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友盟の絆  作者: Project_B.W
第2章 ルーディスサイド 第1節
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01話

 試験を終えたルーディスたちは、ノーラス王国に帰国した。

 ルーディスとレイリアが住んでいた孤児院は老朽化により解体され、住み慣れた村に自分の家はない。

 そのため、ルイが働いている王都バルティティスへの移住が決まっていた。

 拠点となったバルティティスは、ノーラス王国南部に位置する王都である。

 ノーラス王国は教会の魔族討伐軍が、魔族崇拝国の討伐、平定を機に当時の軍団長ハザン・イクエス・ノーラス・マクルードが教会の力を借りて興した国家であり、教会の影響力が強い。

 ノーラス王国の貴族とは騎士位か聖職位、もしくは両方を持つ者の事である。

 また、ノーラス王は南ノーラス教区の枢機卿も兼ねる。

 そんな王のお膝元である王都は、堅牢さより物流に特化して造られた街だ。

 整備された街道のおかげでノーラス北部はもちろん隣国アードに輸送するのも容易だ。

 また、大陸最大の大河マイス川を利用した河川舟運によりミードレイモン王国との貿易も盛んである。



 帰国から2か月間は冒険者協会の冒険者として、魔物討伐や素材収集など、様々な依頼を受けては完遂していった。

 協会の仕事に慣れた頃、ルーディス達は所属したアスタ派から初めての指名依頼を受けた。

 内容は誘拐を主に行っている盗賊団のアジトの偵察だった。


 近くの村から1日かけて盗賊団のアジトに到着し、目の前の光景を見たルーディスは怒りで肩を震わせていた。

 一瞬、風が吹いてルーディスの茶色の髪がふわりと揺れた。

 そこからあらわになったのは普段の優しい表情とはかけ離れた怒りの炎を宿した瞳。

 試験の時とは違って、スケイルアーマーを着込んで完全武装であることもその怒気に拍車をかけていた。


「まずいわね……」


 アジトの盗賊団達の様子をのぞき込んでいたルイが呟く。

 そこには虜囚となった人々が檻馬車(おりばしゃ)(ケージ)が取り付けられた馬車)に詰め込まれていた。

 檻馬車の近くには暴行の痕が残る女性の遺体があった。

 檻の中人々が苦悶の表情を浮かべながらも黙って耐えているのは、悲鳴を上げれば地べたに横たわる女性のように殺されるかもしれないという恐怖からだろう。


 近くの村にある協会出張所に報告をあげたとしても、対応する領軍が到着するまで早く見積もっても2、3日かかり、その間に盗賊団には逃げ切られてしまう。

 ルーディス達が請け負った依頼は偵察だ。見聞きした情報を報告すれば任務失敗とはならない。

 しかし、肉体労働で酷使されている男性や、恐怖に怯える女性たちを見てしまったことで、ルーディスはここで見逃す選択はできなかった。


「ルイねぇ……ルイさん。知恵を貸してください」


 まだ姉のように慕っているルイを他人のように呼ぶのになれていないルーディスだったが、ルイは気にした様子も出さずに頷き、策をめぐらした。


 檻馬車をルーディスが分断し、レイリアが盗賊たちを制圧していった。

 レイリアの快進撃に慄いた首領は、土壇場でルーディスに一騎打ちを挑んできた。

 見た目でルーディスが弱いと判断でもしたのだろう。

 ルーディスはその一騎打ちの申し出を受けた。

 そしてルーディスは一騎打ちに勝利した。

 ルーディスは虜囚となっていた被害者を一人づつ手を添えて解放していった。

 その際に「もう大丈夫です」「安心してください」など声をかけていく。

 中には恐怖でルーディスの手を握ったまま動けなくなる者もいた。

 ルーディスは落ち着くまでその手を決して離さなかった。

 被害者を街まで送り届けるにしても、3人では護送出来ないため、レイリアに協会への報告と領軍への救援要請を頼み、ルーディスとルイで食糧や寝床の世話を行った。

 その際も全員に声をかけたことで、被害者達は徐々に気力を取り戻し、領軍が到着する頃には普通の会話が成立するぐらいまで回復していた。

 その後も領軍に付き添い、被害者全員が家族や親類の元に送り届けられるのを見送ったのだった。


 この指名依頼の遂行によって、ルーディスたちの冒険者試験主席チーム(=期待のルーキー)としての名声は高まることとなった。

 また救出した娘の1人に領主の娘がいて、ルーディスの英雄譚を社交界で語ったらしい。

 それを聞いた吟遊詩人が歌にしたことで噂が拡散され人気が高まっていった。

 気が付けばアイドルのような扱いを受けるようになり、ルーディスチームに依頼が殺到するようになった。

 事態を重く見たアスタ派の幹部はルーディス達に依頼が偏らないように依頼者に制限を設けて対処した。

 また、ルーディスチームに限り開示する情報にも制限を設けた。

 表に情報が出なくなったことで事態は一応の終息をみた。


 そして、さらに月日は流れ……



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 ルーディスは、朝の礼拝を済ませ、いつもの食堂で朝食を摂っていた。

