04話
ルイが作戦を立てルーディス達は一斉に動き出した。
まず最初に、協会で『シータ派の冒険者が誰かに古文書を盗まれたが、それは偽物だった。本物を守る為にシータ派の冒険者達が集まっている』と噂を流した。
しかし、盗まれた物が偽物と噂を流せば罠だといっているようなもの。
なので、『盗まれた古文書は本物。シータ派は偽物を本物と偽って守りながら、襲撃を受けたパーティメンバーが必死に本物の行方を追っている』と真実の噂も一緒にばらまいたのだ。
そのうえで、シータ派の冒険者には日中の間は日常の生活を送るように頼んだ。
急激に広がる2つの噂で、敵の注意をシータ派にくぎ付けにさせるためだ。
そして数時間後、『本物の古文書はすでに鑑定士に渡っている。シータ派は彼らを秘密裏に守っている』と別の噂を流した。
次々に変化する噂で相手を疑心暗鬼にさせることが目的だった。
プラットホック派には盗んだ古文書が本物か、偽物かの判定をすぐに行える鑑定士はいないはず。
つまり、シータ派が隠し守っているという偽物の古文書もプラットホック派は無視できなくなる。
シータ派が遺跡調査に向かえば当然、遺跡の情報を解析する重要なアイテムである古文書を持っていく。
そうなればプラットホック派には手出しできなくなる。
だから、真偽は判らなくてもプラットホック派は遺跡調査前、つまり今日か明日中に動くしかない。
そして夕刻。最後の追い打ちで『協力者のアスタ派が襲撃者の行方を突き止めた』と噂を流した。
その噂を流したのはシータ派とは別口(アスタ派)からの襲撃もあるかもしれないと揺さぶりをかけるためだ。
ルイの計画通りに進めば、今日の夜から明日にかけてプラットホック派は必ずシータ派に襲撃してくる。
そのときがルーディス達の行動開始の合図となる。
ルーディス達の役割は襲撃と同じタイミングでプラットホック派の本拠地を暴き古文書を奪還すること。
古文書に残っているケネスの痕跡をムーロンの魔法でトレースして盗まれた古文書を真正面から取り返しに行くのだ。
派閥の仲間が襲撃を受けたシータ派の行動は早かった。
作戦を聞くとすぐに行動を始めた。
ルーディス達も作戦に従い各々の行動につく。
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ルーディスはレイリアとルイ、ムーロンと共にバルティティスの街を走っていた。
「近いな。……向こうの通りだ」
ムーロンは少し広い十字路で立ち止まり、左の道を指差した。
左側にはガラの悪い男達が居り、絡んできた。
「よう、姉ちゃん達道に迷ったのかい? 道を教えてやる代わりに、イイ事しようや。兄ちゃん達はデート代置いて自分達で帰んな」
あまりに月並みな台詞に、呆然とするレイリアに、笑いを堪え口元を押さえるルイ。
ムーロンは痕跡追尾の魔法が途切れないように目をつぶり険しい顔をしている。
ルーディスは、唐突に現れた男達に違和感を覚えた。
治安が良いバルティティスにも裏道に入れば危険な場所はいくらかは存在する。
ルーディス達がいる場所がまさにその危険地帯の一角だった。
場所が場所だけに彼らの行動が本当にただのナンパなのか、それとも別の意味が含まれているのか、判断がつかない。
ルーディスは相手を警戒して睨むように様子を伺った。
こちらが怯えていると勘違いをしたのか、男達は調子にのってレイリアにさわろうと近づいてきた。
レイリアはしかめっ顔で、地面から自身の胸くらいまである長さの細身の剣の柄を持った。
「おいおい、そんな長い剣抜けねーだろう。へっへっへ………へ?」
それは一瞬の事だった。
剣を片手で抜きざまに上から振り下ろし男の首元でピタリと止まった。
「ちょ……聞いてないぞ。あいつ騙しやがったな。何がアスタ派に担がれた名前だけのスターだ」
「はぁ、まさかとは思いましたけど、プラットホック派の関係者ですか」
男の言葉に様子をみていたルーディスが、腰に差したロングソードの柄に手をやりながらカマをかける。
