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友盟の絆  作者: Project_B.W
第2章 ユリアサイド 第2節
73/305

01話

 それは朝稽古を終えて宿に戻る途中のことだった。


 ゴーザは広くもない公園の片隅で隠れるように座り込んでいる女性を発見して足を止めた。

 女性は泣いていた。


 女性の外見は16、7歳前後の少女に見えた。

 白地を主としたフード付きのローブを身に付けて、背には剣を背負っている。

 瞳には今にも零れそうな大きな涙を湛えていた。


 彼女の顔を見てゴーザは驚いた。

 冒険者協会入会試験・武道の部の試合でゴーザと最初に対戦した相手だった。


 ゴーザは少女に声をかけた。


「なにを落ち込んでいる、メリエンヌ・シャトール君」


 呼ばれた少女は小さく身体を震わせ後、ゆっくりと振り向いた。

 切り揃えられた前髪が風に撫でられ、隠れていた碧眼が姿を見せた。

 目が合った瞬間、悲しみに染まっていた少女の瞳に驚きの感情が混じる。


「ゴ、ゴーザさん?」


 顔見知りに目撃されるとは思ってもいなかったのだろう。

 メリエンヌは両手で慌てて涙を拭った。


「どうしてこんな場所に……」

「どうしてと訊かれても困る。偶然見かけたとしか答え様がない。キミはなぜ泣いている?」

「それは……」


 返答に窮してメリエンヌは言葉を濁す。

 見知った者といっても親しい間がらではないのだ。

 躊躇うのは当然のことといえよう。


「言い難いことなら無理に話す必要はない。たが、口を開くだけで楽になるときもある」


 淡々とした口調でゴーザは言う。

 だが、優しい眼差しをメリエンヌに向けていた。

 言葉と表情が相反していたが、気持ちは伝わったようだ。


 メリエンヌはゴーザの気遣いに安心したのか、重い口を開いた。


「わ、わたし……とんでもないことをしてしまったんです」


 メリエンヌはそう言って語り始めた。


 ことの始まりは一週間前。協会ギルドで仕事を探していたメリエンヌは輸送の依頼を受けた。

 届けるものは小さな筒で、輸送先はセルディーエの魔法研究所。

 筒の中身は重要な書類だと聞かされていたらしい。

 メリエンヌは滞りなく輸送依頼を無事に済ませたそうだ。

 ところがメリエンヌが運んできた筒が突然爆発し、魔法研究所の実験棟を破壊して12名もの死者を出したというのだ。


「わたし、怖くなって思わず逃げてしまったんです。でも結局、駐留軍に捕まって牢に入れられました。昨日になって何故か突然釈放されたんですけど、今度は協会の人達がわたしを追いかけてきて……」


 言葉にすることで今までのことを思い出したのか、メリエンヌの瞳から大粒の涙が零れた。

 メリエンヌはむきになって涙を拭った。

 それでも走り出した口は止まらない。


「もう訳がわからなくて……このままじゃわたし、協会の仲間に殺されちゃう。知らなかったこととはいえわたしは人殺しの手助けをしてしまったのだから、当然かもしれないけど……で、でもわけがわからなくて」


 両手で自分の身体を抱きしめて顔を伏せると、メリエンヌは嗚咽を洩らしながら泣き始めた。


「キミに非はない。堂々としていればいい」


 ゴーザはメリエンヌに力強い言葉をかけた。

 しかし、その程度ではメリエンヌの不安を払拭することは叶わなかった。

 メリエンヌは「で、でも」と、か細い戸惑いの呟きを洩らす。


「心配するな。ここで出会ったのも何かの縁だ。キミの冤罪、僕が証明する」

「え?」


 信じられない言葉を耳にしてメリエンヌは目を見開いてゴーザを見上げた。

 ゴーザは優しく微笑んで答えた。


「僕はキミの涙を見てしまった。それは守るに値する」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ミードレイモン王国、国土領セルディーエ。

