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友盟の絆  作者: Project_B.W
第2章 ユリアサイド 第2節
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03話

 数多の木々が(そび)え立ち、大地には様々な植物が生い茂る。

 木々の間からこぼれる光は、熱気を持った空気と相まって体力を容易に奪う。


 日光を浴びて青く輝く緑の中をメリエンヌは汗だくになりならが歩いていた。

 前を歩くゴーザの背を追いかけるのがやっとの様子で、呼吸が荒い。


 緑が途切れ、川が見えてきたところで不意にゴーザが足を止めて振り向いた。


「川辺で少し休もう。大丈夫か?」


 ゴーザはメリエンヌに優しい言葉をかけて手を差し伸べた。


「あ、はい。平気……です」


 メリエンヌはゴーザの手を借りて何とか歩いた。

 川辺に着くと、2人は川に両手を浸して水をすくい上げて軽く喉を潤した。

 そのあと、川辺に腰を下ろしてしばらく休憩した。


「ゴーザさん。何処まで行くんですか?」

「テリュース山を越えてファスルトまで行く。しばらく身を隠し、機会を待つ」


 神妙な顔でゴーザが言った。

 彼の本心には今からでもセルディーエに引き返したい気持ちがある。

 メリエンヌを安全だと思える場所に連れて行くことの方が重要なことだと割り切っているに過ぎない。


 ゴーザは目的を果たした後、1人でセルディーエに戻るつもりでいた。

 メリエンヌは何者かに嵌められたのだと推測していたからだ。


(恐らく荷物に爆弾を仕掛けた犯人はメリエンヌを陥れようとした訳ではなく、セルディーエの飛空艇建造の停滞を狙ったものだ。冒険者協会ギルドにその依頼があったことを考えれば、協会内のどこかの派閥が仕掛けた罠だった可能性がある。まずはそれを調べる必要がある。きっとケビンと姐さんだったら真っ先に協会を調べようとするはずだ)


 ゴーザはセルディーエにいるケビンとユリアの事を思い浮かべて表情を強張らせた。


「早く戻らなくては……」


 ゴーザは思わず声に出して呟いていた。


 隣でメリエンヌが頬を朱に染めてゴーザを見つめていた。

 メリエンヌの熱い視線にゴーザはまったく気付いていなかった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 昼を過ぎた頃からユリアとケビンの周りは騒がしくなった。


 目が覚めたケビンの元へセルディーエ自警団の捜査官と駐留軍所属の軍人が事情聴取のために宿を尋ねてきたのだ。

 内容はもちろん爆弾魔とその仲間が食堂で起こした事件のことについてだ。


 捜査官達は淡々とした口調で状況についての説明を求めてきた。

 ユリアとケビンは爆弾魔を捕まえようとして返り討ちにあったと主張し、無実を説いた。

 ただ、爆弾魔の仲間が自分達の連れ(ゴーザ)であることは素直に話した。

 調査されればゴーザがユリア達の仲間であることはすぐに調べがつく。

 下手に嘘をつくと立場が危うくなると判断したのだ。


 素直に話したのが幸いしたのか、捜査官達はユリアとケビンの説明を疑うことはなく退散していった。


 そのあと、捜査官が出て行くのを待っていたかのようにソフィナが現れた。

 彼女は一枚の紙を持って来た。


 ユリアはそれを目にして呆然とした。

 ケビンも険しい表情でその紙を眺めていた。

 それは冒険者協会が冒険者に対して発布したゴーザの捕獲指示書、つまり指名手配書だった。

 捕縛の理由は書かれていなかったが、爆弾魔と一緒にいたことと街中で暴れたことが指名手配の理由だろう。


「予想はしていたけどな。事件から僅か6時間での指名手配か。協会にしては行動が早い。軍より協会が先に動いたってのが引っかかるとこだが」

「そんなこと言ってる場合じゃないわよ。どうするの、これ!」


 ユリアは怒鳴りながら手配書をケビンに突きつけた。

 ケビンは手配書を強引に奪い取ると、ユリアの頭を軽く小突いた。


「姐さん、冷静になれ。今は放っとくしかねぇだろ。ゴーザを庇ったら俺達も仲間とみなされて捕まるぞ」


 強い口調で言われユリアは一瞬怯む。

 ケビンの表情はいつもと変わらず、朗らかだったが瞳は鋭く光っていた。

 ゴーザを助けたいという思いはケビンも同じなのだ。


「そうだよね。ごめん」


 ケビンに諭され、ユリアは大人しく謝った。


「素直でよろしい。で、ソフィナ。頼みがある」

「は、はい?」


 いきなり声をふられてソフィナは咄嗟に返事をした。

 ユリアとケビンが複雑な話をしていただけに、何を訊かれるのかと緊張している様子だ。


「飛空艇建造に関する情報が欲しい。あんたの知ってる情報だけでも教えてくれ。もちろん、無理にとは言わない」


 親切心で手配書のことを知らせてくれたソフィナを巻き込むのは気が引ける思いがあるようで、ケビンにしては謙虚な訊き方になっていた。


「そう言われても私も詳しくないですし」


 困惑した表情でソフィナは言葉を濁す。下手に関わるとケビンが言ったように爆弾魔の仲間と勘違いされてしまう可能性がある。

 ソフィナはそういう事態を避けたいと思っているのかもしれない。


「あたしからもお願い……」


 ユリアはソフィナの両手を自分の両手で握り締めて懇願した。

 その真摯な眼差しを正面から受けたソフィナは眉を顰めた。


「わ、分かりましたよ。でも、私が説明するより、実際に見た方が早いと思いますけど」


 握られたユリアの手を力任せに解いて、ソフィナは言った。


「協会関係者が一緒なら造艇所に入れますから、行ってみます?」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 セルディーエの東に造艇所が作られていた。