確信めいたルーディスの言葉と剣に手をかけた迫力に、男達は動揺して視線を泳がせ始める。
「脅しのつもりだったけど、関係者ならしょうがないわね」
レイリアの目が細くなり、剣を両手で持ちなおすと、剣の腹で後頭部を叩いて気絶させる。
呆然となった男達にルイが片腕くらいの長さのハンマーを振り回しなぎ払う。
ほとんどの男達は何とか避けていたが、運の悪い男が1人、まともにくらって倒れこんだ。
ルーディスが剣を抜き放ち男達に近づいてゆくと、男達は「ひぃ、逃げろ!」と情けない声を出し、そのまま逃げ出した。
男達が去ると共に魔力のマクが広がって一帯を覆っていくのをルーディスとムーロンは感じ取った。
次の瞬間、ムーロンが維持していた探知の魔法がかき消えた。
「魔法が阻害された!」
ムーロンの言葉により、ルーディス達はこの場所(罠)に誘い込まれたのだということに気が付いた。
レイリアは剣を構えなおし、ルイは腰に下げていたショートクロスボウに持ち変えた。
「気配はひとつ……」
その刹那、レイリアが剣を振った。
カン!カン!カン!という音と共に投げナイフが落ちる。
「ほう……流石はアスタ派の第一線で活躍してる評判の剣士さんだ。ですが、これはうちとシータ派の問題です。アスタ派には関係のないことでしょう?」
その声はナイフが飛んできた方とは逆側から聞こえてきた。気配も声の方から発されている。
だが、姿だけが見えない。
「暗殺術の使い手か……厄介だなぁ」
レイリアがそう言うと同時に剣を右に振る。またナイフが落ちる。
暗殺者が戦闘中に姿を現すのは確実に殺せると判断した時と、誰も自分だとわからない状況の時くらいだ。
「俺が魔法で障壁を張る」
探索魔法を阻害されたムーロンが、飛んでくるナイフから守るため魔法を使うよう申し出た。
これで、レイリアとルーディスが自由に動くことができる。
「私だけじゃ勝てそうに有りませんから助っ人を出しますか」
声の主がそういうと、ルーディス達の背後から、黒い覆面を被った大男が出てきた。
その男は鉄で出来た太い棍をもっていた。
その棍はその男の身長と同じくらいの巨大なものだった。
ルーディスはひるむことなくその男の方へ剣を向ける。
「僕が相手しましょう」
大男は何も言わず鉄棍を振り回した。ルーディスはそれを軽々とかわす。
「異論は無いみたいですね」
「じゃあ、私はあんたの親玉でも探そうかしら」
レイリアの言葉に反応せず、さらに大男はルーディスに攻撃を仕掛ける。
まずは左から大きく、そしてツキを細かく2回、下方攻撃からの突き上げ、棒術の基礎の動きである。
ルーディスは1本も受けることは無く避けつづけている。
大男の腕力は凄まじく、一撃を放つたびにその風圧がルーディスの髪を揺らす。
しかし、動きが単調すぎる。
最初は罠かもしれないと警戒していたルーディスだが、行動が不自然なので、攻撃を仕掛けてみることにした。
ルーディスは大男の腹部を狙い大きく剣をふる。
対する大男は鉄棍で受け止めようと動いた。
しかし、それはルーディスのフェイントだった。
直前でしゃがみ、死角から剣の腹で足を払い上げる。
レイリアが冒険者試験の時に見せた模倣である。
大男はまともに喰らいバランスを崩す。
追撃のチャンスだったがルーディスは動きを止め一度後ろに下がり、わざとよろめくフリをする。
相手にわざと隙を見せることで攻撃を誘発し、カウンターを食らわせる作戦だった。
しかし、大男はバランスを立て直したまま、棒立ちをしている。
「追撃してこない? 戦い慣れしていないのか。こんな巨大な得物を扱っているのに?」
ルーディスは疑問を口に出したところ、何かをおもいついたのか、ルイが「なるほど」と呟いた。
大男は「うおー!!」と吼えながら棒を突いてきた。
ルーディスは剣で受け流しながら半回転し、後ろ向きに大男の懐に入った。
「はぁっ!」
ルーディスは気合と共に自分の肩、肘で体当たりをする。見事に肋骨と鳩尾に決まっている。
剣の間合いより、より近距離の攻撃をカバーするために試験後にゴーザの体術を模倣して完成させた技だった。