 北に見えるバスドート山を越えれば、石で出来た断崖絶壁の山脈が見えるはずである。

 その山脈は『石の王城』と呼ばれるドワーフの国との国境線だ。

 セルディーエは『石の王城』に最も近い町だ。


 ユリア達がこの町を訪れたのは、以前立ち寄った町で大量の資材がセルディーエに運ばれているという噂を聞きつけてのことだった。


 町に足を踏み入れたユリア達がまず驚いたのは人の多さだ。

 多くの冒険者が滞在し、連日に渉って様々な人々が入れ替わり立ち代りでやってくるのだ。

 見慣れない格好の異邦人も多かった。


 町で詳しい話を訊いたところ、出入りしてるのは冒険者だけでなく魔法協議会や貴族、国の高官達までいるという。

 極めつけは50名ほどしか居なかったセルディーエの駐留軍が2週間前に突然、一千人ほど増強されたという話だ。


 聞けば聞くほど規模の大きな話だった。

 軍事的、あるいは政治的に何か大きなことがここで行われるのではと町で噂になっていた。


 興味本位で立ち寄ったユリア達もここまで大事になっているとは思っておらず、戸惑っていた。

 ただ、何もせず立ち去るのも味気ないので、しばらく滞在して様子を見ることにした。


 宿で目を覚ますといつものようにゴーザの姿がなかった。

 きっとゴーザはいつものように朝稽古に出ているのだろう。

 ユリアは熟睡しているケビンを叩き起こすと、宿の目の前にある野外食堂へ足を運んだ。

 朝食を頼み、ゴーザが戻ってくるのをのんびり待つことにした。


「姐さん。今日はどうすんだ?」


 両手で寝ぼけまなこをこすりながら、やる気のなさそうにケビンが訊いてくる。

 その姿はまるで寝起きの子供だ。


「そうねぇ。バスドート山登るとか? あたし石の王城って見たことないのよねぇ」

「それじゃただの観光じゃねぇか」

「不満なの? んじゃ、何か他にある?」

「うぅん、そう言われるとなぁ」

「なによぉ。ケビンだって大した意見ないんじゃないよぉ」


 テーブルに肩肘を付いてユリアもやる気なさげに答えた。

 周囲を見渡せば、どこも冒険者の人垣がある。

 ユリアとケビンのいる野外食堂も例外ではない。

 気の抜けた2人の会話には精気が感じられない。

 ユリアは辺りの雰囲気に呆れて白けてしまっていた。

 店員が運んで来た料理を頬張りながら、これからどうするかという話題を上げたものの結論は出なかった。


 雑談しながら朝食を摂っていると、ユリア達が座るテーブル席に、女性が近づいてきた。

 年の頃は20歳前後で、腰には剣を下げていた。


「ユリア・フィナードさん、ですよね?」


 女性は控えめに名を確認してきた。

 ユリアは即座にこう答えた。


「違います」


 一瞬の沈黙の後、女性は顔を引き攣らせてユリアに詰め寄った。


「そういう嘘は通じませんよ。私は真面目に言ってるんです。ちゃんと答えてください」


 女性はユリアの鼻先に自分の鼻を押し付け、目を細めて睨みつけてきた。


「わ、わかったわよ。えぇ、そうよ。あたしがユリアよ」


 ユリアは嘘を貫き通す方が面倒なことになりそうだと感じて仕方なく認めた。


「それで、あたしになんか用?」


 ユリアは面倒そうに女性に訊いた。

 もっとも内容など聞かずともユリアには分かっていた。

 彼女の右腕には牙の紋章が刻まれた腕輪をしていた。

 それは彼女が冒険者協会のディーク派に所属していることを意味するものだ。


「ユリアさんをスカウトしにきました」

「あぁ、やっぱりね。何度も言うけどお断り。大体、冒険者協会の言うことは信用できないから」


 予想通りだった女性の言葉にユリアは辟易した表情で即答した。

 理由は不明だが、冒険者協会のディーク派はしつこくユリアを勧誘してくる。

 協会の入会試験で最下位クラスで不合格になったユリアをどうして欲しがるのか、不思議だった。


 ユリアの反応は女性の方も予想通りだったらしく、小さく溜息を吐いて「そうか。やっぱりだめか」と呟いた。


「あんたディーク派の人間だよな?」


 二人の遣り取りを横で眺めていたケビンが不思議そうな表情で女性に訊いた。


「はぁ、そうですけど……」

「その割には押しが弱ぇな」

「そう言われれば確かにそうねぇ」

「正直ところを言うと、個人的にはこの勧誘受けてもらっても困るんですよね」


 行動と矛盾する女性の言葉にユリアとケビンは首を傾げた。


「それどういう意味なの? って訊いても話してくんないよね、やっぱ?」

「派閥に属してない人間に話せる訳ないじゃないですか。あ、もちろん入ってくれるなら教えてあげますよ」


 にこやかに提案してくる女性に対してユリアは「遠慮しとくわ」と言って即刻断った。

 ただの興味本位で訊いただけで、そこまでして知りたいとは思わない。


「まぁまぁ、姐さん。そんなに邪険にしてやるなって。そこの姉ちゃんもさ。どうせだ。朝飯、一緒にどうだ?」


 険悪になりそうな2人を見かねてケビンが間に入った。

 相手を食事に誘ったのは諫めるつもりなのか、何か情報を聞き出そうとしているのか、はたまた美人だったからか。

 その真意はユリアにはわからない。