 鉱山から採掘された鉱石を加工する工場として使われていた建物を改良して作られている。

 周囲は柵で覆われ、内部には多様な施設がある。

 飛空艇に使われる材料を運び込む倉庫や魔石炉を開発するための魔法研究所、更には要人や出資者を迎え入れるための宿泊施設など、様々だ。


 ユリア達がやってきたのは造艇所の入り口に付近の建物だった。

 王城に引けを取らないほどの大きな豪邸で見る者を圧巻させた。

 ソフィナの説明では現在は飛空艇建造計画関係者の案内所兼宿泊施設の役割を担っており、計画完了後は大使館として使われる予定であるということらしい。


 入り口の巨大な門を潜ると、広いロビーにでる。

 床は大理石で、道を示しているかのように赤い絨毯が敷かれていた。

 ロビーの頭上は吹き抜けになっており、中央には六本の支柱に支えられた螺旋階段がある。

 玄関から見て左側には休憩所代わりのラウンジがあり、右側には受付が設けられていた。


「でけぇ。こんなド田舎にンな無駄なもんに金使ってさ。金持ちのやることはようわからんなぁ」


 吹き抜けを見上げながらケビンはぼやいた。


「飛空艇が完成すれば、ここは国際交流の入り口になります。力の入れるのは当然ですよ」


 自分が作ったわけでもないのにソフィナが得意げそうに胸を張って言った。


「ねぇ、ソフィナ。こんなとこあたしら勝手に入って良いわけ?」


 建物の豪華さに目を向けながらユリアが素朴な疑問を口にする。

 ソフィナは微笑んで答えた。


「大丈夫です。今は案内所と宿の役割しかありあせんから。協会関係者と同伴なら誰でも出入り自由ですから。一般の立入りが禁止されてる場所も多いですけど、それさえ守れば追い出されたりしませんよ」