ルーディスは何も言わず大男のそばを離れると大男は構えを崩し気を失いたおれた。
気がかりなことがあったルーディスは大男の覆面をはぎ取ってみた。
男は、最近ギード派の護衛依頼でバルティティスに来た冒険者だった。
大男との決着を確認したレイリアが、闇に隠れた暗殺者に向かって挑発の言葉を口にする。
「ナイフ投げの腕も、そこの大男さんも下手くそじゃない! ちょっとマシな人は全員シータ派のいる屋敷の方に向かったのかしら? にしても、あんんた隠れるの上手いわね」
ナイフ投げの人物は何も答えなかったが、返事とばかりにナイフを投げつけてきた。それも2方向から。
レイリアは1つを弾き飛ばし、もう1つをキャッチした。
「レイちゃん続けて……」
レイリアが姉の指示を受け、更に相手を挑発する。
「やっぱり、屋敷を襲撃する方がメインみたいね。偽物とは判っているんでしょうけど、無視もできないでしょうからね」
「勘違いしないでほしいですね。確かに、屋敷の襲撃に戦力を偏らせてありますが、私は今回の作戦ではナンバー3の実力者なんですよ」
ルーディスも続けて挑発する。
「それにしては、お粗末としか言いようがありませんね。ゴロツキを使った時間稼ぎや、ギード派に偽装させた仲間も使っているのに、肝心な所が抜けているようですね。そうまで言うなら貴方の実力とやらをみせてはどうです?」
「はっはっは、痛いところつかれましたね。しかしそんな事では私は動きませんよ。数にものを言わせてもらいます。あと、その障壁も阻害させてもらいましょう」
暗殺者の言葉と同時に声のした方から4人、反対から1人、大男が出てきた方からも1人の黒い覆面をかぶり黒っぽい服を着た男達がナイフやら剣やら槍やらを持って出てきた。
「魔力・封印」
男の声と共に、ムーロンが張っていた障壁の魔法が消え去った。
「さあ、障壁も無くなりましたし、人数もそちらの倍です。退くなら今ですよ」
依然、声は奥の方から聞こえている。
「ヘナチョコがいくら集まろうがヘナチョコよ。こんなの私ひとりで充分だわ。逃げ帰るなんて論外よ」
「ならば試してみましょう」
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黒覆面たちは一斉にレイリアに襲い掛かってきた。
ルーディスたちが唯一新手が現れなかった道へ寄り、レイリアの邪魔にならないように動いてくれた。
最初の敵が、走りながら上から槍を振り下ろす。
レイリアは難なく避ける。
とそこへ後ろから2人目が剣を振るう。
相手の剣が振り下ろされる前に、レイリアは腕を蹴りつけ武器を落とさせる。
「へぇ~、コンビネーションは上手いじゃない」
レイリアは、ようやく楽しくなってきたと喜んだ。
しかし、暗殺者がルイへナイフを投げたことでレイリアはキレた。
ルーディスが気付いて叩き落としたことで、事なきを得たがレイリアは許すことが出来なかった。
「ちょっと、姉さんに手を出すとただじゃすまないわよ!」
「目の前の敵を一掃しなければ、姉の下へはいけませんよ」
声の主は挑戦的に言うと次々とナイフを投げつけてきた。
夜の闇から投擲され続けるナイフ。
ルーディスがレイリアのカバーに入り、2人で投げナイフを打ち落としていく。
だが、このままでは攻勢には出れない。
レイリアは楽しむことを止め、全力で黒覆面たちを無力化することに決めた。
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「しょうがないわね。もう貴方のやってるカラクリは判ったし、相手してあげるわ。ムーロンさんやるわよ」
ルイはルーディスの影で足踏みして、靴音をカツカツと鳴らしながら自信満々に言いきった。
ムーロンのルイの言葉に頷き、呪文を唱え始めた。
「精霊・生成。我、ささやかなる意思を求める。汝、我が敵の視界を遮る強き輝き。天から墜ちる降龍が如く。元素が一より来たる因子よ」
ルイはムーロンの呪文の進捗を計り、魔法発動目前で足踏みをやめた。