 そこへブレストアーマ―を着こんだ赤髪のショートカットの少女が食堂へ入ってきた。

 キョロキョロと辺りを見回し、ルーディスと目が合うと近寄ってきた。


「おはようレイ。どうしたの? 待ち合わせ場所は協会だったよね」


 赤髪の少女はレイリアだった。

 彼女とは支部で落ち合う約束をしていたのだが、なぜかレイリアは食堂に現れた。


「おはよ。姉さんが見当たらなくってさ。協会に行く前に工房へ寄ってみたんだけど……」


 ルーディスは顎に手をあて少し考えて、ルイがいそうな心当たりを思い浮かべる。


「研究が終わったのかもしれないね。どこかで寝てるか、すでに集合場所で待っているか……かな?」

「なるほど。よし、じゃあ行くわよ」

「行くって、まだ朝食中なんだけど。ついでだからルイさん用になにか包んでもらおうよ」


 急かすレイリアを優しい言葉で落ち着かせて、朝食を済ませてからロデオン広場にほど近い冒険者協会ノーラス統括支部へと向かった。



 首都バルティティスは職人の町として知られており、ロデオン広場では職人や職人と契約している商人達が市を開いている。

 ロデオン広場とは、大きな街には必ずある商売人達が露店を出すことを許可された公共の場所である。

 しかし冒険者と呼ばれる旅人が各国を往来するようになった昨今では、冒険者達の溜まり場となるケースも少なくない場所だ。

 そこから王城へ、ローウィン通りという大きな道が伸びている。

 その通りには、王室御用達の店が建ち並び、名を馳せた職人の工房もある。

 その一角に冒険者協会ノーラス統括支部はあった。


 『統括』と入るだけあり、周辺の支部、出張所を管轄しているため建物自体も大きいのだが、それ以上に人の出入りも多い。

 早朝だと協会に非正規雇用の冒険者が正規雇用者(試験合格者)から漏れた依頼を奪い合うために殺到するのだが、依頼が無くなると別の仕事を探しに移動する者が多い。

 なので今は正規雇用の冒険者がほとんどで、素材の買い取りや、出入り商人の搬出入などでごった返していた。

 ルーディス達はその中で、正規雇用の冒険者が集まるカウンターや、珍しい素材を販売する商店などを探してみたがルイはいなかった。


「う~ん、ルイさんいないな」

「当てが外れちゃったわね。もうちょっと調べてくる」


 レイリアが別の場所を探し行ってすぐ、後ろから黒に近い深緑のクセッ毛の冒険者、ケネスがやってきた。

 ケネスはレザーアーマーを身に着け、ショートソードを腰に差している。

 軽装であるため、これから仕事をするというよりも依頼を受けに来たのだろうと推察された。


「やあ、ルーディス。今日はキンシー司祭の講話がある日だろ、こんな所にいて良いのかい?」


 ルーディスは振り返り、ケネスに挨拶した。

 ケネスは同じ教会、同じ司祭の元で共に勉学に励んだ同門の親友だ。

 その司祭はルーディスが育った孤児院の院長でもあるので、ルーディスの親といって良い存在だ。


「おはよう、ケネス。後で行くつもり。それに昨日準備の手伝いもしたし。今日は依頼を確認しないといけないからね」

「そうか。俺も朝、挨拶だけしてきたよ。うちの派閥から指名依頼が入ったからな。今リーダーが詳細を聞いてる所さ」


 冒険者協会の試験に合格して入会を果たしたケネスは教会系研究派閥シータ派に属していた。

 シータ派は教会の魔法部という古い文献等を研究している人たちを手伝っている派閥である。

 彼らも冒険者試験団体の部2位という成績のおかげで、シータ派の期待の新人として注目されている。

 そして彼らはその期待に応えるように精力的な活動をしていた。

 協会内を歩き回っていたレイリアもケネスに気づき挨拶する。


「おはよう、ケネス。ねぇ、姉さん見なかった?」

「やあ、レイリア。ルイさんなら、朝教会で見たけど」

「マジ? ありがと……じゃあね」


 レイリアはそれを聞くとすぐに飛び出た。


「僕はここで、まってるよ」


 ルーディスはレイリアの背中に一言かけ、笑いながら見送った。


「ありがとう。朝からルイさんを探してたものだから」

「気にしないでくれ。そうだ、こないだミードレイモンにいった時にあの子見かけたぜ」


 ケネスの揶揄(からか)うような言葉にルーディスは額を歪ませながら答える。


「ユリアのことだね」


 ルーディスの脳裏にユリアの屈託のない笑顔が思い浮かび、歪んでいた顔がゆるむ。


「そうそう。あの子の噂、更に酷くなっているな。商人の依頼を獲る為にライバルを蹴散らしたって奴。俺は彼女がそんなんじゃない事は分かるが、ちょっと尾ひれがつきすぎじゃないか?」

