔力測定が行われていた。
ルーディスたち5人は、魔力測定を残すのみとなっていた。
しかし、魔力測定を行っているはずの部屋の前に長蛇の列ができており、他の受験者たちが自分の筋力がどうだこうだと話をしていた。
「でも、なんだかんだいっても筋力はクリストフ・ゴーダが群を抜いてるらしいぜ」
「あっちの方はもう全ての測定が終わったらしいな。こっちは測定してるのが魔法系に疎い奴らだから長引いてるらしい」
ケネスのように測定場所が別れてしまった仲間の受験者が、流れが遅いこちらに逐一来て愚痴と共に情報を流しているようだ。
「にしても、事前にやり方とか練習するだろ」
「それが、この測定はユンカーン派のゴリ押しで急遽決まったらしく、その時間がなかったんだと。ったく、こんな事なら最初に魔力測定しとくべきだったぜ」
「まったくだ……」
そこへ、逐一愚痴をこぼしている小柄な男が駆け寄ってきた。
「お前ら、まだこんな所なのかよ」
「うるせーよ。それより走ってくるな。医療施設だぞ。って何回目だよ」
「まあ、聞けよ。クリストフたちが面白いこと始めやがった」
「またロクでもないことだろ」
「そういうなって。この測定の結果をポイント制にして、順位予想してんだよ」
「……確かに、ロクでもないな。だが、面白そうだ」
その話を聞いたルーディスが、「自分たちに有利にポイント換算してそうですね」とルイに振り返った。
「さて、どうかしらね。でも、加算ポイントがこんな測定だけだから、実力との差異は言うまでもないわよねぇ」
「姉さんの強みなんて、ひとつも測れないし」
ある意味、始終達観しているレイリアがポツリとつぶやく。
「その点ユリアちゃんは、体格的にポイント高そうよね」
ルイはユリアのふくよかな胸を凝視しながら言った。
「ちょ、何処を見てるんですか」
「何処って、ねぇルーくん」
ルイは視線はそのままでルーディスに話をふる。
「そこで、僕にふらないでください」
「じゃあ、レイちゃん」
「あ、私なんだ……」
「しかたないなぁ~、次はユリアちゃんの番ね」
「もうなんの事かわけがわかんないですよ」
「だって、さっき測ったばっかりじゃない」
「だからってそんな事言わなくていいです」
ユリアはそういうとプイっとソッポを向いてしまった。
「あらら、そんなに困らせるつもりはなかったんだけど……まあ、真面目な話すると4人とも下位ランクになっちゃうけどね」
「そうだね。僕もレイも筋力ある方じゃないし……」
「こんなの力自慢と魔力自慢だけが上位になるだけじゃない」
ユリアは3人のやりとりを見て、よほど自信がないのだなと思った。
「そういえば、魔力測定器って僕見たこと無いんですけど……どんな物なんですか?」
「見た目はただの水晶球ね。手のひらから無意識に発している魔力を読み取って魔力独特の光を拡大するの。その光量から魔力量を判断する仕組みって聞いているわ」
「へぇ~。そんな仕組みなんですね。そんな事考えても見なかった」
「もうすぐ部屋に入れるから注意深く見るといいわよ」
ルイはそう言ったが、部屋に入るまで30分以上もかかった。
部屋には5つの測定器が置かれ、それぞれに2、3人列をなしていた。
「ようやく入ることが出来ましたね」
別に疲れた様子も見せずルーディスは言ったが、
「さっさと終わらせて、宿にもどろうよ」
レイリアは並んでいることに飽き……
「ここまでかかるとは思わなかったわ」
ルイは立っている事に疲れ……
「…………」
ユリアはそんな2人の相手をすることに疲れ果てていた。
三者三様の疲労にルーディスは苦笑し、ちょうど空いた検査台へ座った。
そこにはルイの言うとおり、見たところ普通の水晶玉が置いてあった。
ルーディスは測定係に言われるまま、水晶玉に手を触れると、水晶玉はぼんやりと光を放ち……そして消えていった。
「ビックリしなくていいですよ。ちゃんと、水晶玉に触れていてください」
「え?ずっと触れたままですけど……握ったほうがいいんですか?」
「え~っと……すいません。じゃあ握ってもらえますか?」
ルーディスは水晶玉を握るとまた、ぼんやりと光り出した。
「えーっと……なにか細工してないですよね」
「何の話ですか?僕、魔力測定器を見るのはじめてなんですよ。僕、なにか変な事しているんですか?」
「いや……測定値が低すぎるんですよ。壊れたのかな?……すいません。調整しますんで、アッチの測定器の順番に回ってもらっていいですか」
そうルーディスが指を刺されたのは、ユリアの後だった。