足踏みが止まった瞬間、ルーディスとレイリアが目を閉じて耳をふさぐ。
「いざ、現れたまへ。強化・雷」
ムーロンの魔法完成に合わせて、ルイは懐から取り出した封魔鉄を力の限り遠くに向かって投げた。
ルイが放り投げた『轟音を込めた封魔鉄』とムーロンの魔法『失明の雷光』が同時に発動する。
『キィーーーーーーーーーーーーーーーーーーン』
耳をつんざくような甲高い音が広域に響き、暗い所になれた目に焼きつくような光があふれる。
「ぐわぁ! 目が、目がぁあああ……」
ルイの靴音の合図により、ルーディス達は直視せず目を焼かれることは無かった。
そこには、黒装束に身を包んだ暗殺者と黒いローブに身を包んだ男がいた。
また、ナイフが飛んできた全ての方向に黒覆面がいるのが見て取れた。
ルーディスが、ルイの指示通り敵の声が聞こえる方角――レイリアが戦っている反対側――へ走り出した。
ルイは、投げナイフ要員だった黒覆面をクロスボウで射抜いて無力化していく。
「さすが、姉さん。まっててすぐ行くから」
ルイの的確な行動に感嘆の声を上げるレイリア。
レイリア自身も、近場にいた敵を倒し終えたところだった。
一方、ルーディスは黒装束の暗殺者を倒して、最後の一人、黒いローブの男を追いかけていた。
ルーディスはローブの男に追いつき斬りかかった。
だが、ローブの男は対峙していたルーディスではなく、その後ろのルイに向かってナイフを投げてきたのだ。
ルイに避ける余裕はなく、咄嗟にクロスボウを盾にしてナイフを受け止めた。
ルイに外傷は無かったもののクロスボウの弦が切れてしまい、使い物にならなくなってしまった。
「ちょっと、もう許さないから!」
「待て!」
吠えるレイリアに、ルーディスがルイの方を一瞬見てしまった。
そのスキを狙って、ローブの男が逃げ出していた。
一瞬遅れてルーディスが追うも、黒覆面の一人が最後の力で足にしがみつき足止めをしていた。
「仕方ないわね」
ルイは、クロスボウの弓部の金具を操作すると、弓部をはずしてしまった。
そこから出てきたのは、王室騎士団しか持つ事を許されていない拳銃の形をしたものだった。
ゴトリと外した部品を足元に落とすと暗殺者に狙いをつける。
懐から特注の封魔鉄を取り出し、銃に装填し引き金をひく。
弦を解き放つ部分が激鉄の役割を果たし封魔鉄を叩き割る。
そこから一気に魔力が魔法へと変化し、魔法の吹き出す圧力によって封魔鉄が押し出される。
押し出された封魔鉄は細い火の線を書きながらローブの男の体を撃ち抜いた。
そして、ローブの男はそのまま倒れ込んだ。
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ルーディスはローブの男――ケネスを襲った張本人――の元までたどり着き、拘束するために近づいたその時。
「傀儡!」
ローブの男は、転んだままルーディスの目を覗き魔法を唱えた。
どうやら、倒れている間に準備していたようだ。
しかし、何も起こらない。
ルーディスは一瞬動きを止めたが、何も起こっていないのを確認しローブの男の腕の関節を捻るように抑え込む。
「ばかな、私の傀儡魔法が……」
絶望と共に声が出ていたのをルーディスは聞き逃さなかった。
そして、男に追いついたレイリアに頭を蹴られ気を失い倒れた。
「単純な攻撃ばかりだったからそうだと思ってたけど、やっぱり操っていたのね。ルーディスくんお手柄よ。それにしても、バカな奴ね。簡単に挑発に乗ってきたし、傀儡魔法使うなら、武術の知識くらいつけなさいっての。単調すぎてわかりやすかったわ」
ルイがそう言うが、もはや聞こえる状態ではない。
ようやくムーロンがローブの男のもとへたどり着き、その懐を漁った。
「あった。この勝負、うちの勝ちだな。これで、発掘の権利はシータ派のものだ!」
ムーロンの手には奪われた古文書があった。
その喜びの真っ只中にいるムーロンの肩をルイがつかみ、ニコリと笑い言った。
「ちょっと、権利って何の事かしら? 詳しくきかせてくれるのよね。もちろん」
そうして、この夜は更けていった。