「ご一緒していいんですか? あ、でもせっかくの二人っきりを邪魔するのも何ですしぃ」


 女性の声のトーンがあからさまに高くなった。

 チラリとだけユリアに視線を向けた。

 その態度にユリアはを軽い眩暈を覚えた。

 男性に食事に誘われているのが慣れている様子が伺えた。

 苦手なタイプ。

 それが女性に対するユリアの第一印象だった。


「構わねぇさ。別に俺と姐さんは恋人じゃねぇし。二人旅って訳でもねぇ。もうすぐもう一人もくるだろうしな」

「そうですか。それではお邪魔させていただきますね」


 女性は遠慮する素振りをまったく見せず、図々しく同じテーブルに付いた。


 やっぱりこうなったか、と思いながらもユリアはケビンを止めなかった。

 ユリアはデューク派のスカウトには辟易していた。

 正直、同席なんてしたくもない。

 ただ、追い払うと女性に嫉妬しているように見えるのでは、という懸念があったから諦めた。


 女性はソフィナ・エヴァレンと名乗った。

 年齢はユリアと同じ19歳で冒険者協会のディーク派に所属する剣士なのだそうだ。


 最初は同じテーブルに付くことを嫌悪していたユリアであったが、食事をしながら他愛もない旅の話をするうちに気にならなくなっていた。


 会話は自然とセルディーエの話題になった。

 セルディーエの現状を知らないとケビンが言うとソフィナは驚いた表情をみせた。


「知らないでこんな田舎まできたんですか? 珍しいですね。私はてっきり知っていて来たんだとばかり思ってました。冒険者協会とミードレイモン王国がこのセルディーエで飛空艇の建造をしてるんですよ」

「「飛空艇!」」


 ユリアとケビンは同時に声を上げた。

 飛空艇とはその名の通り空を飛ぶ船のことである。

 しかし、それは神話の中に出てくる乗り物であって現存していたという事実はないのだ。

 驚くのは無理もないことだった。


「飛空艇って、あの伝説の空飛ぶ船のことよね? その話、マジなの?」


 興味津々な様子でユリアがソフィナに訊いた。

 そんなユリアの素直な反応に気を良くしたのか、ソフィナは大きく頷いた。


「そうですよ。凄いでしょ?」

「凄いとかいうか、無謀というか。ありえない、と思うんだけど」

「でも、事実ですよ。魔法協議会とユンカーン派の研究者が実験を行って、技術的に可能だと立証されたそうですし」

「はぁ? 何でそこで協議会やユンカーンが出てくんだ?」

「飛空艇の動力は魔石炉だって話ですよ」


 瞬間、ユリアとケビンが驚愕の表情を浮かべた。


 魔法を使える者なら誰でも知っている理論がある。

 それは魔法では空を飛べないということ。

 空では魔法の源である魔力が機能しないのだ。


 魔力の強さは高度による影響が大きい。

 高度が高ければ高いほど魔力は減退し、高度が低ければ低いほど魔力は強まる。

 そして雲の上では魔力は完全に消失する。


 魔石炉は魔力を使って動く炉だ。

 上昇すればするだけ魔力は減退し、雲に到達すれば完全に消滅する。

 空で魔法がまともに使えるはずはないのだ。


「そんな馬鹿な! 理論的にありえないわ」


 ユリアは非難をソフィナに向けた。

 そんな反応が返ってくるとは思っていなかったのか、ソフィナは困惑した表情をみせた。


「確かに、科学ならともかく魔法で飛空艇は現実的にありえねぇ。協議会やユンカーンが空の魔力消滅理論を解明できたとは思えねぇしな。けど、何の根拠もなしに建造に踏み切ったとも考え難いな。それにセルディーエに出入りしている連中を見るとどうも金持ちが多いみてぇだし。多分建造資金を提供してるのがそいつ等なんだろうが、何の打算もナシに出してるとは思えねぇな。ミードのお偉いさん方のちょくちょく来てるのも気になるとこだ。もしかすると飛空艇とは人を集める飾りで、裏では別の何かがあるのかも……」


 ケビンが追い討ちをかけるようにユリアの言葉を補足した。


「まさか、そんなことは絶対ありませんよ。だって、冒険者協会が建造に携わってるんですよ。それに建造はほぼ終わっていて来週には施工式があるんですから!」


 ソフィナはケビンの考えを真っ向から否定した。

 しかしその言葉に理屈はなく、妄信のような回答だった。

 彼女の言葉にケビンは苦笑いした。


「冷静に考えてみろよ。胡散臭い計画だぜ?」

「絶対、そんなことありませんってば! 何を言ってるんですか? そんなに協会が信用できないんですか!」


 ユリアは危うく「信用できない」と口走りそうになった。

 恐らく言ってしまっていたらソフィナをより怒らせることになっただろう。

 態度から察するに、ソフィナは相当な協会信者だ。

 卑下するような発言をすれば、糾弾しようとするに違いない。

 それでなくても、ソフィナはケビンの言葉でかなり興奮している。

 ユリアとケビンは呆れ顔で彼女を宥めた。

 しばらくすると落ち着いたが、どうやらまだ不満は残っているらしくふて腐れてしまった。


 「しゃあねぇなぁ」とケビンがぼやいていると、視界に見慣れた顔が映った。

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