「ルーディス 先に終わったんじゃないの?」
後ろに並んできたルーディスにちょっと驚いたユリアに、ルーディスは微笑みながらこたえた。
「いや~。なんか、測定器が壊れたみたいで……」
ユリアは「そうなんだ」と返したところで、測定の順番が回ってきたので、「じゃあ後で……」と測定器に手を置いた。
すると、水晶球は輝きを放った。
普通はこんなに光るのだなと思いながら水晶球から目を離すと、水晶球の外にも光る何かがふわりふわりと漂うよう羽のように落下していた。
ルーディスは「へぇ~、こんな風になるんだ」と感心するようにつぶやいた。
それを聞いたルーディスの後ろに居た受験者が「な、なんだこれ!!」と驚いた事で、はじめて異常な状態なのだと気付き、ユリアと測定係の顔を伺った。
ユリアは呆然としているだけだったが、測定係は「またか」という顔をしながら、「これは、ノイズみたいな物ですから気にしなくていいですよ」と説明をしていた。
あとでルイに聞いた所、ノイズであれば水晶玉の中で起こると教えられるのだが、その時のルーディスは魔法のことには疎いノーラス人らしく、測定員の言葉を鵜呑みにして空間に舞い散る光に目を奪われてた。
ユリアは測定が終わり、「じゃあ、外でみんなと待ってるね」と席をルーディスに譲り部屋の外へ出て行った。
その後ルーディスはどの測定器でも、病人以下の魔力量が計測されるので、その低い状態のまま記録される事になった。
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ようやくその場をあとにした時には、鮮やかな夕日が空に輝いていた。
会場の外でルーディスを待っていた3人と、合流したケネスは、建物の入口付近で座り込み遠くの人だかりをぼんやりと眺めていた。
「おまたせ。なんか、僕の魔力がうまく測れなくって……」
「おつかれさま……ある程度予測しとくべきだったわぁ」
「そうですね……そういえば、ユリアのノイズって奴もすごかったね。あんな事あるんだね」
「私もビックリしたわ。でも、天下の協会でも粗悪品を使っているのね。まさか水晶玉の外に光が溢れるなんて初めて見たわ」
「ちょっと、ルーくんそれ詳しく聞かせてくれない」
ルイの瞳に好奇心の光がランランと輝いており、ルーディスはその時の状況を話し始めた。
長くなると感じたレイリアが「ルーディス。私ら、あの人だかりの方にいっているわ」と言い残し、ユリアの手を取り歩き始めた。
「俺も行ってくる」ケネスもそういいレイリアのあとに続いた。
ルーディスの話終わり、ルイが熟考モードに入った頃、一人の受験者が建物から出てきた。
「おっと、こんな所で待ってたのかい?そんなに焦んなくても教えてやんよ。名前はなんて言うんだ?」
クリストフ達が付けているランキングを吹聴している男が、自分のランキングを確認したいのだと勝手に勘違いし名前を聞いてくる。
「……ルーディス・オルラントです」
「ちょっとまってな……ル、ル、ルルーディス……オルラント……あった。あちゃー、あんた最低ランクだよ。体力的には並ってところだけど、受験者ただひとりの魔力値最低レベルをたたき出したのが効いてるな。まあ、あくまでこれは参考だ。体力的に問題なけりゃ努力次第でなんとかなるだろ。ランク最下位のユリア・フィナード……こいつは絶望的だなどのポイントでもビリは無い代わりに全体的に能力が低い。一般人より魔力が高めってだけだ」
「へぇ~、面白そうね。その一覧ちょっと見せてもらえないかしら?」
ペラペラとしゃべりまくる受験者を横目にずっと熟考していたルイが、さらに言葉を続けようとしていた受験者に割って入った。
「いいぜ、ほらよ」
「ふ~ん。あら、さすがにトップランクはクリストフ・ゴーダなのね。フフフ……たしかにこの筋力量はすごいわね。あら……レイちゃんも、私も下の方なのね……まっ知力や反射速度の項目が無いから当然か。ん~フィジカル面だけみてる感じで、魔力はオマケ程度って感じがするわ。もうちょっとポイント配分考えたほうがいいんじゃないかしら」
「そういうなって、オネーさん。こんなのは受験者同士のおもしろ予想なんだから本気にすんなよ。そいじゃ、俺は仲間にこれを回してくるんで失礼するぜ。坊主もそんな顔しないで、がんばんなよ」
そういうと、男は走り去っていった。
「そんな顔してるんだったら、言いたいこと言わなきゃ」
ルーディスの額を軽く小突き、優しい口調で弟をなだめた。
2017/07/01:ルー君→ルーくん