「でも、要人達も宿泊してんだろ? それにしてはセキュリティあまくねぇか」

「そうでもないですよ。魔法仕掛けの罠があらゆる場所に備えられてますから。それに駐留軍の方々が私服で館内を巡回してます。見た目に反して警備はけっこう厳重ですよ」


 ユリア達は受付の横に続く通路を進んでいき、資料室と書かれた部屋にやってきた。


「室内では静かにしてくださいね」


 ソフィナの忠告にユリアとケビンは頷いて答えて、資料室の中へ入った。

 入り口の正面に案内図があり、その両サイドには2階へ上る階段がある。

 2階は本棚が並び、図書館のような場所だった。


 ソフィナは案内図の脇にある机に積み上げられた本の山から2冊手にとると、それをユリアとケビンに手渡した。


「これが要人に、というか、出資者に配られた飛空艇に関する資料です」


 ユリアとケビンはソフィナに礼を言うと備え付けのテーブルに陣取って資料を開いた。


 資料の目次には飛空艇の開発実現までの経緯が簡潔に書かれていた。

 長々と専門用語で説明されてはいるが、要約すると何度も魔法での飛行研究を重ねて実現に到った、ということらしい。


 ユリアは目次を軽く読み終えるとページを捲った。

 次ページからは飛空艇の必要性や利便性を謳った内容が続く。

 その中でも大部分を占めていたのが貿易に関する記述だ。

 特に強調しているのがドワーフ族との貿易だ。

 彼らには稀有な技術を持つ者が多く、また石の王城近辺でしか手に入らない特殊な鉱石などもあるため、充分な利益が最初から見込める。

 ドワーフの住む石の王城は、雲より高い断崖絶壁の山脈の向こうにある。

 空を飛べる乗り物があれば自由な行き来が可能になると書かれており、商人でなくとも興味をそそられる。

 陸路で行くことが困難な場所でも空路ならどこにでも行けると強調することによって、貿易の幅の広がりを示して、移動手段としての有用性の説明にも繋がっている。

 飛空艇の利用権を得られれば、想定される利益は計り知れない。

 当然、利権を得るのに手っ取り早い方法は資金援助だ。


「なるほど、金持ちが頻繁にセルディーエを出入りしてる理由はこれか。彼らは出資者として視察に来てるのね」

「えぇ、そうです。出資者は協会関係者や貴族がほとんどですけど、中には豪商なんかも混じってます」

「ミードの高官もちょくちょく足を運んでるって噂はどうなんだ。本当なのか?」

「それは本当ですよ。研究開発を始めたのは協会と協議会ですけど、飛空艇建造計画はミードレイモン王国の高官達が陣頭指揮を執ってますからね」

「国を挙げてのプロジェクトってわけか。こりゃ思っていた以上に大事だな」


 資料を見終えたユリア達は、2階に上り本棚に並べられた書物を見て回った。

 飛空艇の建造に使われていると思われる技術書や、飛空艇が登場する神話や伝承の本がずらりと並んでいた。


「ケビン、何か気になる点はあった?」


 ソフィナが別の棚に目を向けてるのを見計らってユリアは小声でケビンに問いかけた。

 ケビンは静かに首を左右に振った。


「いや、今ンところはまったくねぇ。ま、簡単に概要を掴めるとは思っちゃいねぇけど」

「そっか。もどかしいわね」

「まったくだ」


 ユリア達は一通り資料室の見て回ると部屋をでた。


「どうでした?」


 廊下を歩きながらソフィナがユリアとケビンに訊いてきた。


「何とも言えないわ。他に何か情報はいりそうな場所はないの?」

「うぅん、そうですね。飛空艇の情報は資料室ぐらしかないんですよね。技術的な情報に関しては協議会と協会のユンカーン派に許可をとらないと閲覧できないようになってますし」

「開発スケジュールとか計画参加者のリストとかはないのか?」

「それは流石に……あ、でも出資者のリストなら入り口の受付で閲覧できるはずですよ」

「本当か? そういうことは早く言えよな」


 ユリア達はロビーに戻って受付の女性から出資者名簿を受け取ると、ラウンジのテーブルに陣取った。


 中には数多くの名前が並んでいた。

 ざっと目を通しただけでも100人は余裕で超える。

 冒険者協会の代表や、ミードレイモン王国の高官や貴族の名前が並んでいた。

 ユリアはリストの中からある名前を発見して複雑な表情になった。


(ディオルト・ウェイルクロードにレヴィウス・ウェイルクロードか。お父様にお兄様も出資してるのね。ってことは……まさか?)


 ユリアは暗澹たる気持ちになる。

 来週の施工式には当然、出資者も参列するだろう。

 もしそうなれば父や兄達と出会ってしまう可能性が高まる。

 もしかすると今既にセルディーエに滞在しているかもしれない。

 ユリアは両親と兄姉に黙って家出してきた身だ。

 今、彼らと出会うのは非常にまずい。


「姐さん、どうかしたか?」


 動揺しているユリアに目ざとく気付いたケビンが訊いてくる。


「ううん。何でもないの。それよりケビンの方はどうなの? 何か気付いたことある?」


 内心を悟られまいと、ユリアは逆に問い返した。


「あぁ、それなんだが。このリスト良く見てみろよ。出資者にノーラスの王家や貴族が混じってんのが、ちょっいと気にならねぇか?」

「え、どうして?」

「だってさノーラス、つまり国外に出資を呼びかけてるのなら、西部三ヶ国やバチス半島の連中にも声をかけるのが自然だろう? ところがこのリストの中には西部やバチス関係者の名前は一切ない」

「なるほど、言われてみれば確かに」


 西部三ヶ国とバチス半島はノーラス王国と同様にミードレイモン王国の主要な貿易相手である。

 飛空艇建造計画は西部三ヶ国やバチス半島にとっても良いビジネスチャンスであるはずだ。

 それなのに彼らは参加していないのは確かに不自然である。


「ということは、西部やバチスには飛空艇計画を知らせていないってこと?」

「あぁ、そういう可能性はある。ま、これだけじゃまだ何とも言えねぇが……きな臭い感じはするな」


 ケビンは不敵な笑みを浮かべた。手がかりになりそうな情報を得て、喜んでいるようだ。

 それを隣で聞いていたソフィナは逆に不機嫌そうな表情をみせた。


「何だかあなた方の会話を聞いてると、協会が疚しいことをしているように聞こえます」


 頬を膨らませて、ソフィナが怒鳴る。

 ユリアはソフィナの極論としか思えない発言に思わず眉を寄せた。


「勘違いしないでよ、ソフィナ。あたし達が疑惑を持ってるのは飛空艇建造計画そのもので、協会じゃないわ」

「一緒じゃないですか。建造計画は協会が中心になってるんですから」


 それだけ言ってソフィナはふて腐れてしまった。


 そっぽを向いてしまったソフィナを前に討論を続けるわけにもいかなくなった。

 仕方ないといった様子でケビンが徐に立ち上がった。


「俺さ、もう少し気になることあっから、資料室に戻ってちょいと調べ物してくる。姐さん達は宿に戻っててくれ」


 ケビンはユリアの耳元で「潜入調査してくる」とソフィナに聞こえないように呟いた。


「大丈夫なの?」

「ゴーザが居ねぇんだ。俺がやるしかねぇだろ」

「無茶はしないでよ」

「分かってる、んじゃ、ソフィナのご機嫌取りは任せたぜ」


 それだけ言ってケビンは踵を返して廊下の向こうへ消えていった。

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