「ああ、ユリアはおせっかいなところあるからね。首突っ込んだ先でいろいろあったんじゃないかな?」


 ケネスが納得したように頷いた。


「ケネス。打ち合わせ始めるぞ」


 そこへ彼らのリーダーである魔法使いのムーロンが声をかけてきた。


「おっと、仕事の話をしないといけないみたいだ。それじゃまたな」


 そういうと席を立ち、ムーロンたちの所へ去っていった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 レイリアがルイがいる教会にたどり着くまでに紆余曲折があった。

 ケネスから教会とだけ聞いていたため、どの教会にいるのかわからなかったのだ。

 手始めに自分達(ルイも含め)がよく使うアスタ派の冒険者が沢山あつまる教会へ行った。

 知り合いの冒険者や神官に話をしたが、誰もルイを見ていなかった。

 ケネスが朝見かけたのならと、ケネスやルーディスが毎朝おとずれる礼拝堂を擁する協会へ行ってみたが、同様だった。

 そこで、現在ルーディスの親代わりであるキンシー司祭が訪れていることを思い出し、その教会へ訪れたのだった。


「姉が来てないでしょうか?」


 知り合いの神官へ声をかけた所、すぐに返事が返ってきた。


「ああ、レイリアさん。ルイさんなら、仮眠室で寝ていらっしゃいますよ。早朝までお仕事だったとかで。本来、この時間での仮眠室の利用はお断りしているんですが、司祭様が口添えされたので許可を出しました。本人にこのことは伝えといてくださいね」

「はい! わかりました。姉さんにはキツく言っておきます」


 知り合いの神官が怒ると怖いことは知っているので、平謝りをして姉が寝ている仮眠室に入る。

 暢気に寝ている姉を発見し、身体をゆすって起す。


「姉さん。姉さんってば」

「ん~、レイちゃん? ごめん、もう少し寝かせてぇ~」

「も~、キンシー司祭さまに迷惑かかっちゃうじゃない。ほら、起きて」


 その言葉に、ルイはようやく体を起こした。レイリアより少し薄赤い髪をかきあげレイリアの方を向く。


「司祭様、なんか言ってた? 研究が早朝に完成したから、昼まで部屋貸してもらったんだけど」

「うん。神官さんから聞いた。キンシー司祭の知り合いじゃなかったら断っていたって……」


 レイリアは腕を組み怒ってみせているが、ルイはニコニコと微笑んでから再びベット倒れこむ。


「後で、キンシー司祭様にお礼と一緒に謝っとく……。だからぁ~、もう少しぃ~」


 再び眠りにつきそうな姉をレイリアは手を取り無理矢理ひっぱり起こす。


「だーめ。ルーディスも待ってるから冒険者協会にいくの」

「あ~ん。レイちゃんのいじわる……」



 なんとか、ルイを起こし準備を整えた。

 ルイはレイリアより少し短い赤髪が少し跳ねていたのに気づき、洗顔用に汲んできた水を使って押さえつけていた。

 

 そんな中、部屋にキンシー司祭が訪ねてきた。

 キンシーはノーラス王国の中でも、聖職位の最も高いリディ公爵(北ノーラス及びミードレイモン東端教区枢機卿)、その相談役として知られる高名な司祭だ。

 その司祭という立場にもかかわらず一般の修道服を身に着けていた。

 以前よりキンシー司祭は「場所によって着るべき服を着ていれば清貧で良い」と語っており、普段は修道服を着ているのだ。


「ルイさん。よく眠れましたか? ああ、レイリアさん。こんにちは」


 キンシー司祭は両方に挨拶しそばにあった椅子に腰掛ける。


「はい。ありがとうございました。あと、ご迷惑かけたみたいでごめんなさい」


 はっはっはと司祭は笑い。やさしい口調でこたえた。


「私は、幾人もの子供たちを育ててきました。例え、あなた達のご両親が仕事で出かける時に2年程預かっただけだとしても、ルイさんは私の子供です。もちろんレイリアさんもね。親というものは子供に頼られると嬉しいんですよ」


 にこやかに微笑むキンシー司祭に気恥ずかしくなりレイリアとルイは顔を赤らめた。


「あんなに小さかったルーディスも今では立派になりました。3歳の時に両親を亡くしたあの子が立派に育ったのは、2人の出会いが大きかったと思います。ほら、あなた達が来た当日、普段おとなしいルーディスが、レイリアさんと意気投合して木登りをしましたよね。あれには驚きました。ケネス君もやんちゃでしたが、彼が誘ってもそんなことしなかったのに」


 懐かしむキンシー司祭に対し、2人は意外という顔をした。


「あの木の登り方ルーディスに教えてもらったんですよ? まさか、ルーディスもあの日初めて登ったの?」


 などと、ひとしきり昔話に花が咲いて、暫く話した後、ふいにレイリアがルーディスを待たせていることを思い出した。


「たいへん。ルーディス待たせてるんだった。キンシー司祭様、そろそろ失礼いたしますね」

「わかりました。本日の講話には3人で来てくださいね」


 キンシー司祭はそう言って微笑んで見送ってくれた。

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